第35陣
入試は問題なく終わり、私はこれで明後日から皇子と同じクラスで1年間勉強することが出来るようになった。わたしが描き出した魔法陣がちょこっとした問題になる可能性を除けば、安心と言っていいと思う。
「で、校長せんせー。訓練迷宮って?」
「……それより先に、カリキュラムから説明させてもらいたいんだが?」
「まあ聞いて損する事でも無いから、聞くだけ聞いておくといいよぉ」
必要な話だけ聞いてさようならしようと思ったけど甘かった。内心ケッ!っと思いながら大人しく耳を傾ける。
「魔法学校はそもそも、魔力を持つ者たちがその制御を学ぶためのものだった」
「うん。それは知ってる。魔法は制御出来なければただ他人や自分を傷付けるだけの兵器となってしまう。だから魔力持ちは全て学校へ通うことが義務付けられている」
「……そうだ。しかし年月が経ち」
「魔法を使える人間自体が減って来た。魔法が衰退するのと同じくして、剣や薬学、迷宮での狩り、錬金術などが新興していった。魔法でやっていた事を魔法以外で実現できるようになり始めた」
「ああ、その通りだ。だから」
「魔法は全学科共通科目として設定した上で、専門科を設定した。専門科は2学年から」
「……そうだ」
「基礎的な説明は魔法学校の歴史書にも載っているんだから、シエル嬢が知らないわけないじゃ無いかぁ」
「……。3学年への飛び級になるため、専門科については1年の遅れが出る。また、魔法については2年。そこをどうするかが問題なのだ」
「……魔法については、多分シエル嬢の右に出るものはいないよぉ?皇子が出る必要のある講義以外は免除にして専門にまわしたらどうだい?」
「専門科はそんなに甘くは無い。教授たちの同意も得なければならない」
「魔法科目に関してはクロイツが一任されてるんだから、専門も魔法科にしてしまえば問題無いよねぇ?……あー、でもシエル嬢が退屈かなぁ?」
「他の科目の講義に紛れ込んだらまずいの?」
「許可を取れば可能だが?」
「なら、各学科の教授に、自身が考える中でそれを解けるなら受け入れてもいいって試験を作るように言ってよ。どんな理不尽なのでもかまわないよ?ただし、そのテストで私も教授達を試してるのをお忘れなく」
そう言って仮面の下で笑って見せれば、おじいちゃんは愉快そうに、校長は溜息をつきながら、豪胆すぎると笑っていた。
「じゃあ、訓練迷宮っていうのは、専門科での実習や魔法科の訓練として使える迷宮ってことかな」
「そうだ。多くは名もなき迷宮や攻略済み迷宮を使用しているが、そう言った迷宮は近くにある故、慣れが出てしまっている。
そこで君の所有する迷宮を利用させてもらいたい。代わりに入学費・授業料は免除、でどうだろうか」
「きゃぁ〜っか。それ、シエル嬢のメリットが少なすぎるよぉ〜」
おじいちゃん、なんか私にメリットあれば使用許可出すみたいな感じでいるけど、許可出すのは私なんだよ?
「そもそも、訓練迷宮として使えるか分からないよ?」
「何?……名もなき迷宮程度でも、3階層あれば難易度を調節できるだろう?」
「いや、あるけどさ。距離とか」
「?迷宮での訓練は数日かけて行き来するものだろう。例えば今ある訓練迷宮は、行くまでに3日かけるぞ」
「……」
え?3日?……3日?それターシュの街まで行けんじゃん。
「……ディータスくん、多分だけど、シエル嬢にとって迷宮は日帰りで行くものだよ?」
「?何を言っている。攻略してからはともかく、攻略前は最下層まで、何日もかかって攻略するものだろう?」
「うん、だからその認識がすでに間違ってるんだよぉ。シエル嬢が攻略した迷宮、どこだと思ってるのさぁ」
「複数とは聞いたが、その歳で攻略したとなれば名もなき迷宮だと思ったが?」
「シエル嬢をナメないでくれるかぁい?彼女が迷宮攻略にかけた時間なんて、ほんの小一時間さ。両方名ありの、しかも片方はあの深淵の再攻略だよぉ」
「…………は?」
校長、フリーズしちゃった。お茶でも飲んで治るの待とうかと呑気なおじいちゃん。でも賛成。美味しいお菓子と紅茶があって手を伸ばさない理由はないもんね。
「深淵の、再攻略を成したのが、その子供……?マクノアが言っていたシエルとはその子か!!」
「うん。何だ、気づいてなかったのかい?」
「どんな規格外の化け物かと思っていたからな。まともな人間そうだったから、気付かなかった」
「安心してよぉ。中身は完全に規格外さぁ」
あれ?失礼じゃない?おじいちゃん。
「にしても、深淵か。それは確かに、使えるか分からんな……」
「だよねぇ……」
「やっぱり魔法を使う魔物が多いから?」
「いや、まあそれもあるが、引率させる教師達や護衛の冒険者達で生徒を守りきらなくてはならないからな。生徒たちは必死こいてやっと2階や3階に降りられて、教師が余裕を持って守れる、くらいの迷宮がちょうどよかったんだ」
「シエル嬢は攻略者だから、難易度の調節は容易いだろうけど、深淵の迷宮はプロの冒険者たちが素材集めに向かったりするからね。そこをこっちの都合で荒らすような真似はしたくないんだよ。学校の生徒や教師は殆どが貴族だからねぇ」
……ああ、確かに。貴族は領民に見捨てられたら終わりだもんねぇ。冒険者に嫌われるのもよろしくないだろうし。まあだからって舐められてもだめなんだけど。
「……なら、作れば?」
「「へ?/は?」」
「訓練用の、10階程度の迷宮」
パンがないならお菓子を食べろ方式で、適したものがないなら作って仕舞えばいい。もちろん本物の迷宮、というわけではなく、擬似迷宮だし、期間限定品だけど。と言えば、訝しがりながらも気になるようで詳細を聞いてきた。
「私が迷宮作れそうなところに空間を作って、そこと深淵の迷宮を部分的に繋げる。……まあ繋げるというか、深淵の迷宮の三階程度までの縮小版を作ると思ってくれていい。擬似だし、魔物は迷宮から持ってくるものしかいないから、溢れ出すなんて事はないし、怪我とかする前に私が人を避難させることも出来る」
「……だが、それは君に大きな負担では?空間を作るという所から、既に莫大な魔力が必要な作業だ。数ヶ月を要するだろう」
「そんな時間かかるもの、シエル嬢が作ると提案するわけないだろう?」
「うん。私、面倒な事とこつこつやるの苦手。ついでに街から街への徒歩移動も嫌い」
「……護衛なんてさせてごめんよぉお」
旅の大変さを知るために必要って言われたから、仕方ないと割り切ったよ?私を膝の上に乗せてよく頑張ったねと頭を撫でるおじいちゃん。……逆に馬鹿にされてる気分。
「……教員たちに試させる時間も必要だ。どのくらいで作成できる?」
「単純構造でたまにトラップがあって階層主が2から3体いる程度の迷宮なら、1時間も多分要らない。関連する人たちに許可とってくれるなら、明日までに作るよ?」
さっきここにくる途中の、学校横の森の中にいい場所あったし。……とまでは言わないでおいた。
難しい顔をしている校長。そんなに信用できないのかなと首をかしげる。まあそれもそうか、初対面だし。仮面つけた怪しい子供だし。
「……魔力供給などは、大丈夫なのか?」
「そこは心配いらないよぉ。彼女、この仮面を付けたまま、転移魔法が単体で使えるくらい魔力有り余ってるからさぁ」
「!……そうか、わかった。許可は私が出す。場所だけ先に決めてもらいたい」
いまだ訝しげだが、やらせるだけやらせることにしたらしい。地図を見せてもらい、先程見かけた良さそうな場所にピンを刺す。
「樹木の整備は必要か?」
「え?」
「ここの場所もそうだが、帝都には2種類の木が存在してる。この城を中心として、比較的中心部に大樹と呼ばれる木が多い。指定された場所は大樹が集まっている地帯のうちの一つだ」
「必要なら自分でするよ。完成したらおじいちゃんが多分お知らせの手紙送ってくれるよ」
そこは任せてと言われたので、早速作りに行こうと思います。お昼ご飯には帰るね。と書置きをして、護衛としてついてる3人のことは忘れて、私は気楽に城の外へと脱出を果たしたのである。




