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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第34式



「……なんでこうなったんだろう」


シエルはいつだかクラウスと手合わせしたあの闘技場の中央で。指揮棒を片手に、迫りくる真剣を避けていた。今シエルにとって重要なのは、何故指揮棒を持ったまま会場につれてこられたか、だった。

自分の手には金属製の指揮棒が一本。身体に強化魔法を施してもいない。対して相手側はシエルの身の丈ほどもありそうな片刃を軽々と振り回すその身体は筋骨隆々としている。あれは全身に強化魔法をかけてあるな。元から出来上がっている身体を更に強くするのは、戦法として間違ってはいないだろう。何せシエルは武器らしい武器を持っていない。ならば、戦闘不能に持って行くとするなら、相手の身体に攻撃を仕掛けるだろうという読みからそうしたのが見て取れる。


「時間がないからって、演奏終わってそのまま待機室に放り投げる必要あるかね?」


しかも迎えに来たのは大会委員の腕章を付けた知らない生徒で、待機室に来てみたらきてみたで、まだ大会の1回戦第1試合が始まる前。それはそうだろう。よく考えれば分かるはずである。演劇が終わる時間はお昼前。大会が始まるまで1時間は間があるのを分かっていたのだから。その間にお昼を食べ、武器を揃えて待機室に向かう予定だった。

公正に大会を行うために、待機室に一度入ったら新たな武器の持ち込みは禁止されるため、出場者は自前の武器や装備を確認した上で待機室に入ることになっていた。

それを踏まえた上で、シエルの現在の状況は、シエルは何者かの指示で、準備をする時間を奪われた上に、装備も武器も用意できなくされたということだった。


「……うーん、明らかに妨害行為だよねぇ」


クラウスに報告すべき?でもなあ、どうせなら犯人の生徒(クソガキ)をとっ捕まえた上で報告したいしなぁ。それに下手に報告して、問題発生したから大会はもうしませんってなったら、折角頑張ってきた人たちの努力とかが全部無駄の泡になる。私は別にいいけど、……最近クラウスたちは頑張ってたしなぁ。


明らかにどうしようかとマイペースに悩みつつも、普通に鋭い攻撃を避けまくっていた。


それに対して、可哀想に。攻撃を仕掛けている生徒は困惑していた。スピードを上げても、不意打ちを狙っても、背中側から攻めても、……この試合が始まってもう10分は経過するというのに、此方の攻撃が当たらない。擦りもしないという事実に。未だ魔法の使用すらもしていない相手に対して、自分が使えるのはあと2回。

昨日行われた予選と先程の一回戦で使った拘束魔法と失神魔法に使う予定であるので、騎士・剣士クラスに身を置いている以上剣術で相手を制圧するというノルマを自分にかけていた。

彼にとっての貴族騎士道精神的に、武器を持たない女性を傷つけずに戦闘不能にして勝利する事が彼の中では大前提であるからだ。予選の際からそのやり方を徹底していた。男どもが相手の場合は容赦なく体術を交えて隙あらば殴って昏倒させて勝利を手に収めたが、相手が女子生徒の場合は直接狙うのは武器だけ。追い詰めたり、動きが止まったらすかさず魔法で拘束して、失神魔法で戦闘不能に追い込んでいき、予選を勝ち抜いた。

決して弱いわけではない。事実、一回戦の相手は騎士・剣士クラスの2学年の次席だった。それを秒で倒した実力がある。

だから彼は勝負中にそれだけ自分の戦い方を押し通すだけの自信があった。彼の名誉の為にも言っておこう。彼は決して間違っていない。強きものは、その戦いの中に自分なりの美学や誇りがある。彼の場合は超フェミニストなだけだ。だが、それはあくまでも、自分の方が強かったり、実力が拮抗している場合だ。そもそも拘束魔法と失神魔法というのは、使い方が難しい。確実に使うためには、条件があり、少なくとも今のこの状態でシエルに対して発動するのは不可能だった。


……簡単に言うと、この試合、勝ちたいのなら容赦なく自分の身体ではなく刀を強化して、多少の怪我をさせることを覚悟で魔法攻撃と物理攻撃の両方で仕掛けるべきだった。彼の敗因を挙げるとするなら、相手がシエルだったこと。そして彼が超フェミニストだったことだろう。

彼女に勝てる、なんていう希望的観測は、会場を焦土とするくらい容赦のない攻撃をしてから立てるべきだった。


「観客へのアピールは終わりでいい?」


愕然とした様子を見て、シエルはその試合初めて、避けるのをやめて刀を受け止めた。……それも、指揮棒で。


会場が響めき、一部から黄色い声が上がった。召喚術クラスからである。……公爵達の特別席からも超ご機嫌にシエルの名前を呼ぶ声がしたが、そちらについてはスルーして、シエルは剣を弾いた。対戦相手は距離をとって剣を構えた。流石に指揮棒には強化魔法をかけているらしかった。淡い光を纏った指揮棒をシエルは前に構える。


勝負は一瞬の両者のぶつかり合いの後、シエルではなく対戦相手の生徒が倒れることで決した。

会場が歓声でいっぱいになる。対戦相手の生徒は意識を保ったまま、身体がぴくりとも動かずに正面から地に伏せていた。


「三回戦へと進むのは召喚術クラス代表シエル!」


審判の宣言で、シエルの勝ちが宣告された。会場中から拍手が上がる。シエルは一応といった感じで一礼だけして、未だ倒れたままの対戦相手の近くに座った。審判と救護員が駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。ただ身体が動かないだけで後は何も……」

「シエルさん!何したんですか!」

「なにって……。ちょこっと身体が動かなくなるツボを押しただけだよ」

「「「ツボ?」」」


少し寝てれば全快するから大人しく医務室に寝かせとけ。と、シエルの指示で救護係が生徒を担いで退場していくのを見届けてからシエルも待機室へと向かった。もう次が準決勝なので一度応援席に戻る時間はないのである。……まあ、応援席に行ったら行ったで囲まれるので、大人しく待機室にむかうのだが。


「シエル様、凄いですね。2年生とはいえ次席を赤子の手を捻るが如く倒してしまうとは」


待機室の中には、ちょうど出て行こうとしている2人ともう1人がいた。出て行こうとしている2人のうち1人が気付いてシエルに声をかけた。3年の騎士・剣士クラスの首席だ。シエルに対して挑戦的な挨拶をしたあの青年である。もう1人はどうやら魔術クラスの人らしい。明るめの青色の髪の美少女だ。チラッとシエルを見てさっさとドアから出て行った。敵意を感じた。いいね!お互い決勝まで行ったら思う存分戦おうじゃないか!!と、シエルは内心思いながら肩を竦めて見せた。


「失礼、勝負前で気が立っているようなんです。魔法の使用が3回までとされたので、彼女にとっては少々、……不服だったようで」

「へぇ……」

「ですがシエル様と違い、1試合で3回まで使えるんですから、もう少し喜んでいいと思うのですが……」

「まあ、彼女は魔術クラスなんですよね?派手な攻撃魔法を何種類も使いたかったなら、あの反応は仕方がないと思います」


そう、シエルに課せられたハンデは大会中に使用できる魔法の回数が3回まで。というものだ。しかし、それで他の生徒が使い放題というのはどうなんだという訴えがあったらしく、他の生徒たちは1試合につき魔法を使用できるのは3回までというルールを急遽加えたらしい。

それを苦々しい気持ちで受け入れたのが魔術クラスの出場者というわけで、シエルはかのクラスからは睨まれていた。理由は剣術クラスとほぼ同じである。まあどちらにしろ、シエルのせいではない私怨である。……1試合につき3回使えるだけ、大会中3度しか使えないシエルよりもかなり有利ではあるのだが、恨めしく思っている人間に何を言われても聞かないだろう。


「ところで、シエル様。……その指揮棒が武器なんですか?」

「ううん。ここに放り込まれるまで、演奏してて、そのせいですね。だから準備とかろくにしてないですよ。まさか、大会委員がわざわざ準備前に迎えに来てここに私を入れるとは思ってなかったです」


そのシエルの刺々しい言葉に、首席の男と、離れた場所で話を聞いていたらしい準決勝の相手は不快そうに顔を顰めた。


「つまり、君は丸腰で戦場に叩き込まれたと?」

「……大会委員に抗議する」


首席がシエルに確認を取り、準決勝の相手が怒りもあらわに部屋を出ようとするのをシエルが止めた。


「まあまあ、過ぎたことはどうしようもないし、落ち着いて。その辺の不手際は初の開催なんだからあるでしょう。終わってからの反省点に加えればそれでいいし」

「シエル様、もしかしたら貴女以外にもそんな事をされて、負けた人間がいるかもしれません。その人たちが貴女のように許せると思いますか?」


……待ちに待って漸く掴んだ本戦出場。しかし誰かの卑劣な行いで、丸腰で大会に出る羽目になり挙句無様に瞬殺されたら?

そんなもの、誰も許すはずがない。


「んー私ならとりあえず、5/6殺しにするかな」

「……それほぼ死んでませんか?」

「だって2/3じゃたりないもの」


再発防止に努めるにはそれくらいで丁度いいんじゃないかと平然と言い放つシエルに対して、彼ら2人の方が冷静になった。

シエルは2人の魔力を見て、彼らではないと確信した。


「まあ多分、私だけに嫌がらせをしたかっただけでしょう。……次の試合におくれますよ」

「あ、ああ。すまない。ありがとう。それではシエル様……または、ロベルト君、決勝で会おう」


首席が颯爽と出て行き、ドアが閉まった。ロベルトと呼ばれた彼もまた魔術クラスらしい。ただし、親が2人揃って騎士団所属のため、小さい頃から剣の腕は磨いており、冒険者のランクではもうじきAランクに上がるらしい。


「……私が言うのも、変な感じだが、私は容赦なく貴女を倒す為に剣を振るつもりだ。手加減はしない。勿論刃を隠すつもりもない。

剣士としても、1個人としても、君に武器を持ってもらい、形だけでも対等な舞台を作った上で戦いたいのだが」

「うーん……でも武器の持込みのルールはルールですし……」


錬金術で作ってもいいけど、結構面倒だし。と、シエルが渋ると、作り出す時間はあげるからとロベルトが熱心に説くので、シエルは了承した。何作ろう、と悩むことにはなったが、どうせ戦うなら出来る限り対等な条件で戦いたいと言う意見を尊重しようと思ったからだ。


闘技場のど真ん中、衆人環視の中で武器を作り出すのはルール違反にはならない。変な小細工は出来ないからだ。魔法で防御の為の壁を作り出したりするのと同じようなものとされる。

そこまで考えてシエルは、彼女に嫌がらせしたい誰かは、武器を取り上げてハンデの上に不利な状況を作り出し、更にシエルが魔法の使い方に頭を悩ませるように仕向けてきているのだと理解して、……大変不愉快に思った。これは、心の広いシエルでも、流石に"害を加えられた"に分類する嫌がらせである。


「……ケットシー、ヴァウンティーズと一緒に"おにごっこ"しておいで」

「りょーかいですにゃー!

生かさず!殺さず!じわじわと!

頑張りますにゃあ!!」「「にゃぁ!」」


シエルがケットシーと共に、小柄な狼たちを喚び出して放つ。この創立祭の期間中は、召喚術クラスもアピールのために、ミティ達も召喚獣を出来る限り出している。なのでケットシーが狼に乗って走りまわってもまあ大丈夫だろうという考えからだ。一応契約済みと分かるようにシエルの仮面とまったく同じ面を首から下げているので、変なことをする輩もいないだろう。おそらく、客の誰かが手を出そうとしたら、周りにいる生徒や教員が全力で止めるはずである。

因みにおにごっこの鬼は誰かと言うと、……まあ、言わずとも察してもらいたい。


「……今のは全て君の召喚獣なのか?」

「うん。私のお友達と相棒。多分試合が全部終わる頃には捕まえて帰ってくるよ。


ロベルトさん、お言葉に甘えて、私も加減しないからね」


私に嫌がらせした連中への嫌がらせは、私が優勝することだから。とシエルが余りにも愉しそうに言うので、ロベルトは苦笑を返すしかなかった。




ロベルトくん。3学年魔術クラス次席。伯爵家次男。首席の尻に敷かれ気味。多分将来は押しと気の強い淑女に捕まって結婚して尻にしかれる。

読了ありがとうございます。

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