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1-3 みんなの未来

村長と別れた後。


エレナは広場へ向かって歩いていた。


今日は収穫祭の前日だ。


村のあちこちで準備が進められている。


屋台を組み立てる大人たち。


木樽を運ぶ若者たち。


そして。


広場の周囲を元気よく走り回る子供たち。


彼らにとって祭りとは特別な日だ。


美味しい料理が並び。


楽しい遊びがあり。


何より、大人たちが少しだけ優しくなる。


だから誰もが楽しみにしていた。


その時だった。


「エレナお姉ちゃーん!」


元気いっぱいの声が響く。


次の瞬間。


小さな影が勢いよく飛び込んできた。


「わっ!?」


エレナは慌てて踏ん張る。


危うく後ろへ倒れそうになった。


腕の中には見慣れた少女がいる。


金色の短い髪。


大きな瞳。


そして太陽みたいな笑顔。


ミアだった。


村で一番元気な八歳の少女であり、エレナのことが大好きな子でもある。


「ミア」


エレナはため息をつく。


「いきなり飛びつくの危ないよ」


「だってエレナお姉ちゃん見つけたんだもん!」


反省の色はまったくない。


むしろ褒めてほしそうだった。


エレナは額を軽く弾く。


「あうっ」


ミアは額を押さえて涙目になる。


「次からはちゃんと声かけて」


「はーい」


「本当に?」


「たぶん!」


エレナは黙った。


どこかで聞いた返事だった。


間違いなく父親譲りである。


「エレナお姉ちゃん、今日暇?」


ミアが袖を引っ張る。


期待に満ちた瞳がきらきらと輝いていた。


「暇じゃないよ」


「えー」


「手伝いあるし」


「私も手伝う!」


「ミアの場合、手伝いじゃなくて邪魔になるんだよね」


「ならないもん!」


頬を膨らませるミア。


怒ったリスみたいだった。


その姿がおかしくて、エレナは思わず笑ってしまう。


結局、少女の頭を優しく撫でた。


「あとでね」


「本当!?」


「本当」


「やったー!」


一瞬で機嫌が直った。


あまりにも単純である。


エレナは少しだけ心配になった。


そんな二人が歩いていると、今度は別の子供たちも集まってきた。


「エレナお姉ちゃん!」


「遊ぼうよ!」


「こっち来て!」


あっという間に囲まれる。


するとミアが両手を広げた。


「だめ!」


「今日は私が先!」


「なんでだよ!」


「最初に見つけたの私だもん!」


「それ関係ないだろ!」


子供たちの口論が始まる。


広場の真ん中で。


盛大に。


エレナは頭を押さえた。


「みんな落ち着いて」


誰も聞いていない。


「ねえ」


エレナは呆れたように尋ねる。


「私のこと何だと思ってるの?」


すると。


ミアが真っ先に答えた。


「英雄!」


「え?」


エレナは目を瞬かせる。


周りの子供たちも大きく頷いた。


「うん!」


「エレナお姉ちゃん何でもできるし!」


「優しいし!」


「かっこいいし!」


「私も大きくなったらエレナお姉ちゃんみたいになる!」


次々と飛んでくる言葉に、エレナは困ってしまった。


そんな大した人間じゃない。


そう思う。


ただ少し年上なだけだ。


それなのに。


子供たちの瞳は本気だった。


憧れと尊敬に満ちている。


エレナは照れくさそうに頬を掻いた。


その時。


ミアがそっと彼女の手を握る。


「ねえ、エレナお姉ちゃん」


「ん?」


「ずっと村にいるよね?」


その問いに。


エレナは少しだけ考えた。


周囲を見渡す。


見慣れた家々。


見慣れた人々。


聞き慣れた笑い声。


生まれた時からずっと一緒だった景色。


ここは自分の家だ。


大切な場所だ。


失いたくない場所だ。


だから。


エレナは微笑んだ。


「たぶんね」


その言葉を聞いた瞬間。


ミアの顔がぱっと明るくなる。


「約束だよ!」


「約束はしてないよ」


「したもん!」


「してないってば」


二人のやり取りに子供たちが笑う。


風が吹いた。


楽しそうな笑い声が空へ溶けていく。


エレナも笑っていた。


心から。


幸せそうに。


だが。


その時の彼女はまだ知らない。


何気なく口にしたその答えが。


もう二度と叶うことのない願いになることを。

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