第36式
あけましておめでとうございます!
部屋に駆け込んできたのはクラウスだった。落ち着こうぜ、皇子様。
「シエルッ!!」
武闘大会は無事終了した。準決勝のアレは魔法の暴走ということにして、つつがなく終了した。アレをどうやったら無事終了なんかに出来たかと言えば、……おじいちゃんとクロイツさんが無事終了に持っていったとしか言えない。まあ、実際?観客に被害は無かったし。全てフィールド内での出来事だし。ルールに則って私と彼女は失格だし。
クラウスはあの騒ぎの時護衛たちに囲まれて避難させられて動けなかったらしい。正解。王族を危ない場所に立ち入らせちゃあかんよ。
で、表彰式まで終わらせてから、私たちが待機している教員専用の区画に急いで来たらしい。よほど急いだのか雑に開けられたドアが可哀想。ついでに一応のためにクラウスの護衛の人たちが息切れしてるよ?訓練し直した方がいいんじゃない?
「はろー、クラウス」
「お前!なんで寝てないんだ!あんなに血を流しておいて無事なはずないだろ!!」
そう、私は現在ソファーで寛いでいた。うん。血はどうしようもないから、一応さっき来た医者に貧血って言われて、そのせいでこうして寛いで安静にしてるんじゃないか。
「落ち着いてください。先程確認しましたが、本当に怪我はもう無いようなんです」
「……怪我が、無い……?」
「魔法で治した。傷跡もないよ。ただ失った血はどうしようもないから貧血。だから今休んでる」
「服は回収したので、シエル様が怪我したことや私たちが見た事は事実です。何にせよ、シエル様がかなりの魔法行使をしたのは間違いありません。精密に調べるまでは大人しくしてもらっています」
「大袈裟だなぁ」
「私のローブの内側が真っ赤になったんですよ」
「ごめん、それは謝る。新しいの贈るから」
「それは怒っていません。だから大人しくしていてください」
おじいちゃんはさっきまでここにいて甲斐甲斐しく私の世話をしてたけど、女子生徒と私がおいかけっこに放ったケットシー達が連れ帰った、私を迎えに来たあの生徒達を教員や城の関係者各位と共に取り調べに行ってる。
そこまで聞いて漸く、クラウスは気の抜けたように椅子に座った。
「……シエル」
「ん?」
「……すまん」
はい?急に謝られた。びっくりした。クロイツさんも首を傾げている。
「お前が普通だったら、死んでいた」
「……まあ、そうだろうね。でも生きてるし、クラウスが謝る必要は無い」
「……俺が出場を推し進めなければ、買わなくて済む恨みもあっただろう」
私への妨害行為をした案内係は偽物だったらしい。で、その偽物たちは騎士・剣士クラスの、予選落ちした人たちで、そこと結託したのがあの魔術クラスの首席らしい。
「……クラウスのせいじゃないでしょ。他人の感情なんてコントロールできないし、私を勝手に恨んで、勝手に妨害工作をして、勝手に暴走して私を殺そうとしたのは、彼らであって、クラウスではない。なのに謝られても困る」
「……それは、…そうだが」
「皇子。原因は究明中ですが、何にしろ、勝手な逆恨みと妬みでやらかした事を悔いられてもシエル様の利益になりません。悔やむならシエル様の役に立つ事で返しましょう。
そういう訳ですので、シエル様。何かご要望はございますか?」
そんな、御所望って聞かれても。願いは1つに決まってるじゃないか。
「護衛外して」
「「却下!」」
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「結局、学内での体調不良は、あの女子生徒が原因だったよ。決勝でシエル嬢に勝つために、騎士・剣士クラスの燻ってるのに声をかけて、シエル嬢が準備する時間を潰して、増大した魔法でシエル嬢を潰すつもりだったらしい」
「……正々堂々と来れば、正々堂々と叩きのめして2度と盾つかないようにしてあげたのに。それで?結局、アレは禁術だよね。どこから方法を仕入れたって?」
「それがねぇ……」
おじいちゃん達が尋問してみたものの、要領の得ない回答しかなかったらしい。仕方がないので本人の同意の元自白剤を飲ませて(どうやって同意を取ったのかはなぞ)、その上での尋問になったが、やはり曖昧。というか、自分がどんな力を何から得たのか、分かっていないようなのだ。
彼女の中の魔力を探って私も少々思ったことがあった。……禁術を使ったにしても、淀みが少なかった。彼女は他人から魔力を奪うという禁術と、それを自分の魔力として変換する禁術を使っている。禁術は強い呪いだ。使用者の綺麗な魔力を歪ませるのが通常なので、多分彼女は両方は使ってないと思う。
ここで誤解のないよう言っておきたい。魔力を他人に分ける術はある。緊急時、魔力の少ない人間に、多い人間が分け与えるのだ。そしてそれは禁術ではないし、王城の書庫の本にも載ってる。多分私も過去に何度か使ってる。勿論奪うんじゃなく、与えてる方であるが。
では何故彼女が使ったのが禁術になるかと言えば、勝手に奪ったから。である。与えると奪うでは、結果が同じでも後者はただの呪いだ。魔力を分け与える術は、通常両者の同意があって成立する。そしてその陣や式も同意がなければ発動しない。対して禁術の方は、片一方の要求で、最悪の場合全ての魔力を吸い取るくらいのことができる。だから禁止されている。魔法が衰退し始めているこの国では、大昔の文献にその禁術を使って罪人を罰したことくらいしか書いてない。
……禁術なので、普通は手に入らない。彼女が使ったのが式ではなく、陣というところも気がかりだ。一体誰が持っていたというのか。それを把握しないと次が起こりかねない。
ああ。それで、彼女が使ったのは、魔力を吸い取る禁術と魔力を変換する禁術の筈なんだけど、2つの禁術を行使した割に、彼女自身は無事だった。それは、彼女が禁術に耐えられるだけの魔力量を元から持っていたか、行使した禁術が片一方だけだったということだと思う。前者の可能性は直ぐに捨てた。ありえない。でなければあんな異形の姿にはならなかった。となれば、もう片一方だけ使ったと思われる。
「……クロイツさん。彼女の直近の研究テーマは?」
私の唐突な問いかけにクロイツさんは戸惑い、おじいちゃんをみた。おじいちゃんは黙ってうなずく。
「……魔力譲渡について、です」
「そう。じゃあ使った禁術は、魔力変換の方だね」
「……なぜ、そう思うのかなぁ?」
「2種類の禁術の研究に手を出してて気付かないほど、クロイツさん達は間抜けじゃないでしょ。だから研究は一つずつ行った筈だ。魔力譲渡に関しては情報が規制されたせいで調べることができない筈。なら、魔力変換の方を研究するだろうね。そして、それが完成したからこそ、研究テーマを譲渡の方に切り替えた。
テーマを切り替えてからどのくらい?」
「……創立祭の準備期間に入る少し前でしたから、まだ2週間程度です」
「何でその2つのテーマだったのかは知らないけど、切り替えてから2週間で研究なんて完成しない。
でも彼女は実際に、他人の魔力を奪った。とするなら、彼女に誰かが、魔力を吸い取る術を与えたことになると思ってね」
「だからと言って、彼女が使ったのがどちらも禁術であることに変わりはないんだろう?」
「使っていなかったとしたら?」
「は?」
「彼女の魔法からして、使った禁術が変換の方なのは明らか。ならどうやって魔力を奪ったのか。どう考えても禁術。なのに彼女自身からはそれを使った形跡が全くない。ならば答えは簡単。
吸い取る禁術を使った者が他にいる」
そこまでいってから脱力する。そもそもたかが学生に、しかも天才的な魔力の質や量も持たない人間に、禁術の同時使用なんて無理な話だ。彼女は秀才。天才じゃない。引き合いに出すのは不本意だけど、私やおじいちゃんやクロイツさんといった、大量魔力消費する古代魔法を普通に扱えるような奴じゃなければ、今回の彼女の行ったとされる魔法2つを1人で行使するのは不可能だ。
「……彼女に入れ知恵した奴ってさ、昨日の魔力喰らいじゃない?」
「そう思う根拠は?」
「特になし!私の個人的な感覚だし」
私からはもう特になし。疲れた。寝る。と告げてそのままソファーで寝ることにする。流石クロイツさん。透かさずしっかりブランケットをかけてくれたよ。
血って戻らないんだねー。うええ。
「とりあえず今日はもう帰ろうか。創立祭は明日回ればいいし。シエル嬢のお友達にも伝えておくれ。無事だから心配しないようにってさぁ」
「承知しました」
「シエル、ゆっくり休めよ」
「シエル嬢、持ち上げるよぉ?」
うん。何でもいい。とりあえず眠い。あとはなるようになるだろう。女子生徒達の処分?暫くは懲罰部屋にぶち込んで待っててもらうよ。罰は私の体調が戻ってからだ。
そしておじいちゃんの家に戻ったら戻ったでこれまた大変だった。メイさんとケットシーに散々世話を焼かれた。いや、確かにね、食べないと血も増えないけどいざとなれば増血剤ってものがある……あ、はい。すみません。そうですね、普通の食べ物で戻るならそっちの方が健康的です。ごめんなさい。
ブチ切れ状態のケットシーと笑顔の威圧のメイさんによって、私の体調は次の日には戻った。
「……怖かった」
「うん、シエル嬢?……どっちの事かな?」
「メイさんとケットシー……」
「……死ぬよりはマシだと思う」
「おじいちゃん気を付けて。昨日から化けの皮剥がれかけ」
「……剥がれかけとは酷いなぁ。シエル嬢が心配だったんだよぉ〜?」
「それはどうも。私を心配してくれるような人が居ることに昨日から驚きっぱなしだよ」
「……沢山居るだろう?」
「さて、どうかな」
物語の事を考えると、王国の人間は私を殺したいと思ってはいても、心配なんてかけらもしていなかった筈である。
まあそんなことはどうでもいい。
「それより早く学校。今日も午前中に演劇やるんだから」
「召喚獣を使った演劇に、召喚獣によるオーケストラでの演奏をつけるなんてね。昨日は見てびっくりしたよぉ。
昨年度まで見向きもされなかったのに、今日は超満員だろうねぇ」
いや、演劇は本当に素晴らしいし、ケットシー達も本職っちゃ本職だからな。
「これで来年度の召喚術クラスは賑やかになるんじゃないかなぁ」
「これだけで?」
「勿論それだけじゃないよぉ。昨日の武闘会で、シエル嬢自体に興味を持つ輩が増えたからねぇ……。強さもわかっただろうし、召喚術が出来なくともクラスに居座って繋がりを持とうとしたり、魔術とかを教えてもらおうとしたり……兎に角今まで以上に気の抜けない年になるだろうねぇ」
「……」
「大丈夫だよぉ。えっと、教授の……フィリペ君だっけ?彼は今までもそうだけど、召喚術クラスに希望を出した生徒については必ず試験を行ってる。その基準に満たない場合は親が圧力かけても金を積まれても断固拒否してるからね」
「へぇ……」
そうか。一応選別はちゃんとしていたのか。少し見直したぞ、教授。
「まあ何にせよ、何か妙な事をしてくる輩がいれば叩き潰すよぉ」
「叩き甲斐があるといいねー」
正直今回みたいなのは勘弁して欲しいけど。
予約投稿する前に力尽きて投稿が遅れましたごめんなさい。
今週もありがとうございます。




