【※緊急】リリアーヌ不在の公爵邸、愛犬が追う『最高峰の香り』
ステラリア王国、アストレイド公爵邸。
朝食の席は、いつもと空気が違っていた。
リリアーヌの不在だ。
愛犬マクシミリアン・フォン・モフモフ三世が、主のいない席へ向かって吠える。
「バウッ! (俺様を魔導大陸に連れていけ!)」
セリナが努めて明るく微笑む。
「もぅー! マックスったら、おかわりあるわよ!」
アストレイド公爵が、丸々と太った愛犬を呆れたように見る。
「さすがに、残飯を食べさせすぎではないのか?」
エレオノーラの瞳に、隠しきれない寂しげな色が混じっていた。
「……ええ。少しカロリーを控えましょう。
リリアーヌがいないと、際限なく食べ続けますから!」
カイルはベーコンと卵を挟んだ焼き菓子に、フォークを情熱的に突き刺した。
「くっ! ……リリアーヌの元へ向かいたい」
言葉には、恋心を超えた、魂の飢えのような切迫感が宿っている。
ヴィンセントが椅子にもたれかかり、肩をすくめた。
「国王なんだから自重しろよ。
……リリアーヌを追いかけるなんて、他国の王に笑われるぞ」
その時だった。
予言書サクラが、ページを激しくめくり始める。
紙吹雪のような舞いが止まったとき、書きなぐられた文字が浮かんでいた。
【※運命の再会には、確実な追跡が必要。
……ならば、セリナとモフモフが、リリアーヌの香りを辿れ】
カイルが眉をひそめる。
セリナは意を決して、リリアーヌが残していった私物へと駆け寄った。
「……背に腹は代えられませんわ!
マックス、この匂いを覚えなさい!」
セリナは、リリアーヌが脱ぎ捨てていた肌着を素早く取り出す。
布地には、かすかに甘く、気高い彼女の香りが染みついていた。
セリナは顔を赤くしながらも、マックスの鼻先に突きつける。
「……っ! この匂いの主を追うのよ、マックス!
恥ずかしがっている場合じゃありません!」
「バウッ! (御意! これぞ世界最高峰の『校閲』の香り……! いざ、魔導大陸へ!)」
カイルは布地が放つ、あまりに濃厚な「リリアーヌの気配」に言葉を失った――。
第212話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついにリリアーヌ不在の公爵邸から、物語が大きく動き出しました。
無事に魔導大陸へ辿り着けるのか……?
ちなみにマクシミリアン・フォン・モフモフ三世の鼻は世界最高性能です。




