純潔の腹に宿りしものは、バグか神の御業か
――何度書き直しても『悲劇』にしかならない、一番古い記憶の断片。
夢の中の空は、いつも色が欠けている。
幼き日のエレオノーラは、泥にまみれた奴隷少女だった。
家もない、両親の顔も知らない。
ただ生きるために、何でもやってきた。
ある日、彼女の前に、一人の男が現れた。
リチャード。彼はそう名乗った。
少女に生きる術を叩き込み、そして、世界の禁忌を植え付けた。
「……どうしてなの、先生。
『アンフィニッシュ・ストーリー』は、貴方が『異世界の種』で編み上げた物語。
世界の執筆者なら、物語の呪縛も解けるはずでしょう?
お願い……私を、箱庭の外へ連れて行って」
すがりつく少女に対し、リチャードの口が動く。
だが、声は砂嵐にかき消され、何も聞き取れない。
ただ、瞳だけが、出来の悪い物語を眺めるような冷徹さを帯びていた。
「私のお腹には、命が宿っているの。
……誰とも肌を合わせたことがないのに!」
悲鳴のような問いかけを最後に、場面は残酷に切り替わる。
華やかな貴族社会の裏側。
有力貴族との空虚な政略結婚に辟易していたアストレイド公爵。
お忍びでギルドに足を運ぶと、一人の少女に目を奪われた。
エレオノーラは、ギルドで頭角を現していた凄腕の狩人。
当然のことながら、処女受胎を隠すことは最重要クエストだった。
アストレイド公爵は、ソロで結果を出すエレオノーラに興味を持ち、夜会に誘った。
だが、丁重に断った。
「君は、誰の隣にも立とうとしないのだな。
……世界そのものを拒絶しているようだ」
エレオノーラに、自分自身を重ねた男。
それが、リリアーヌの義父となるアストレイド公爵との出会いだった。
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189話の甘い夜から一転、本題である「エレオノーラの過去」へと足を踏み入れました。
最強の母・エレオノーラ。
なぜ「面白い展開」に固執するのか。
発端は、あまりにも理不尽な『神の執筆』でした。
誰とも肌を合わせていないのに、宿ってしまった命。
――リリアーヌという存在は、一体何なのか。




