第17話 オーガ相手に三人で挑戦!そして戦いの後は焼きたてクリームパン
オーガが咆哮した。
空気が震える。
木々の葉が揺れ、足元の小石まで震えたように感じる。
大きい。
今まで戦った魔物とは、明らかに格が違う。
身長は俺の二倍近い。
丸太のような腕。
手にした棍棒は、俺の体くらいの太さがある。
「アレン!」
リリアーナの声。
「分かってる!」
俺は走る。
オーガもこちらへ向かってきた。
ドンッ!
地面が揺れる。
速い。
巨体からは想像できない速度だ。
「右!」
リリアーナが叫ぶ。
オーガの棍棒が振り下ろされる。
俺は横へ飛ぶ。
ドゴォン!
地面が砕けた。
「うわ……」
直撃したら終わっていた。
だが。
反応速度強化Ⅰのおかげで、攻撃の動きがよく見えた。
「ミリア!」
「任せて!」
ミリアが杖を掲げる。
「火よ!」
火球がオーガの肩に直撃する。
ドンッ!
炎が弾ける。
オーガが唸る。
「効いてる!」
「でも、まだ倒れない!」
リリアーナが矢を放つ。
ヒュンッ!
矢がオーガの腕に刺さる。
もう一発。
今度は太もも。
「アレン、今!」
「分かった!」
俺は一気に距離を詰める。
身体強化Ⅱ。
俊足Ⅰ。
俊敏強化Ⅰ。
筋力強化Ⅰ。
全身に力を込める。
オーガの脇を抜ける。
剣を振る。
ザシュッ!
脚を斬る。
「グオオオオッ!」
オーガが怒りの声を上げた。
「まずい!」
棍棒が横薙ぎに振られる。
俺はしゃがむ。
頭上を棍棒が通過する。
風圧だけで髪が揺れた。
「危なっ……!」
もう一度距離を取る。
オーガはこちらを睨んでいる。
「強いな」
「どうする?」
リリアーナが聞く。
「同じようにいこう」
「分かった!」
リリアーナが弓を引く。
「風よ!」
昨日覚えた風魔法。
矢に風がまとわりつく。
ヒュンッ!
矢が今までより速く飛ぶ。
オーガの肩に命中。
さらにミリアの火球。
「火よ!」
炎がオーガの胸を直撃する。
「今だ!」
俺が走る。
オーガが棍棒を構える。
振り下ろす。
右へ避ける。
横薙ぎ。
しゃがむ。
もう一度。
反応速度強化Ⅰが、確実に役立っている。
俺はオーガの懐へ入り込む。
「ここだ!」
剣を振る。
脚を深く斬る。
「グオッ!」
オーガの体勢が崩れる。
片膝をついた。
「リリアーナ!」
「任せて!」
矢が飛ぶ。
ヒュンッ!
オーガの腕に命中。
武器を持つ手が止まる。
「ミリア!」
「うん!」
ミリアが両手で杖を握る。
「火よ!」
大きな火球が生まれた。
いつもの火球より明らかに大きい。
「いけっ!」
火球がオーガに直撃する。
ドォン!
炎が弾けた。
オーガの巨体が後ろへ倒れる。
ズシィン!
地面が大きく揺れた。
「……」
「……」
「……」
三人とも動かない。
俺は剣を構えたまま、オーガを見る。
動かない。
「倒した……?」
リリアーナが恐る恐る聞く。
俺は索敵Ⅰと聴覚強化Ⅰを使う。
「……大丈夫」
俺は剣を下ろした。
「倒した」
「やった!」
リリアーナが両手を上げる。
「オーガ倒した!」
ミリアも息を吐く。
「強かった」
「ああ」
俺も肩の力を抜く。
「でも、三人で勝てたな」
「うん」
リリアーナが笑う。
「私たち、強くなってる」
「そうだな」
ミリアも嬉しそうに頷いた。
「ベーカリーズ、いい感じ」
「名前も?」
「名前も」
こんな状況でもパーティー名を褒めるのか。
少し笑ってしまった。
◇
俺たちは、先ほど助けた女性のところへ戻った。
「終わったんですか?」
「ああ」
「オーガを……?」
「はい」
女性は驚いた顔をする。
「三人だけで?」
「三人で」
リリアーナが胸を張る。
「私たち、ベーカリーズです」
「ベーカリーズ……」
女性がその名前を繰り返す。
「覚えておきます」
「ありがとうございます」
女性は立ち上がろうとした。
「大丈夫ですか?」
「ええ。薬が効いてきたようです」
足を確認する。
まだ痛みはあるようだが、歩けないほどではないらしい。
「私は商人なんです」
女性が説明する。
「隣町へ商品を運ぶ途中で、魔物に襲われてしまって」
「一人で?」
「護衛を雇っていたんですが、別の魔物に追われて離れてしまって……」
「なるほど」
女性は俺たちに頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「気にしなくていいですよ」
「いえ」
女性が荷物を確認する。
「幸い、商品も無事です」
それならよかった。
「帰り道は大丈夫ですか?」
「この先に護衛の人たちがいるはずです。私が遅れていることにも気づいていると思います」
「なら安心ですね」
「はい」
女性は立ち上がる。
「皆さんもお気をつけて」
「そちらも」
女性は街道の方向へ歩いていった。
俺たちはその背中を少しだけ見送る。
「これで依頼も終わりだな」
「うん」
「戻ろう」
◇
帰り道。
森を抜ける。
日が傾き始めている。
「疲れた」
リリアーナが言った。
「オーガはさすがに疲れるな」
「でも勝った」
「そうだな」
ミリアも歩きながら頷く。
「三人で勝てたのが嬉しい」
「俺も」
少し歩く。
腹が鳴った。
「……」
「……」
「……」
二人が俺を見る。
「何?」
「お腹鳴った」
リリアーナが笑う。
「俺だって腹は減る」
「じゃあ、パン」
「まだ町まで少しあるぞ」
「食べながら帰ればいい」
「それもそうか」
俺は【食玩】を開いた。
商品一覧を見る。
「何にする?」
「甘いの!」
リリアーナが即答した。
「私は……クリームパン」
ミリアが言う。
「じゃあ俺もそれにするか」
購入。
ポンッ。
三つの紙袋が出てくる。
袋を開ける。
白くて柔らかそうなパン。
その中にたっぷりのクリームが入っている。
「いただきます」
かじる。
ふわっ。
パンが柔らかい。
そして。
とろっ。
中から滑らかなクリームが出てくる。
「……」
思わず足が止まった。
甘い。
でも甘すぎない。
ミルクのような優しい風味。
口の中でクリームがなめらかに溶けていく。
ふわふわのパンと、冷たく滑らかなクリーム。
「……美味い」
「美味しい……」
ミリアが目を細める。
「これ、すごく好き」
リリアーナも夢中になっている。
「クリームたっぷり!」
パンを少し押すと、クリームが端から顔を出す。
「すごい」
「食べるとき気をつけろよ」
「分かってる」
そう言った直後。
クリームが少しだけ指についた。
「あ」
「……」
「……」
「取れた?」
リリアーナが指についたクリームを見る。
「取れない」
「舐めれば?」
「……」
リリアーナが一瞬固まる。
「……そうする」
ぺろっと舐める。
「美味しい」
「そりゃクリームだからな」
ミリアが自分のパンを見る。
「私も少しついた」
「気をつけろって」
「うん」
俺は笑った。
オーガと戦った直後とは思えないほど、平和な時間だった。
◇
町へ戻る。
ギルドへ向かう。
「お疲れさまでした」
リーゼが迎えてくれる。
「依頼の報告をお願いします」
俺たちは今日の出来事を説明した。
街道沿いの魔物。
森の入口。
そしてオーガ。
「……オーガですか?」
リーゼが驚く。
「はい」
「三人で討伐を?」
「三人で」
リーゼはしばらく俺たちを見る。
「それは……かなりの成果ですね」
討伐証明を確認する。
「問題ありません。依頼達成です」
報酬として銀貨二枚を受け取った。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。助かりました」
ギルドを出る。
「今日は疲れたな」
「うん」
「でも楽しかった」
リリアーナが笑う。
「オーガは怖かったけど」
「俺も怖かった」
「アレンも?」
「ああ」
「ちょっと意外」
「俺だって怖いものは怖い」
ミリアが言う。
「でも、逃げなかった」
「三人だったからな」
「うん」
ミリアが笑った。
「三人だから」
その言葉を聞いて。
俺も自然に笑っていた。
ベーカリーズ。
まだ結成したばかり。
でも。
昨日より今日。
今日より明日。
少しずつ、この三人で戦うことに慣れてきている。
「さて」
俺は二人を見る。
「明日は何のパンにする?」
「明日もパン?」
「当然」
「じゃあ、朝は甘いのがいい」
「私は惣菜パン」
「意見が分かれたな」
「二種類買えばいい」
「……確かに」
俺たちは笑いながら宿へ向かった。
オーガを倒した日の夕方。
俺たちにとっては、それよりも。
帰り道に食べたクリームパンのほうが、妙に印象に残る一日だった。




