第24話 今日は依頼なし!四人で街を歩いたらパン屋巡りになりました
今日は休みだ。
依頼を受けない。
魔物を倒さない。
森にも行かない。
つまり。
完全な休日である。
「……」
俺は宿のベッドに寝転がりながら、ぼんやり天井を見ていた。
こういう日も悪くない。
冒険者になってから、毎日のように依頼を受けていた。
戦って。
報酬をもらって。
パンを食べて。
また戦う。
それが嫌だったわけじゃない。
むしろ楽しい。
ただ。
「たまには何もしない日も必要だな」
そう思った。
コンコン。
「アレン?」
ミリアの声。
「入っていい?」
「ああ」
扉が開く。
ミリアが顔を出す。
「おはよう」
「おはよう」
「今日は休み」
「そうだな」
「何する?」
「特に決めてない」
「……」
ミリアが少し考える。
「じゃあ、街を見て回らない?」
「いいな」
そのとき。
「アレン!」
リリアーナが廊下から走ってきた。
「街に行くの?」
「ああ」
「私も行く!」
その後ろから。
「私も行きます」
セレナ。
「全員か」
「休日ですから」
「そうだな」
結局。
四人で街を歩くことになった。
◇
宿を出る。
朝の町は賑やかだった。
露店が並んでいる。
果物。
野菜。
肉。
雑貨。
そして。
「パン屋!」
リリアーナが叫んだ。
「……」
「アレン!」
「分かった分かった」
パン屋へ入る。
昨日も入った店だ。
店員が俺たちを見る。
「あら、昨日の冒険者さんたち」
「覚えてたんですか?」
「四人で仲良くパンを食べていたから」
セレナが少し照れる。
「……」
リリアーナが棚を見る。
「美味しそう」
「今日は【食玩】じゃない普通のパンも買ってみるか?」
「いいね!」
「賛成」
「はい」
それぞれ好きなパンを選ぶ。
俺は焼きたてのバターロール。
ミリアは小さなフルーツデニッシュ。
リリアーナはあんパン。
セレナはクリームパン。
店の外へ出る。
近くの広場のベンチに座る。
「いただきます」
俺はバターロールを割る。
ふわっ。
まだ温かい。
中からバターの香り。
一口。
柔らかなパンが口の中でほどける。
「……美味い」
シンプル。
だが美味しい。
小麦の甘み。
バターの香り。
焼きたての温かさ。
それだけで十分だった。
隣を見る。
ミリアがデニッシュを食べている。
表面には艶のある果物。
「……」
サクッ。
生地が軽く崩れる。
「美味しい」
「そっちは?」
「甘い」
リリアーナはあんパン。
割ると、中にたっぷりのあんこ。
「いただきます」
一口。
「んー……!」
リリアーナが幸せそうな顔をする。
「美味しい!」
「そんなに?」
「うん!」
セレナはクリームパン。
こちらも割る。
中から黄色いカスタード。
「……」
セレナがじっと見る。
「食べないの?」
「少し緊張します」
「何で?」
「こういう柔らかいパン、好きなので」
「普通に食べればいいだろ」
「はい」
一口。
ふわっ。
カスタードがとろり。
卵の優しい甘さ。
ミルクのコク。
パンの柔らかな食感。
「……」
「どう?」
「美味しいです」
「よかった」
「昨日の食玩のクリームパンとは、少し違いますね」
「店のパンだからな」
「どちらも好きです」
「ならいいな」
四人でパンを食べる。
依頼もない。
敵もいない。
ただパンを食べている。
それだけなのに。
なんだか楽しい。
◇
食べ終わった後。
街を歩く。
「武器屋に行きたい」
セレナが言った。
「剣を見るのか?」
「はい」
入る。
壁にはたくさんの剣。
セレナが一本ずつ見る。
「これ……」
「気になる?」
「はい」
細身の剣を手に取る。
軽い。
バランスが良い。
「今の剣より使いやすそうです」
「買う?」
「……」
値段を見る。
「少し高いですね」
「昨日までの報酬があるだろ」
「でも」
「必要なものなら買えばいい」
「……」
セレナが俺を見る。
「ありがとうございます」
「俺が買うわけじゃないぞ」
「分かっています」
セレナが笑う。
結局。
今の剣で十分ということで、今日は買わなかった。
店を出る。
「いい剣だった」
「また稼いで買えばいい」
「はい」
◇
次に向かったのは服屋。
「ここ入りたい!」
リリアーナ。
「服?」
「うん!」
女子三人が店に入っていく。
「俺は?」
「待ってて」
「はいはい」
店の外で待つ。
しばらくして。
「アレン」
「ん?」
ミリアが出てくる。
いつもの冒険者服ではない。
淡い色のワンピース。
「……」
「どう?」
「似合ってる」
「本当?」
「ああ」
ミリアが少し嬉しそうに笑う。
「じゃあ、これ買う」
店の中へ戻る。
次にリリアーナ。
「どう?」
こちらも私服。
「似合ってる」
「それだけ?」
「他に何て言えばいいんだよ」
「可愛いとか」
「……可愛い」
「よし!」
リリアーナが満足そうに笑う。
最後。
セレナ。
「……」
「どうした?」
「こういう服はあまり着たことがありません」
セレナは少し恥ずかしそうだった。
だが。
似合っている。
「いいと思う」
「本当ですか?」
「ああ」
「……」
セレナが小さく笑った。
「では、買います」
四人で買い物をする。
冒険者なのに。
今日は完全に普通の若者みたいだ。
◇
昼。
当然。
「お腹空いた」
リリアーナ。
「早いな」
「朝食べただけだから」
「十分だろ」
「でもお腹空いた」
セレナも頷く。
「私も」
「お前もか」
「はい」
ミリアが笑う。
「じゃあ、昼にしましょう」
「何食べる?」
リリアーナが聞く。
俺は少し考える。
「今日は【食玩】にしよう」
「賛成!」
人の少ない公園へ移動する。
ベンチに座る。
空中に画面を出す。
「何がいい?」
「ドーナツ!」
リリアーナ。
「サンドイッチ」
ミリア。
「ハンバーガー」
セレナ。
「じゃあ俺は……」
一覧を見る。
「ホットドッグにするか」
購入。
ポンッ。
四つの紙袋が出現。
「いただきます!」
リリアーナがドーナツを取り出す。
砂糖が薄くかかったリング状のドーナツ。
かじる。
サクッ。
表面の砂糖が軽く砕ける。
中はふわふわ。
油っぽさはほとんどない。
小麦の甘み。
砂糖の甘さ。
噛むほどに香ばしさが出てくる。
「美味しい!」
リリアーナが幸せそうに食べる。
ミリアはサンドイッチ。
レタス。
ハム。
チーズ。
パン。
具材がきれいに重なっている。
「……」
一口。
シャキッ。
レタス。
ハムの塩気。
チーズのコク。
そして柔らかなパン。
「これも美味しい」
セレナはハンバーガー。
「いただきます」
かじる。
肉汁が広がる。
ソースが肉に絡む。
ふわふわのバンズ。
「……」
「またその顔してるぞ」
「すみません」
「何で謝るんだよ」
「美味しくて」
セレナが幸せそうに笑う。
俺はホットドッグを食べる。
パンの中には大きなソーセージ。
パリッ。
噛んだ瞬間、肉汁が弾ける。
ケチャップの酸味。
マスタードの刺激。
ふわふわのパン。
「……」
これはかなり美味い。
四人とも黙って食べる。
しばらくして。
「美味しかった……」
リリアーナが満足そうに呟いた。
「だな」
◇
そして。
食べ終わった紙袋を見る。
カードが四枚。
「さて」
俺がカードを確認する。
【SKILL CARD】
【体力強化Ⅰ】
「俺が使う」
カードを持つ。
「使う」
光。
『【体力強化Ⅰ】を習得しました』
リリアーナ。
【SKILL CARD】
【弓術強化Ⅰ】
「私これ!」
すぐに使う。
「弓がもっと上手くなるかな?」
「たぶんな」
「楽しみ!」
ミリア。
【SKILL CARD】
【魔力強化Ⅰ】
「これは嬉しい」
カードを使う。
「使う」
光。
『【魔力強化Ⅰ】を習得しました』
最後。
セレナ。
【SKILL CARD】
【身体強化Ⅰ】
「……」
セレナがカードを見る。
「使います」
「どうぞ」
「使う」
光。
『【身体強化Ⅰ】を習得しました』
セレナが拳を握る。
「……力が増えました」
「戦いやすくなるな」
「はい」
四人とも新しいスキルを得た。
休日なのに。
しっかり強くなっている。
「なんか得した気分だな」
リリアーナが笑う。
「パン食べただけなのに」
「それが【食玩】だからな」
◇
夕方。
町を歩く。
四人で買い物をして。
普通のパン屋にも行って。
【食玩】のパンも食べて。
服も買った。
依頼は一つも受けていない。
それなのに。
今日一日が、妙に充実していた。
「アレン」
セレナが隣を歩きながら言う。
「何?」
「今日は楽しかったです」
「俺も」
「冒険者になってから、こういう休日は初めてでした」
「そうなのか」
「はい」
セレナが少し笑う。
「ベーカリーズに入れてもらえてよかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
その反対側。
「アレン」
リリアーナ。
「何?」
「私も楽しかった」
「うん」
ミリアも。
「私も」
「じゃあ、よかった」
四人で歩く。
夕焼けに照らされた町。
今日一日。
何か大きなことをしたわけではない。
でも。
俺は思った。
冒険者って。
戦ってばかりじゃないんだな。
仲間と飯を食べたり。
買い物したり。
くだらない話をしたり。
そういう時間も。
きっと冒険者生活の一部なんだ。
「……」
そして。
俺は腹が減ってきた。
「夕飯どうする?」
三人が俺を見る。
「パン!」
「パン」
「パンがいいです」
「……」
やっぱり。
最後はパンになる。
俺たちは笑いながら宿へ戻った。
明日からはまた冒険だ。
でも。
今日みたいな休日があるなら。
明日からも頑張れそうだった。




