第9話 新しい依頼と、ふわふわクリームパン
翌朝。
目を覚ました瞬間、俺は思った。
「……甘いものが食べたい」
昨日のドーナツのせいだ。
あのふわふわした生地。
表面にまぶされた砂糖。
噛んだ瞬間に広がる優しい甘さ。
思い出すと、また食べたくなってくる。
「でも、今日は違うものにするか」
俺はベッドから起き上がった。
身支度を済ませ、いつものように【食玩】を開く。
空中に半透明の画面が浮かぶ。
【食玩】
【商品を選択してください】
パンの一覧を眺める。
すると、目についた。
【クリームパン】
【価格:銅貨6枚】
「……これだ」
前にミリアが食べたことはある。
俺自身も食べたことがある。
でも、改めて食べたくなった。
購入。
ポンッ。
紙袋が出現する。
袋を開ける。
甘い香りがふわっと広がった。
「……いい匂いだ」
取り出したクリームパンは、綺麗な楕円形をしていた。
表面には焼き色がついている。
触ってみると柔らかい。
指で少し押すと、ふわっと戻ってくる。
「いただきます」
かじる。
ふわっ。
柔らかなパン生地が歯に沈む。
その直後。
中から、とろりとしたカスタードクリームが出てきた。
「……!」
甘い。
でも、くどくない。
卵の濃厚な味。
牛乳のまろやかさ。
砂糖の優しい甘さ。
それが、ふわふわのパンと一緒になる。
「……やっぱり美味い」
クリームだけを食べても美味しい。
パンだけでも美味しい。
それなのに、一緒に食べるとさらに美味しい。
俺は二口目をかじる。
今度はクリームが多い部分だった。
とろりとしたカスタードが口いっぱいに広がる。
パン生地がそれを包み込む。
「朝から幸せだな」
あっという間に食べ終わった。
そして、袋の中にはカード。
【SKILL CARD】
【魔力操作Ⅰ】
「魔力操作か」
俺はカードを手に取る。
使う。
カードが光る。
『【魔力操作Ⅰ】を習得しました』
ステータスを開く。
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【アレン】
種族:人族
年齢:15歳
レベル:1
【体力】42
【魔力】18
【攻撃力】12
【防御力】11
【素早さ】13
【魔法力】15
【精神力】12
【習得スキル】
・言語理解
・初級剣術
・食玩
・身体強化Ⅰ
・身体強化Ⅱ
・火魔法Ⅰ
・鑑定Ⅰ
・気配察知Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・料理Ⅰ
・剣術Ⅰ
・索敵Ⅰ
・火力強化Ⅰ
・俊足Ⅰ
・集中Ⅰ
・魔力操作Ⅰ
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「魔法を使うなら便利そうだな」
俺はステータスを閉じた。
そして思う。
【食玩】で手に入るカードには、本当に色々なスキルがある。
身体能力を上げるもの。
魔法に関するもの。
探索に使えるもの。
どれも冒険者として役に立つ。
「……ハズレスキルねえ」
今となっては、もうそんなふうには思えない。
むしろ問題は。
「パンを買いすぎて金がなくならないようにすることだな」
俺は財布を確認する。
昨日の報酬がある。
まだ余裕はある。
とはいえ、無限に使えるわけじゃない。
冒険者として稼がなければならない。
「今日も仕事するか」
◇
「おはよう、アレン」
「おはよう、ミリア」
冒険者ギルド。
今日もミリアと合流する。
「今日は何を食べたの?」
「クリームパン」
「……」
「どうした?」
「食べたい」
「やっぱり?」
「うん」
「じゃあ」
俺は【食玩】を開く。
クリームパンを一つ購入。
「はい」
「ありがとう」
ミリアは紙袋を受け取った。
そして袋を開く。
「……甘い匂い」
「美味しいぞ」
「いただきます」
ミリアが一口。
「……!」
目が大きくなる。
「美味しい」
「だろ?」
「パンがふわふわ」
「うん」
「中のクリームが甘い」
「うん」
「好き」
ミリアは幸せそうに食べていく。
クリームパンを半分ほど食べたところで、ふと俺を見る。
「アレン」
「ん?」
「これ」
「どうした?」
「もう一個買って」
「朝から二個?」
「うん」
「食べられる?」
「食べられる」
即答だった。
「じゃあ買うか」
「ありがとう」
俺はもう一つ購入した。
ミリアは嬉しそうに受け取る。
そのまま食べ始めた。
「……そんなに好きなのか」
「うん」
「カレーパンは?」
「カレーパンも好き」
「ドーナツは?」
「好き」
「焼きそばパンは?」
「好き」
「じゃあ全部好きじゃないか」
「美味しいから」
それを言われると何も言えない。
俺もそうだからだ。
◇
「今日の依頼を探そう」
朝食を終え、掲示板を見る。
いくつか依頼がある。
薬草採取。
魔物討伐。
護衛。
荷物運び。
その中で、少し気になるものを見つけた。
【採掘場周辺の魔物討伐】
【採掘場付近に出現する魔物を討伐】
【報酬:銀貨七枚】
「これにしよう」
「昨日より報酬が高いね」
「少し危険なんだろうな」
採掘場は町からそれほど遠くない。
しかし、森や丘よりも魔物が集まりやすいらしい。
「受けてみよう」
「うん」
依頼書を受付へ持っていく。
「採掘場ですか」
リーゼが依頼書を見る。
「最近、採掘場の奥に魔物が出るようになったそうです」
「どんな魔物ですか?」
「ゴブリンやウルフ、それから岩場を好む魔物もいるそうです」
「分かりました」
「無理はしないでくださいね」
「はい」
「アレンさん」
「はい?」
「昨日のハンバーガー、とても美味しかったです」
「それは良かったです」
「今日も食べたいくらいです」
「じゃあ今度また」
「約束ですよ?」
リーゼが笑う。
「はい」
俺たちはギルドを出た。
◇
採掘場までは徒歩で二時間ほど。
町の外へ出て、街道を歩く。
「今日は遠いね」
「そうだな」
「疲れた?」
「まだ大丈夫」
俺は歩きながら、魔力操作Ⅰを試してみる。
魔力を身体の中で少し動かす。
「……なるほど」
「どうしたの?」
「魔力操作って、こういう感じか」
今まで魔法を使うときは、ただ魔力を集めて放っていた。
でも、このスキルがあると。
魔力をどこへ流すか。
どのくらい使うか。
そういう細かい調整がしやすい。
「便利だな」
「魔法使いにはかなり良さそう」
「俺は火魔法しか使えないけどな」
「そのうち他の魔法もカードで出るかも」
「それもそうだな」
俺たちはそんな話をしながら歩いた。
◇
採掘場に到着する。
岩肌がむき出しになった山。
その一角に、鉱石を掘るための入口がある。
作業員らしき人たちもいる。
「ここか」
俺は索敵Ⅰを使う。
「……いる」
「魔物?」
「うん」
採掘場の入口から少し奥。
「三匹」
さらに。
「……奥にもう少しいる」
「何匹?」
「正確には分からない。でも、五匹以上」
「群れかな」
「たぶん」
俺たちは慎重に進む。
入口付近には魔物はいない。
少し奥へ進んだところで。
ガサッ。
岩陰から魔物が出てきた。
「ゴブリン!」
三匹。
「来る!」
俺は剣を抜く。
身体強化Ⅱ。
俊足Ⅰ。
踏み込む。
ゴブリンの棍棒を避ける。
剣を振る。
一匹。
横から二匹目。
集中Ⅰ。
動きを見る。
棍棒が振り下ろされる。
避ける。
そのまま斬る。
二匹。
「火よ!」
ミリアの火魔法。
三匹目が吹き飛ぶ。
「終わり」
「三匹」
だが。
俺は索敵を続ける。
「まだいる」
「どこ?」
「奥」
今度は五つ。
いや。
六つ。
「来るぞ」
奥からゴブリンが走ってくる。
「多い!」
「俺が前に出る!」
俺は駆ける。
身体強化Ⅱ。
俊足Ⅰ。
ゴブリンの群れへ突っ込む。
「せやっ!」
一匹。
二匹。
だが、数が多い。
「くっ……!」
横から棍棒。
剣で受ける。
さらに後ろから別のゴブリン。
「アレン!」
ミリアの声。
火魔法が飛んでくる。
ゴブリンが吹き飛ぶ。
「助かった!」
「まだいる!」
索敵Ⅰ。
右。
左。
後ろ。
全部把握する。
「右に二匹!」
ミリアがすぐに反応する。
水魔法。
右側のゴブリンを吹き飛ばす。
「左!」
「分かった!」
俺が向かう。
剣を振る。
一匹。
もう一匹。
「これで終わり!」
最後のゴブリンを倒す。
静かになる。
「……終わった」
「結構いたね」
「全部で九匹くらいか」
「これなら依頼達成?」
「たぶん」
俺は周囲を確認する。
索敵Ⅰ。
気配なし。
「もういない」
「じゃあ帰ろう」
「その前に」
俺は倒した魔物から魔石を回収する。
依頼達成の証拠にもなる。
「これだけあれば十分だろ」
◇
採掘場を出る。
昼を少し過ぎた頃だった。
「腹減った」
「私も」
「じゃあ食べよう」
俺は【食玩】を開く。
「今日は何にする?」
ミリアが画面を見る。
「カレーパン」
「また?」
「好きだから」
「じゃあ俺は別のにする」
一覧を眺める。
そして。
【あんパン】
【価格:銅貨6枚】
「あんパンにするか」
購入。
紙袋。
ミリアにはカレーパン。
俺にはあんパン。
「いただきます」
まずあんパンを半分に割る。
中には、たっぷりの餡。
つやつやしている。
パン生地は柔らかい。
「いただきます」
かじる。
ふわっ。
そして。
あんこの甘さが広がる。
こしあんの滑らかな舌触り。
優しい甘さ。
ほんの少し感じる塩気。
それが甘さをさらに引き立てている。
「……美味い」
パンと餡の相性がいい。
甘いのに重くない。
もう一口。
餡がたっぷり入っている。
「これもいいな」
向かいでは、ミリアがカレーパンを食べている。
「……美味しい」
ザクッ。
ミリアが幸せそうに目を細める。
「そっちも美味そうだな」
「食べる?」
「いいの?」
「うん」
ミリアがカレーパンを少しちぎって渡してくる。
「はい」
「ありがとう」
受け取って食べる。
ザクッ。
衣の香ばしさ。
濃厚なカレー。
肉の旨味。
やっぱり美味い。
「うん。美味い」
「でしょ?」
俺もあんパンを少し分ける。
「これも食べてみる?」
「いいの?」
「うん」
ミリアが一口。
「……甘い」
「だろ?」
「これも好き」
「結局?」
「好き」
ミリアは笑った。
俺も笑う。
食べ終わると、袋の中からカードが出てきた。
【SKILL CARD】
【打撃耐性Ⅰ】
「打撃耐性」
「アレンが使う?」
「俺が使おう」
カードを持つ。
「使う」
光。
『【打撃耐性Ⅰ】を習得しました』
「これも便利そうだ」
ステータスを確認する。
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【アレン】
種族:人族
年齢:15歳
レベル:1
【体力】42
【魔力】18
【攻撃力】12
【防御力】11
【素早さ】13
【魔法力】15
【精神力】12
【習得スキル】
・言語理解
・初級剣術
・食玩
・身体強化Ⅰ
・身体強化Ⅱ
・火魔法Ⅰ
・鑑定Ⅰ
・気配察知Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・料理Ⅰ
・剣術Ⅰ
・索敵Ⅰ
・火力強化Ⅰ
・俊足Ⅰ
・集中Ⅰ
・魔力操作Ⅰ
・打撃耐性Ⅰ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「だいぶ揃ってきたな」
「うん」
俺はステータスを閉じた。
「でも、まだレベル1なんだよな」
「そうだね」
「スキルが増えても、そこは変わらない」
「なら、もっと魔物を倒してレベルを上げないと」
「そうだな」
俺たちは立ち上がった。
「帰ろう」
「うん」
帰り道。
ミリアが俺の隣を歩く。
「アレン」
「ん?」
「明日のパン」
「もう決めたのか?」
「うん」
「何?」
「クリームパン」
「……今日食べたじゃん」
「美味しかったから」
「また?」
「また」
ミリアが笑う。
俺も笑う。
「じゃあ明日は俺もクリームパンにするか」
「一緒だね」
「ああ」
そんな会話をしながら、俺たちは町へ戻った。
今日も魔物を倒した。
報酬も手に入る。
新しいスキルも増えた。
そして何より。
今日もパンが美味かった。
これだけ揃っていれば。
明日もきっと、悪くない一日になるだろう。




