第16話 ベーカリーズ、初めての遠出。そして焼きたてメロンパンは反則だ
冒険者になってから、それなりの日数が経った。
そして。
リリアーナが正式に仲間になってから、今日で四日目。
「……腹減った」
朝。
俺は目を覚ますと、布団の中で呟いた。
最近、朝起きると最初に考えることが食べ物になっている気がする。
まあ、仕方ない。
俺には【食玩】がある。
空中に画面を出す。
「今日は……甘いものにするか」
菓子パンの一覧を眺める。
クリームパン。
チョココロネ。
あんパン。
メロンパン。
「メロンパンか」
名前は知っている。
だが、俺はまだ食べていない。
「これにしよう」
購入。
ポンッ。
紙袋が現れる。
袋を開けた瞬間。
「……甘い匂い」
丸いパン。
表面には格子状の模様。
そして、砂糖の粒がところどころに見える。
持ってみる。
表面は少し硬い。
だが、下のパンは柔らかそうだ。
「いただきます」
かじる。
サクッ。
「……!」
最初に表面の生地が崩れた。
砂糖の甘さ。
その下から、ふわっとしたパン。
外側はサクサク。
中はふわふわ。
噛むほどにバターのような香りと優しい甘さが広がる。
「これは……」
もう一口。
サクッ。
ふわっ。
「美味い」
これは危険だ。
甘い。
だが、くどくない。
表面のサクサクした部分と中の柔らかなパンの食感も面白い。
もう一口。
「……これ、好きだな」
あっという間に食べ終わった。
紙袋の中を見る。
カードがある。
「さて」
取り出す。
【SKILL CARD】
【俊敏強化Ⅰ】
「また身体能力系か」
カードを持つ。
「使う」
光。
『【俊敏強化Ⅰ】を習得しました』
ステータスを開く。
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【アレン】
種族:人族
年齢:15歳
レベル:1
【体力】42
【魔力】18
【攻撃力】12
【防御力】11
【素早さ】13
【魔法力】15
【精神力】12
【習得スキル】
・言語理解
・初級剣術
・食玩
・身体強化Ⅰ
・身体強化Ⅱ
・火魔法Ⅰ
・鑑定Ⅰ
・気配察知Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・火耐性Ⅱ
・料理Ⅰ
・剣術Ⅰ
・索敵Ⅰ
・火力強化Ⅰ
・俊足Ⅰ
・集中Ⅰ
・魔力操作Ⅰ
・打撃耐性Ⅰ
・防御力強化Ⅰ
・状態異常耐性Ⅰ
・視力強化Ⅰ
・聴覚強化Ⅰ
・反応速度強化Ⅰ
・筋力強化Ⅰ
・俊敏強化Ⅰ
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「順調だ」
スキルが増えていく。
このままいけば、かなり強くなれそうだ。
ただ。
「レベルが上がらないな」
俺はステータスを見ながら呟いた。
魔物を倒しているのだから、経験は積んでいるはず。
だがレベルは一のまま。
まあ、今のところ困ってはいない。
そう思って画面を閉じる。
コンコン。
「アレン?」
「ミリアか?」
「うん」
「入っていいぞ」
扉が開く。
「おはよう」
「おはよう」
ミリアは俺を見る。
「今日のパンは?」
「メロンパン」
「食べたい」
「分かった」
購入。
ミリアに渡す。
「ありがとう」
袋を開ける。
「甘い匂い」
かじる。
サクッ。
「……美味しい」
「だろ?」
「表面がサクサク」
「中はふわふわだ」
「好き」
ミリアは嬉しそうに食べている。
そこへ。
「アレンー!」
廊下から声。
リリアーナだ。
「起きてる?」
「起きてる」
「入るよ!」
扉が開く。
「おはよう!」
「おはよう」
「おはようございます」
「今日は何?」
「メロンパン」
「私も!」
予想通りだった。
購入。
「はい」
「ありがとう!」
リリアーナが袋を開ける。
「いい匂い!」
かじる。
サクッ。
「……!」
目が輝く。
「美味しい!」
「気に入った?」
「これ、すごく好き!」
「だと思った」
「外がサクサクなのに、中がふわふわ!」
「そういうパンだからな」
「もう一個食べたい」
「まだ朝だぞ」
「朝だからいいんじゃない?」
「理屈になってない」
ミリアが言う。
「私ももう一個食べたい」
「お前までか」
結局。
もう一個ずつ購入した。
「……」
俺も食べたくなってきた。
「俺も一個買うか」
「最初から三人分買えばよかったのに」
リリアーナが笑った。
「それもそうだな」
◇
ギルドへ向かう。
「おはようございます」
リーゼが迎えてくれる。
「今日は少し遠い依頼があります」
「遠い?」
「はい」
依頼書を見せてもらう。
【街道沿いの魔物討伐・調査】
【目的地:隣町へ続く街道途中の森】
【報酬:銀貨二枚】
「隣町?」
「はい。日帰りは少し厳しい距離ですが、途中までなら問題ありません」
「なるほど」
リリアーナが依頼書を見る。
「やってみたい」
「私も」
ミリアが頷く。
「三人なら大丈夫そうだな」
依頼を受ける。
今日は少し遠出だ。
◇
街道を歩く。
町を出ると、人の数が一気に減った。
遠くに山。
左右に草原。
その先に森が見える。
「なんか冒険者っぽい」
リリアーナが嬉しそうに言う。
「今までも冒険者だっただろ」
「でも近場ばっかりだったから」
「確かにな」
ミリアが隣を歩く。
「楽しそう」
「うん」
三人で歩く。
しばらくすると。
「止まって」
俺が言った。
二人が止まる。
「どうした?」
「前に何かいる」
聴覚強化Ⅰ。
索敵Ⅰ。
視力強化Ⅰ。
「魔物がいる」
「何匹?」
「十匹くらい」
「多い」
「森の手前だ」
リリアーナが弓を構える。
「先に撃つ?」
「お願い」
弦を引く。
ヒュンッ!
一匹。
ヒュンッ!
二匹。
魔物がこちらに気づいた。
「来る!」
ミリアが杖を構える。
「火よ!」
火球。
魔物が吹き飛ぶ。
「残り!」
俺が走る。
身体強化Ⅱ。
俊足Ⅰ。
俊敏強化Ⅰ。
以前より体が軽い。
踏み込む。
斬る。
一匹。
さらに一匹。
「右!」
リリアーナの声。
振り返る。
魔物が迫る。
反応速度強化Ⅰ。
避ける。
剣。
倒す。
「残り五!」
「任せて!」
リリアーナが矢を放つ。
ヒュン。
ヒュン。
ヒュン。
三匹。
「あと二!」
ミリアの魔法。
炎が走る。
一匹。
最後の一匹は俺が倒す。
「終わり」
「連携、かなり良くなったね」
リリアーナが言う。
「そうだな」
最初の頃よりずっと動きやすい。
誰かが何をするのか。
自然と分かるようになっている。
ミリアが魔法を準備しているなら、俺が時間を作る。
リリアーナが狙っているなら、俺は敵をそちらへ誘導する。
三人で戦う。
それが普通になりつつあった。
◇
森の入口を調査する。
特に異常はない。
ただ。
「……ここ、魔物が多いな」
「うん」
リリアーナが周囲を見る。
「さっきから何匹も出てくる」
「依頼どおりだな」
魔物を倒しながら進む。
夕方になる。
「そろそろ戻ろう」
俺が言う。
「賛成」
ミリアも頷く。
帰路につく。
だが。
「……」
俺は足を止めた。
「どうした?」
「前に人がいる」
「冒険者?」
「分からない」
聴覚を集中する。
聞こえてくる。
荒い息。
そして。
「……助けて……」
女の声。
リリアーナが弓を構える。
「行こう」
「うん」
三人で走る。
森の中。
木々の間。
一人の女性が倒れていた。
長い髪。
白い服。
そして。
足を怪我している。
「大丈夫ですか?」
俺が駆け寄る。
「……あなたたちは……?」
「冒険者です」
「魔物に襲われて……」
女性が苦しそうに言う。
「もう……動けません……」
「ミリア」
「分かった」
ミリアが近づく。
「回復魔法は?」
「まだ覚えてない」
「そうだった」
俺たちには回復魔法がない。
どうする。
薬草を持っているか?
俺が考えていると。
リリアーナが女性の荷物を見る。
「薬がある!」
小さな瓶を取り出した。
「これ、使えるかも」
「怪我に塗るタイプだな」
瓶を確認する。
女性に尋ねる。
「使っていいですか?」
「……お願いします」
傷に薬を塗る。
しばらくすると。
「……痛みが少し引きました」
「よかった」
女性が俺たちを見る。
「ありがとうございます」
「いえ」
「本当に助かりました」
女性は深く頭を下げた。
「お名前は?」
「私は――」
女性が名乗ろうとした。
その瞬間。
森の奥から音がした。
ガサッ。
「……」
三人で振り向く。
「魔物?」
リリアーナが弓を構える。
俺も剣を抜く。
ミリアが杖を構える。
「何匹?」
リリアーナが聞く。
「……一匹」
木々の間から出てきたのは。
これまでの魔物とは明らかに違う。
大きな体。
鋭い牙。
そして巨大な腕。
「……オーガ」
ミリアが呟いた。
「強そう」
「強いだろうな」
俺は剣を握り直す。
だが。
不思議と怖くない。
俺たちは三人だ。
そして。
ベーカリーズだ。
「三人でやろう」
「うん!」
「分かった」
三人が並ぶ。
オーガが咆哮する。
森が震えた。
俺は剣を構えた。
「行くぞ!」
俺たちは同時に走り出した。




