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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第3章 学生 シエル
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第25式

お久しぶりです。お待たせしてすみませんでしたー!



私も用事は終わったし、そろそろ帰るねと言うと、その前に、寄って欲しい場所があるらしい。


「グラーティアス卿が休みを潰されて不機嫌極まりない。城に連れて来たは良いが仕事しない。何とかしてくれ」

「それを先に言ってくれるかなっ⁈」


何やってるのおじいちゃん⁉︎

仕事は仕事で割り切って、どっかの平日有給休暇取ろうよ!

かつての社畜精神が疼く。仕事はする。ただし休日出勤手当と代休はしっかりふんだくる。それがあの頃働いていた私のモットーだった……。

クラウスの案内の元ついた部屋では、各国の地図やそれぞれの土地の特徴についてまとめられた書や何かの計測結果が彼方此方にあった。何人かがぶっ倒れてる。……働きすぎかな?お疲れ様。君、長男?次男?家を継げるような人なら、ブラックな職場なんて辞めて、早めに切り上げて領地経営で稼ぐのもいいかもよ?


そんな中、部屋の奥の方から怒声やら嘆きやら……兎に角、一体何の騒ぎだと聞きたくなるような声が聞こえて来た。

クラウスが宰相が先に来たか……と、少し手遅れ感のあるご様子。なるほど?宰相さんが来る前に何とかしたかったのね。


「……帰っていい?」

「せめて卿の機嫌を直してからにしてくれ」


んじゃあ、ついでに。書やら走り書きやらでぐっちゃぐちゃの部屋を浮遊魔法を使って、私がいつも部屋を片付ける要領で綺麗にする。私たちがいる入り口付近からゆっくりと、部屋の奥に向かって魔法を使っていく。途中倒れてる人たちも浮かせて、ソファーとかに乗せてあげる。お疲れさまー。重かったよ。


部屋の奥までここから見渡せるくらいになる頃には、奥から響いていた声が無くなってた。


「シッエル、嬢〜‼︎」

「うぐぇっ……」


弾丸(おじいちゃん)飛んで来た。めっちゃ抱きしめられた。胸と首あたりが締まって苦しい。女子的にアウトな声出た。助けてクラウス。

流石に目が助けろと言っているのに気付いたのか、あまりにおじいちゃんの飛びつき具合がやばかったか、もしくは私の背骨があまり聞きたくないような音を立てたからか知らないけど、おじいちゃんを剥がしてくれた。


「ふう。勢い余ってシエル嬢の首絞めちゃった」

「殺されるかと思った……」


ああ……酸素が美味しい……。……じゃなくて、


「おじいちゃん、仕事してないってどういう事」

「だってぇ〜。本当ならさぁ、今日は今頃シエル嬢を連れて、美味しいもの食べに行ってる筈だったのにさぁ……」

「今日我慢して仕事して、さっさと終わらせて別日に無理矢理休みとれば良かったのに。というか、別にやりたくもない授業を私はちゃんとたまーにしてるのに、おじいちゃんだけサボるのずるい」

「……説得を渋らないのが珍しいと思ったが、そういうことか」


イェス。文句が言いたかったの。


「スピカお姉さん迎えにいくけど、おじいちゃんはちゃんと仕事してね」

「はぁーい」


気分一転。超ご機嫌におじいちゃんは書類を捌きに部屋の奥の方へ。それと入れ違うように、慌ててクラウスが宰相と呼んでた人が近づいて来た。……でかい、こわい、いかつい、くまさん。


「ウィルゼン公爵、そう無遠慮に近付かないでくれ」

「む。……すまない。グラーティアス卿が溺愛している魔術師は、豪胆だと聞いていたものだから、つい……大丈夫かと……」


……いや、大丈夫っちゃ大丈夫っすけど、無言で怖い顔して結構なスピードで近付いて来られると、正直逃げたくなるというか、なんというか。私が無言でクラウスの後ろまで下がったからか、注意してくれて、それで止まったけど、そうじゃなかったら真ん前まで来てたんだよね?泣くよ?普通なら。


「……こんにちは。

おじいちゃんに溺愛されてるかはともかくとして、居候させてもらって学校に通ってます。シエルです。

強面というより前に、あんな風に凄い剣幕で無言で近づいて来られたら誰でも怖がると思います」

「う、うむ。……すまない。

私はアルセイン・ウィルゼンだ。公爵位を賜っている。卿が余りに書類を溜め込んだと聞き、物申していたのだが……」

「卿は叱られようがどこ吹く風だ。彼は彼の気分でしかうごかない。だから私がなんとかすると言ったんだ」

「返す言葉もございません……」


溜息をついて大きな身体を小さくしている目の前の公爵さん。……そういえば公爵位の人に会ったの、帝国では初めてかも。ん?レイヴィスさんは子息でしょ?

カルナス公爵寄りなきがする。というか、雰囲気がものすごい似てる。武官って言えばいいのかな?将軍?頭脳労働者って感じじゃないけど、宰相なんだ?


「……ウィルゼン公爵は、立場上は宰相だが、実質は国賓の護衛だ。建国祭の式典の為に来国する他国の高位貴族に付くことが多い。それ以外の時は、城に滞在している重要人物の護衛だな」

「まあ、近年は建国祭の時は特にやることもないのだが……」


ふーん。


「引き留めてすまない、シエル殿。それと、近々貴女に頼みたい事が出来るかもしれない。その時には協力を頼んでもいいだろうか?」

「……私が出来る範囲で、尚且つ無理がないなら?」

「ありがとう。では、失礼致します」


……くまさん、行っちゃった。

頼みたい事ってなんだろうね?とクラウスに聞いたら知らんと言われた。一刀両断?


「じゃあ今度こそ帰るね」

「ああ。あまり寄り道はするなよ?」


ここまで案内してくれた騎士さんたちと共に城から出て、彼らの寮まで戻り、預けていた馬と御者さんを回収して、騎士達にお礼を言ってから、私は割と気分も回復して屋敷に戻った。


スピカお姉さんを迎えにいく時間まで、お昼寝しよう。ケットシー喚んで。


その時は素直にそう思ったんだけど、あとからよく考えてみたら、超自然的に自主的に私睡眠とった?……そんなに疲れた?私が?


「……どうしたんですか?シエルちゃん」

「……私、疲れてるように見える?」

「いえ、寧ろ、今までより心なしか……物理的にキラキラしてるような」

「……どの辺りが?」

「まず髪の艶が増してます。肌も透け感がありますね。もちもちしてる……。心なしかシエルちゃんの全身から活力が湧いているような……?」

「一応まだ子供だから、普通では……?」

「だっていつものシエルちゃんは、研究にひと段落つきそうで付かない師匠のようでしたし」

「待って待って待って。私老人並みに疲れてるの⁉︎」

「あ、いえ、一応例えですけど、あの平素の落ち着きぶりは師匠とそう変わらないかと」


焦った。てかスピカさんの師匠と同じくらい草臥れた童女とか何それ。色々まずいでしょ。

まあ、とりあえず前より健康体にはなったらしい。魔力使いまくったから、私は今ものすごく疲れてるけどね。


「はぁ、枯れた老人かぁ」


そこまでは言ってません!とスピカさんから猛抗議されたけど同じようなものだよねと聞いたら、気まずそうに目を逸らされた。……お世辞でもいい、違うと断言してくれてもいいと思うの。


「はーあ。傷ついたし、明日は色々回る予定だし、もう休もうかな……あ。スピカお姉さん魔法の上達具合は?」

「今日で感覚も掴めたので、式で魔法は使えると思います」

「そっかそっか。それは良かった。あとは式を覚えるだけだねー。基礎の式は教科書にも載ってるから、それで練習してね」

「はい。ありがとうございます、シエルちゃん」


やったの送り迎えくらいで特に何もしてあげてないけど、どういたしまして。


おじいちゃんの家に来てからの習慣で、食事の後の読書会をして、貸してもらってる部屋に戻って、以前この屋敷で見てから気になって書き込みしてもいいように買った地図を見て、ふと、昼間に見た地図を思い出す。第二皇子殿下直々に許可くれたし、近々また行こうかな。勿論クラウス経由で報せてからね。


複数迷宮攻略者な時点で割と色々大目に見てもらえる立ち場らしいし、多分図書室訪問だけなら何も言われないだろうけど、王城って、何かと怖いしねー。


「……迷宮か」


目下おじいちゃんと私を悩ませる、迷宮所有者襲撃事件。もう犯人捕まえた方が早いから、出来るならさっさと私の所にも現れてほしいんだけどね。

所有権を持っている人間が一通り全員襲われる前に、私が襲われれば、それは特定の迷宮所有者を襲っている可能性が出てくる。

まあ、迷宮攻略者を順番に襲って行ったらそうなったって可能性もあるけどね。


白銀、深淵、響音、薄氷。少し間を開けて、火鳥、氷華。階層数、位置、攻略時期、全て共通点なし。強いて言うなら名有りの迷宮。ただそれだけ。

居候になってるし、協力したいけど、まだまだ解決は遠そうだなぁ。


地図を見て一瞬何か閃きそうになったけど、いい加減寝なさいと、メイさんに地図回収されちゃった私は、大人しく今日も寝る努力をしたのだった。

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