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2-1 訪問者

収穫祭が終わってから数日が過ぎた。


村は再び、いつもの穏やかな日常を取り戻していた。


昼になれば木を打つ音が響き。


畑では農作業に励む人々の姿が見える。


子供たちは広場を走り回り。


大人たちはそれを見守りながら働いていた。


祭りの賑わいはまるで夢だったかのように。


けれど。


人々の暮らしは変わらず続いていく。


そんな、いつも通りの朝だった。


エレナは焼きたてのパンを詰めた籠を抱えながら、村の小道を歩いていた。


爽やかな風が吹き抜ける。


草の匂いと土の香りが鼻をくすぐった。


少し離れた場所では、子供たちが元気よく駆け回っている。


そして。


先頭を走っているのは、やはりあの少女だった。


「エレナお姉ちゃん!」


元気いっぱいの声が響く。


ミアだった。


小さな身体で全力疾走していた彼女は、そのまま勢いよくこちらへ向かってくる。


そして案の定。


足をもつれさせた。


「あっ」


エレナは反射的に手を伸ばす。


次の瞬間には、転びかけたミアをしっかり受け止めていた。


「だから前見て走りなさいって」


「次は絶対大丈夫!」


「前も聞いたよ、その台詞」


「でも本当にもうすぐできるようになるもん!」


ミアは胸を張る。


何を根拠にしているのかは分からない。


エレナは思わず吹き出した。


その時だった。


村の入口の方からざわめきが聞こえてくる。


何人もの村人が足を止め、同じ方向を見ていた。


「何かあったのかな?」


ミアが背伸びをする。


エレナも視線を向けた。


そこには数台の馬車が見えた。


ゆっくりと村へ近づいてくる。


馬車はかなり傷んでいた。


車輪には泥がこびり付き、荷台の木板には刃物で斬られたような傷跡も残っている。


長い旅路を物語る姿だった。


その周囲には十数人ほどの男女が歩いている。


誰もが疲れた様子だった。


隊列の先頭にいたのは、一人の男だった。


三十代ほどだろうか。


短い黒髪にがっしりとした体格。


腰には剣を下げている。


だが表情は穏やかで、人の良さそうな笑みを浮かべていた。


男は村人たちを見ると、丁寧に一礼する。


その仕草は自然で礼儀正しかった。


やがて村長も姿を現した。


村の入口で男と向かい合う。


二人はしばらく言葉を交わしていた。


エレナのいる場所からでは内容までは聞き取れない。


だが。


どうやら旅の途中で襲撃を受けたらしい。


荷物の一部を失い、しばらく身を休める場所を探していたようだった。


「かわいそう……」


ミアがぽつりと呟く。


エレナも頷いた。


あの馬車の状態を見れば、嘘をついているようには思えない。


しばらくして。


村長は静かに頷いた。


受け入れることにしたのだろう。


村人たちの表情もすぐに和らいだ。


この村は昔から困っている人を放っておけない。


それは誰もが知っていることだった。


知らせはあっという間に広まった。


空き家を掃除する者。


食料を運ぶ者。


湯を沸かす者。


誰もが自然に動き始める。


子供たちは旅人たちの周りへ集まり、興味津々に質問を投げかけていた。


「外の町って本当にそんなに大きいの?」


「もちろんだとも」


若い旅人が笑顔で答える。


「この村の何十倍もあるよ」


子供たちが歓声を上げた。


別の旅人はサイコロを取り出し、簡単な遊びを教えている。


あっという間に笑い声が広場へ広がった。


老人たちまで楽しそうに笑っていた。


午後になると。


旅人たちはお礼代わりに仕事まで手伝い始めた。


壊れた柵を直し。


木材を運び。


力仕事を買って出る。


誰もが親切だった。


エレナも認めざるを得ない。


少なくとも今のところ。


彼らは善良な人々に見えた。


夕暮れ時。


広場の片隅では、旅人たちのリーダーが子供たちに囲まれていた。


木樽の上に腰掛けながら旅の話をしている。


空へ届きそうな山々。


果てしなく広がる海。


大勢の人々で賑わう大都市。


どの話も子供たちを夢中にさせた。


ミアなどは目を輝かせながら聞き入っている。


「すごい……」


小さく呟く。


「私も大人になったら旅してみたいな」


男は優しく笑った。


そして彼女の頭を軽く撫でる。


「その時は立派な旅人になっているかもしれないな」


ミアは嬉しそうに何度も頷いた。


その様子に周囲の大人たちも笑顔になる。


夕陽がゆっくりと沈んでいく。


穏やかな光が広場を染めていた。


誰もが自然に笑っていた。


平和な光景だった。


けれど。


その輪の外側で。


ただ一人だけ。


笑わない人物がいた。


村長だった。


老人は静かに旅人のリーダーを見つめている。


長い時間を生きてきた者の目だった。


男の言葉にも。


態度にも。


不自然な点は見当たらない。


むしろ立派な人物に見える。


それなのに。


胸の奥に引っかかるものが消えない。


理由は分からない。


確かな根拠もない。


ただ――


何かがおかしかった。


沈みゆく夕陽が影を伸ばす。


村長は男の背中を見送りながら、わずかに眉をひそめた。


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