【※注釈】独占欲の暴走プロット――陛下の妄想は校閲不能につき
ステラリアの立て直しは、爆速で進んでいた。
だが、王宮執務室の空気は、非常に「糖度」が高すぎて酸素が薄い。
「……カイル様。
先ほどから、書類が上下逆さまですわよ?」
リリアーヌが呆れたように告げると、カイルはハッと我に返った。
瞳は、獲物を狙う肉食獣のように熱っぽく、潤んでいる。
「……ああ。すまない。
リリアーヌ、君が熱心にペンを動かしている姿があまりに美しくて、つい『別の展開』を執筆していた」
カイルは端正な顔を歪め、喉を鳴らした。
脳内では今、まさに「全年齢対象外」の独占欲が爆走している。
……このままリリアーヌの腰を引き寄せ、デスクの上に押し倒してしまえたら。
赤ペンを奪い、校閲不能なほどに乱れた声で、俺の名を呼ばせることができたなら――!
カイルの妄想では、すでにリリアーヌの服のボタンは三つほど弾け飛び、甘い吐息を漏らす彼女を無茶苦茶に愛し抜いている真っ最中だ。
【※注釈:カイル・ヴァン・レガリア。
脳内ではすでに結婚式を通り越し、リリアーヌと甘い新婚生活(夜の部)を三周ほどループ中。
なお、現実に触れられたのは、リリアーヌから渡された書類の端のみである】
リリアーヌは、カイルの頭上に浮かぶ「本音」を一瞥し、スッと扇子で口元を隠した。
「……カイル様。物語には『起承転結』というものがございます。
……最高に美しい結末は、私たちが神前で誓いを立てた夜まで、大切に取っておくべき白い頁ですわ」
リリアーヌは顔を真っ赤に染めながらも、凛とした瞳で、カイルを見つめた。
「くっ……。わかっている。わかっているのだ、リリアーヌ。
君を大切にしたいという理性が、煩悩を必死に校閲している……。
だが、正直に言えば、今すぐリリアーヌを押し倒してしまいたい!」
悶絶するカイル。
リリアーヌは椅子から立ち上がると、カイルの背後に回り、首筋に腕を回した。
「……ですが。
……『予告編』くらいなら、よろしいですわよ?」
「えっ……?」
カイルが振り返る間もなく。
リリアーヌの柔らかい唇が、カイルの額に、羽が触れるような軽さで落とされた。
チュ、という小さな、だがカイルの脳内を爆発させるには十分すぎる破壊音。
「……おやすみなさいませ、私の陛下。
続きは、式が終わるまで『お預け』ですわ」
リリアーヌはいたずらっぽく微笑むと、風のように執務室を去っていった。
残されたのは、石像のように硬直したカイルと、激しく点滅する注釈。
【※注釈:最大級の尊死を観測。
脳内の全プロットが真っ白に塗り潰されました。
本日、公務続行不可能につき、気絶します】
「…………リリアーヌ…………君は、俺を殺す気か…………」
カイルの呻きが虚しく響く。
ステラリアの夜は、今日も「健全」に、そして煩悩たっぷりに更けていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
リリアーヌの「予告編」という最強の校閲。
騎士団も整い、いよいよ王国を挙げて……という大事な時に(笑)




