瓦礫の山も「左右非対称」なら誤字ですわ! ――主任校閲官の地獄の初現場
リリアーヌの護衛騎士、初任務。
王都の裏路地に巣食う「魔導密売組織」の潜伏先を叩くという、極めて「普通」の治安維持活動になるはずだった。
「……いいですか。今回はあくまで『試験運用』です。
目立たず、迅速に、対象のみをピンポイントで校閲しなさい」
リリアーヌは、愛用の万年筆を胸元に差し込み、五人に厳命した。
だが、わずか一分後。
リリアーヌは、「見通しの甘さ」を呪うことになる。
「リリアーヌ様の命令だ……。
まずは『物理的な校閲』から開始する……ッ!」
元ゴーレム使い、ダルタニアスが吠えた。
巨大なゴーレムを呼び出し、密売組織の拠点を「建物の構造ごと」握りつぶしたのだ。
「ヒッ、な、なんだこの化け物は!? 壁が豆腐みたいに……!」
「……ククク。もっとだ。
罵倒という名の赤ペンで、俺を塗り潰してくれ……リリアーヌ様ぁ!」
飛来する矢を無抵抗で受け止め、快感に震えながら拠点を更地にしていくダルタニアス。
敵の首領は「痛みを感じない不死身の狂戦士」だと勘違いし、恐怖で腰を抜かした。
そこへ、朱マスクの女が風のように割り込む。
ただ不敵な笑みを浮かべて、振るわれる剣は、「敵の武器の持ち手」だけを正確にデリートしていく。
「なんだ、今の速さは!? 剣筋が見えねえ……!」
朱マスクの女の沈黙は、敵の目には「言葉を交わす価値すらないゴミを見る、高慢な死神」と映り、恐怖が瞬く間に伝播した。
逃げ場を失い、地下通路へ逃げ込もうとした幹部たちの前に、黒い仮面の男――アンノウンが颯爽と降り立つ。
「やれやれ。
逃げるなんて、物語としては三流の展開だね」
アンノウンが指を鳴らした瞬間、通路そのものの「記述」が書き換わり、出口が壁へと変貌する。
「なっ、出口が……消えた!?」
アンノウンは常識的なフリをしながら、やることはエグい。
仮面の奥から放たれる圧倒的なプレッシャーに、幹部たちは「世界の法則を支配する上位存在」だと確信し、平伏した。
一方、拠点の裏口。
逃げ出そうとした密売人たちの前に、美しすぎる聖騎士、テクニシアンが立ちはだかった。
「……汚らわしい。カイル陛下が愛する街に、不敬な『ノイズ』が混じっている。
……陛下への純愛に免じて、地獄へ『転送』して差し上げましょう」
よだれを拭うこともせず、テクニシアンが聖剣を抜く。
一閃。
あまりの神速、そして「よだれ」の不気味さに、密売人たちは「美しき死神が見せる、魂を凍らせる絶望」だと解釈。
抵抗する前に全員が卒倒し、泡を吹いて転がった。
リリアーヌは呆然と見守っていた。
「……スマートに、と言いましたのに。
これでは更地業者ではありませんこと?」
その時、リリアーヌの耳元で「ウフフw」という笑い声が響く。
「お嬢様ww 敵の増援、あっちの角から十人来ますけど、全員『初出勤のお祝い』に爆破しておきますww」
虚空から飛んできたのは、ナナシの無慈悲な爆発魔法だった。
生き残った敵兵たちは、「死を司る不可視の神が味方している」と絶望し、武器を捨てて祈り始めた。
「……はぁ。
もう勝手にしなさい。……ただし」
リリアーヌが万年筆を輝かせ、冷徹な声で告げる。
「そこ。瓦礫の山が左右非対称ですわ。
ステラリアの美観を損ねる『誤字』に他なりません。
……全員、ネギを散らすような精密さで、校閲し直しなさい!」
「「「はい! 主任校閲官殿!!」」」
――後に、王都の裏社会では語り草となった。
組織を更地にし、瓦礫さえも芸術的に並べ替えた、美しくも狂った「校閲騎士団」の伝説が。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
敵から見れば「不死身の狂戦士」や「美しき死神」ですが、リリアーヌにとって「ただの扱いにくい誤字」という温度差……。
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