1-5 星が見ている
収穫祭は夜遅くまで続いた。
最後の演奏が終わる頃には、人々も少しずつ家路につき始めていた。
子供たちは親の背中で眠り。
酔った大人たちは肩を組みながら歩いていく。
賑やかだった広場も、少しずつ静けさを取り戻していた。
松明の火が一つずつ消えていく。
笑い声も遠ざかっていく。
祭りは終わった。
けれど、その余韻だけはまだ村の中に残っている。
最後の片付けを終えたエレナは、誰にも気づかれないように広場を離れた。
夜風が頬を撫でる。
昼間の熱気はすでに消えていた。
少女は慣れた道を歩いていく。
草原を抜け。
小川を渡り。
村の外れにある小さな丘へ辿り着いた。
お気に入りの場所だった。
一人になりたい時。
考え事をしたい時。
いつもここへ来る。
エレナは柔らかな草の上に腰を下ろした。
そして空を見上げる。
満天の星空が広がっていた。
無数の星々が闇を彩っている。
まるで宝石を散りばめたような美しさだった。
エレナは昔から星を見るのが好きだった。
理由は分からない。
けれど夜空を見上げていると、不思議と心が落ち着くのだ。
虫の鳴き声が聞こえる。
風が草を揺らす。
静かな夜だった。
まるで世界に自分一人だけが残されたような。
そんな錯覚さえ覚えるほどに。
少女は膝を抱えながら、ただ星空を眺め続けた。
どれほど時間が過ぎただろうか。
ふと視線を下ろす。
丘の下には村の灯りが見えていた。
祭りは終わっても、まだ眠っていない家もある。
窓から漏れる灯火が、どこか温かかった。
父と母も、もう帰っているだろう。
きっと母は酔っ払った父に説教をしている。
村長はまだ誰かに酒を勧められているかもしれない。
ミアはぬいぐるみを抱いて夢の中だろう。
そう思うと自然と笑みが浮かんだ。
あそこには大切な人たちがいる。
守りたいものがある。
帰る場所がある。
それだけで十分幸せだった。
なのに――
いつからだろう。
星空を見上げるたび。
胸の奥が少しだけざわつくようになった。
何かを待っている気がする。
けれど何を待っているのか分からない。
どこか遠くに忘れ物をしてきたような。
あるいは。
まだ訪れていない何かを待っているような。
不思議な感覚だった。
答えは見つからない。
だからエレナは考えるのをやめた。
目を閉じる。
夜風が髪を揺らす。
しばらくして再び目を開いた。
銀色の瞳に星々の光が映る。
どこまでも広い夜空。
どこまでも静かな世界。
その景色を見つめながら。
エレナは小さく息を吐いた。
明日もきっと良い日になる。
そんな気がしていた。
根拠なんてない。
それでも信じていた。
この平和な日々が続いていくことを。
大切な人たちと笑い合えることを。
当たり前のように。
ずっと。
ずっと先まで。
だから気づかなかった。
空の彼方で。
誰にも知られず。
誰にも見つからないまま。
運命が静かに動き始めていたことを。
星々だけが見ていた。
少女の運命が変わる、その瞬間へ向かって。




