第21話 四人になったベーカリーズ!新しい仲間と初めての依頼へ
ベーカリーズに新しい仲間が増えた。
セレナ。
銀色の髪に青い瞳。
細身の剣を使う剣士。
そして――。
「お腹が空きました」
かなりの食いしん坊。
「……朝食べたよな?」
「食べました」
「チョココロネも?」
「食べました」
「それなのに?」
「お腹は空きます」
セレナは真顔だった。
「すごいな」
俺は思わず感心する。
隣ではリリアーナが笑っている。
「私も分かるよ」
「分かるのか」
「パンは別腹だから」
ミリアも頷いた。
「私も少し分かる」
「お前ら……」
俺はため息をつく。
だが。
嫌な感じはしない。
むしろ。
四人になったことが、少し嬉しかった。
◇
俺たちは隣町の冒険者ギルドへ向かった。
今日の目的は、セレナを加えた四人で初めて依頼を受けること。
「何にする?」
掲示板を見る。
討伐依頼。
採集依頼。
護衛依頼。
いろいろある。
その中から一枚を取る。
【街道周辺の魔物討伐】
【討伐対象:ホーンラビット】
【報酬:銀貨二枚】
「これならちょうどいいんじゃないか?」
俺が言う。
「賛成」
ミリアが頷く。
「私も」
リリアーナも頷いた。
セレナは依頼書を見る。
「……ホーンラビット」
「知ってる?」
「はい。角を持つウサギ型の魔物です」
「強い?」
「単体ならそれほど」
「じゃあ大丈夫だな」
依頼を受ける。
受付を済ませる。
「行きましょう」
セレナが言った。
「おう」
四人でギルドを出る。
◇
町の外へ出る。
俺。
その右にミリア。
左にリリアーナ。
少し後ろにセレナ。
歩いているうちに、ふと気づく。
「セレナ」
「はい?」
「後ろじゃなくて、もう少し前に来ていいぞ」
「ですが」
「これから仲間なんだから」
「……」
セレナが少し迷う。
「では」
俺の横まで歩いてくる。
「このくらいで?」
「それでいい」
「分かりました」
リリアーナがニヤニヤしている。
「どうした?」
「別に?」
「何だよ」
「アレン、優しいなと思って」
「普通だろ」
「ふーん」
ミリアも少しだけ笑っている。
「仲間を気にするのは普通」
「だろ?」
「うん」
セレナが二人を見る。
「お二人は……」
「ん?」
「アレンさんのことが好きなんですか?」
「……」
「……」
リリアーナとミリアが同時に黙った。
そして。
「好きだよ?」
リリアーナがあっさり答えた。
「私も」
ミリアも答えた。
「……」
セレナが固まった。
「そうなんですね」
「うん!」
「そう」
俺は頭を抱えた。
「本人がいる前で言うなよ……」
「別にいいじゃん」
「よくない」
「どうして?」
「どうしてって……」
答えられない。
セレナが少し考える。
「では、私も好きになれば問題ありませんか?」
「……」
今度は俺が固まった。
「セレナ?」
「はい」
「いや、その……」
「冗談です」
セレナが笑った。
初めて見る笑顔だった。
「……なんだ」
俺はほっとする。
だが。
リリアーナが俺の腕を掴んだ。
「アレン」
「何?」
「今の、ちょっと期待した?」
「してない」
「本当に?」
「本当だ」
ミリアも反対側から腕を掴む。
「ならいい」
「お前まで……」
四人で歩く。
セレナは少し後ろで笑っていた。
◇
街道を進む。
しばらくすると。
「……」
俺は足を止めた。
「どうした?」
セレナが聞く。
「魔物」
索敵Ⅰ。
「前方に三匹」
「ホーンラビット?」
「たぶん」
リリアーナが弓を構える。
「見えた」
草むら。
白い毛。
頭に一本の角。
「ホーンラビットだ」
セレナが剣に手をかける。
「私が前に出ます」
「分かった」
セレナが走る。
速い。
ホーンラビットが跳ぶ。
「っ!」
セレナが剣を振る。
ガキッ!
角と剣がぶつかる。
セレナは弾かれた。
「速い……!」
「セレナ!」
ホーンラビットが突進する。
俺が横から入り込む。
「こっちは任せろ!」
剣で攻撃を受け流す。
ホーンラビットが方向を変える。
そこへ。
ヒュンッ!
リリアーナの矢。
命中。
「一匹!」
ミリアが杖を掲げる。
「火よ!」
火球。
ドンッ!
二匹目。
残り一匹。
セレナが立て直す。
「もう一度!」
「セレナ、無理するな!」
「大丈夫です!」
ホーンラビットが突っ込んでくる。
セレナは真正面から迎え撃つ。
角をかわす。
剣を振る。
ザシュッ。
ホーンラビットが倒れた。
「……」
「やった!」
リリアーナが駆け寄る。
「セレナ、すごい!」
「ありがとうございます」
セレナが息を整える。
俺も近づく。
「怪我は?」
「ありません」
「よかった」
「ありがとうございます」
「でも、一人で受け止めなくていいからな」
「はい」
セレナが頷く。
「次から気をつけます」
その表情は真剣だった。
◇
その後もホーンラビットを何匹か討伐した。
セレナは前衛としてかなり優秀だった。
剣の扱いも上手い。
動きも速い。
ただ。
「ちょっと真面目すぎるな」
休憩中。
俺はそう思った。
「そう?」
リリアーナが聞く。
「ああ」
セレナを見る。
休憩しているのに、ずっと周囲を警戒している。
「少しくらい力を抜いていいと思う」
「ですが、冒険中です」
「それはそうだけど」
「私は皆さんの足を引っ張りたくありません」
「別に引っ張ってない」
「……」
「むしろ助かってる」
セレナがこちらを見る。
「本当ですか?」
「ああ」
「……」
少しだけ表情が柔らかくなった。
「ありがとうございます」
「だから、もっと頼ってくれ」
「分かりました」
リリアーナが口を挟む。
「じゃあ、これも頼って」
俺の前に紙袋を差し出す。
「何?」
「パン」
「なんでリリアーナが持ってるんだ?」
「アレンが買ったから」
「そうだった」
俺は【食玩】を開く。
「昼飯にするか」
「うん」
「賛成」
セレナが紙袋を見る。
「……」
「食べたい?」
「はい」
即答だった。
「何がいい?」
「何でもいいです」
「じゃあ、セレナが選んで」
「私が?」
「ああ」
画面を見せる。
パンがずらりと並ぶ。
セレナは真剣な顔で画面を眺める。
「……これ」
指差した。
【カレーパン】
「カレーパンか」
「はい」
「じゃあこれにしよう」
購入。
ポンッ。
紙袋が出現する。
セレナに渡す。
「ありがとうございます」
袋を開けた瞬間。
香ばしい匂いが漂う。
「……!」
セレナの目が輝いた。
「すごい匂い」
「食べてみて」
「はい」
両手で持つ。
衣はきつね色。
表面はカリッとしている。
「いただきます」
かじる。
サクッ!
衣が軽快な音を立てて崩れる。
その下から柔らかなパン。
そして。
とろりとしたカレー。
「……!」
セレナが目を見開いた。
カレーはスパイスの香りがしっかりしている。
けれど辛すぎない。
玉ねぎの甘み。
肉の旨味。
パンの甘さ。
全部が一緒になる。
セレナは無言で二口目を食べた。
サクッ。
ふわっ。
とろっ。
「……美味しい」
小さな声だった。
「気に入った?」
「はい」
「よかった」
セレナは夢中になって食べている。
カレーが少し口元についた。
「あ」
「どうしました?」
「そこ」
俺が指で自分の口元を示す。
セレナが慌てて拭う。
「取れましたか?」
「まだ少し」
「どこですか?」
「右」
「ここ?」
「もう少し上」
「あ……」
セレナが顔を赤くする。
リリアーナが笑っている。
ミリアも少し笑っている。
「……何ですか?」
「別に」
リリアーナが答える。
「セレナもベーカリーズっぽくなってきたなって」
「どういう意味ですか?」
「パンを食べてるから」
「それだけ?」
「それだけ」
セレナが少し笑う。
「それなら、確かにそうかもしれません」
◇
カレーパンを食べ終える。
紙袋の中を見る。
カードが一枚。
「セレナ」
「はい」
「カードが入ってる」
「これがスキルカード……」
「そう」
セレナがカードを受け取る。
【SKILL CARD】
【剣術強化Ⅰ】
「……」
セレナの目が輝いた。
「剣士向けですね」
「使ってみる?」
「いいんですか?」
「もちろん」
セレナがカードを握る。
「使う」
カードが光る。
『【剣術強化Ⅰ】を習得しました』
セレナが自分の手を見る。
「……」
「どう?」
「力が……」
剣を握り直す。
「今までより、自然に剣を扱える気がします」
「それならよかった」
「ありがとうございます」
セレナがカードを見る。
「このスキルカード、本当に便利ですね」
「ああ」
「アレンさんが持っているスキルも、こうやって増えていったんですか?」
「そう」
「……」
セレナが俺を見る。
「では、私も強くなれますね」
「たぶんな」
「頑張ります」
その言葉には、今まで以上に力が入っていた。
◇
依頼の討伐数を達成した。
四人で町へ戻る。
「今日は初めて四人で依頼をしたけど、どうだった?」
俺が聞く。
「楽しかった!」
リリアーナが答える。
「問題なかった」
ミリア。
「私も」
セレナが続ける。
「ただ……」
「ただ?」
「まだ皆さんとの動きに慣れていません」
「それは仕方ない」
「はい」
「これから慣れていけばいい」
「……はい」
セレナが頷く。
その横顔は嬉しそうだった。
ギルドに戻る。
報酬を受け取る。
「これで依頼達成だな」
「はい」
セレナが頷く。
四人で依頼を達成した。
たったそれだけのこと。
でも。
俺にとっては大きな一歩だった。
三人だったベーカリーズが。
今日から四人になった。
「帰ったら夕飯だな」
「パン?」
リリアーナ。
「パン」
ミリア。
「……パンがいいです」
セレナまで。
「お前ら、本当に好きだな」
三人が笑う。
「アレンのパンだから」
「……」
俺は少し照れくさくなって、前を向いた。
四人になったベーカリーズ。
まだまだ始まったばかりだ。
でも。
今日の依頼を終えて。
俺は少しだけ確信していた。
この四人なら。
きっと、もっと楽しく冒険できる。
そして――。
「夕飯、何にする?」
「ハンバーガー!」
「サンドイッチ」
「私はカレーパン……」
「全員バラバラかよ」
そんなことを言いながら。
俺たちは夕暮れの町を歩いていった。




