第39式
被害者である私のふっかーい温情により、3人は大幅減刑という事になった。クラウスも最初はかなり渋ったらしいけど許可をくれたよ。
男子生徒2人は騎士たちが親の所まで連れて行って処分を言い渡してくれるって。
現在部屋に残っているのは、私、おじいちゃん、マクノアさん、騎士たちが3名、そして彼女。拘束された状態のままだけど仕方ないよね。
「さて、本題に入ろうか。
君に禁術、及び魔力を付与したのは誰だい?」
「しらないわ」
即答した彼女に対し、おじいちゃんは呆れたように私を見た。首を横に振っておく。
何?魔力を見てるだけだよ。普段は使わないけど、私に対して有害な人間に対しては常に使っておくべきだよね。
「仕方ないなぁ……聴き方を変えようかぁ。
君に入れ知恵したのは君の知り合いかい?」
「……違うわ」
これは本当。
「君に力をくれた者の姿を見たかい?」
「……いいえ」
これも本当。
「それはフードとか何かを着てたから見えなかったのかい?」
「……ええ」
これは嘘。
ふむ……これじゃ確信が持てないな。
「はい、質問。
それは人間だった?それともそれ以外だった?」
「……は?何言ってるの」
「余計な事は答えなくてよろしい。
人間だった?」
「……人間よ」
「そう思う根拠は?」
「……この世界に人間と魔物以外の生命体はいないし、魔物がこの帝都内に入ってこられるはずがないじゃない!!」
また嘘だねー。どこまで嘘つくんだろうねーこの子。嘘つきは泥棒の始まりですよ。親に習ってないのかね?……ああ、貴族だから嘘すら必要スキルか。私、嘘ついて近づいてくるやつには基本容赦しないけど。
「"どうせ本当の事を言った所で、信じてもらえるはずがない"、"頭がおかしいと思われて施設に送られたらそれこそもう人として生きていられない"」
「な……?!」
「あー、心を読んだわけじゃない。ただし嘘は分かるんだ。私もある程度、君に入れ知恵した存在について考えた上で、割と利口なはずの君がこの場で嘘をつくとすればどんな理由か考えただけ」
しかしここで冷静だったのはおじいちゃんだ。
「シエル嬢は、人間を陥れる程の知能を持った魔物がこの国に、帝都内にいると言いたいのかい?」
私の質問からそう予測を立てたらしい。でもそうじゃない。
「魔物じゃなかったら?帝都は1番魔物避けの結界の強い場所でしょ?普通ならいるはず無いし、姿も形も無いけど人語を話す魔物なんて新種過ぎる」
スカイシャークは透明で姿は見えないけど、実体はある。多分姿が見えない魔物はいるけど実体がない魔物なんていないだろう。何せ魔石を持ってるのだから。
「……じゃあシエル嬢は、なんだと思っているんだい?」
「魔物ではない、それ以外の何かだと私は思ってる。さて、もう一度聞くけど……君は何の力を借りたの?」
「……分からない、わ。声が聞こえて、力が欲しいかって、聞こえて。私はそれを望んだだけよ」
「それはどこで聞こえたの?」
「……迷宮に、武器を探しに行った時」
「……どの迷宮?」
彼女が答えた迷宮の名前は、つい先日、おじいちゃん曰く姿も形も無いものに襲われた攻略者が持つ迷宮だった。
「どうやって魔力を吸い取った?」
「ゆ、指輪があったの。着けたまま対象に触れれば、魔力を吸い取れた。何人かから抜いた後、勝手に壊れたわ……」
恐らく、その指輪に禁術がかかっていて、尚且つ使用者の容量可能分目一杯吸い取ったら壊れるようになっていたのだろう。
「迷宮で聞こえた声も姿も見えない何かからもらった指輪かぁ。それも壊れちゃって残骸もないならそこから探るのも出来なそうだねぇ」
「迷宮に実際に行ってみる?弱ってるけど滅んではいないし」
「……信じるの?」
「君や君の話を信じるわけじゃないよぉ?シエル嬢が嘘じゃないと判断しているから話を進めているだけだしねぇ」
おじいちゃんがそう言い捨てると、彼女は口を噤んだ。そこへタイミングよく入ってきたのは紫色のローブの壮年の男性だ。彼は私とおじいちゃんの前に来て、膝をついて頭を下げた。
「突然の入室並びに、我が家の者の無礼、そして迷宮攻略者様の御身を害した事、全てにお詫び申し上げます」
……謝ってもらったところで何の詫びにもならないんだけど。
というか、この人はだれ?と、意味を込めてマクノアさんを見ると、黙って女子生徒を見た。ほおー、なるほど。どうやらこの人が、父親らしい。娘を引き取りに来たのかな。
魔法騎士団所属なだけあって、魔力回路が細部まで綺麗に張り巡らされている。日頃の修練の賜物かもね。私たちに謝罪する形を見せて娘には目もくれない。……自分の娘なのに。
「……処分は聞いたかい?」
「はい。攻略者様の寛大なご処置に感謝をしております」
「感謝?」
私が思わず聞き返すと、父親は何食わぬ顔ではいと答えた。……親子揃って嘘つきだなぁ。いつもなら流すけど、私は今、多少腹が立ってた。
「"やっと使えると思った魔術師としての才能も、凡庸。こんな小娘に頭を下げさせられるなど、なんたる屈辱か"」
「っ……何のことでしょうか?」
私相手に隠しても無駄だ。今回に関しては心の中も読んでるけど、嫌いな相手にしかやらないよ。嫌いな相手っていうのは、大した実力もないのに侮辱してくる輩ね。力の見極めが出来ない阿呆ともいう。
「その一瞬の動揺が命取りだと、騎士なら知っているだろうに。ああ、なんたる屈辱か。
彼女に対して勝手に落胆したのは、私と比べたからだろう?私と比べられるほどの魔術師だと勘違いしたからだろう?
それはつまり、
この私が、貴様らと、同列に考えられていたということだろう?
侮辱以外の何物でもない
貴様らと私では格が違う。私との力量差も分からない魔法騎士に落胆されたくらいで、何でそこの子は絶望したのか……。
まったくもって理解に苦しむよ」
ふう。言いたい事が言えて少しスッキリ。尊大な口調にしたのは小馬鹿にする為ね。
魔法が使える騎士の中から選ばれた選りすぐり集団。それが魔法騎士団。そこに所属している人間に対しての純粋な呆れからの言葉に、彼は先程までの澄まし顔を崩して怒りを浮かべて私を睨みつけた。怖くないなぁ。リヒトに内緒でお菓子買いに出かけて、後からバレて、「私の作るお菓子より、そんなお菓子がお気に入りですか」と、言われて暫く暗い目で見られた時の方が怖かったわ。
「……それは侮辱と捉えるが?」
「侮辱?事実だし、侮辱したのは君らだろう?」
彼女の行動の原因は、結局よくある拗れた親子関係だ。認めなかった父親と、認めて欲しかった娘。父親には父親なりに、思惑か何かあったのかもしれない。純粋な偏見を持っていたのかもしれない。難しい話だし、そもそもご家族の問題に首を突っ込んでも何もいいことは無いんだけど、今回は私の殺害に絡んでるから、文句を言わせてもらおう。
「彼女は努力して、魔術クラスのトップに立った。間違いなく、魔術クラスでは1位だよ。それがどれほど凄いのか、この国のお貴族様ならわかるんじゃないの?」
「……シエル嬢、その辺で」
「分かってる。私ももう休みたいし。
……とりあえず、処罰の通り。彼女は卒業後、私がもらう。これは決定。妙な事をしたら、私は私の持てる全てを使って、私が今回受けた被害に報いることが出来ると思う罰をなにが何でも、アンタに受けさせるよ」
以上。と締めくくって部屋を出た。親が迎えにきたからか、マクノアさんと残りの騎士も私についてくるらしい。……護衛外れないかな。……無理か。結局、魔力を吸い出したと思われる何か自体は、その存在は確定したけど何かはわからないままなんだから。
「シエル嬢、どうする?明日本当に迷宮に行くかい?」
「……行くよ。弱くなってるって言ってたけど、実際どんな状態なのか見たいし」
「て言うことだから、マクノアくん。君ともう1人だけ連れておいで。足手まといは要らないからさぁ」
「承知しました」
おじいちゃんは私が迷宮に日帰りで行こうとしていることが分かっているのだろう。実際、倒れた攻略者の迷宮は、帝都から近いところにある。早馬で行けば片道2時間程度だ。勿論私は帝都から出たら、ノクターンに乗せてもらって飛んでいく気しかないけど。
「さぁて、だーれを連れてくるだろうねぇ」
読了ありがとうございます。




