家族
「……オリビア?」
鏡の前で立ち尽くしてどれほど経っただろうか。私を現実に引き戻したのは低い男の声だった。
声の聞こえてきた方、入り口に目を向ければ、ドアノブを握ったままこちらをじっと見ている金髪の男性と目が合う。彼は驚くほどの速さでこちらに来ると、膝をついて私の腕に手を置いた。
「オリビア、目が覚めたんだね!」
「お、父さま……」
「オリビアは熱を出してもう三日も寝込んでいたんだ。気分が悪いとかはないかい?」
「平気。もう大丈夫よ」
「よかった!本当によかった……!」
うっすら目に涙を浮かべながら喜ぶ様子には嘘は無さそうだ。
この男性はレイモンド・グレイシス。
前世を思い出す前の私には緑子としての意思はなかったけれど、今の私にはそれまでのオリビアとして過ごしていた時の記憶もちゃんとあったからすぐにわかった。
レイモンドはオリビアの父親で、彼こそが原作のオリビアが人を殺めてまで王位を求めた原因だ。
レイモンドは原作開始時には既に死亡している。それで、重度のファザコンだったオリビアは彼を生き返らせるために王位を求めたのだ。
まず、前提としてこの世界は魔法が存在する。代々、王はこの世のすべての魔法が記されているという魔導書を受け継ぐのだけど、そこには死人を蘇させる方法すらもあると言われていて、その噂話にしか過ぎないそれに原作のオリビアは縋ったというわけである。
「……オリビア?ぼんやりして、やはりまだ辛いんじゃ……」
「いいえ、お父さま。本当に平気よ。それより、お見舞いに来てくださってありがとう。とても嬉しい」
本当に体調はもう悪くない。熱もすっかり下がったようで、汗に濡れた寝間着が気持ち悪いくらいだ。
いまだ心配そうな顔を浮かべるお父さまを宥めていると、ドアのほうからわずかな物音がした。
そちらに目を向けると、ドアに縋り付くようにして立つ女性がいた。
触るだけで折れてしまいそうなほどに華奢な人だった。長くて真っ直ぐなプラチナブロンドの髪と、抜けるように白い肌。いや、どちらかというと青白く、さっきまで寝付いていた私よりもよっぽど病人らしい見た目をしている。
「シャロン!」
お父さまは今にも崩れ落ちそうなその人を慌てて助けに行く。肩を支えられたその女性はシャロン・グレイシス。お父さまの後妻で、私の継母。そして、私が前世を思い出すきっかけとなった熱を出す理由となった人だった。




