最強の騎士団は『ドS校閲』から始まる
嵐のような選抜試験から一か月。
ステラリア王国の空には、希望の光が満ちていた。
あの日、ヨサコイ・ナンデヤネン率いる『ナニワ商会』が王都に乗り込んでくるや否や、事態は劇的に動き出した。
リリアーヌが「石ころ」に変えてしまった王家の財宝――もとい、『永久凍土の核』を利用した巨大な『冷却保管倉庫』が、驚くべき速度で建設されたのだ。
「……ステラリアの破綻は免れましたわね」
リリアーヌは、執務室の窓から完成したばかりの工場を眺め、深くため息をついた。
輸出事業はエレオノーラの手によって王国の戦略に組み込まれ、空っぽだった国庫には、再び金貨の心地よい音が戻りつつある。
「リリアーヌ。
……お菓子はいかがかしら?」
セリナが差し出した茶菓子を、リリアーヌは押し戻した。
「セリナ。……当分、丸いものは見たくありませんわ。
四角いものか、尖ったものだけを持ってきてくださる?」
リリアーヌは痺れる指先で、愛用の万年筆を強く握り直した。
ドタバタ劇は終わった。
ここからは、本業である『軍制改革』の校閲を始めなくてはならない。
王宮、謁見の間。
「レイピアによる回転試験」を勝ち抜いた精鋭騎士たちが、千人隊長候補を筆頭にズラリと立ち並ぶ。
さらに、リリアーヌの護衛騎士が跪いていた。
顔ぶれは、およそ「騎士団」という言葉から程遠い、異様なものだった。
一人目は、岩のような巨躯を誇る、元ドラフティアのゴーレム使い。
二人目は、神聖ヴォルガ・イグナシオ連合帝国から亡命してきたという、冷徹な瞳の聖騎士。
三人目は、素性を隠すように黒い仮面を身につけた、影のように静かな男。
四人目は、怪しげな朱いマスクを被り、不敵な笑みを浮かべる女。
そして五人目――私用で休んでいる。
彼らは単に剣術が優れているだけではない。
リリアーヌが突きつけた「無理難題」の校閲に食らいつき、完璧に仕上げる不屈の精神を証明してみせた。
「カイル様、いかがかしら?」
「ああ。……彼らの身のこなし、そして極限状態で見せた集中力。
新生ステラリア騎士団の『五柱』を担うに相応しい」
カイルが満足げに頷く。
リリアーヌは、用意された任命書を各々に手渡す。
「皆様の中に他国のスパイや、訳ありの方が混ざっていることは把握しておりますわ」
リリアーヌの言葉に、全員がピクリと反応する。
だが、控えていたエレオノーラが、扇子で口元を隠して愉しげに笑う。
「いいではありませんか。
出自や忠誠心など、後から『校閲』すれば済む話ですわ。
……これほど個性豊かな者たちが揃うなんて、面白そうですもの!」
「……お母様らしいですわね」
リリアーヌは苦笑して、任命書の一枚一枚に、黄金のインクで力強く書き込んだ。
――『合格』。
「あなた方の過去も、隠し持った野心も、すべて私が『正解』へと書き換えて差し上げますわ。
……ステラリアの守護騎士として、精一杯働きなさい」
リリアーヌがドS顔で赤ペンを振るった瞬間、騎士たちの背筋が、冷気を含んだ緊張感でピンと伸びた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに新生ステラリア騎士団、主要メンバーが揃いました!
とはいえ、スパイに亡命者に仮面の男……。
まともな騎士団になる未来が1ミリも見えませんが、リリアーヌの「赤ペン」が黙っていないことでしょう。
そして、気になる「私用で休み」の5人目。
一体どんな大物が(あるいは変人が)現れるのか……?




