死を『添削』する炎
激しい光の中、セリナがマクシミリアンを肩に担ぎ、全速力で駆け出す。
「今のうちに避難するわよ、マックス!」
「バウバウッ! (俺は逃げるんじゃない! まだ本気を見せていないだけだ……ッ!)」
ミーニャの放った閃光魔法が収束したとき、視界に飛び込んできたのは絶望的な光景だった。
『星読みの蒼穹竜』が放った「滅びの線条」が、フェニックスの全身を無慈悲に貫いていたからだ。
「メルヴィル伯爵————っ!」
蒼穹竜が、歪んだ悦びに満ちた高笑いを上げる。
『……終わったな。
永遠に燃え盛る不死鳥も、星図の杭を打ち込まれればただの屍よ』
フェニックスの姿が、光の粒子となって消滅する。
だが――次の瞬間。
戦場を薙ぎ払う紅蓮の竜巻が渦を巻き、中心で、黄金の焔が爆ぜた。
「……星図の杭? 笑わせるな」
再生したメルヴィルは気に留めず、冷徹に言い放つ。
「俺が炎を纏っているのは、貴様のような『定型文』を焼き切るためだ。
何度でも蘇り、傲慢な預言を炎で埋め尽くしてやる」
『何だと……!? 星図の記述が、勝手に『空白』に書き換わっていく……だと!?』
蒼穹竜の瞳に宿る星図が激しく点滅し、崩壊を始める。
(……遠隔校閲? このままでは、運命そのものが塗り替えられる……!)
蒼穹竜は苦渋の決断とともに、転送光に身を投じた。
「……『校閲者』め。物語を書き換えるというのか。
だが覚えておけ、真の結末を決定するのは私だ。
次の対峙、星図の隙間一つ残さず葬り去ってくれる!」
竜の姿が消失し、戦場に静けさが戻る。
ミーニャの変身が解け、小さな猫の姿となってメルヴィルの元へ駆け寄った。
「ミャーミャー! (ありがとうございます! さすが転生勇者様、お見事ですわ!)」
メルヴィルは人型へと戻ると、貴族服の襟元を優雅に正し、舞踏会の合間のような仕草で、埃を払った。
表情には、先ほどまでの激戦の面影はなく、ただ社交界を渡り歩いてきた伯爵特有の、底知れぬ余裕だけが張り付いている。
「さて。転生勇者の話は、仲良しマックスにも内緒だよ。いいね?」
メルヴィルは膝を折ってしゃがみこみ、ミーニャの額を愛おしそうに指先で弾く。
ミーニャはピクリと耳を震わせ、喉を鳴らして答えた。
「ミャーミャー! (もちろんですわ! マックスに知られたら、決闘を申し込むでしょうから)」
メルヴィルは笑うと、夕闇が迫る空を見上げた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
絶望的な状況からの再生、そしてメルヴィルの不敵な余裕……。
ミーニャとの秘密の共有も、主従の絆が垣間見えたかなと思います。
物語の結末を書き換えるための戦いは、まだ始まったばかり。




