↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/30

第29話 大仕事!オーガを倒して、次の冒険へ!

 オーガが倒れた。


 ズシン、と地面が揺れる。


「……」


 俺は剣を下ろした。


 周囲を確認する。


 索敵。


 魔物の反応はない。


「終わった」


 そう呟いた瞬間。


「やったぁ!」


 リリアーナが声を上げた。


「勝った!」


「はい」


 セレナも息を吐く。


「無事に倒せましたね」


 ミリアは杖を下ろして、その場に座り込んだ。


「疲れた……」


「俺もだ」


 正直に言う。


 昨日より強いオーガだった。


 これまで戦ってきた魔物とは、やっぱり別格だった。


 何度も吹き飛ばされそうになった。


 何度も攻撃を避ける必要があった。


 それでも。


 四人で戦えば倒せた。


「みんな」


 俺は三人を見る。


「お疲れ」


「アレンもね」


 リリアーナが笑う。


「これで依頼達成だよ」


「ああ」


 俺はオーガを見る。


 そして。


 ふと思った。


 これが。


 俺たちにとって最後の大きな依頼になる。


 そんな気がした。


     ◇


 街道へ戻る。


 少し離れた場所には、昨日オーガに襲われた荷馬車の護衛たちが待っていた。


「倒したのか!?」


「はい」


 俺が答える。


「もう大丈夫です」


「助かった……!」


 護衛の男が深々と頭を下げる。


「本当にありがとう!」


「いえ」


 俺たちは町へ戻った。


     ◇


 冒険者ギルド。


 受付嬢へ討伐の報告をする。


「オーガ討伐、確認しました」


 受付嬢が報告書を見る。


「これで依頼達成です」


 金貨二枚。


 報酬を受け取る。


「ありがとうございます」


「こちらこそ。本当にお疲れさまでした」


 受付嬢が笑う。


「ベーカリーズの皆さん」


「はい?」


「今回の依頼で、皆さんはかなり高い実績を積みました」


「そうですか?」


「はい」


 受付嬢が続ける。


「今後は、より報酬の高い上級依頼を受けることもできるでしょう」


 俺は少し考える。


 そして。


「……いや」


「え?」


「しばらくはいいです」


「そうなんですか?」


「ああ」


 俺は三人を見る。


 リリアーナ。


 ミリア。


 セレナ。


 みんな疲れている。


 でも。


 笑っている。


「俺たちは、今のやり方が一番楽しいんで」


 受付嬢が少し驚いた顔をする。


「今のやり方?」


「普通の依頼を受けて」


 俺は指を一本立てる。


「魔物を倒して」


 二本目。


「報酬をもらって」


 三本目。


「美味しいパンを食べる」


 四本目。


「それで十分です」


 リリアーナが笑う。


「私も」


 ミリアも頷く。


「私もその方がいい」


 セレナも。


「はい」


 受付嬢が笑った。


「……ベーカリーズらしいですね」


「そう思います」


 依頼完了の手続きを終える。


 俺たちはギルドを出た。


     ◇


 外へ出る。


 夕方だった。


 空が赤い。


「ねえ」


 リリアーナが言う。


「今日の夕飯どうする?」


「パンだろ」


「もちろん!」


 即答だった。


「何にする?」


「今日はちょっと贅沢しよう」


「いいね!」


 俺は【食玩】を発動する。


 空中に画面が現れる。


 いつもの画面。


 パンが並んでいる。


 菓子パン。


 総菜パン。


 サンドイッチ。


 ハンバーガー。


 ドーナツ。


 ホットドッグ。


 色々なパン。


「何でも好きなものを選べ」


「じゃあ……」


 リリアーナが悩む。


「これ!」


【チョコデニッシュ】


「私はこれ」


 ミリア。


【ベーコンチーズサンド】


「私は……」


 セレナが画面を見る。


「今日はハンバーガーにします」


「いいな」


「アレンは?」


「俺はこれ」


【カツサンド】


 四つ購入。


 ポンッ。


 紙袋が出現する。


 そして。


 カードも四枚。


「今日は何かな?」


 リリアーナがカードを見る。


【SKILL CARD】


【攻撃力強化Ⅱ】


【弓術強化Ⅱ】


【魔力強化Ⅱ】


【身体強化Ⅱ】


「……」


 俺たちは顔を見合わせる。


「最後までカードだな」


「うん」


「せっかくだし」


 俺はカードを持つ。


「使おう」


 四人でカードを使用する。


 光が身体を包む。


『【攻撃力強化Ⅱ】を習得しました』


『【弓術強化Ⅱ】を習得しました』


『【魔力強化Ⅱ】を習得しました』


『【身体強化Ⅱ】を習得しました』


「これでまた強くなった」


 リリアーナが嬉しそうに言う。


「ああ」


 俺は笑う。


「でも」


 カードを見る。


 もう。


 戦うことだけが目的じゃない。


 俺たちはパンを食べる。


 それが楽しい。


     ◇


 チョコデニッシュ。


 リリアーナが一口かじる。


 サクッ。


 何層にも重なった生地が軽やかに崩れる。


 その中から濃厚なチョコクリームが現れる。


 バターの香り。


 チョコの甘さ。


 焼けた生地の香ばしさ。


「ん~~……!」


 リリアーナが目を細める。


「やっぱり最高!」


 ミリアはベーコンチーズサンド。


 柔らかなパン。


 香ばしいベーコン。


 とろりとしたチーズ。


 一口食べる。


 ベーコンの塩気とチーズの濃厚なコクが広がる。


「……美味しい」


 セレナはハンバーガー。


 両手で持って。


 ガブッ。


 ふわふわのバンズ。


 肉汁たっぷりのパティ。


 シャキシャキの野菜。


 濃厚なソース。


「……」


「どうした?」


「美味しいです」


「やっぱりそれか」


「だって美味しいので」


 俺はカツサンドを食べる。


 パンは柔らかい。


 カツの衣はサクサク。


 噛むと肉の旨味がじゅわっと広がる。


 そこへソースの甘辛さ。


 キャベツのシャキシャキした食感。


 全部をパンが優しく包んでいる。


「……うまい」


 俺は笑った。


 オーガと戦った後だからこそ。


 余計に美味しく感じる。


「なあ」


「ん?」


 三人を見る。


「俺、思ったんだけど」


「何?」


「別に、これ以上無理して強い依頼を受けなくてもいいんじゃないか」


 三人が俺を見る。


「俺たちは十分強くなった」


 これまでにたくさんのカードを使った。


 たくさんの魔物と戦った。


 仲間もいる。


「だからこれからは」


 俺は言う。


「自分たちがやりたい依頼をやろう」


 リリアーナが笑う。


「賛成」


 ミリアも。


「私も」


 セレナも。


「はい」


「たまには薬草採取でもいい」


「いいね」


「簡単な魔物討伐でもいい」


「うん」


「報酬が少なくてもいい」


「それでもパンは買えるし」


 リリアーナが言った。


「そこ重要」


「だな」


 四人で笑う。


     ◇


 翌日。


 俺たちはギルドへ向かった。


 昨日のオーガ討伐で。


 俺たちの冒険者としての大きな目標は一区切りついた。


 だから。


 今日からは。


 もっと気楽にやっていこう。


 掲示板を見る。


「これなんてどう?」


 リリアーナが指差す。


【薬草採取】


【報酬:銀貨五枚】


「いいな」


「じゃあこれにする?」


「する」


 ミリアが頷く。


「今日は戦わない日ですね」


「そういう日があってもいい」


 セレナも笑う。


「はい」


 俺たちは依頼書を取った。


 そして。


 ギルドを出る。


 四人で歩く。


 誰も急いでいない。


 誰も緊張していない。


 昨日までとは少し違う。


 でも。


 悪くない。


 むしろ。


 これが俺たちらしい気がする。


     ◇


 街の外。


 草原。


 薬草を探す。


「アレン、あった!」


「どこ?」


「こっち!」


 リリアーナがしゃがむ。


「これ」


「おお」


 薬草。


「じゃあ採ろう」


 四人で採取する。


 しばらくして。


「終わった!」


「思ったより早かったね」


「戦うより楽です」


「でも」


 リリアーナが俺を見る。


「これで銀貨五枚」


「そうだな」


「パン何個買えるかな?」


「……」


 俺は笑う。


「帰ったら数えてみるか」


「うん!」


     ◇


 町へ戻る。


 依頼を達成する。


 銀貨五枚。


 報酬を受け取る。


 そして。


 俺たちはパンを買う。


 今日選んだのは。


 メロンパン。


 あんパン。


 クリームパン。


 ソーセージパン。


 全部。


 俺たちが好きなもの。


 高いパンでもない。


 特別なパンでもない。


 ただ。


 美味しいパンだ。


 紙袋を開く。


 甘い香り。


 香ばしい香り。


 焼きたてのようなパンの匂い。


「いただきます!」


 四人の声が重なる。


 メロンパンをかじる。


 サクッ。


 あんパンをかじる。


 ふわっ。


 クリームパン。


 とろり。


 ソーセージパン。


 パリッ。


 どれも美味しい。


 俺は思う。


 これでいい。


 いや。


 これがいい。


     ◇


 俺の【食玩】は。


 最初はハズレスキルだった。


 パンしか買えない。


 それだけ。


 そう思っていた。


 でも。


 パンは美味しかった。


 カードは強かった。


 そして。


 そのおかげで仲間と出会えた。


 リリアーナ。


 ミリア。


 セレナ。


 三人と一緒に。


 たくさんの依頼をこなした。


 たくさんの魔物を倒した。


 たくさんのパンを食べた。


 そして。


 昨日。


 最後の大きな依頼だったオーガ討伐を終えた。


 だから。


 今日からは。


 もっと自由に。


 俺たちらしく。


 冒険していく。


「アレン」


「ん?」


「明日は何食べる?」


「もう明日の話か?」


「だって楽しみだから」


 ミリアが笑う。


「新しいパンを探すのもいいかもね」


 セレナも頷く。


「まだ食べたことのないものはたくさんあります」


「そうだな」


 俺は【食玩】の画面を見る。


 パンの一覧は。


 まだまだ長い。


「じゃあ明日は」


 俺は笑う。


「まだ食べたことのないパンにしよう」


「賛成!」


「はい」


「楽しみです」


 四人で歩く。


 今日も。


 明日も。


 きっとパンを食べる。


 美味しいパンを食べて。


 カードで少し強くなって。


 簡単な依頼をこなして。


 仲間と笑う。


 それでいい。


 それが。


 俺たち――ベーカリーズの冒険者生活だ。


 大きな依頼は。


 もう必要ない。


 世界を救う必要もない。


 特別な使命もない。


 ただ。


 自分たちの好きなように生きる。


 そして。


 今日も美味しいパンを食べる。


 俺にとって。


 それが一番幸せな冒険だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。