「ネギとマヨネーズ」は軍規ですが、何か?
ステラリア王国、騎士団演習場。
選抜試験の最終種目を前に、戦場さながらの緊張感が漂っていた。
千人隊長候補として残った十名の精鋭が、鋭利なレイピアを手に、リリアーヌの前に整列している。
「皆様、よくぞここまで残られましたわ」
リリアーヌは、扇子で口元を隠して優雅に微笑んだ。
後ろで、ヨサコイ・ナンデヤネンが、油の乗った鉄板を前に、「へっへっへ」と揉み手をしながら控えている。
「皆様の『精密動作』と『騎士としての気品』を、同時に測らせていただきますわ。
……ヨサコイ様、ご説明を」
「合点だす! 皆様、ええですか。
鉄板の穴……これこそが、戦場における『敵の急所』。
そして生地は、守るべき『民の命』だと思っておくんなはれ!」
ヨサコイの合図と共に、熱せられた鉄板に白い生地が注ぎ込まれた。
ジュワッ、という音と共に立ち昇る、香ばしいソースの予感。
「さあ。レイピアで、生地を傷つけることなく、淀みない円を描き、完璧な球体へと導きなさい!」
「なっ……!?」
「レイピアで、丸い塊をひっくり返せというのか!?」
愕然とする候補者たち。
だが、最前列にいたカイルが、静かに剣を抜いた。
「……惑うな。これは、敵の攻撃をいなしつつ、最小の予備動作で急所を突く『神速の一突き』そのもの。
リリアーヌ、見事な試験だ」
カイルの言葉で、騎士たちの目に火が灯った。
「おおお!」という雄叫びと共に、十本のレイピアが乱舞する。
カツカツカツ! と銀の切っ先が鉄板を叩き、凄まじい速度で「たこ焼き」が回転していく。
リリアーヌはオペレーションを、ミシェロンシェフのような鋭い眼差しで見つめ、一人の騎士の前で足を止めた。
「そこ。ソースの乗りが均一ではありませんわ。
仕上げの彩りが欠けていては、騎士の誇りが泣きますわよ」
リリアーヌは、用意された薬味の皿を指差した。
「よくお聞きなさい。
……『ネギ』と『マヨネーズ』を美しく置くことこそが、騎士のたしなみですわ」
「ネギと、マヨネーズ……!?」
「左様ですわ。どんなに鋭い剣を振るえても、最後に受け取る側の心を彩れないようでは、真の千人隊長とは呼べません。
……さあ、校閲して差し上げますわ!」
リリアーヌが赤ペンならぬ、黄金のピックを掲げた。
その瞬間、演習場は、戦いの熱気と、どこか懐かしい「ナニワ」の香りに包まれる。
【※注釈:魔法騎士の固有スキルと組み合わされ、魔神皇国との戦いで、英雄騎士が誕生する】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
騎士団の未来を賭けた選抜試験。
「精密動作の訓練」と言い張れば、レイピアでたこ焼きを回すのも立派な修行……なのでしょうか。
カイル様が納得してしまったので、もう誰も止められません。
「ネギとマヨネーズは、騎士のたしなみ」
リリアーヌ語録が、後のステラリア王国の軍規に刻まれる(?)ことになるとは……。




