【※修正】市場のバグと、銀河を塗りつぶす神のインク
魔導大陸東岸、宿場町カラン。
リリアーヌは、街の路地にダルタニアスたちを待機させ、自ら酒場へ歩を進めた。
魔導技術の煌びやかなネオンが点滅する中、リリアーヌは扇子を片手に、市場の喧騒を冷ややかな瞳で見つめていた。
「……ふふ、見事なまでに歪んでいますわね」
リリアーヌは、宿の主人と有力商人が溜まり場にしている酒場へ踏み込むと、すっとテーブルに指先を添えた。
「失礼。今夜の宿と、魔都への通行手形を頂戴したく存じますわ」
「はぁ? 嬢ちゃん、身の程を知りな。
手形は、神が定めた『運命の試練』を乗り越えた者以外、発行されねぇんだよ!」
商人が鼻で笑った瞬間、【注釈】が虚空に浮かび上がった。
【※注釈:魔導手形の発行元はギルドではない。
横領された税金で賄われている、単なる汚職の証明書である。
法的な不備を突けば、ただの紙屑へと成り下がる】
リリアーヌは、口元に扇子を添えて微笑む。
「『試練』……ですか? 法廷で『横領の証拠』を並べられても、同じことが言えるのかしら。
……私は公爵令嬢として、不当な独占行為を『校閲』しに来ましたのよ。
私には、貴方たちの帳簿をすべて『修正』する準備がございます」
論理の刃を突きつけられた商人は、青ざめた表情で後ずさった。
リリアーヌは、商人の動揺を逃さない。
数分後には、特権階級しか持てないはずの「魔導手形」が、リリアーヌの掌の中に転がり込んでいた。
「……無能なシステムは、最適化するに限りますわね」
敵地の一角を、理詰めで攻略する。
公爵令嬢としての矜持と、校閲者としての絶対的な信念が、異国の闇を切り裂く。
リリアーヌたちは手形を眺め、満足げに宿へチェックインした。
やがて、意識が闇に溶けていく。
……はずだった。
しかし、辿り着いたのは眠りの淵ではない。
視界が開けた瞬間、リリアーヌは息を呑んだ。
そこは、宇宙の深淵だった。
銀河を埋め尽くすほどの巨大な影――無数の『創世神』が、星々を黒いインクで塗りつぶしていく。
光り輝く物語が、不要な落書きのように消去されていく。
迎え撃つのは、ユイナ、リチャード、アーリエル。
そして、リリアーヌ。
圧倒的な質量と威圧感の前に、万年筆が砕け散る。
『……最高傑作など不要だ。
リリアーヌ、貴様の歩んできた道も、絆も、すべてはボツ原稿のゴミに過ぎぬ』
――の宣告が、星々を震わせる。
物語の根幹を揺るがす最大の「絶望」。
リリアーヌは、絶体絶命のピンチの中で、血を吐くような決意を固める。
「……たとえ創世神であろうと、私のプロットをボツにする権利は与えませんわ!」
星々の墓標で、最後の校閲が始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「校閲無双」と、突きつけられた「銀河規模の絶望」。
次回も、どうぞお楽しみに!




