第11話 ホットドッグを食べていたら、凄腕の弓使いに声をかけられました
冒険者ランクが一つ上がった翌朝。
俺は宿の部屋で、昨日から楽しみにしていたものを購入していた。
「ホットドッグだ」
空中に浮かんだ【食玩】の画面。
その中からホットドッグを選択する。
【ホットドッグ】
【価格:銅貨8枚】
購入。
ポンッ。
いつもの紙袋が出現した。
俺はさっそく袋を開ける。
「……うわ」
ソーセージの香りがする。
パンに挟まれた大きなソーセージ。
その上にはケチャップとマスタード。
見た瞬間から腹が減ってくる。
「いただきます」
両手で持って、かぶりつく。
パキッ。
「……!」
最初に感じたのは、ソーセージの皮が弾ける感触だった。
噛んだ瞬間、熱々の肉汁がじゅわっと口の中に広がる。
肉の旨味。
塩気。
香ばしい焼き目。
そこへケチャップの甘酸っぱさと、マスタードのピリッとした辛さが重なる。
そして、それらを包むパン。
ふわふわで柔らかい。
ほんのり甘みがあって、肉の味を邪魔しない。
「……美味い」
これはかなり好きだ。
ソーセージだけでも美味い。
パンだけでも美味い。
なのに、一緒に食べるとさらに美味い。
もう一口。
パキッ。
じゅわっ。
「最高だな」
あっという間に食べ終わってしまった。
食べ終わった紙袋を見る。
もちろん、今日もカードが入っている。
取り出す。
【SKILL CARD】
【視力強化Ⅰ】
「お」
目に関係するスキルか。
俺はカードを持ったまま念じる。
『【視力強化Ⅰ】を習得しました』
「これも便利そうだな」
俺はステータスを開く。
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【アレン】
種族:人族
年齢:15歳
レベル:1
【体力】42
【魔力】18
【攻撃力】12
【防御力】11
【素早さ】13
【魔法力】15
【精神力】12
【習得スキル】
・言語理解
・初級剣術
・食玩
・身体強化Ⅰ
・身体強化Ⅱ
・火魔法Ⅰ
・鑑定Ⅰ
・気配察知Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・料理Ⅰ
・剣術Ⅰ
・索敵Ⅰ
・火力強化Ⅰ
・俊足Ⅰ
・集中Ⅰ
・魔力操作Ⅰ
・打撃耐性Ⅰ
・防御力強化Ⅰ
・状態異常耐性Ⅰ
・視力強化Ⅰ
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「よし」
新しいスキルを手に入れた。
今日は何か遠くを見る依頼でも受けてみるか。
そう考えていると。
コンコン。
「アレン、起きてる?」
扉の向こうからミリアの声がした。
「起きてる」
「入っていい?」
「ああ」
扉が開く。
「おはよう」
「おはよう、ミリア」
ミリアが俺を見る。
そして。
「……何食べたの?」
「ホットドッグ」
「ずるい」
「ずるいってなんだよ」
「私も食べたい」
「分かった分かった」
俺は画面を開く。
ホットドッグを購入。
「はい」
「ありがとう」
ミリアが紙袋を受け取る。
そして一口。
パキッ。
「……!」
目が輝く。
「美味しい」
「だろ?」
「これ好き」
「また好きなものが増えたな」
「うん」
ミリアは嬉しそうに食べている。
俺ももう一つ買おうかと思ったが。
「……」
財布を見る。
問題ない。
「もう一個食べる?」
「いいの?」
「今日はお祝いみたいなものだし」
「食べる」
即答だった。
俺たちは二人でホットドッグを食べた。
◇
冒険者ギルド。
「おはようございます、アレンさん、ミリアさん」
受付のリーゼが笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます」
「昨日は昇格試験、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「改めて、おめでとうございます」
「はい」
「今日から受けられる依頼も増えていますよ」
リーゼが掲示板を指差す。
「少し難しい依頼も受けられるようになっています」
「どんなのがあります?」
「採取、討伐、護衛。それから……」
依頼書を何枚か確認する。
「こちらですね」
【街道周辺の魔物討伐】
【報酬:銀貨五枚】
「これにしよう」
「昨日も討伐だったけど?」
「新しいスキルも手に入れたし、試してみたい」
「分かった」
依頼書を受け取る。
「お気をつけて」
「行ってきます」
◇
街道へ向かう。
昨日までとは少しだけ気分が違った。
冒険者ランクが上がった。
ほんの一段階。
それだけなのに、自分が少し成長したような気がする。
「アレン」
「ん?」
「昨日の試験、格好良かった」
「そうか?」
「うん」
「ありがとう」
「私も頑張らないと」
「ミリアは十分頑張ってるだろ」
「もっと頑張る」
「無理するなよ」
「分かってる」
街道を歩いていると。
索敵Ⅰが反応した。
「止まって」
「魔物?」
「いる」
俺は周囲を見る。
前方。
街道の脇にある林。
「三匹」
「ウルフ?」
「たぶん」
そのとき。
ヒュンッ!
風を切る音。
矢が一本、俺たちの横を通り過ぎた。
「え?」
矢は林の中へ飛んでいき。
次の瞬間。
グルルッ!
魔物の唸り声が聞こえた。
ドサッ。
何かが倒れる。
「……今の」
さらに。
ヒュンッ!
二本目。
ドサッ。
「二匹目」
ミリアが目を丸くしている。
「誰?」
林の中から、一人の少女が歩いてきた。
長い金髪。
青い瞳。
軽装の防具。
そして手には弓。
腰には矢筒。
年齢は俺たちとそう変わらないように見える。
少女は倒れたウルフを確認してから、こちらを見る。
「あれ?」
「……」
「もしかして、私の矢が当たりそうになった?」
「いや、大丈夫」
「それならよかった」
少女は安心したように笑った。
「私はリリアーナ。冒険者よ」
「俺はアレン」
「ミリアです」
「よろしく」
リリアーナは俺たちをじっと見る。
「二人だけ?」
「ああ」
「へえ」
彼女が少し興味深そうな顔をする。
「新人?」
「昨日ランクが一つ上がった」
「じゃあ本当に新人じゃない」
「まあ、そうだな」
リリアーナは俺の腰にある剣を見る。
次にミリアの杖を見る。
「剣士と魔法使いか」
「そんな感じ」
「二人でこの辺りを?」
「ああ」
「珍しいね」
リリアーナが少し考える。
「でも、さっきの反応を見る限り、弱くはなさそう」
「そっちこそ」
「私は弓が得意なの」
リリアーナが弓を軽く持ち上げる。
「見れば分かる」
「ふふ」
彼女は嬉しそうだった。
「それで、二人は何の依頼?」
「街道周辺の魔物討伐」
「ああ、それなら私も同じ」
「じゃあ、一緒に行く?」
「いいの?」
「さっき助けてもらったし」
「助けたってほどじゃないけど」
「それでも」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
こうして。
俺たちはリリアーナと一緒に行動することになった。
◇
「そこ!」
リリアーナが弓を引く。
矢が放たれる。
ヒュンッ!
ウルフの脚を正確に射抜いた。
「今!」
「分かった!」
俺が走る。
俊足Ⅰ。
一気に距離を詰める。
ウルフがこちらへ飛びかかってくる。
剣を振る。
一撃。
「次!」
リリアーナの声。
俺は横へ避ける。
その直後。
ヒュンッ!
俺の横を矢が通過する。
ウルフに命中。
「ナイス!」
「アレンもね!」
残り一匹。
「火よ!」
ミリアの魔法が直撃する。
ウルフが倒れる。
「終わり」
「三匹討伐」
リリアーナが弓を下ろす。
「すごいね」
「リリアーナもな」
「私は弓だから」
「それでも、あの距離から当てるのは凄い」
「……そう?」
「ああ」
褒められたのが嬉しかったのか。
リリアーナが少し頬を赤くする。
「ありがとう」
「どういたしまして」
その後も俺たちは街道を進み、魔物を探した。
何匹かウルフを倒したところで。
「そろそろ昼にしよう」
俺が言う。
「賛成」
ミリアが即答する。
リリアーナも頷く。
「何食べるの?」
「パン」
「パン?」
「俺のスキルで買える」
「へえ」
「好きなの選べるぞ」
「本当に?」
「ああ」
俺は【食玩】を開く。
空中に画面が浮かぶ。
「何にする?」
ミリアは迷わず言った。
「カレーパン」
「私は……」
リリアーナが画面を見る。
色々な商品が並んでいる。
「これ」
【チョココロネ】
【価格:銅貨7枚】
「甘いの?」
「チョコが入ってる」
「じゃあ、それ」
「分かった」
購入。
ポンッ。
三つの紙袋が出現する。
「はい」
リリアーナが受け取る。
「……なんか不思議」
「最初は俺もそう思った」
リリアーナが袋を開ける。
チョコレートの甘い香りが漂った。
「……いい匂い」
パンは細長く、くるくると巻かれている。
その中心には、たっぷりのチョコレート。
「いただきます」
一口。
ふわっ。
柔らかなパン。
そして、その中心から濃厚なチョコレートが広がる。
「……」
リリアーナの動きが止まった。
「どう?」
「……待って」
「うん?」
「これ」
もう一口。
今度はさっきより大きくかじる。
「……美味しい」
声が小さい。
「そんなに?」
「美味しい」
リリアーナがチョココロネを見つめる。
「パンが柔らかいし、チョコが濃い。甘いけど、パンと一緒だからちょうどいい」
「だろ?」
「何これ……」
リリアーナは完全に夢中になっている。
俺とミリアは顔を見合わせた。
「気に入ったみたいだな」
「うん」
ミリアもカレーパンを食べる。
「私も美味しい」
ザクッ。
衣が砕ける。
中から熱いカレーが現れる。
スパイスの香り。
肉の旨味。
パンの甘み。
「やっぱり美味しい」
「一口もらっていい?」
リリアーナが聞いてきた。
「いいぞ」
「じゃあ、少しだけ」
ミリアからカレーパンを受け取る。
一口。
「……これも美味しい」
「でしょ?」
「どっちも美味しい」
「まだ他にもあるぞ」
「……」
リリアーナが俺を見る。
「他にも?」
「ああ」
「どのくらい?」
「かなり」
「……」
リリアーナが少し考える。
「それ、凄いスキルじゃない?」
「そうか?」
「だって、好きなパンをいつでも買えるんでしょ?」
「金があればな」
「それでも凄いよ」
リリアーナはそう言って笑った。
「ねえ、アレン」
「ん?」
「また一緒に依頼を受けない?」
「いいぞ」
「本当?」
「ああ。弓があると助かるし」
「じゃあ決まり」
リリアーナは嬉しそうに頷いた。
そして。
「ところで、これ」
彼女が食べ終わったチョココロネの袋を見た。
「カードって何?」
「……あ」
俺は思い出した。
そうだった。
パンを買えば、カードが付いてくる。
俺はリリアーナの袋を見る。
中には一枚のカード。
「これだ」
「何?」
「スキルカード」
「スキルカード?」
「持って念じれば使える」
「鑑定とかは?」
「必要ない」
「……ずいぶん簡単ね」
「そういうものだから」
リリアーナがカードを手に取る。
【SKILL CARD】
【跳躍力強化Ⅰ】
「跳躍力強化……」
「弓使いなら使えるんじゃないか?」
「使ってみる」
リリアーナがカードを握る。
「使う」
カードが光る。
『【跳躍力強化Ⅰ】を習得しました』
「……本当に覚えた」
「だろ?」
「すごい」
リリアーナが自分の身体を確認する。
「ちょっと試していい?」
「ここで?」
「うん」
リリアーナが少し離れる。
「えいっ」
地面を蹴る。
「うわっ!」
予想以上に高く跳んだ。
「危ない!」
着地。
「……」
リリアーナが目を丸くする。
「凄い」
「便利だろ」
「これ、私が使っていいの?」
「もちろん」
「……そっか」
リリアーナがカードを見る。
そして俺を見る。
「ありがとう、アレン」
「どういたしまして」
その笑顔は、さっきより少しだけ近く感じた。
その後、俺たちは残った魔物を討伐し、依頼を終えた。
ギルドへ戻る。
「討伐数も十分ですね」
リーゼが確認する。
「これで依頼達成です」
報酬の銀貨を受け取る。
「ありがとうございました」
俺たちが帰ろうとしたところで。
「あの」
リリアーナが声を上げた。
「明日も依頼を受ける?」
「受ける予定だけど」
「なら」
彼女が俺を見る。
「私も一緒に行っていい?」
「ああ」
「本当?」
「もちろん」
「やった」
リリアーナが嬉しそうに笑った。
ミリアも笑っている。
「三人なら、もっと色々できそう」
「そうだな」
こうして。
俺とミリアの二人だったパーティーに。
一人の弓使いが加わった。
まだ正式な仲間というわけではない。
けれど。
明日も一緒に依頼へ行くことになった。
そして俺は思った。
「明日は何のパンにするかな」
ミリアが振り向く。
「明日のパン?」
「ああ」
リリアーナもこちらを見る。
「私も選んでいい?」
「もちろん」
「じゃあ、明日は甘くないやつがいい」
「惣菜パンか?」
「そう。それ」
「じゃあ明日、画面を見て決めよう」
「楽しみ」
リリアーナが笑う。
俺たちは三人で宿へ向かった。
今日の収穫は、銀貨五枚。
新しいスキル。
そして。
新しい仲間候補。
悪くない一日だった。




