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最終話 俺たちはこれからも、美味しいパンと一緒に

 翌朝。


 俺たちは冒険者ギルドにいた。


 昨日。


 俺たちはオーガを倒した。


 街道を襲っていた魔物を討伐し、依頼を達成した。


 これで。


 俺たちが受けた最後の大きな依頼は終わった。


「こちらが今回の報酬です」


 受付嬢から金貨二枚を受け取る。


 手のひらに乗せると。


 ずしりと重い。


「ありがとうございます」


「こちらこそ。お疲れさまでした」


 受付嬢が笑う。


「ベーカリーズの皆さんは、今回の依頼で十分な実績を積まれました」


「そうですか?」


「はい」


「じゃあ、これからもっと大きな依頼を受けられるんですね」


 リリアーナが少し嬉しそうに聞く。


「もちろんです」


 受付嬢は掲示板を指す。


「上級の討伐依頼や護衛依頼も受けられるようになります」


「……」


 俺は掲示板を見る。


 高額な報酬。


 強い魔物。


 遠くの街まで行く護衛。


 危険な場所の調査。


 どれも。


 冒険者としては魅力的な依頼だ。


 でも。


「……しばらくはいいです」


 俺は言った。


「え?」


 リリアーナがこちらを見る。


「アレン?」


「俺たち、昨日の依頼でかなり頑張っただろ」


「うん」


「だから」


 俺は三人を見る。


「一旦、大きな依頼は終わりにしよう」


 ミリアが少し考える。


 そして。


「私も賛成」


 セレナも。


「私もです」


 リリアーナは。


「……うん」


 笑った。


「私も」


 受付嬢が首を傾げる。


「せっかく実力を認められたのに?」


「はい」


 俺は答える。


「俺たちは強くなることだけが目的じゃないので」


「では、何が目的なんですか?」


 俺は少し考える。


「パンです」


「……パン?」


「パンです」


 リリアーナが即座に頷いた。


「パン!」


 ミリアも。


「パンですね」


 セレナも。


「はい」


 受付嬢が笑い出した。


「……なるほど」


「俺たちは」


 俺は言う。


「美味しいパンを食べながら、仲間と冒険するのが好きなんです」


 受付嬢は頷いた。


「それなら、ベーカリーズらしくていいですね」


「ありがとうございます」


 俺たちはギルドを出た。


     ◇


 外へ出る。


 朝の町。


 昨日までとは少し違って見える。


 オーガを倒した。


 大きな依頼を終えた。


 冒険者として。


 一つの区切りがついた。


「……」


 俺は空を見上げる。


 最初。


 俺のスキル【食玩】は。


 パンしか買えない。


 カードが付いてくる。


 それだけのハズレスキルだった。


 戦闘には役に立たない。


 そう思っていた。


 でも。


 違った。


 パンは。


 本当に美味しかった。


 ふわふわのパン。


 サクサクのパン。


 甘いパン。


 肉や野菜がたっぷり入った惣菜パン。


 ハンバーガー。


 サンドイッチ。


 ドーナツ。


 ホットドッグ。


 いろんな食品が買えた。


 そして。


 ランダムで付いてくるスキルカード。


 それを使って。


 俺たちは強くなった。


 仲間も強くなった。


 魔物を倒せるようになった。


 上級依頼まで達成できるようになった。


 でも。


 一番大切だったのは。


「仲間ができたことだな」


「何か言った?」


 リリアーナが聞く。


「いや」


 俺は三人を見る。


 リリアーナ。


 ミリア。


 セレナ。


 三人とも。


 俺のことを好きだと言ってくれている。


 そして。


 俺も三人を大切に思っている。


「これからもよろしくな」


 そう言うと。


「もちろん」


 リリアーナが笑う。


「よろしくお願いします」


 ミリアも。


「こちらこそ」


 セレナも。


「よし」


 俺は手を叩く。


「じゃあ」


 三人を見る。


「朝飯にするか」


「パン!」


 リリアーナが即答した。


「……やっぱりそうなるよな」


     ◇


 宿へ戻る。


 俺は【食玩】を発動する。


 空中に画面が現れる。


 いつもの画面。


 パンの一覧。


 甘いパン。


 総菜パン。


 サンドイッチ。


 ハンバーガー。


 ドーナツ。


 ホットドッグ。


 まだ食べたことのないものも。


 何度も食べたものも。


 たくさん並んでいる。


「今日は何にする?」


「迷う……」


 リリアーナが画面を見る。


「全部食べたい」


「無理だろ」


「アレンなら買えるでしょ?」


「金はあるけど」


 俺は昨日の報酬を見る。


 金貨二枚。


「さすがに全部は食べられない」


「残念」


 ミリアが笑う。


「私はこれ」


【たまごサンド】


「私はこれにします」


【カツサンド】


 セレナ。


「じゃあ俺は……」


 少し悩む。


 そして。


【クリームパン】


「今日はこれだ」


「珍しいね」


「たまには甘いものもいいだろ」


「じゃあ私は」


 リリアーナが選ぶ。


【チョコドーナツ】


「決まったな」


 四つ購入。


 ポンッ。


 紙袋が出てくる。


 そして。


 カードが四枚。


「今日は何かな?」


 リリアーナがカードを取り出す。


【SKILL CARD】


【剣技強化Ⅱ】


【弓術強化Ⅱ】


【魔力強化Ⅱ】


【防御力強化Ⅱ】


「……」


 四人で見る。


「最後までカードは出るんだな」


「うん」


「じゃあ」


 俺は剣技強化Ⅱを持つ。


「使う」


 光が身体を包む。


『【剣技強化Ⅱ】を習得しました』


 リリアーナ。


「私も!」


『【弓術強化Ⅱ】を習得しました』


 ミリア。


「使います」


『【魔力強化Ⅱ】を習得しました』


 セレナ。


「私も」


『【防御力強化Ⅱ】を習得しました』


 四人。


 また強くなった。


「……」


 俺は思う。


 これからも。


 こうやってカードを使うんだろう。


 でも。


 カードを使うことが目的じゃない。


 強くなることだけが目的でもない。


 その先に。


 仲間との時間がある。


     ◇


「いただきます!」


 リリアーナがチョコドーナツを食べる。


 ふわふわの生地。


 表面にはチョコレート。


 かじると。


 柔らかな生地が歯を包む。


 チョコの甘さが広がる。


「……美味しい」


 リリアーナが幸せそうに笑う。


 ミリアはたまごサンド。


 柔らかなパン。


 たっぷりの卵。


 まろやかなマヨネーズ。


 優しい塩味。


 一口食べる。


「やっぱりこれ好き」


 セレナはカツサンド。


 サクッ。


 衣が軽快に砕ける。


 肉は柔らかい。


 ソースの甘辛い味。


 パンの優しい甘さ。


「美味しいです」


 俺はクリームパン。


 パンを割る。


 中から。


 たっぷりのカスタードクリーム。


 黄色く滑らかなクリーム。


 バニラの甘い香り。


 一口。


 ふわふわのパン。


 とろりとしたクリーム。


 卵のコク。


 優しい甘さ。


「……」


 思わず目を閉じる。


「うまい」


「でしょ?」


「うん」


 俺たちは。


 ゆっくりと朝食を食べる。


 急ぐ必要はない。


 今日は大きな依頼もない。


 危険な魔物を探す必要もない。


 ただ。


 美味しいパンを食べればいい。


     ◇


 食事が終わる。


「今日どうする?」


 ミリアが聞く。


「休み」


 俺は答える。


「完全に?」


「完全に」


 リリアーナが嬉しそうに笑う。


「じゃあ街を見て回ろう!」


「いいな」


「新しいパンを探したい」


「結局パンか」


「もちろん」


 セレナも頷く。


「私も新しいものを食べてみたいです」


「分かった」


 四人で町へ出る。


 武器屋。


 防具屋。


 雑貨屋。


 そして。


 パン屋。


 もちろん。


 普通のパン屋で売っているパンも見る。


「これ、美味しそう」


 リリアーナが店先のパンを見る。


「買ってみる?」


「うん!」


 普通のパンを一つ買う。


 四人で分ける。


 食べてみる。


「美味しい」


 ミリアが言う。


「【食玩】のパンとはまた違いますね」


 セレナも頷く。


「ああ」


 俺も思う。


 俺のスキルで買えるパンは。


 どれも本当に美味しい。


 でも。


 この世界にあるパンも。


 ちゃんと美味しい。


 そういう違いも。


 これから楽しんでいけばいい。


     ◇


 夕方。


 町を歩く。


「今日楽しかったね」


 リリアーナが言う。


「ああ」


「明日はどうする?」


「普通の依頼でも受けるか」


「うん」


「薬草採取とか」


「いいね」


 ミリアが笑う。


「また簡単な依頼からですね」


「そうだな」


 セレナが頷く。


「大きな依頼は昨日で終わりましたから」


「ああ」


 俺は頷く。


 昨日。


 オーガを倒した。


 それが。


 俺たちベーカリーズにとって最後の大きな依頼だった。


 もう。


 無理して上を目指す必要はない。


 もちろん。


 強くなれば嬉しい。


 新しいカードが出れば使う。


 強い魔物が現れれば。


 必要なら戦う。


 でも。


 それだけじゃない。


 簡単な依頼を受ける。


 町の人を助ける。


 仲間と一緒に過ごす。


 そして。


 美味しいパンを食べる。


 俺たちには。


 それで十分だった。


「じゃあ帰るか」


「うん!」


「はい」


「帰りましょう」


 四人で宿へ向かう。


 夕暮れの町を歩く。


 隣には仲間がいる。


 金もある。


 強さもある。


 そして。


 俺には【食玩】がある。


 空中に画面を出せば。


 いつでも好きなパンを買える。


 値段も良心的。


 金が許す限り。


 何個でも買える。


 そして。


 ランダムでスキルカードが付いてくる。


 どんなカードが出るかは。


 その時になってみないと分からない。


 だから。


 明日も楽しみだ。


 どんなパンが出るのか。


 どんなカードが出るのか。


 どんな依頼が待っているのか。


 それを。


 仲間と一緒に楽しめばいい。


「アレン!」


「ん?」


「明日の朝ご飯!」


「はいはい」


「何にする?」


「明日の朝から考えるのかよ」


「大事なことでしょ?」


「まあな」


 俺は笑った。


「じゃあ明日は――」


 三人に囲まれながら。


 俺たちは宿へ帰る。


 最後の大きな依頼は。


 もう終わった。


 でも。


 俺たちの毎日は終わらない。


 ベーカリーズは。


 これからも冒険者として活動する。


 無理はしない。


 欲張りもしない。


 自分たちが楽しいと思えることを。


 自分たちのペースで続けていく。


 そして。


 その隣には。


 いつだって。


 美味しいパンがある。


 最初は。


 ハズレスキルだと思っていた。


 パンしか買えない。


 それだけのスキル。


 でも。


 今なら胸を張って言える。


 俺にとって。


【食玩】は。


 最高のスキルだ。


「明日もパンを食べよう」


 俺が言う。


「うん!」


「もちろん」


「はい」


 三人の声が重なる。


 俺たちは笑った。


 そして。


 今日という一日が終わる。


 明日になれば。


 また新しい一日が始まる。


 新しい依頼。


 新しいパン。


 新しいカード。


 そして。


 いつもの仲間。


 それでいい。


 それが。


 俺たち――ベーカリーズの冒険だから。


 ――完――

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