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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第32陣


さて、一夜が明けて、やってきました、魔物が溢れ出してきている森。

私と皇子、おじいちゃんとクロイツさんに、衛兵の皆さんって編成である。もちろん犠牲と時間の無駄を省くため、私が先頭である。

キューちゃんとノクターンは、空から森全体を見張ってもらっている。基本的に魔物は殲滅する。けど取りこぼしはあるだろうから、それを逃さないでもらう役割である。


「魔物、出ないな」

「そうだねぇ」

「…不思議だな。領主の様子からすると少しあるけば魔物に当たるような状態のはずだが。確か…街に着くまでの道中も、そうだったよな?」

「不思議だねぇ」

「…まさかとは思うが結界は」

「張ってない」


そう、会話から分かる通り、何故かいないんです。魔物。この間ゴブリンが大群で来たのは何だったんだってくらい。気配がない。

今仮面つけてるし、いくら魔力を測るのに長けた魔物だったとしてもよっぽど近くによらないと、私が化け物レベルだと気づけない筈……なんだけど。


「……ちょっと、私の気配、断つね」


気配どころか魔力自体悟られないように、自分に姿眩まし魔法をかける。魔力も世界から遮断する。どうやるのかというと、常に巡っている魔力回路内の魔力全てを体の中心に戻して、固めて、流れでないようにする……っていうイメージかな。分かりづらくてごめんよ。


……でもまあ、私の予感というか、感覚はアタリだったらしい。

嫌な気配が漂って来ている。間違いなく魔物が近くにいる。


「くるよ」


先ず森の奥から現れたのは、弾丸みたいなスピードでぶつかってくる超重量のバレッドホッグ(弾猪)の大群。突撃のタイミングを見ているようで、薄暗い森の中で、奴らの目がギラリと光っている。

魔物の発生位置を探るために、魔力を薄く広げていけばある一点からの発生が確認できた。まあそれも一瞬の事で、私の魔力を感じ取ったのか、生み出された魔物は残したまま、発生源はまた消えたんだけど。……とりあえず、行ってみるしかないかな。

発生位置の特定と同時に、魔物の現在地の特定も終わっている。あとは薄く張り巡らせた魔力に魔法式を与えるだけで、魔法は発動する。


「《範囲指定・氷結》」


弾猪が次々凍っていく。だが勘のいい奴もいて、その場に留まって凍らされるより前に飛びかかって来たものに関しては、クラウスが次々斬り捨ててくれた。お見事ー。


「Aランク冒険者って本当だったんだね……」

「驚くところはそこか。というか、信じてなかったのか」

「いや、だって……ねぇ?」

「あれだけ惨敗している所に居合わせれば、当然の反応でしょう。今回が評価の取り戻し時ですから頑張りましょうね、皇子」

「……とはいえ、また魔物が出てこなくなったが?」


まあ、とりあえず私の魔力を感知すると発生が収まる、と。


「困ったねぇ」

「……とりあえず、発生地点は分かったから移動しよう。特定の時間に溢れ出すのか、それ以外の要因があるのか分からないけど、魔物がいないなら好都合じゃん」

「もしくはシエルを怖がってるか、だな」

「1番納得できます」

「……」


納得しないで。でもなあ、目下1番可能性が高いよなぁ。魔物が出てこないに越したことはないので、魔力は押さえないまま進む。そしてその地点には、……なんというか、簡単に形状を説明するなら沼があった。魔物の死体を溶かして混ぜ合わせたらこんな感じかなっていう、黒く濁った沼。


「……どう見ても原因これじゃない?」

「……魔力溜ですね。迷宮が出来る前によく出現するそうです」

「あ、結構皆知ってる話なの?」

「ええ。採集学の講義では、危険の兆候を読むという内容のものがありまして。そこで詳しくやっていますよ」

「これ、ほおっておくしかないの?」

「いえ。

《炎、焔、火焔よ。我が願いに応え、この禍を払え》」


クロイツさんが火を放つ。一瞬の業火が上がった後、その地面に沼は存在しなかった。


「簡単に焼き尽くしたね?」

「原因がこれだとするなら、各地に上級魔術師を送り込めばじきに収まるでしょう。

伝令を帝都にまわしてください。

上級魔術師1人と中隊規模の兵士を各地に派遣するように」


クロイツさんからの命令を受けて、衛兵さんが動き出した。頑張って〜。


「これで報告書かけるね」

「ああ。だが帰ってからのことを考えると頭が痛い」

「街の周囲の警戒はしないとね。迷宮があまり増えられても大変だし」

「魔術師の数は少ない。過労で訴えられなければいいが」


そこはわたしの知ったこっちゃない。

キューちゃんたちに戻っておいでと声を飛ばして、森の様子を確認する。迷宮を生み出す魔力溜かぁ。迷宮保持者襲撃の件も含めて、迷宮絡みの嫌なこと続くなぁ。


「それにしても……博識なシエル嬢が魔力溜を知らなかったのは驚きだなぁ」

「採集学なんてなかったからね」


そう、無かったのである。魔力溜など王国内では見たこともなかった。一応迷宮は1つ近くにあったけど、外に出てくるまで迷宮に関することなんて、


迷宮は魔物を狩るのに適した場所である。

迷宮は攻略できる。


って事くらいしか教科書に載ってなかったから知らなかったし。やっぱり王国と帝国では色んなものに相違がある。

学ぶ事自体はありそうだ。そう思うと、少しだけ楽しみだ。


「日が高いうちに帰れそうだねぇ。

シエル嬢、街の中で寄りたい店とかは無いのかい?」

「特には……」


ない、と言いかけて、一ヶ所行きたいところがあった事を思い出す。ターシュの街にも多分あったはずだ。


「冒険者ギルド!」


いい加減、オーク肉売り飛ばしたい。

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