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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第28式


ちょっと昔の話をしようか。なんて事もない、他愛のない、ただのおとぎ話だと思って聞けばいい。……ただの暇つぶしなんだから、政治とかの話をするわけ無いだろう?今からするのは、本当にただの暇つぶしのおとぎ話だよ。



ある所に、少女がいました。

少女は他の人間より少しだけ生まれ持った資質と才能に恵まれて、……他の人間よりも狭い世界にいました。

権力者に守られているように見えて、実は支配されて、親から隔離されて生きていました。

その分と言わんばかりに、信頼の置ける人間も近くにいたため、不自由ではありませんでした。……実際はそうでもなかったのですが、事実として、少女は不自由を感じておりませんでした。……それ以外の感情も持ち合わせていなかっただけの話ではあったのですが。

ある日少女は、自分の失ったものばかりを持った人間と出会いました。

そして、信頼の置ける人間すらも失って、彼女は独り、眠りにつきました。



……ん?可哀想な女の子の話なのかって?まあそうだね。ここまでは。

重要なのはこの先だよ。



眠りについた少女は、とある希少で高潔な生き物の娘でした。勿論、その事に親が怒らないはずがない。

ただでさえその生き物は同族に対して愛情深いのです。それが娘ともなれば、愛情の大きさは考えるまでもありません。

その生き物は、ただ、悲しみました。悲しみを忘れたいがために暴れました。

生き物が手当たり次第に生物を殺し回ったせいで空から赤い雨が降り、

生き物がその尾を感情に任せて振り回したせいで緑豊かな草原は枯れてひび割れて、

生き物が昼夜問わず泣き続けたせいで大地を揺るがしその余波を受けて火事や洪水などが起きはしましたが、

その生き物は、ただ悲しみ苦しんでいただけでした。

その原因は人間にある。だからその生き物を止める同族は居ませんでした。彼らとて同族を失ったと同じなのです。同族としての愛情がある。

その生き物は結果として、丸3日ほど暴れ続けました。



一部の人間がやらかした事で、結果的に人間全てが恨まれてしまったわけだよ。迷惑な話だ。……もっと迷惑な話、その一部の人間が、僕らの先祖なんだよね。……ああ、こうして僕らが生きている以上、国は滅びなかったんだろうね。え?続き?おとぎ話なんて嫌いって言ってたのに、どういう心境の変化かな?……まあいいや。



……王はその生き物に許しを乞いました。そして少女の目を覚まさせる方法を尋ねました。

しかし、その生き物は眠ったままの少女を見つめ、彼女はそれを望んでいないと言いました。

ただ眠り続けるだけの、人の形をした生き物。その魔力が尽きるまで、眠りながら生き続け、尽きれば死ぬだろうと言いました。

王は少女を城の地下深くに隠し、その生き物と契約して少女を守らせ、魔力を生涯送り続けたそうです。



おしまい。……え?面白くもなんともないって?いや、おとぎ話だから、ね?そこまでして何で王がその少女を守ったのかっていえば……それは……まだ、君には分からない事だよ。大きくなればきっと分かるさ。



「……また、変な夢だ」


最近眠れるようになって来たけど、度々変な夢をみるから困ったものだよね。

もう見慣れた天蓋のベッドから身体を起こす。……まだメイさんが起こしに来るまで小一時間もあるのに。


ここ数日、クラウスの紹介を受けながら、武闘大会の出場者と会ったり、例の爆弾好きな生徒たちに爆薬の芸術作品への使い方を教えたりしたから疲れたのだろうか。精神が。有り余る魔力は肉体を最善の状態で保っても、精神ばかりはどうしようもないし、寧ろ大きすぎる魔力は持ち主を揺るがす事が多々ある。……そんな事で屈する私じゃ無いけどね!

でも変な夢は偶に見る。今日みたいに。

それで少しセンチメンタル。……似合わないだって?乙女に対してその対応はナシだ。


読書するにはまだ外が暗いし、しかし物音立てて活動するわけにもいかないし、仕方がないのでまたベッドに逆戻りして、先日の怒涛の出場者顔合わせを思い出す。

簡単に言えば三パターンだった。

敵意か、興味か、恐怖か。

因みに爆弾魔と呼ばれた薬師クラスの生徒たちは興味の方だった。曰く、私が預かり知らぬところで、彼らは私によって命を救われたらしい。……最近多いなぁ。私が知らない間に命を助けてる人間。まあその中でダントツで厄介なのはレイヴィスさんだけどね。因みにそのレイヴィスさんは、どうやら歴代チャンピオンの1人らしく、鍛錬の相手に引き摺られて行くことが多く、私の近くにはいない。最近私の周りが静かだったでしょー?いないなぁーって思った人もいるでしょー?レイヴィスさんの出番がほしいー?大丈夫、側にいないけど見守り隊という名の監視用のインコが、おじいちゃんの屋敷を出てから帰るまでずーっと一緒だから。

ストーカー、と前におじいちゃんと一緒に指摘したら、護衛役として、自分が側にいられなくとも常に護衛対象の様子を確認できるようにしておくことは当然の事だと開き直っていた。潔すぎてどうでもよくなったわ。

話が逸れたけど、薬師クラスの2人は興味を示して来たひとたちだった。なんとびっくり、私に記憶はないんだけど、私に命を救われたことがあるそうだ。自称私に命を救われた生徒たち(爆弾魔)に、正しい爆薬の芸術作品への使い方を教えた。

一体何を教えたって?決まってるでしょ。

花火だよ。自分達の爆弾という芸術作品を見てもらいたいなら、花火だって立派な爆弾だし、なにより皆が見て喜べる爆弾の方がいいでしょ。幸いにも彼らは爆弾の威力を見て驚く顔が見たかっただけらしいし。私の交渉で意図も簡単に爆弾作りから花火作りに興味を移してくれたあたり、彼らはある意味無害な爆弾魔だろう。

それからクラウスが言ってた例の元第3騎士団長に入試で勝った実力者とはじめましてをしたよ。彼は物凄く友好的だった。

「初めまして、シエル様。私を含めて、貴女とは戦ってみたい生徒が多いです。是非とも全力でお相手願いたい」

「はじめまして。私の方が年下なので、敬称は付けなくていいですよ」

「いえ、恐れ多いです。迷宮攻略者様ですし、もしかしたら私はいつか何か縁あって護衛をさせてもらえるかもしれませんから」

「え?私なんかの護衛を?クラウス、代わってもらったら?」

「ふざけるな。お前みたいな危険人物の護衛を入りたての騎士に任せて、騎士たちが使い物にならなくなったらどうするんだ」

「まるで私が騎士を駄目にするようないいかた……」

「ある意味間違っていないだろう」

いや、そりゃまあ、襲撃なんて受ける前に私が自分で襲撃者を拘束しちゃうしね。

「お前に付けたせいでせっかく学校で習った魔法の常識が狂ったら、救いようがない」

……親に何て謝ればいいんだ、と真面目な顔で言われた。私そろそろ凹んでもいい?

「……前哨戦として軽くお手合わせでもと思いましたが、いかがですか?」

私は構わないけども。……クラウスは時間ないよねー。

「本番にとっておきましょう?他の出場者のところにも今から行かなくてはならないので」

「残念です……。けど、その分当日は楽しみにしていますね」

そう言って私とクラウスを見送ってくれたその生徒は、とても友好的だった。……表向きは。

他の出場者のところに行っても、同じようなやりとりになった。……皆強かだなぁ。

私が手合わせに飛びつかなかった事が意外だったのか、不思議そうに私をみているクラウスに、経験上、私に最初から笑顔で近づいて来るやつにロクな奴はいないと告げれば、それはそれでどうなんだ、と返された。自分の事を棚に上げないでね。今でこそクラウスは友だちって言えるけど、会った当初はロクでもない奴って思ってたから。


「……クラウスはそろそろ帰って仕事かな?迎え、まだ呼んでないなら送る?」

「暇なのか」

「暫く深淵の迷宮に引きこもってもいいなら暇じゃない」

「そうか暇か。じゃあ城の図書館に寄るついでに俺を城まで送ってくれるな?」

「え。あ。……うん」


しっかり手を掴まれた。……許可も無しに躊躇なく女性の手を握らないでください。いやまあ私、クラウスのストライクゾーンの外だからなんだろうけども。一応元貴族なんで、内心びっくりしちゃったよ。……ふう。仕方ないなぁ。図書館の……あの地図が気になってはいたからいいんだけど。


「城のどこに出ればいいの?」

「……その言い方だと、ある程度の場所に意図して出られるんだな」

「そうだねー。クラウスの執務室と図書館は余裕かな」

「城門前だ。それ以外に出ると厄介な事になる」


先触れも出していないからなと念を押すように言われたので、仕方がないからちゃんとやろう。聞いたの自分だし。


ちゃっちゃと転移魔法を使って到着しました城。門番が慌てた様子で敬礼する。こんちはー。


「図書館で大人しくしてろよ?グラーティアス卿が帰る時に回収するように伝えておく」

「うん。回収って言い方がアレだけどわかったー。よろしくねー」


直ぐに寄ってきた騎士の皆さんのうち、2名ほどが私の案内役として残された。可哀想に。とか思ってたんだけど、向かう途中話してて気づいた。どうやら志願兵だった模様。私がクッキーあげた2人から、そのクッキー貰ったらしいんだよね。この2人訓練で怪我して全治1週間で要安静と言われたせいで動けなくてイライラしてたら、非番だったはずの2人が騎士服着て帰ってきて、土産と言われて渡されたらしい。で、クッキー食べたら怪我なおちゃってピンピン。今日から無事勤務してるらしい。


「……私があげたクッキーで?」

「すみません!自分甘い物好きで……その、彼らに譲ってもらいました」

「ああ、別にそれは構わないんだけど」

「で、では……何か他に……?」

「私があげたクッキー食べて治ったの?怪我」


2人揃ってそれはもう!と答えてくれた。

軽いかすり傷くらいに回復してたやつか聞いてみたけど、その日の午前の訓練でざっくり切った傷とポッキリ折れた骨と言われた。怪我があったらしい場所も見せてくれた。あら綺麗に治ってる。というか本当に傷あったのかここに。

私が微妙な顔で見ていたのが分かったのか、本当ですよ!証人もいます!と主張してきた。


「そうだよ。2人の怪我を私も確認してる。2人が嘘をつくとも思えないから、君があげたクッキーのおかげだと思うよ?」


その声と同時に急な浮遊感。後ろから抱え上げられてる。……この間同じような事されたなー。


「……第二皇子殿下?」

「正解。でも私は何て呼びなさいって言ったかな」

「ウィルフレッド第二皇子殿下」

「んー……こればかりは心の溝かな?よし、今日はウィル様と呼べるようになるまでお話ししようか、シエルちゃん」

「ウィル様離してー」(即答)


即答、棒読み、と第二皇子殿下は私を離したその手でお腹を抱えて笑っていた。笑い上戸なのかな。笑いの沸点ひくすぎるのかな。

私を案内してくれた2人はまたかといった態度なので、普段から素はこんな感じらしい。


「あー……面白い。

とりあえず図書館入ろうか。個室にお茶と、シエルちゃんの読みたいであろうあの地図と手記も用意してあるから。

2人の怪我が治った理由について、心当たりがあってもなくても話してもらいたい事があるんだ」


……あれー。なんだろう、先日よりかなりフランクだぞこの皇子様。

さあ、いこうか?と笑顔で促されたので、本能に従って言葉通りについて行った。いや、だってなんか、断るな危険って心の声がしたものだから。

長いものには(自分の不利益にならないかぎりは)巻かれろ。日和見主義は人生だ。見極め大事。


……だから早く迎えにきてね、おじいちゃん。

読了ありがとうございます。

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