第40式
みじかめです。ごめんなさい。
「シエル様」
「……わー、レイヴィスさん。お久しぶり」
「はい!やっとお側に戻れて嬉しいです」
……うん。わかったからそんな寄り付かないでくれるかな。マクノアさんを盾にして隠れる。マクノアさんはレイヴィスさんの超笑顔が珍しいのか引きつった顔を彼に向けている。
「ほら、仕事して。ウィルゼンさん」
「え、あ、……え?」
皇帝に呼び出し食らったおじいちゃんが来られない代わりに派遣されてきたアルセイン・ウィルゼン公爵も、珍妙なものをみたらしく、狼狽えている。
「2人とも、しっかりしてよ。私の護衛としてここに来たんでしょ?第一の仕事はレイヴィスさんから私を守る事だよ」
「そんな!私もシエル様の護衛の1人ですよ!?」
「だからといって、気軽に抱きしめたり抱き上げたりしていいとは一言も言っていない。貴族ならそのルール守って口説きにこい」
「あぁ……冷たい眼差しで否定しながらも口説く事自体は否定しないその寛容さがまた……」
なにがそんなにドツボに嵌まったのか、恍惚とした表情で私を見つめてくるレイヴィスさん。……暫く放置してたせいかな、前より危険な性質になってる気がする。けど対応は変えない。基本放置だ。
「……2人とも、本当に頑張って。今日私が集中して用事を済ませるには、2人がいかにレイヴィスさんを遠ざけてくれるかにかかってるんだからね……!」
「「(部下に押し付ければよかった)……はい」」
マクノアさんとウィルゼンさんは同じような顔をして渋々といった返事をよこした。
ものすごく心配なので(勿論自分の身が)、さっさと調べてさっさと帰ろう。
帝都から出るまでは馬車でマクノアさんの部下に送ってもらい、ノクターンに出てきてもらう。
今日は運んでもらうので、元々の大きさ。……うーん、だいたい……6メーターは超えてるかな?くらい。
「ご主人。怪我はもういいのか」
「ん。気分も回復したよ。大丈夫。話は聞いてたよね?」
「無論。早く乗れ。……そこの人間共、我が主の手前乗せてやるが、思いあがるな。主の機嫌を少しでも損ねれば、全員直ぐに亡き者にしてやる」
「うんうん。穏便にね」
「……主人がそういうのなら、上空に投げる程度にする」
うん。それでよし。多分この3人なら魔法でも何でも使って無事に降りるだろう。……多分。きっと。…………骨折る程度で済む。……はず。
……ところで。
「何で傅いてるの?」
いつの間にか背にしていた3人はその場で片膝ついて頭を下げていた。下げている、……というか、まるで真上からとんでもない圧力をかけられて、強制的に身体がその形になったような?
「主、大丈夫だ。その3人も連れて我が背に」
ノクターンは理由が分かるのか、気にした様子もなくその場に伏せた。私たちが乗りやすいようにだろう。
ありがとうと言ってから3人を連れて転移魔法で羽の付け根付近の平らな場所に座り、結界を作って私たちを完全保護。
3人はどうやら先程まで呼吸もままならなかったらしく、私の結界の中で座り込みながら酸素を全力で取り込んでいた。
「……ノクターン、これはどういう事なのかな」
「竜は存在自体が魔法そのものと言われるほどに魔力を有している。
魔法は力だ。微々たる力しか持たない人間が、体の大きさも魔力も抑えずにいる我々の前に立てば、弱く脆い人間の身体など、容易く屈するだけの話だ」
「…………ああ、成る程」
私も王国を出て仮面を付けて魔力をかなり抑えるまでは、数キロ圏内の生物を怖がらせてしまって色々大変だったのを覚えている。
人間の私ですら、魔力の多さで動物を怯えさせるのだから、竜からすれば彼らが蹲ったのは当たり前か。
「……私は大丈夫だね?」
「まあ、主人も人間だが……、我が主だからか?」
「ふーん……」
まあ、契約で繋がってるから、おかしなことでもない……のかな。あ、みなさんどうも。最近普通と規格外の境目がわからなくなってきたシエルだよ〜。有言実行という事で、今日はいつもと違う護衛を連れてこれから迷宮に行くの。
「迷宮のある街の手前の森までよろしく」
「迷宮の目の前まで行けるぞ?」
「入口、何と街中らしいんだよね。というか、迷宮ができた後、入口の近くに街を作ったそうで」
「……それはなんというか、……馬鹿なのか?」
否定はしない。万一魔物の流れ出しが起きたら街なんてものの数分で瓦礫の山だろうに。
帝都から比較的近いその迷宮は、毎日利用して儲ける冒険者達が多かったらしい。ここ数日、攻略者の不調により迷宮自体が弱るというおかしな現象が起きた場所である。その為、暫く封鎖され、帝都の騎士が何人か常駐してその警備にあたっているらしい。
「……攻略者を通じて迷宮の魔力を吸い取るってすごくない?」
「正確には、迷宮核、からです」
「ウィルゼンさん。回復した?」
「は、はい。私は2人より耐性がありますから……。例の魔力切れを起こした攻略者のことですよね?」
耐性?と思わなくも無かったけど、それは今どうでもいいや。魔力を吸い取られたとしか聞いてないけど?
「迷宮の魔力は、迷宮核とつながっています。迷宮核と攻略者は支配という契約で繋がっていますが、攻略者本人から間接的に迷宮の魔力を引き摺り出せません。迷宮核から取られたと思われます」
「へぇ……。……一体誰がなんのために襲ってきてるのかはしらないけど、犯人が今までと同一だとして、襲撃の仕方を変えたのって、……攻略者や所有者を殺しても魔力が手に入らなかったからっていう可能性はある?」
「……魔力が欲しくて、攻略者や保持者を襲ったというんですか?」
「さあ、まだ分からないけど。攻略者はともかくとして、貴族の保有者が魔力を多く持っているとは限らないし。そもそも殺害が目的なのか、魔力が欲しいのか、それ以外かも分かってないしね」
魔力を欲しがっている。と言われて、ウィルゼンさんが黙り込んだ。何か思いあたるところがあるのかな?
「……卿とはその話しをしましたか?」
「ううん。たった今の私の思いつきだし……さて、そんな事を言ってる間に着いたよ」
ウィルゼンさんがえ?と首を傾げた。無理もない。何せ、出発してから体感として30分もかかっていないのだから。そして彼らが揃って驚いていて、それ以外が頭から抜けているのを良いことに、
「じゃあ行こうか」
私は、彼らを球体の結界の中に閉じ込めて、そのままノクターンの背中から落下した。
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