第35式
今更な諸注意。
シエルちゃんは割とお口が悪いです。
今回しれっと大怪我したりします。
作者の幼稚な表現文ではあんまり想像力は働かないと思いますが、一応ご注意ください。
準決勝第1試合は、流石、3学年の魔術クラス首席対騎士・剣士クラス首席とあって、見応えのある試合になっていた。魔術クラス首席は結界魔法を発動したまま、僅かに作った隙間から弓で応戦している。開始と同時にその攻撃が始まったが、騎士・剣士クラスの首席は矢を切り落としてじりじりと距離を詰めていく。あと数分もしないうちに接近戦になるんじゃないだろうか。
「接近戦になったら、どっちが強い?」
「ケイオスでしょうね。ラナー嬢の結界では時間稼ぎにしかならない。破られることを前提で策は立てているでしょうが、ラナー嬢が魔法を使えるのはあと1度。結界魔法を維持したまま矢を増幅する魔法を使うそのコントロールは良い宣伝になっているので、その点ではもう負けても称賛ものでしょう。あんなに持続するだけの魔力を持っていたとは知りませんでした。今日のためのとっておきということでしょうね。……ただ、貴女と戦いたがっていたので、勝つ気です。最後の魔法は必殺技、だと思います」
「ケイオスさん?……は体全身と刀に強化魔法、これならかなりの強度の結界であっても壊せるだろうなぁ。このまま進んで結界をぶっ壊して、魔力切れで動きの鈍い彼女に失神魔法か拘束魔法でもかける気か。
……お互い魔法の使用回数が残り1だと、次の魔法が何か、目星がつけやすくなりますね」
まあそれは、私たちも含めて皆同じだけども。
「……シエル様が使えるのは、残り2回。それが無くなったら、剣術、召喚術、錬金術、もしかしたら……体術なんてものまで出てくるんですか?」
「さて、どうでしょう。そこまで来たらいっそ棄権でもしようかな。結局のところ決定打に欠ける手がいくらあっても意味ないでしょう?」
「一般的に、魔術師は魔術を禁じられた時点で戦う術などもちませんよ……。それもかなり高位の魔術師ほど、魔法に傾倒して他の戦術は疎かになる。
……少し前までのあのレイヴィス・ハディルディエ殿もそうでした。噂では、貴女の護衛になりたくて、剣の腕を磨いたとか?」
「わあ。なんてあり得ない噂だこと。三歩歩けば魔物に当たる森を歩くにはひょろい身体じゃ無理だって気付いて体鍛えたんじゃない?」
「三歩歩けば魔物に当たるって、それはどこの迷宮の下層の話ですか……!」
あれ。本気で呆れられちゃった。おっかしいなぁ。割と本当の事を言ってるんだけど。
とか思っている間に、とうとうケイオスさんの剣と、ラナーさん?の結界がぶつかった。
破れる。……そう直感したのと同時に、背にしているドアがものすごい勢いで開いた。
「シエル嬢ぉおおお!!!」
「うぐえっ」
「師匠!シエル様が潰れます!」
「グ、……グラーティアス大魔術師様……!?」
……ああ、もう慣れてきたわ。これ。はいはい。おじいちゃん。シエルちゃんは五体満足だけど現在進行形でおじいちゃんに潰されそうになってるから落ち着いて腕の力抜いてねー。クロイツさん、おじいちゃんをさっさと剥いで。ロベルトさん、魔術師にとっておじいちゃんが超有名人なのは分かるけど、今の姿を見て幻滅とか……あ、しない?……そう。うん、予想はしてた。そろそろ膝をついて拝むのやめたら?
「で、どしたの?」
「……その前に、そこの君は口が硬い方かなぁ?」
そこの君。と言われたのはロベルトさんだ。でもさあ、自分の口の硬さなんて、本人よりも周りが知ってるよね。私は知らないけど。
「師匠、彼は大丈夫です」
「はい!ご心配なら部屋の外にいます」
「うん、いいよぉ。君も中々高魔力だから1人にするよりここにいてもらったほうがいいねぇ」
おやまあ、まるで高魔力保持者に何かあったかのような言い方。
「昨日の迷宮攻略者の冒険者が魔力切れで倒れた件があるだろう?」
「うん。手口がいつもと違うやつ」
「そう。でも、この祭りの準備期間を含めて、魔力量の高いものたちが、揃いも揃って魔力欠乏で倒れてるってさっきクロイツから聞いてねぇ?」
「……迷宮攻略者を狙った訳ではなく、魔力量の高い人間が狙われていた?」
「そう。魔力を吸われた。吸ったものは、魔力量が多い人間を把握して狙った。魔力量が少ないと、吸われたら死にかねないし、そもそも取れる量が少ない。……迷宮攻略者っていうのは、保持した時点で魔力量が跳ね上がるからね。格好の的さ」
「それで私が心配になってわざわざここまで来た……と?」
「私は止めました」
「でも、本当に準備で頑張りすぎちゃった可能性は?」
「無い、とは言い切れないけどさぁ。……倒れたのは皆、魔術師クラスの子達ばかりだったんだよぉ?魔術特化をあつめたような魔術クラスの、その中でも成績上位者が自分の使える魔力を分かっていないはずがないよねぇ?
……というか、本当に分かっていないんだとしたら、普段の教員たちの指導具合を疑うんだけど、ねぇ」
「魔術クラスは、小まめに魔道具を使って実力は把握した上で成績をつけています。……今回の体調不良に関しては、本人たちも無意識に気合が入っていたと言っていて、自覚症状が無いので魔力を取られたのか、半信半疑と言いますか……。とにかく、指摘されなければ誰も気付かないという点で、かなり悪質です。……祭りの最中なので、白黒つけて対応をしたいのですが、シエル様はあと2戦あります。今は無理ですと申し上げたら、安否確認だけでもするといって聞かず……」
よし。クロイツさん。そのままおじいちゃんを抑えてて。クロイツさんは力持ちだからおじいちゃん1人くらい、いざとなれば簀巻きにして観客席に持って帰れる。
「……魔力が吸い取られた……?」
「そぉだよぉ〜。君も十分気をつけ……。ん?いや、お待ち。君も魔術クラスなんだよねぇ?倒れた人が出た時、何か変わったこととかなかったのかぃ?」
……おじいちゃん、クロイツさんに背後から羽交い締めにされたままだからって首だけ向けて聞かないであげて。地味に怖い。ロベルトさんは心酔した顔でおじいちゃんを見ないで。
それにしても、昨日スピカお姉さんが言ってたのはこの事だったのか。研究室でのんびりしてていいのかっていう問いはもしかして、体調不良になる子たちの為にも、無駄に多い魔力を活かして手伝ってこいって意味だったの?察しが悪くてすみませんねぇ……。
「吸血鬼ならぬ吸魔力鬼?……語呂悪いね。魔力喰い(マジックイーター)とでも呼ぶ?厳密には違うけど」
「どっちでもいいですよ……兎に角、先にこの大会の方を無事に終わらせてからです」
……近場が大騒ぎなせいで、ちょっと気づくの遅れた。闘技場内での観客の絶叫に気付いたのは、控室前のガラス窓を突き破った何かが私の首を掴んで一瞬の内に闘技場のフィールドに叩きつけてくれた時だった。
悲鳴まじりにシエルと呼ぶ声がした。
背中側から硬い地面に叩きつけられた感覚は、身体の内部が破裂するような衝撃は、リアルに血の気のひいていく喪失感は、赤色に染まった目で空を見上げるこの既視感は、いや、そんなのは今、
どうでもいい。
痛みとかどこを怪我しているとかそんな事はもう感じなかった。ただ、私の身体を地面に叩きつけて、私の血に染まった手を掲げ、満足したように咆哮を上げるその巨大な鉤爪の付いた腕を私は、心底、嫌悪した。
「うるせえんだよ」
倒れていた身体を起こしてからやる事に躊躇いはなかった。考えてから動くというよりは、考えたときには体が動いていた。
口の中に溜まった鉄臭い体液を吐き出して、その事でより苛立ちながら氷魔法で刀を作り出した。身体に不釣合いな大太刀を。
身体強化、物理強化を施して、地面を蹴って跳躍。風魔法で追い風を作って勢いをつける。そのまま空高く掲げたようなそれを、化物が振り上げていた腕を、爪を折って肉を裂いて骨を砕いたうえで、胴体から切り離して、もう2度と復元出来ないように炎で塵にした。
私に危害を加えた直接的な要因の、末端である腕を一本消炭にしたところで漸く周りがよく見えた。
私は今浮遊魔法で、会場全体を見下ろしている。手にはキューちゃんが憑依した刀を構えている。闘技場のど真ん中で、腕を切り取られて叫びを上げる……異形の人型、それに対して剣を構えるケイオスと、控え室から急ぎ出てきたのだろうおじいちゃんやクロイツさんとロベルトがそこに並んで武器や杖を構えている。
観客は委員たちが避難誘導をしているが、混乱と恐怖でそれどころではない。……と思いきや、流石、上位の魔術師たちが何人もスカウトのために来ていたらしく、慌てずに客席と闘技場の舞台の間に強固な結界を張り、貴族たちも恐怖しながらも、何とか冷静に避難指示を待っているらしかった。
「……あーあ。服がぼろぼろ。どうしてくれるのさ」
腕を切り取られた痛みに悶える異形の人型を結界で囲んでから、フィールド内に降り立つ。異形は私を認識してより結界の中で暴れ回るが出られる訳ないだろうが。
「シエル嬢!」「シエル様っ!!」
おじいちゃんとクロイツさんがすぐさま私に駆け寄ってきて、クロイツさんが素早く着ていたローブを脱いで私に貸してくれた。ありがとう。流石にブラウスの前が裂かれて右脚も全体的に露出してるのは恥ずかしかったんだよね。しかも全体的に血塗れだし。
「クロイツさん、ローブありがと。新しいのプレゼントするね」
「どうでもいい!怪我は!その血っ!クロイツ!早く回復薬を!!」
「シエル様、意識は?動いてはいけません!安静に横になってください!」
おじいちゃんの余裕の無さは口調に出てるし、クロイツさんも有無を言わせず私を寝かせようとするので、落ち着けという意味を込めて近づいて来た2人の手を握った。
「大丈夫。私の身体に、問題はない。心配なら後から幾らでも検査していい。それより先ず、あっちの方が重傷だから」
あっち。と私が示す先にいるのは、異形の人型。ケイオスさんとロベルトさんが険しい顔で結界越しにそれに剣を向けている。
先程私が切り落とした腕は、どうやら背中から生えたものらしく、羽よろしく生えており、片方を失ってそれを探すかの如く、結界の中でもう一つの腕が暴れまわっている。切り落とされた痛みで叫びもがいているのは、その腕の羽を背に生やした女子生徒である。
目は血走っていてこぼれ落ちそうなほどに見開かれ、口を大きく開き喉から飛び出るのは呻き声、一眼で苦しんでいると分かるようなその表情は見ていて愉快なものではない。あの美貌が見る影もない。
両膝を地面について両腕はなにかを堪えるように自分の体を抱きしめ震えている。その身体も、部分的に濃い紫色に変色している。何かにでも感染したかのように、片足や右後頭部や首のあたりが風船のように膨れ上がっていた。そう、何を隠そう。コレは、先ほどまで準決勝第1試合をしていたうちの1人、魔術クラス首席殿である。
「っ、シエル様!」
「お前がいってもなにも出来ないだろう。シエル嬢が後で説明してくれる」
クロイツさんは何の感情もなく近づいていく私に声をあげたが、おじいちゃんに止められた。その間にも私は自分の張った結界に近づいて、そのすぐそばで止まる。
私は異形を見下ろす。異形は私を見上げる。
その目に、憎しみが浮かぶのがわかった。嫉妬、嫌悪。それが強くなる程痛みも増すのか呻き声を上げて目をそらして、痛みになれるのか、落ち着いたのか、また私を見上げて睨む。
「……そんな風になったのは、初めてかな?」
私は鏡を作り出して彼女に彼女自身の姿を見せてあげた。呻くばかりで言葉もなかった彼女だが、自分の今の姿を見て、一瞬全てを忘れたように呆然として、また暴れ出した。
「シエルさん!?」
「いや、再発防止はしておくべきかと思って」
「なにいってるんですか!!?」
「何でこうなったのか、どういう事をしたからこうなったのか。これはここにいる魔術を使う全ての人間への警告だよ」
日々研鑽を積み、共に学んできた彼女を思ってかロベルトさんとケイオスさんが私に掴みかかったけど、それを結界魔法で弾く。私に触るな。
「確かに、魔法力とは偉大なものだよ。衰退しつつある中で、その頂上を目指す気概も努力も称賛に値する。
でもね、いくら強くなりたかったり、権力を得たかったり、どんな手を使ってでも相手に勝ちたいからといっても、どんなに憎いからといっても、……人の魔力を奪って自分の力にするなんて事は、許されることではないんだよ」
「……他人の魔力を、奪う……?」
「魔力とは、十人十色。人によってその量や質は微妙に違う。一つ一つが美しい色を持っていても、それらが混ざりに混ざれば黒になる。混沌だよ。幾つもある魔力には相性というものも勿論ある。その魔力が、身体の中で反発し合えば、身体の中は勿論、こうして目に見える形で、魔力が身体を壊す」
「では、これは……」
「罪には罰をってことかな」
まあ、この魔法をどこでどう聞いてやったのか口を割ってもらわないといけないから、元に戻してあげるけどね。彼女の中から感じる複数の魔力にどうしようもない吐き気がしてくるけど、集中して彼女自身の魔力を探る。……どうやるかについては感覚的なものだけど、1番心臓に近いところにある魔力がそれだから。
「ちゃんと口を割らなかったら、全部終わった後でまたこれに戻してやるからな」
恨み言を呟いてから、関係のない魔力をゆっくり異形の羽に流していく。彼女自身の中から他人の魔力が消えたところで、結界で羽を切り落とせば、同時に身体にあった変色や変形も消えた。
回復魔法をかけてから一応拘束魔法をかけておく。襲われたらたまったもんじゃないしね。クロイツさんの指示で教員が彼女を連れて会場を出ていく。
「審判!彼女、4回魔法を行使した!」
ステージの端に隠れていた審判に声をかける。怯えていたもののすぐにこちらまできて、彼女の反則により、ケイオスさんの勝利を宣言した。
「それと、私もついさっき魔法を4、5種類使ったから失格」
「「「え」」」
「なのでロベルトさんは不戦勝。今から決勝やって」
「「「え!?」」」
ケイオスさんにも回復魔法をかけてからおじいちゃん達に声をかける。有無を言わさず私たちがステージから離れると、審判は私の失格宣言をして、一度荒れたステージを直してすぐに決勝を行うと宣言した。
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