第23話 ベーカリーズの新戦力!カードで強くなったらパンがもっと美味しくなりました
セレナがベーカリーズに加入してから、数日が経った。
最初は少しだけぎこちなかった。
当然だ。
俺とミリアとリリアーナは、これまで三人で依頼をこなしてきた。
そこへ突然、セレナが加わったのだから。
だが。
「アレン、これどうぞ」
「ん?」
朝食の席。
セレナが俺の前に皿を置いた。
「何これ?」
「昨日買ったパンです」
「昨日の?」
「美味しかったので」
「……」
昨日の夕食で買ったパンを、わざわざ残していたらしい。
「食べますか?」
「食べる」
「どうぞ」
俺はパンを受け取る。
温め直してある。
表面は少しだけカリッとしている。
中はふわふわ。
かじる。
ほんのり甘いパンの味。
そこにバターの香り。
「……美味い」
「よかったです」
セレナが嬉しそうに笑う。
「アレン!」
リリアーナが声を上げる。
「私のも食べて!」
「お前のも?」
「うん!」
差し出されたのは、昨日の菓子パン。
クリームがたっぷり入っている。
「これも美味しいよ」
「じゃあ一口」
かじる。
ふわっとしたパン。
滑らかなクリーム。
甘さはしっかりしているが、くどくない。
「これも美味い」
「でしょ?」
ミリアが静かに言う。
「アレン」
「何?」
「私のも」
「……」
三人がそれぞれパンを差し出してくる。
「朝から食べ比べ大会か?」
「いいじゃん」
「そうですね」
「楽しそう」
俺は笑った。
セレナが入ってから。
こういう時間が増えた気がする。
◇
朝食を終える。
今日は町の近くにある森で討伐依頼を受けることにした。
「これにしよう」
【森の魔物討伐】
【対象:ゴブリン、ウルフ】
【報酬:銀貨十枚】
「昨日より少し難しい」
セレナが言う。
「ああ」
「でも四人なら大丈夫」
リリアーナが胸を張る。
「私たち、強くなってるから」
「そうだな」
依頼を受ける。
森へ向かう。
◇
森の中。
木々の間を進む。
「索敵」
意識を集中する。
「前方に五体」
「ウルフ?」
「そう」
セレナが剣を抜く。
「私が前に出ます」
「分かった」
俺も剣を構える。
「二人で受ける」
「はい」
ウルフが飛び出してくる。
「来た!」
セレナが一匹を斬る。
俺がもう一匹。
残りが横から回り込む。
「リリアーナ!」
「任せて!」
矢が飛ぶ。
ウルフが倒れる。
最後の二匹。
ミリアが杖を掲げる。
「火よ!」
炎が走る。
二匹まとめて吹き飛ばす。
「終わり」
「早いな」
俺が言う。
「四人だから」
リリアーナが笑う。
確かにそうだ。
三人だった頃よりも明らかに戦いやすい。
◇
さらに森の奥へ。
「……」
セレナが足を止める。
「どうした?」
「音がします」
俺も耳を澄ます。
ガサッ。
ガサガサッ。
「結構いるな」
「何匹?」
「分からない」
索敵を広げる。
「……十以上」
「ゴブリン?」
「そう」
「どうする?」
ミリアが聞く。
「ここで倒す」
俺は答えた。
「四人ならいける」
「分かりました」
セレナが構える。
リリアーナが弓を引く。
ミリアが魔法の準備。
俺は前に出る。
「来るぞ!」
木々の間からゴブリンが大量に飛び出してきた。
「撃つ!」
リリアーナの矢。
一匹。
二匹。
三匹。
さらにミリア。
「火よ!」
爆発。
集団が吹き飛ぶ。
「アレン!」
「分かってる!」
俺とセレナが前へ出る。
ゴブリンが剣を振る。
受ける。
弾く。
斬る。
セレナも同時に攻撃。
「右!」
「はい!」
セレナが反応する。
俊足Ⅰ。
以前より明らかに速い。
ゴブリンの攻撃をかわす。
そして。
斬撃。
「一匹!」
「いいぞ!」
俺も一匹。
さらに一匹。
「まだいる!」
リリアーナが叫ぶ。
「任せて!」
矢が連続して飛ぶ。
「火よ!」
ミリアの魔法。
ゴブリンの数が一気に減る。
「あと三!」
「俺が二!」
「では私が一!」
セレナが飛び込む。
剣が閃く。
最後の一匹が倒れた。
静かになる。
「……」
四人で顔を見合わせる。
「終わった?」
「索敵」
確認。
「周囲にはいない」
「やった!」
リリアーナが両手を上げる。
「依頼達成だね!」
「たぶんな」
セレナが剣を収める。
「……」
「どうした?」
「以前なら、一人で無理に全部倒そうとしていたと思います」
「でも今日は?」
「アレンさんが前を抑えてくれたので、私は横から攻撃できました」
「リリアーナも援護してくれた」
「はい」
「ミリアも」
「うん」
「……」
セレナが三人を見る。
「やっぱり、仲間っていいですね」
「だろ?」
「はい」
◇
依頼達成。
帰る前に昼食。
当然。
パン。
「今日は何にする?」
俺が聞く。
「甘いの!」
リリアーナ。
「サンドイッチ」
ミリア。
「私は……」
セレナが画面を見る。
「これにします」
【クロワッサンサンド】
「いいな」
俺は自分用に。
【ベーコンチーズバーガー】
「それも美味しそう」
「食べる?」
「少し」
購入。
紙袋が四つ。
セレナがクロワッサンサンドを取り出す。
クロワッサンの表面には何層もの薄い生地。
焼き色は綺麗な黄金色。
「……」
セレナが両手で持つ。
「いただきます」
かじる。
サクッ。
薄い生地が何層にも割れる。
その中はふんわり。
バターの香りが一気に広がる。
そして。
挟まれたハムとチーズ。
塩気のあるハム。
濃厚なチーズ。
バターの香りが強いクロワッサン。
全部が重なって。
「……美味しい」
セレナが目を閉じる。
「これ……すごく好きです」
「クロワッサン系は美味いよな」
「はい」
もう一口。
今度はチーズが伸びる。
「……!」
「どう?」
「最高です」
セレナの顔が完全に幸せそうになっている。
リリアーナが笑う。
「セレナ、完全にパン好きになったね」
「元々好きでした」
「でも今は?」
「もっと好きになりました」
「それならよかった」
俺もベーコンチーズバーガーを食べる。
バンズはふわふわ。
表面は軽く焼かれて香ばしい。
肉はジューシー。
ベーコンの塩気。
チーズのコク。
そこへ少し甘いソース。
「……」
美味い。
やっぱりハンバーガーは強い。
肉とパン。
それだけでも満足できるのに、チーズとベーコンまで加わる。
「アレン」
「ん?」
セレナがこちらを見る。
「一口交換しませんか?」
「いいぞ」
セレナのクロワッサンサンドを少しもらう。
俺のバーガーを少し渡す。
「どうですか?」
「美味い」
「よかった」
セレナが俺のバーガーを食べる。
「……」
「どう?」
「こちらも好きです」
「だろ?」
四人で笑う。
◇
食べ終わった。
カードを確認する。
俺のカード。
【SKILL CARD】
【防御力強化Ⅱ】
「お」
かなり良い。
カードを持つ。
「使う」
光。
『【防御力強化Ⅱ】を習得しました』
セレナのカード。
【SKILL CARD】
【反応速度強化Ⅰ】
「私のも使えそうです」
「使う?」
「はい」
セレナがカードを握る。
「使う」
光。
『【反応速度強化Ⅰ】を習得しました』
「……」
セレナが目を閉じる。
「どう?」
「敵の動きが……少し遅く見える気がします」
「それはかなり便利だな」
「はい」
リリアーナのカード。
【SKILL CARD】
【視力強化Ⅰ】
「私向き!」
すぐに使用。
「遠くがよく見える!」
ミリアのカード。
【SKILL CARD】
【魔力操作Ⅰ】
「これも私向き」
ミリアが使う。
「魔法が少し安定した」
「カードって、本当に便利だな」
俺は改めて思う。
パンを買う。
美味しく食べる。
カードで強くなる。
そして。
強くなった分だけ、冒険が楽になる。
最高じゃないか。
◇
町へ戻る。
ギルドで報告。
報酬を受け取る。
「銀貨十枚」
四人分の活動費としては悪くない。
「今日は成功だな」
「はい」
セレナが頷く。
「明日はどうします?」
「明日は……」
俺は考える。
そして。
「休みにするか」
「え?」
リリアーナが驚く。
「休み?」
「ああ」
「パン食べる?」
「それは休みでもできる」
「じゃあ賛成!」
ミリアも頷く。
「私も」
セレナも。
「私も賛成です」
「よし」
明日は休み。
依頼もない。
戦闘もない。
ただ町を歩いて。
美味しいパンを食べる。
それも冒険者生活の一部だ。
俺はそんなことを考えながら、三人と一緒に宿へ戻った。
ベーカリーズは。
少しずつ。
本当のパーティーになってきていた。




