【※はぁ?】結婚などボツですわ! ~休息を邪魔されたので、校閲令嬢は狩りを始めます~
カランの宿の一室。
意識が混濁する中で、私は確かな温もりに包まれていた。
『すまなかった。俺が人質になったばかりに……』
耳元で響くカイル様の低音。
私を抱きしめているの?
夢ではないとしたら、これは……。
「カイル様……い、今……何とおっしゃい……ました……?」
誰もいない。
幻?
甘い余韻に浸る暇もなく、扉が勢いよく開け放たれた。
「リリアーヌ様、大変ですぅ! 賊どもに完全包囲されています!」
ダルタニアスが悲鳴を上げて飛び込んでくる。
直後、宿の外で夜空を切り裂くような眩い閃光が走った。
膝をついたテクニシアンが、冷や汗を流して告げる。
「口封じです。我々が手形の秘密を握ったのが、よほど不都合だったのでしょう。
……このままでは、我らが神であるセリナ様を連れ帰るという使命すら危うい」
何も分かっていませんわね。
セリナなら、「スクランブルエッグ・クィーン」として降臨するための、最高のシチュエーションだと喜ぶでしょう。
ベッドの隅で、コレットが欠伸を噛み殺している。
「ママ……外がうるさいわよ。
いえっ……リ、リリアーヌ!
ママなんて言っていないんだからねっ!」
……正体を隠す気がないのかしら?
素直に、ママに甘えてもよろしくてよ?
呆れる間もなく、アンノウンが、窓枠に腰掛けて鼻で笑った。
「決めたよ。僕はこれから魔道大国を攻略して、リリアーヌに結婚を申し出ることにする」
……は? 結婚?
どの口が言っているのかしら。
あなたの結婚物語は、私の校閲リストには載っておりませんわよ。
即座に「ボツ」です。
そして何より――。
ナナシの気配がない。
……さて。
休息を妨げ、あまつさえ結婚などという荒唐無稽な絵空事を提示する不届き者たち。
私は扇子をパチンと閉じ、優雅に立ち上がった
「……狩りの時間ですわね。
……私たちの物語を汚す者に、ふさわしい結末を与えて差し上げますわよ」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
アンノウンの唐突なプロポーズ(※即ボツ)や、賊たちの乱入といった「不要なノイズ」を、リリアーヌがどのように「校閲」していくのか――。




