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第10話 メロンパンを食べていたら、冒険者として一つ昇格しました

 翌朝。


 目覚ましなどない。


 それでも、俺は自然と目を覚ました。


「……腹減った」


 最近、起きたときに最初に考えることが食べ物になっている気がする。


 まあ、仕方ない。


 【食玩】があるのだ。


 美味しいパンがいくらでも買える。


 だったら食べたくなるのも当然だ。


「今日は何にするかな」


 空中に画面を出す。


【食玩】


【商品を選択してください】


 一覧を眺める。


 クリームパン。


 カレーパン。


 あんパン。


 焼きそばパン。


 ドーナツ。


 ハンバーガー。


 サンドイッチ。


 そして。


【メロンパン】


【価格:銅貨7枚】


「これだな」


 メロンパン。


 名前だけなら、この世界にも似たようなパンはある。


 ただし。


 俺が知っているものとは違う。


 買ってみる。


 購入。


 ポンッ。


 紙袋が現れた。


 袋を開ける。


「……甘い匂い」


 表面が特徴的だ。


 格子状の模様。


 その表面には砂糖が付いている。


 持ち上げる。


 軽い。


 そして柔らかい。


「いただきます」


 かじる。


 サクッ。


「……!」


 表面がいい。


 砂糖のついた部分が、薄くサクッと砕ける。


 その下から、ふわふわのパン生地。


 外側は甘く香ばしい。


 内側は優しい甘さ。


 食感が全然違う。


 サクッ。


 ふわっ。


 この二つが同時に来る。


「これは美味い」


 もう一口。


 今度は少し大きめにかじる。


 表面の砂糖が口の中でほどける。


 バターのような香り。


 小麦の香り。


 ふわふわの生地。


「……うん」


 これは好きだ。


 俺は夢中で食べた。


 食べ終わったところで。


 袋の中からカードを取り出す。


【SKILL CARD】


【防御力強化Ⅰ】


「防御力強化」


 いいカードだ。


 俺はそのまま使う。


「使う」


 光が弾ける。


『【防御力強化Ⅰ】を習得しました』


 ステータスを確認。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【アレン】


種族:人族

年齢:15歳

レベル:1


【体力】42

【魔力】18

【攻撃力】12

【防御力】11

【素早さ】13

【魔法力】15

【精神力】12


【習得スキル】


・言語理解

・初級剣術

・食玩

・身体強化Ⅰ

・身体強化Ⅱ

・火魔法Ⅰ

・鑑定Ⅰ

・気配察知Ⅰ

・火耐性Ⅰ

・料理Ⅰ

・剣術Ⅰ

・索敵Ⅰ

・火力強化Ⅰ

・俊足Ⅰ

・集中Ⅰ

・魔力操作Ⅰ

・打撃耐性Ⅰ

・防御力強化Ⅰ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「よし」


 少しずつだが、強くなっている。


 ただ。


 レベルはまだ1。


 ここだけは変わらない。


「今日こそ上がるかな」


 そう思いながら宿を出た。


     ◇


「おはよう、アレン」


 ギルドへ向かう途中でミリアと会った。


「おはよう」


「今日は?」


「メロンパン」


「メロンパン?」


「これ」


 俺は一つ購入して渡した。


「ありがとう」


 ミリアが紙袋を開ける。


「……かわいい」


「見た目も面白いだろ」


「うん」


 ミリアがかじる。


「……!」


 目を見開く。


「サクサク」


「その後にふわふわだろ?」


「うん」


 もう一口。


「甘くて美味しい」


「俺もそう思う」


「これ、一番好きかも」


「昨日までカレーパンだったのに」


「変わった」


「早いな」


 ミリアが笑う。


「だって美味しいから」


 俺たちは並んでメロンパンを食べながら歩いた。


     ◇


 冒険者ギルド。


 今日は掲示板を見る前に、受付へ向かった。


「おはようございます」


 リーゼがこちらを見る。


「おはようございます。アレンさん、ミリアさん」


「昨日の依頼の報告です」


 俺は昨日の討伐証明を出す。


「確認しますね」


 リーゼが記録を確認する。


「問題ありません」


 銀貨七枚。


 報酬を受け取る。


「それと」


 リーゼが続ける。


「お二人とも、冒険者としての実績がかなり増えてきました」


「そうなんですか?」


「はい」


「実はですね」


 リーゼが一枚の紙を出した。


「昇格試験を受けられます」


「昇格?」


「はい」


 冒険者にはランクがある。


 今の俺たちは一番下のランク。


 依頼をこなし、実績を積めば上のランクへ行ける。


「もう受けられるんですか?」


「通常ならもう少しかかります」


「なら、どうして?」


「討伐実績です」


 リーゼが説明する。


「ゴブリン、ウルフなどの討伐数。それから依頼達成率。お二人とも新人としてはかなり高いです」


「なるほど」


「試験自体は難しくありません」


「何をするんです?」


「模擬戦です」


「俺が?」


「アレンさんと、ギルド側の冒険者が一人」


「分かりました」


 俺は頷いた。


「受けます」


 ミリアも頷く。


「私も」


「分かりました」


 リーゼが微笑む。


「では、午後に試験を行いましょう」


     ◇


 午後。


 ギルドの訓練場。


 俺は木剣を持っていた。


 向かいには、二十代くらいの男性冒険者。


「俺はダンだ」


「アレンです」


「よろしくな」


「お願いします」


 周囲には数人の冒険者。


 ミリアもいる。


「始め!」


 合図。


 ダンが突っ込んでくる。


 速い。


 俺は剣を構える。


 集中Ⅰ。


 相手の動きを見る。


 右足。


 重心が前。


 次は。


 横薙ぎ。


 俺は避ける。


 ダンが驚いた顔をする。


「ほう」


 次。


 今度は上から。


 受ける。


 木剣がぶつかる。


 ズンッ。


「重い!」


 俺は身体強化Ⅱを発動。


 押し返す。


 そして。


 俊足Ⅰ。


 一気に距離を詰める。


「速っ!」


 ダンが後ろへ下がる。


 俺は追う。


 剣術Ⅰ。


 木剣を振る。


 ダンが受ける。


 ガッ!


「まだまだ!」


 ダンが反撃する。


 俺は避ける。


 索敵は必要ない。


 目の前の相手だけだからだ。


 集中Ⅰを維持する。


 動きが見える。


 右。


 左。


 下。


 上。


 俺は攻撃を避け続ける。


「……お前、本当に新人か?」


「新人です」


「嘘だろ!」


 周囲から笑い声が上がる。


 俺も少し笑った。


 だが。


 そろそろ終わらせよう。


 身体強化Ⅱ。


 俊足Ⅰ。


 踏み込む。


 一瞬で間合いを詰める。


 ダンの木剣を弾く。


 そのまま木剣を喉元へ。


「そこまで!」


 試験官が声を上げた。


 俺は木剣を下ろした。


「勝者、アレン!」


 周囲から拍手。


「すごい」


 ミリアが嬉しそうに言う。


 ダンが苦笑する。


「参ったな」


「ありがとうございました」


「いや、こっちこそ」


 ダンが俺の肩を叩く。


「新人とは思えない動きだったぞ」


「スキルのおかげです」


「スキル?」


「はい」


 俺はそれ以上は言わなかった。


 食玩のことを、必要以上に話すつもりはない。


 ただ。


「お疲れさまでした」


 リーゼが近づいてきた。


「アレンさん」


「はい」


「合格です」


「ありがとうございます」


「これで、冒険者ランクが一つ上がります」


 新しい冒険者証を渡される。


「……これが」


 手に取る。


「一つ上のランクですね」


「はい」


 まだ大したランクではない。


 それでも。


 初めて自分の力で得た成果だ。


「嬉しいな」


「おめでとう」


 ミリアが隣で笑う。


「ありがとう」


     ◇


 その日の夕方。


 俺たちは宿へ戻る前に、広場のベンチに座った。


「今日はお祝いだな」


「うん」


「何食べる?」


「メロンパン」


「また?」


「だって美味しいから」


「じゃあ俺も」


 二人分購入する。


 紙袋を開ける。


 甘い香りがする。


「いただきます」


 サクッ。


 砂糖の甘さ。


 ふわふわのパン。


 噛むたびに香ばしさが広がる。


「……美味しい」


「うん」


 今日一日の疲れが、少しずつ消えていくようだった。


 食べ終わる。


 そして。


 袋の中にはカード。


【SKILL CARD】


【状態異常耐性Ⅰ】


「お」


「何?」


「状態異常耐性」


「それも便利」


「使う」


 カードを持つ。


「使う」


 光。


『【状態異常耐性Ⅰ】を習得しました』


 俺はステータスを開く。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【アレン】


種族:人族

年齢:15歳

レベル:1


【体力】42

【魔力】18

【攻撃力】12

【防御力】11

【素早さ】13

【魔法力】15

【精神力】12


【習得スキル】


・言語理解

・初級剣術

・食玩

・身体強化Ⅰ

・身体強化Ⅱ

・火魔法Ⅰ

・鑑定Ⅰ

・気配察知Ⅰ

・火耐性Ⅰ

・料理Ⅰ

・剣術Ⅰ

・索敵Ⅰ

・火力強化Ⅰ

・俊足Ⅰ

・集中Ⅰ

・魔力操作Ⅰ

・打撃耐性Ⅰ

・防御力強化Ⅰ

・状態異常耐性Ⅰ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……結構増えたな」


「うん」


「でもレベルは上がらない」


「まだ一なの?」


「一」


 ミリアが少し考える。


「たくさん魔物を倒してるのにね」


「まあ、そのうち上がるだろ」


 焦る必要はない。


 スキルは増えている。


 冒険者ランクも上がった。


 生活も順調だ。


 それに。


「明日は何食べよう」


「……」


 ミリアが真剣に考えている。


「どうした?」


「明日は、まだ食べてないものがいい」


「いいな」


「何があるかな」


「かなりあるぞ」


 俺は【食玩】の画面を開く。


 大量の商品。


 パン。


 サンドイッチ。


 ハンバーガー。


 ドーナツ。


 まだ食べていないものがいくらでもある。


「明日はこれにしよう」


 画面をスクロールする。


 そして。


【ホットドッグ】


「これ」


「ホットドッグ?」


「パンにソーセージを挟んだやつ」


「美味しそう」


「絶対美味い」


「じゃあ明日はそれ」


「ああ」


 俺たちは立ち上がった。


 今日も一日が終わる。


 冒険者として一つ上へ進んだ。


 スキルも増えた。


 美味しいパンも食べた。


 そして明日の楽しみも決まった。


 俺は、少しだけ満足した気分で宿へ向かった。


 ――異世界に来てから、まだそれほど時間は経っていない。


 それでも。


 この生活は、思っていたよりずっと楽しい。


 明日はホットドッグだ。


 それだけは、もう決まっている。

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