第14話 三人パーティー初日、好きなパンを選べるって最高だと思う
リリアーナが正式に仲間になった翌朝。
俺はいつもより少し早く目を覚ました。
理由は簡単。
「……何のパンにしよう」
昨日の夜から考えていた。
ホットドッグ。
ソーセージパン。
ベーコンエッグパン。
カレーパン。
クリームパン。
メロンパン。
チョココロネ。
どれも美味しい。
だが、今日は新しい仲間ができた初日だ。
せっかくだから、三人で新しいものを食べたい。
俺は【食玩】を開いた。
空中に浮かんだ画面を指で操作する。
「……これか」
見つけた。
【ハムチーズサンド】
【価格:銅貨9枚】
「朝飯にはちょうどいいな」
購入。
ポンッ。
紙袋が現れる。
袋を開ける。
ハムとチーズを挟んだサンドイッチ。
チーズが少し溶けていて、香ばしい匂いがする。
「いただきます」
かじる。
ふわっとしたパン。
すぐにハムの塩気。
そしてチーズの濃厚なコク。
噛むほどにチーズの風味が広がる。
「……うまい」
シンプルなのに強い。
ハムとチーズだけなのに、満足感がある。
パンの柔らかさもいい。
チーズが少しだけ温かいのもいい。
「これ、朝食としてかなり優秀だな」
食べ終える。
袋からカードを取り出した。
【SKILL CARD】
【筋力強化Ⅰ】
「お」
筋力強化。
俺はカードを持つ。
「使う」
光が消える。
『【筋力強化Ⅰ】を習得しました』
ステータスを開く。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【アレン】
種族:人族
年齢:15歳
レベル:1
【体力】42
【魔力】18
【攻撃力】12
【防御力】11
【素早さ】13
【魔法力】15
【精神力】12
【習得スキル】
・言語理解
・初級剣術
・食玩
・身体強化Ⅰ
・身体強化Ⅱ
・火魔法Ⅰ
・鑑定Ⅰ
・気配察知Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・料理Ⅰ
・剣術Ⅰ
・索敵Ⅰ
・火力強化Ⅰ
・俊足Ⅰ
・集中Ⅰ
・魔力操作Ⅰ
・打撃耐性Ⅰ
・防御力強化Ⅰ
・状態異常耐性Ⅰ
・視力強化Ⅰ
・聴覚強化Ⅰ
・反応速度強化Ⅰ
・筋力強化Ⅰ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「順調だな」
最近、カードでスキルを増やすのが当たり前になってきた。
最初は一枚手に入るだけで驚いていたのに。
今では、何が出るのか楽しみになっている。
そのうちカードを集めること自体が目的になりそうで怖い。
コンコン。
「アレン?」
「ミリアか?」
「うん」
「入っていいぞ」
扉が開く。
「おはよう」
「おはよう」
「今日は何?」
「ハムチーズサンド」
「食べたい」
「分かってた」
一つ購入。
「はい」
「ありがとう」
ミリアが袋を開ける。
「いい匂い」
かじる。
「……美味しい」
「だろ?」
「チーズが好き」
「じゃあ、これもお気に入りだな」
「うん」
ミリアは嬉しそうに食べている。
俺はその様子を見ていると。
コンコン。
今度は別の音。
「アレンー!」
扉の向こうからリリアーナの声。
「起きてる?」
「起きてる」
「入るよ!」
返事を待ってから扉を開ければいいのに。
リリアーナは勢いよく入ってきた。
「おはよう!」
「おはよう」
「おはようございます」
「……」
リリアーナが俺の手を見る。
「パン?」
「そう」
「何?」
「ハムチーズサンド」
「食べたい」
「朝からそれしか言わないな」
「だって美味しいんだもん」
「分かったよ」
購入する。
リリアーナに渡す。
「ありがとう!」
袋を開ける。
「……いい匂い」
一口。
「……美味しい!」
リリアーナは幸せそうに笑った。
「これ好き」
「チョココロネとどっちが?」
「……」
真剣に悩んでいる。
「今決めなくていい」
「そうする」
リリアーナが食べ終える。
「カードは?」
「ああ」
袋から取り出す。
【SKILL CARD】
【風耐性Ⅰ】
「風耐性」
「私が使う?」
「使えるなら使った方がいいだろ」
「じゃあ使う」
カードを持つ。
「使う」
光。
『【風耐性Ⅰ】を習得しました』
「よし」
「どんどん強くなってる気がする」
「俺たちもな」
ミリアが頷く。
「うん」
三人で顔を見合わせる。
昨日までは二人。
今日からは三人。
少しだけ、いつもの朝が違って見えた。
◇
ギルドへ行く。
リーゼが俺たちを見る。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
「今日も三人ですね」
「はい」
リリアーナが胸を張る。
「今日から正式メンバーです」
「そうでしたね」
リーゼが笑う。
「それなら、パーティー名を決める必要がありますね」
「……」
「……」
「……」
三人とも黙った。
「パーティー名?」
俺が聞き返す。
「はい」
リーゼが説明する。
「パーティー名を登録しておくと、依頼の管理が楽になります」
「なるほど」
「何にする?」
リリアーナが聞く。
「俺に聞かれてもな」
ミリアを見る。
「ミリアは?」
「アレンとリリアーナが決めて」
「なんで俺たち?」
「二人とも楽しそうだから」
リリアーナが腕を組む。
「じゃあ……」
少し考える。
「パン……」
「それは嫌」
即答した。
「まだ何も言ってないぞ」
「どうせパンなんでしょ」
「……」
当たっている。
「でも、食玩って名前はどう?」
ミリアが言う。
「そのままじゃないか」
「分かりやすい」
「それはそうだけど」
リリアーナが笑う。
「そう言うリリアーナはどうなんだよ、何かあるのか?」
「そうね…ベーカリーズとかどう?」
「……まぁこの中では1番マシか」
「本当に?」
「うん」
「じゃあそれで」
リーゼが登録する。
【パーティー名:ベーカリーズ】
「……」
正式に登録された。
「本当にこれでいいのか?」
「いい」
「いいよ」
二人とも即答。
俺も諦めた。
「じゃあ、ベーカリーズで」
「はい」
リーゼが笑う。
「覚えやすくていいと思いますよ」
◇
今日の依頼を探す。
「これなんてどう?」
リリアーナが依頼書を指差す。
【街道周辺・商隊護衛】
【報酬:銀貨八枚】
「護衛か」
「三人になったから、こういう依頼も受けられる」
ミリアが依頼書を見る。
「いいと思う」
「じゃあこれにしよう」
依頼を受ける。
依頼主は町の商人だった。
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
商隊は馬車二台。
荷物を積んでいる。
俺たちはその周囲を歩く。
しばらく何も起こらない。
「平和だな」
「そうだね」
リリアーナが周囲を見る。
そのとき。
「止まって」
俺が言った。
「どうした?」
「前方に何かいる」
聴覚強化Ⅰ。
索敵Ⅰ。
そして視力強化Ⅰ。
遠くを見る。
「魔物が八匹」
「どこ?」
「右の林」
リリアーナが弓を構える。
「任せて」
「まだ待って」
「うん」
「商隊を止める」
俺は商人に知らせる。
「魔物がいます」
「本当か?」
「はい」
馬車を止める。
「迎え撃つ?」
「そうする」
リリアーナが前へ出る。
「私が先に減らす」
「お願い」
ヒュンッ!
矢が飛ぶ。
一匹。
ヒュンッ!
二匹。
ヒュンッ!
三匹。
「三匹倒した!」
リリアーナが叫ぶ。
「残り五!」
魔物が走ってくる。
ミリアが杖を構える。
「火よ!」
炎が飛ぶ。
一匹倒れる。
「残り四!」
俺が前へ出る。
筋力強化Ⅰ。
身体強化Ⅱ。
俊足Ⅰ。
剣を振る。
重い。
いつもより剣が軽く感じる。
「……これが筋力強化か」
魔物の攻撃を避ける。
反応速度強化Ⅰ。
そのまま斬る。
残り三。
「右!」
リリアーナの声。
振り返る。
魔物が迫っている。
矢。
命中。
「助かった!」
「どういたしまして!」
ミリアの魔法。
火球。
最後の一匹を倒す。
静かになった。
「終わった」
商人が驚いた顔で俺たちを見る。
「……随分と手際がいいな」
「三人だからです」
俺が答える。
リリアーナが笑う。
「うん。三人だから」
ミリアも頷く。
「連携が良くなってきた」
その言葉が嬉しかった。
俺たちはまだ強くなり始めたばかりだ。
それでも。
三人で戦えば、できることが増えている。
◇
護衛を終え、町へ戻る。
報酬の銀貨八枚を受け取る。
「お疲れさまでした」
リーゼが言う。
「今日は初めての正式な三人パーティーでしたね」
「はい」
「どうでした?」
俺は二人を見る。
ミリアは笑っている。
リリアーナも笑っている。
「楽しかったです」
「私も」
「私も!」
リーゼが微笑む。
「それならよかったです」
ギルドを出る。
夕方になっていた。
「なあ」
俺は二人に声をかける。
「夕飯、どうする?」
「パン」
「パン!」
二人の答えが重なった。
「……やっぱり?」
「だって今日は三人パーティー初日だから」
「記念日」
「じゃあ、少し豪華にするか」
「何があるの?」
「見てみよう」
空中に【食玩】の画面を出す。
商品一覧が並ぶ。
パン。
サンドイッチ。
ドーナツ。
ハンバーガー。
ホットドッグ。
そして。
「……」
一つの商品で指が止まった。
【ベーグルサンド】
【価格:銅貨10枚】
「これにしよう」
「ベーグル?」
リリアーナが首を傾げる。
「どんなパン?」
「食べれば分かる」
三人分購入。
紙袋が現れる。
中には、丸くて真ん中に穴の空いたパン。
その間に野菜とハムが挟まっている。
「いただきます」
かじる。
もちっ。
「……!」
普通のパンとは違う。
噛み応えがある。
でも硬いわけじゃない。
もちもちした生地。
ハムの塩気。
野菜のシャキシャキした食感。
そこに少し酸味のあるソース。
「……美味い」
「これ好き」
ミリアが目を輝かせる。
「もちもちしてる」
「本当だ」
リリアーナもかじる。
「……これもいい」
頬を緩ませる。
「私、これ好き」
「またお気に入りが増えたな」
「だって美味しいんだもん」
三人でベーグルサンドを食べる。
夕暮れの町。
今日一日の疲れも、少しずつ抜けていく。
そして。
「明日は何にする?」
リリアーナが聞いてきた。
「もう明日の話か?」
「大事だから」
ミリアも頷く。
「大事」
「……分かったよ」
俺は笑った。
「明日、また考えよう」
三人で笑う。
こうして俺たちの三人パーティーは始まった。
まだ冒険者としては駆け出し。
まだ知らないことも多い。
でも。
仲間がいる。
美味しいパンがある。
そして、カードがある。
なら。
これからもっと楽しくなりそうだった。




