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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第33式



陛下のお言葉の後に、由緒ある魔法学校の門は開いていく。貴族たちの馬車は中門まで進み、そこで降りて、その足で門をくぐれば、手入れのされた緑の絨毯を踏む。さらさらという水音に顔を上げれば、見事な彫刻と造形の噴水があり、その奥に歴史ある校舎が堂々と存在を主張している。

貴族たちは毎年、この風景を見て、入学前の子供たちをそのまま校舎内へと連れて歩くのが慣例だ。……失礼、少なくとも昨年まではそうだった。門から脇目も振らずに校舎内へというのが当たり前だった。特に見るものも無いから。だいたい、校舎までの野外ステージでパフォーマンスをするのはあの廃れた召喚術クラスで、その演劇も御伽噺の1話を演じたに過ぎない出し物。感想も感動もなにもありはしない。足を止める理由などどこにもなかったのだ。


観劇が趣味と広く知られているフラルト伯爵は、来年度入学を控えた下の娘を連れて、創立祭に訪れた。彼は目が肥えているので、学生のお芝居など見る気は無かった。だが、彼ではなく、彼の娘が足を止めた。

急に立ち止まり、伯爵のかけた声に反応もせず一点だけを見ている。一体何だと伯爵は視線の先を辿り、噴水前に目を止めた。気付けば自分たちだけでなく、目当ての場所に急ぐ貴族たち以外は興味深そうにそれを見ている。


ある程度視線が集まったことに気付いたのか、魔術師を示す紫のローブを羽織った不思議な仮面の少女が大変優雅に一礼した。よく見てみればその足元で、1匹の猫妖精もまた、お辞儀をしていた。猫妖精の手に握られているのは、楽器だ。少女が片手を上げる。そこには指揮棒の姿が。すかさず猫妖精もトランペットを構えた。


そして音が、動き出す。


伯爵達は気がつけば、昨年度までの野外ステージとは思えない劇場の客席に座り、見事なハーモニーに聴き入っていた。席は既に満員で、壇上の猫妖精の音楽隊の演奏にただ圧倒されている。引いては迫り来る音の波、嵐の前の静けさが訪れ、いつのまにか天幕が客席を覆って、世界と切り離されたような空間が出来上がっていた。だんだんと終わりに向けて駆け足に、大きく、深くなっていく演奏。終わりは突然に訪れた。自然光の中で、指揮者がその音を掴んだ。瞬間、昼から夜へと、空間が変貌した。天幕をしてもなお明るかったその場は、ステージを除いて真っ暗になり、そこには大楽隊が居たはずだったのに忽然と姿を消していた。ステージの上には人間と、獅子、白鳥がいた。『異種族大戦』の最終章の始まりだと気付くのに時間はかからなかった。

変人クラスの、お遊び程度の劇。少なくともこの時まで、伯爵はそう思っていた。

大変珍しい猫の演奏につられて来てしまったし、間髪入れずに劇も始まってしまったし、とりあえずは見て、あまりにくだらなければ途中で退席すればいい。周りもそう思ったのだろう。出て行く貴族は居なかった。そして、劇が終わるまで、結局誰も出て行かなかった。

何故ならまた、時間を忘れてしまったから。

演劇も素晴らしかったが、場面やセリフに合わせて、出演者の演技を邪魔しない程度でありながらも相応しい音楽や効果音が付いていたのだ。恐らくそれを演奏しているのは、先程までの猫の楽団だろう。あんな演劇は見たことが無い!非日常の中に、物語の中に入り込み、すぐ目の前でその世界を観た!この野外ステージより遥かに設備的にも出演者の技量的にも優れた帝都の劇場でもここまで観客を魅了したことはないだろう!

劇のフィナーレではスタンディングオベーション。学生演劇への見方が変わった瞬間であった。


天幕が開いて、昼が戻ってくる。現実に戻って行く。それが名残惜しく感じた。伯爵は娘に、もう一度見たいと言われ、自分もそう感じた為に、次の公演はいつかと客席に案内してくれた学生に尋ねれば、なんと本日はもう開演しないという。


「召喚獣は、召喚者にとって、大切な家族なのです。皆様にアンコールを頂けるのは大変名誉な事とは思いますが、役者たちを、頑張ってくれた家族を休ませる事が、本日の公演を終えた私たちの今一番やるべき事なのですわ」

「し、しかし……」


もう一度、観たい者はいるぞと言う前に、娘が声をあげた。


「召喚獣は、主人の命令に従うものですよね?それにもう一度やったら、もっと人もよべるんじゃないですか?」

「それは違いますわ」


令嬢はピシャリと言い放った。

よくよく見れば、彼女はあのシェアース侯爵家のご令嬢ではないだろうか。学業優秀でありながら変人教授の専門である召喚術クラスに在籍しているという、あの。


「准教授は、仰いました。

"自分と彼らは対等である。自分が足りないところを補ってくれる存在を大切にせず、従わせているだなんて思う者に、従ってなどくれない。かといって媚びてもいけない。なぜなら命という一個体である以上、対等だから。

従わせるのでも、媚びるのでもない。

彼らは友人なのだから"……と。

つまり、頑張って疲れた友人に鞭を打つ行為は絶対にあってはならない。……そう教えてくださったのです。

あの方はあまり好んで教壇には立たれませんが、やる時にはかなりやるお方です。大切な事を教えてくださいます。


私たちは、召喚術クラスであって、演劇クラスではありません。

確かに明日や来年度のことを考えて、頑張ることは必要です。しかし、それ以上に私達は召喚獣達を大切にしています。


召喚獣は家畜ではありません。そこは是非、皆々様、忘れずに帰ってくださいな。

本日の公演は、以上です」


シェアース侯爵令嬢は凛として言い放ち、舞台の方へと消えていった。


「……お父様、今の方は……?」

「シェアース侯爵令嬢だ。学力優秀者の特Aクラスに所属しながら、召喚術クラスを希望した……。……確か、ミティ嬢だったか」


変わり者。とは流石に言えずに伯爵は言葉を濁した。


「……ミティ……お姉さま……」


……娘が恋する乙女のように、去って行く後ろ姿を見ていることに気づいて絶句したわけでは無い。……多分。


……因みに、シエルはミティ達に講義中に言ったことなどほとんど覚えていない。何故なら教授に運悪く逃げられた時のみ講義に出席して、基本的に召喚させて、その相手とコミュニケーションをとらせていただけだからである。その間にミティ含む学生達から、ケットシーとの関係性などについて質問されて、ものすごく適当に答えていただけだからである。

その適当な言葉をミティ達が都合の良い脳内変換をして聞いた結果、なんとびっくり。先生っぽい事を言っていた。ということになっていたらしい。


さて、その頃、ケットシーとその部下の楽隊との演奏を終えたシエルは、急ぎ武闘会の会場に来ていた。試合が始まるから、と、実行委員が迎えに来たのである。準備する間も無く待機室に放り込まれた。


劇が終わって一安心……ではなかった。

むしろこれからが本番だった。


「では2回戦、第4試合を開始します!」


読了ありがとうございます。

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