転生
思い返せば、不器用な生き方だったと思う。
意識が朦朧とした中でそんな事を考えた。
山城緑子、二十六歳。現在死にかけている真っ最中。
風邪をこじらせても見舞ってくれる人もいなくて、動くことはおろか救急車を呼ぶことも出来ない。
でも、仕方ない。早くに両親を亡くして天涯孤独だったうえ、仕事が忙しくて学生時代の友達とも疎遠。職場ではこの状態の通り甜められきっていて、友達と呼べるような人間も一人としていなかった。
今回だって、みんなの仕事を頼まれるがままに引き受けて過労から風邪を背負い込んだのに、誰も心配してくれない。
顔を横に向けると、携帯型のゲーム機があるのが見える。手を伸ばしてスイッチを押してみたけれど、充電が切れていて電源はつかなかった。
ゲームはたいてい乙女ゲームと呼ばれるジャンルのものを好んでやっていた。生身の人間と付き合えない寂しさをこうして慰めていたのだ。
イベントをこなせば確実に結ばれることができる攻略対象に、なにより素直で優しい皆から愛される主人公。私は乙女ゲームの主人公に憧れていた。
私もああいう女の子になりたかった。
もっと器用に、要領よく生きたかった。
そう思いながら、人生に幕を下ろした。
……はずだったのだ。
「これが、わたし……?」
鏡に映るのは赤毛の女の子。髪とおそろいの赤い瞳が宝石みたいにきらきらと輝いていているピカピカの美少女だ。裾と袖口にフリルのついたシルクのネグリジェを着ていて、寝起きの髪は少し乱れている。
見間違えようがない。親の顔より見た顔、乙女ゲーム『王冠に祈りを』の主人公……、ではなく、オリビア・グレイシス。
「うそ……」
桜色の唇から絶望の声がこぼれる。
よりにもよって、私はラスボスに生まれ変わってしまったらしかった。
『王冠に祈りを』という乙女ゲームは、実は王族の血を引いていた平民の主人公シシーが女王となるべく奮闘するストーリーだ。そこでのオリビアは主人公に立ちはだかる敵で、あらゆる手を使って主人公を抹殺しようとする。
この国の王位はなにより血筋が重要視されており、王になるには王族の血を引いていることが絶対条件だ。ゲーム開始時には王族の血を引くのは高齢の女王とシシー、それからオリビアしかいない。
いないというか、そうなるまでにオリビアが他の王位継承者候補たちを抹殺した。
オリビアはグレイシス公爵家の令嬢で、苛烈で自己中心的な性格の女だ。しかしラスボスらしくスペックは非常に高く、私もゲームをプレイした時は攻略対象と恋愛するよりもオリビアを倒すことに手を焼いたものである。
そんな人間に私は生まれ変わってしまったらしい。
今度こそ幸せになりたかったのに、なぜ私は最強の悪役になってしまったのか。無情すぎる。




