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9/30

第9話 新しい依頼と、ふわふわクリームパン

翌朝。


 目を覚ました瞬間、俺は思った。


「……甘いものが食べたい」


 昨日のドーナツのせいだ。


 あのふわふわした生地。


 表面にまぶされた砂糖。


 噛んだ瞬間に広がる優しい甘さ。


 思い出すと、また食べたくなってくる。


「でも、今日は違うものにするか」


 俺はベッドから起き上がった。


 身支度を済ませ、いつものように【食玩】を開く。


 空中に半透明の画面が浮かぶ。


【食玩】


【商品を選択してください】


 パンの一覧を眺める。


 すると、目についた。


【クリームパン】


【価格:銅貨6枚】


「……これだ」


 前にミリアが食べたことはある。


 俺自身も食べたことがある。


 でも、改めて食べたくなった。


 購入。


 ポンッ。


 紙袋が出現する。


 袋を開ける。


 甘い香りがふわっと広がった。


「……いい匂いだ」


 取り出したクリームパンは、綺麗な楕円形をしていた。


 表面には焼き色がついている。


 触ってみると柔らかい。


 指で少し押すと、ふわっと戻ってくる。


「いただきます」


 かじる。


 ふわっ。


 柔らかなパン生地が歯に沈む。


 その直後。


 中から、とろりとしたカスタードクリームが出てきた。


「……!」


 甘い。


 でも、くどくない。


 卵の濃厚な味。


 牛乳のまろやかさ。


 砂糖の優しい甘さ。


 それが、ふわふわのパンと一緒になる。


「……やっぱり美味い」


 クリームだけを食べても美味しい。


 パンだけでも美味しい。


 それなのに、一緒に食べるとさらに美味しい。


 俺は二口目をかじる。


 今度はクリームが多い部分だった。


 とろりとしたカスタードが口いっぱいに広がる。


 パン生地がそれを包み込む。


「朝から幸せだな」


 あっという間に食べ終わった。


 そして、袋の中にはカード。


【SKILL CARD】


【魔力操作Ⅰ】


「魔力操作か」


 俺はカードを手に取る。


 使う。


 カードが光る。


『【魔力操作Ⅰ】を習得しました』


 ステータスを開く。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【アレン】


種族:人族

年齢:15歳

レベル:1


【体力】42

【魔力】18

【攻撃力】12

【防御力】11

【素早さ】13

【魔法力】15

【精神力】12


【習得スキル】


・言語理解

・初級剣術

・食玩

・身体強化Ⅰ

・身体強化Ⅱ

・火魔法Ⅰ

・鑑定Ⅰ

・気配察知Ⅰ

・火耐性Ⅰ

・料理Ⅰ

・剣術Ⅰ

・索敵Ⅰ

・火力強化Ⅰ

・俊足Ⅰ

・集中Ⅰ

・魔力操作Ⅰ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「魔法を使うなら便利そうだな」


 俺はステータスを閉じた。


 そして思う。


 【食玩】で手に入るカードには、本当に色々なスキルがある。


 身体能力を上げるもの。


 魔法に関するもの。


 探索に使えるもの。


 どれも冒険者として役に立つ。


「……ハズレスキルねえ」


 今となっては、もうそんなふうには思えない。


 むしろ問題は。


「パンを買いすぎて金がなくならないようにすることだな」


 俺は財布を確認する。


 昨日の報酬がある。


 まだ余裕はある。


 とはいえ、無限に使えるわけじゃない。


 冒険者として稼がなければならない。


「今日も仕事するか」


     ◇


「おはよう、アレン」


「おはよう、ミリア」


 冒険者ギルド。


 今日もミリアと合流する。


「今日は何を食べたの?」


「クリームパン」


「……」


「どうした?」


「食べたい」


「やっぱり?」


「うん」


「じゃあ」


 俺は【食玩】を開く。


 クリームパンを一つ購入。


「はい」


「ありがとう」


 ミリアは紙袋を受け取った。


 そして袋を開く。


「……甘い匂い」


「美味しいぞ」


「いただきます」


 ミリアが一口。


「……!」


 目が大きくなる。


「美味しい」


「だろ?」


「パンがふわふわ」


「うん」


「中のクリームが甘い」


「うん」


「好き」


 ミリアは幸せそうに食べていく。


 クリームパンを半分ほど食べたところで、ふと俺を見る。


「アレン」


「ん?」


「これ」


「どうした?」


「もう一個買って」


「朝から二個?」


「うん」


「食べられる?」


「食べられる」


 即答だった。


「じゃあ買うか」


「ありがとう」


 俺はもう一つ購入した。


 ミリアは嬉しそうに受け取る。


 そのまま食べ始めた。


「……そんなに好きなのか」


「うん」


「カレーパンは?」


「カレーパンも好き」


「ドーナツは?」


「好き」


「焼きそばパンは?」


「好き」


「じゃあ全部好きじゃないか」


「美味しいから」


 それを言われると何も言えない。


 俺もそうだからだ。


     ◇


「今日の依頼を探そう」


 朝食を終え、掲示板を見る。


 いくつか依頼がある。


 薬草採取。


 魔物討伐。


 護衛。


 荷物運び。


 その中で、少し気になるものを見つけた。


【採掘場周辺の魔物討伐】


【採掘場付近に出現する魔物を討伐】


【報酬:銀貨七枚】


「これにしよう」


「昨日より報酬が高いね」


「少し危険なんだろうな」


 採掘場は町からそれほど遠くない。


 しかし、森や丘よりも魔物が集まりやすいらしい。


「受けてみよう」


「うん」


 依頼書を受付へ持っていく。


「採掘場ですか」


 リーゼが依頼書を見る。


「最近、採掘場の奥に魔物が出るようになったそうです」


「どんな魔物ですか?」


「ゴブリンやウルフ、それから岩場を好む魔物もいるそうです」


「分かりました」


「無理はしないでくださいね」


「はい」


「アレンさん」


「はい?」


「昨日のハンバーガー、とても美味しかったです」


「それは良かったです」


「今日も食べたいくらいです」


「じゃあ今度また」


「約束ですよ?」


 リーゼが笑う。


「はい」


 俺たちはギルドを出た。


     ◇


 採掘場までは徒歩で二時間ほど。


 町の外へ出て、街道を歩く。


「今日は遠いね」


「そうだな」


「疲れた?」


「まだ大丈夫」


 俺は歩きながら、魔力操作Ⅰを試してみる。


 魔力を身体の中で少し動かす。


「……なるほど」


「どうしたの?」


「魔力操作って、こういう感じか」


 今まで魔法を使うときは、ただ魔力を集めて放っていた。


 でも、このスキルがあると。


 魔力をどこへ流すか。


 どのくらい使うか。


 そういう細かい調整がしやすい。


「便利だな」


「魔法使いにはかなり良さそう」


「俺は火魔法しか使えないけどな」


「そのうち他の魔法もカードで出るかも」


「それもそうだな」


 俺たちはそんな話をしながら歩いた。


     ◇


 採掘場に到着する。


 岩肌がむき出しになった山。


 その一角に、鉱石を掘るための入口がある。


 作業員らしき人たちもいる。


「ここか」


 俺は索敵Ⅰを使う。


「……いる」


「魔物?」


「うん」


 採掘場の入口から少し奥。


「三匹」


 さらに。


「……奥にもう少しいる」


「何匹?」


「正確には分からない。でも、五匹以上」


「群れかな」


「たぶん」


 俺たちは慎重に進む。


 入口付近には魔物はいない。


 少し奥へ進んだところで。


 ガサッ。


 岩陰から魔物が出てきた。


「ゴブリン!」


 三匹。


「来る!」


 俺は剣を抜く。


 身体強化Ⅱ。


 俊足Ⅰ。


 踏み込む。


 ゴブリンの棍棒を避ける。


 剣を振る。


 一匹。


 横から二匹目。


 集中Ⅰ。


 動きを見る。


 棍棒が振り下ろされる。


 避ける。


 そのまま斬る。


 二匹。


「火よ!」


 ミリアの火魔法。


 三匹目が吹き飛ぶ。


「終わり」


「三匹」


 だが。


 俺は索敵を続ける。


「まだいる」


「どこ?」


「奥」


 今度は五つ。


 いや。


 六つ。


「来るぞ」


 奥からゴブリンが走ってくる。


「多い!」


「俺が前に出る!」


 俺は駆ける。


 身体強化Ⅱ。


 俊足Ⅰ。


 ゴブリンの群れへ突っ込む。


「せやっ!」


 一匹。


 二匹。


 だが、数が多い。


「くっ……!」


 横から棍棒。


 剣で受ける。


 さらに後ろから別のゴブリン。


「アレン!」


 ミリアの声。


 火魔法が飛んでくる。


 ゴブリンが吹き飛ぶ。


「助かった!」


「まだいる!」


 索敵Ⅰ。


 右。


 左。


 後ろ。


 全部把握する。


「右に二匹!」


 ミリアがすぐに反応する。


 水魔法。


 右側のゴブリンを吹き飛ばす。


「左!」


「分かった!」


 俺が向かう。


 剣を振る。


 一匹。


 もう一匹。


「これで終わり!」


 最後のゴブリンを倒す。


 静かになる。


「……終わった」


「結構いたね」


「全部で九匹くらいか」


「これなら依頼達成?」


「たぶん」


 俺は周囲を確認する。


 索敵Ⅰ。


 気配なし。


「もういない」


「じゃあ帰ろう」


「その前に」


 俺は倒した魔物から魔石を回収する。


 依頼達成の証拠にもなる。


「これだけあれば十分だろ」


     ◇


 採掘場を出る。


 昼を少し過ぎた頃だった。


「腹減った」


「私も」


「じゃあ食べよう」


 俺は【食玩】を開く。


「今日は何にする?」


 ミリアが画面を見る。


「カレーパン」


「また?」


「好きだから」


「じゃあ俺は別のにする」


 一覧を眺める。


 そして。


【あんパン】


【価格:銅貨6枚】


「あんパンにするか」


 購入。


 紙袋。


 ミリアにはカレーパン。


 俺にはあんパン。


「いただきます」


 まずあんパンを半分に割る。


 中には、たっぷりの餡。


 つやつやしている。


 パン生地は柔らかい。


「いただきます」


 かじる。


 ふわっ。


 そして。


 あんこの甘さが広がる。


 こしあんの滑らかな舌触り。


 優しい甘さ。


 ほんの少し感じる塩気。


 それが甘さをさらに引き立てている。


「……美味い」


 パンと餡の相性がいい。


 甘いのに重くない。


 もう一口。


 餡がたっぷり入っている。


「これもいいな」


 向かいでは、ミリアがカレーパンを食べている。


「……美味しい」


 ザクッ。


 ミリアが幸せそうに目を細める。


「そっちも美味そうだな」


「食べる?」


「いいの?」


「うん」


 ミリアがカレーパンを少しちぎって渡してくる。


「はい」


「ありがとう」


 受け取って食べる。


 ザクッ。


 衣の香ばしさ。


 濃厚なカレー。


 肉の旨味。


 やっぱり美味い。


「うん。美味い」


「でしょ?」


 俺もあんパンを少し分ける。


「これも食べてみる?」


「いいの?」


「うん」


 ミリアが一口。


「……甘い」


「だろ?」


「これも好き」


「結局?」


「好き」


 ミリアは笑った。


 俺も笑う。


 食べ終わると、袋の中からカードが出てきた。


【SKILL CARD】


【打撃耐性Ⅰ】


「打撃耐性」


「アレンが使う?」


「俺が使おう」


 カードを持つ。


「使う」


 光。


『【打撃耐性Ⅰ】を習得しました』


「これも便利そうだ」


 ステータスを確認する。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【アレン】


種族:人族

年齢:15歳

レベル:1


【体力】42

【魔力】18

【攻撃力】12

【防御力】11

【素早さ】13

【魔法力】15

【精神力】12


【習得スキル】


・言語理解

・初級剣術

・食玩

・身体強化Ⅰ

・身体強化Ⅱ

・火魔法Ⅰ

・鑑定Ⅰ

・気配察知Ⅰ

・火耐性Ⅰ

・料理Ⅰ

・剣術Ⅰ

・索敵Ⅰ

・火力強化Ⅰ

・俊足Ⅰ

・集中Ⅰ

・魔力操作Ⅰ

・打撃耐性Ⅰ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「だいぶ揃ってきたな」


「うん」


 俺はステータスを閉じた。


「でも、まだレベル1なんだよな」


「そうだね」


「スキルが増えても、そこは変わらない」


「なら、もっと魔物を倒してレベルを上げないと」


「そうだな」


 俺たちは立ち上がった。


「帰ろう」


「うん」


 帰り道。


 ミリアが俺の隣を歩く。


「アレン」


「ん?」


「明日のパン」


「もう決めたのか?」


「うん」


「何?」


「クリームパン」


「……今日食べたじゃん」


「美味しかったから」


「また?」


「また」


 ミリアが笑う。


 俺も笑う。


「じゃあ明日は俺もクリームパンにするか」


「一緒だね」


「ああ」


 そんな会話をしながら、俺たちは町へ戻った。


 今日も魔物を倒した。


 報酬も手に入る。


 新しいスキルも増えた。


 そして何より。


 今日もパンが美味かった。


 これだけ揃っていれば。


 明日もきっと、悪くない一日になるだろう。

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