第24式
魔法には属性がある。王国では火、水、風、闇、光の5つ。帝国もそんなもんみたい。クラウスは母親譲りの暗い青色……(濃紺っていうべきかな?)の髪だから、多分水と闇魔法向きの魔力の持ち主だと思う。おじいちゃんは翠の髪と瞳だから多分風かな。まあ、魔力の質や向き不向きで髪にまで出てくるのは本当に珍しいので、クラウスの場合は普通に親からの遺伝だとは思う。クラウスのお母さん、別に闇魔法得意じゃなかったらしいし。
もちろん私の髪とて遺伝である。魔力の関係でちょこっと色は変わるけど。
「私の生まれた国でも、私の魔法はちょっとおかしくてねー」
「おかしいのはお前の常識じゃないのか?」
「……その発言に悪意を感じないのが腹立たしい」
澄ました顔でお茶を飲んで続きを催促しないでくれないかな?怒るよ?
「……そんなわけで、私は私の魔力についても調べてるんだよねぇ」
「お前の魔法がおかしいと気付いて調べるまでの間に、散々魔法使って犯罪者取り締まったり怪しい組織潰したりしてないよな?」
「してないよ」
だって気付いたの、初めて自分の意思で魔法使った時だったし。あれは確か目眩しの魔法だったかな。屋敷をこっそり抜け出そうと思ったら目眩しどころかどうやら姿くらまし……ええっと、誰だか認識できない魔法にしようとしたら、何故だか存在自体見えない感じない、感知されない魔法になってしまい、私が家の外に出ないように張られていた魔法結界も特に何もしていないのにすり抜けちゃった時だった。
驚くと同時に危機感すら感じたね。これ魔法のコントロール間違えたら、私が行方不明の迷子になっても誰も見つけてくれないよね?って。
「生まれた国の魔法とも、今まで見てきた国の魔法とも違う。
なら私の魔法は、なんなんだろうね」
「……それと魔力の大人しい使い方になんの関係があるんだ?」
「……それが一番違いを実感したエピソードなんだけどなぁ。まあ……要は、消費する魔力が違うってこと。皆が魔力を100注ぎ込むのに、私は10で済んでるって事なんだよ。
だから、私が魔力を100注ぎ込まなきゃいけない魔法を使えば、この髪の色も元に戻るんじゃないかなー」
「アテはあるのか?」
「この間来た時、流石の本の充実具合だったけど、東側の壁一面分の本の分類が不十分だった。大方読める人間がいなくて、わからない本を1箇所に集めてたんでしょ?
それを私が浮遊魔法を使って整頓するよ」
「……成る程、5属性には入らない魔法なら、お前の魔力も減るわけか」
古い魔法ほど魔力消費が激しいからね。ついでに何か参考になりそうな本が見たい。
「となると、本の移動について許可を取る必要があるか……」
「司書さんとかいるの?ならやめるけど」
勝手に自分の庭荒らされたくないだろうし。
「許可は恐らく直ぐに出る。先に図書館にシエルは行ってくれ」
「?……はーい」
騎士寮からここまで案内してくれた騎士たちが図書館まで送ってくれた。いやあ、すまんね、休日にこき使って。そんな君らには休日手当をあげるようにクラウスに言っておくからね。
「ついでにこれ、お礼にあげる」
「「クッキー?」」
本当は今日訪ねる予定だった後輩にあげるはずだったものである。アペルの果肉も使ったクッキーサンド。自信作である。
「砂糖も使ってるから、訓練で疲れた時にでもどうぞ」
糖分補給って大事だもんね。何でそんなに恐れおののいてるの?毒なんて入ってないよ?
「皇子を平気で使うような迷宮攻略者様が、下々のものにクッキーの差し入れ……?」
「というか、手作りで……?」
「私の事なんだと思ってるの……?」
クラウスに釣られないでほしい。私攻略者とかそういったものの前に、ただの平民なんで。普通にお礼にお菓子とか送ったりするでしょ。前回来た時に場所は覚えてたから、本当は転移で良かったんだけどね。
扉を開けてさあ中へと踏み入れた先で、人が降って来た。…………って、危なっ!
すぐに魔法で梯子から転落したと思われるその人が、床に叩きつけられる前に浮かして、ゆっくり床に下ろした。あー、びっくりした。
すると私を案内してくれた2人が、その人の所へ駆け出した。へえ、第ニ皇子だったんだ〜。なるほど、ほしい本があったんだけど見つからなくて自力で探してたと。……ふむふむ。………………ん?
「……第二皇子殿下……?」
梯子や崩れた本たちを見てから冷静になって視線を戻せば、ばっちりその人と目があった。あー、見覚えあるなーあの金の瞳。
「そこの学生の子」
「はい?」
あー、ちなみに今日私は学校のローブを着てるよ。これ着てると正装扱いだから。色んなところに行くのに役に立つから。
呼ばれたので仕方なく近づく。いつのまにか椅子に座ってるよ。いつの間に移動したんだよ。……私が本に気を取られている間か。というか、皇子にしてはゆる〜い雰囲気なんだけど。やだな、おじいちゃんとは違う方向で油断を誘っていざという時寝首をかく系かも。
「助けてくれてありがとう。私はこの国の第二皇子のウィルフレッドだ」
「(んー……っと……。ちゃんと挨拶……)
お初にお目にかかります。第二皇子殿下。先に名乗りもせず、申し訳ございません。私はシエルと申します。御身が怪我をされる前に間に合い安心致しました。私はそのようにされる身分では御座いませんが、お礼を言っていただけて光栄に思います。
目当ての本を探すことに夢中になる気持ちは痛いほどに理解できますが、どうかお気をつけて」
「……あ、りがとう。君は、随分礼儀正しいんだね。話では旅人だと聞いていたから……」
「貴族社会の仕組みや規則には、多少心得が御座いますので」
というか、公爵令嬢なんで。皇子としては、多分私の事を話しに聞く限りでは、かなり型破り礼儀知らずなクソガキという認識だったのだろう。驚くのも無理ないか。
「今日は、どうしてここに?」
と、聞かれたので騎士がクラウスと私がしていた話をすると、やっていいよと言われた。(勿論髪の色どうこうは省いてね)何でも、クラウスが現在探しにいっているのはこの第二皇子らしい。この図書館の管理というか、入れる本とかの権限は全部この人のなんだって。やったね。
「もし整頓する途中で、私が探している本があれば回収してくれるとありがたいんだけど」
「書の名前を教えてくだされば」
そう言うと、リストにしてあったらしく、渡された書類にはタイトルが書いてあるものと、こんな内容の物、というのが2つに分けられて書かれていた。ほー。成る程。
配置が変わってないなら多分この辺。と探ってみればすぐに見つかった。内容だけが書かれたものについては、皇子がわかる言語を聞いて、その中で詳細が書いてあるものを選んで魔法で次々棚から出して、机の上に平積みにする。およそ15冊くらいだろうか。
「……君は、ここに来たのは、2回目では……?」
「はい。前回入室許可を頂いた際に、大抵の本の場所は覚えました。配置が変わっていなくて良かったです」
皇子は驚いて言葉もないらしい。……まあ、自分すら覚えていないのに、初見だけでこの図書館の膨大な書の配置まで覚えているってなれば驚きもするか。
時間の無駄も嫌だし許可も貰えたので、早速作業に取り掛かる。
言語別とか出版国別とか悩みに悩んだけど、オーソドックスに、分野毎作者順に並べる事にした。どうやってって……それは決まってるでしょ。棚から分類済みのものもそうでないものも全ての本を引き出して、そのまま作業をする。左の上から順番に、綺麗に埋めていく。本を傷つけないよう、細心の注意を払って浮遊魔法と風魔法の合わせ技を使った。壁を一面ずつ埋めて、ついでに梯子も強化する。危ないよねー。こんだけ高さあるんだから、飛行系の召喚獣呼び出して本を回収できるようにすればいいのに。……天馬とか使ったら本が食われちゃうかな?それはマズイな。
終わる頃には流石に疲れてた。
帝国では古式魔法と呼ばれる魔方陣や古文書に載っている魔法と、5属性魔法と呼ばれるオーソドックスな魔法が存在する。日常的に使うのは5属性魔法。それ以外が古式魔法。王国では転移魔法は闇属性の魔法だったけど、帝国では時空間魔法っていうカテゴリらしい。で、私が疲れるのは古式魔法の方ね。基本的に強大だけど古過ぎて、5属性魔法のように基礎の陣や式がはっきりしないため使える人はごく少数なんだって。……私の場合は式とか陣とかを知っている以前に、イメージでやったら出来ちゃったって感じなんだけど。
そんな訳で数千冊の本を浮遊魔法(歴とした古代魔法の一種)をフルに使って本の並べ替えをした私は流石に疲れたよ。
髪の色も……まあ、クラウスと会った時とは言わないけど、学校入学直前くらいには戻ったかな。……こんな事をしなくても、王国に置いてきた印を持ってれば勝手に魔力は消費されていくんだけどね。流石にそれは無理だし。
「浮遊魔法……しかも、対象が複数冊……」
「気に入らなければ先程までの状態に戻します」
「い、いや……。驚いてしまって……なんと言えばいいのか」
騎士のみなさん、なんでみんな揃って頷くの?
「シエル!」
そこにようやくクラウスが登場。もう整頓終わったよ?私の奥に第二皇子がいるのを見つけて驚いて礼をする。そして速やかに私を回収。小脇に抱えられた。腕とあしがぶらーんと……。これが変な事をしませんでしたかと問いかけた。……これって。
「いや、寧ろ危ない所を助けて貰ったよ。命の恩人だ。……これでクラウスとお揃いかな?」
だからそんな逃亡犯を捕まえるようにしないで、降ろしてあげなさい。と言ってくれた。第二皇子やっさしぃ!……というか、そもそも責められるようなことはしてない。離せという意味を込めて無言で手足をばたつかせると、あっさりクラウスに離された。……ふへぇ。酷い目に遭った。
「シエル……ちゃんが、梯子から落ちかけた私を安全に降ろしてくれてね。先程まで、見事な浮遊魔法を使って書を並べ替えてくれたんだよ」
「……そう、でしたか。あの、兄上。司書がいなかったからとはいえ、やはりご自分で梯子に登るのはいかがかと思います」
「ああ、一応あの高さくらいからなら着地できる自信はあったんだけどね」
……第二皇子って確か、白銀の迷宮にいた人だっけ。随分雰囲気違うからおじいちゃんと同じ狸系かと思ってたんだけど、あれかな?帝都にいるときはこういう感じの、大人しめな人なのかな?(と、このときはそう思おうとしていたんだけど、もう暫くすると正確にその性質を理解する事をこの時の私は知らない)
「私が読みたかった本を見つけてくれたんだ。驚いたよ。まさか前回ここに来ただけなのに、すぐに見つけてくれたから」
お礼は何がいい?と聞かれたので、飴玉と返して見せれば、爆笑しつつ本当に飴をくれた。疲れた時には甘いもの。糖分補給、大事(……あれ?さっきもこんな事考えた気が)。
「それにしても、クラウスはシエルちゃんと仲良しだね。前はどこかで覚えた悪い遊びをしてたけど、彼女と会ってからやめたみたいだし、少し安心したよ」
「……仲良し」
「前より余程、楽しそうだよ。王族を前に怯えるでも媚びを売るでも無い。隠し事は多そうだけど、嘘つきでは無い。いいね。側近とかにいたら、楽しそうだ」
飴玉食べていいかなー?と迷っている私の隣でクラウスはお兄さんと話し続けている。何の話かは聞いてない。それよりも私は先程見つけた地図に夢中だ。どこの誰かは知らないが、弟子まで使って数百年かけて描いたと思われる星降りの迷宮の規模を示す地図だ。歩いた距離と、進んだ方向的に、帝国のどの辺りまで進んだーとか、書いてある。すごいなこれ。
結構な下階層……多分70階には到達してるんじゃないかな?この人たち。昔の人達、強かったんだなぁ……。……いや、いまが弱すぎるだけかもしれないけど。
これは最後の弟子が残した手記でもあるらしい。……最後の弟子は100年ほど前にこれをここに寄贈して、その後行方知れずになったらしい。年齢的にもう生きていないだろう。
「その本、気に入ったならまた読みにおいで」
急にお腹に回った腕と、浮遊感に、書から顔を上げる。ものすごく微妙な顔をしたクラウスがいた。……背後から声が聞こえたってことは、私を抱き上げてるの、第二皇子?
「あはは。クラウス、心配しなくても君の友達をとったりしないよ。シエルちゃん、またいつでも遊びにおいで。君が来たら図書館に通すように言っておくから」
「ありがとうございます、第二皇子殿下」
「ウィルでいいよ。今度は一緒にお茶もしたいな」
「……光栄です……?」
「ふふ……!棒読みだよ。まあいいや。またね」
そう言って私の頭をよしよしと撫でると、第二皇子は使用人に本を持たせて、颯爽と図書室を去っていった。というかいたのか使用人。




