第31陣
「Hampty Dampty sat on the wall.
Hampty Dampty had a great fall.
All kings houses and all kings mans.
Couldn't put Hampty together again.」
「……とてもいい声だけど、なんの歌だい?というか、何語?クァンヒ語とかヴテラス語に似てるけど」
「ん〜、まあそこは気にしなーいで。
ハンプティダンプティっていうのがいてね。
そいつは塀の上にいるのが好きだったんだけど落ちて頭割れちゃって。
で、どんなに賢くても、権力があっても二度とハンプティダンプティを塀の上に戻してやれなかった。
って話」
「……頭が割れてたらそもそも塀の上に戻そうとする前に手当てをするのでは?」
「いやあれだろう?一回の過ちで全てが終わりってことだろう?」
「うん。そうだね。一度起きてしまったことは、二度と元には戻らないってこと。
まあ、分かりやすく死んだら終わり。
更にそこの頭に血が上ってそうな人に分かりやーすく教えてあげるなら、
……手前のやらかした事、こっちは全部知ってんだからな。ただで済むと思うなよ。
かなっ!」
((「「物理的に頭に血が上りそうな体勢にしたの、シエル(嬢)なんだ(が/けど)?」」))
現在、領主の貴族……えっと、サインズ子爵?だったっけ?の家に居ます。応接室のソファーに私とおじいちゃんが座ってて、クロイツさんは黙って証拠品の押収に出てる。皇子はその足元で縄でぐるぐる巻きになって伸びてる3人ほどの衛兵を微妙な目で見ている。天井からは豪華なシャンデリアと、逆さ吊りのオブジェ。……ああ、ちなみにクラウスが敬語なのは、余所行き口調なんだよ。皇子も大変だよねぇ。
「……ゴブリンの群れを単独討伐する実力者の少女をなんとグラーティアス卿が溺愛していると聞いて、少女と卿に恩を売りたかった。
そこで強襲させ、気を失わせて誘拐し、この屋敷に連れて来させ、そこで衛兵に少女を渡して完了という依頼を冒険者にだした。あとはこの屋敷で目覚めた少女に、領主の命令で衛兵が助けてくれたとでも言って恩を売り、ゴブリンの魔石でも差し出させ、グラーティアス卿への恩を売ろうと思った。最大の問題は、屋敷の中から出てこない少女と、卿をどうやって引き離すかだったが、グラーティアス卿が出かけて来てくれたお陰で、少女の最大の防御が崩れた。ここぞとばかりに冒険者を送り込んだ。
……まあ、並みの人間なら上手くいったでしょうね」
「狙った相手がこの子で、場所がワシの家じゃなかったらね」
「あの屋敷で最強の防御の称号は卿よりもこの子にこそ相応しいですからね。ゴブリンの単独討伐をしでかす少女の実力をバカにしてるとしか思えませんよ」
「そもそもワシが屋敷にいないからといって防御の手を緩めるはずがないだろう?この子がいるんだから、結界も張ってたさ」
「ああ、だから来るの早かったんだ?」
「結界に攻撃魔法がぶつかったから何事かと思ったよ。一応転移の魔法陣を持ち歩いてて正解だった」
以上がこちらの感想だけど、何か言いたいことはあるー?とオブジェに問いかければ、おろせ、と命令口調だったので、オブジェの脚を拘束している縄の先、床上の重い金庫に結びつけていたそれをシュルッと緩める。するとあら不思議!オブジェが頭から急落下!十数センチ先ほどよりも床が近くなった所で止めて、今度は引っ張り上げて先ほどよりも頭が床から離れるようにして、縄の先を再度金庫に結びつけた。
「んふふ。あんまりふざけてると、私は縄の先を見逃しちゃうかもしれないね?」
「申し訳ございませんでしたぁあああ!」
オブジェからする情けない声をBGMにして、私達は暫くお茶を楽しんだ。茶葉は良かったんだよねー。大変美味しかったです!
「…前にあった時は不穏分子な感じのないいい領主だったけど、やっぱり見かけによらないねぇ。……で、このクズはどうするんだい?」
楽しく優雅なティータイムを終えて、オブジェ……サインズ子爵を下ろして、衛兵たちと同じ様に簀巻きにしたところでかけられた声に、私は「気が済んだからもうどうでもいいや」と答えた。おじいちゃんたちは最初私が何と言ったのか分からなかったらしく首を傾げたが、すぐに冗談だよね?と聞き返してきた。
「不問にするとは言ってないよ?公的にきちんと裁かれるのなら、私が、直接、罰を与える気はないだけ。
一応まだ未遂だったからね。
本当に私に手を出して計画が完遂された場合だったら3日くらい丸腰で森の中に閉じ込めてたよ」
「……それ、実質死罪では?」
「危険度マシマシの深淵の迷宮に放り込むのとどっちが優しい?」
「ああ、お前はそれが出来るんだったな。なら森の方が何十倍も優しいですよ。生き残れる可能性が高いですから」
「だよね!」
そうこうしてる間にクロイツさんがこの街の経費の帳簿などを抱えて帰ってきた。少し難しい顔をしている。何か見つけたんだねぇ。
「シエル様、そこの領主にいくつか聞きたいことがありますから、話せるだけの意識レベルを取り戻させてやってくれますか?」
「はーい」
回復魔法と意識混濁魔法を上手い比率で混ぜ合わせると自白剤的な効果が出るんだよ。もちろん証拠は残らない。いやぁ、すごいね!魔法‼︎
イメージ的な問題で、指を鳴らして発動させる。あれね、眠ってる人が催眠術にかかる時、催眠術師が指鳴らすと、かけられた人の首がかっくん、ってなるでしょ?あんな感じ。
「シエル様、ここの家の書斎に他国の魔法書がありましたよ。皇子はシエル様から離れないでくださいますか?」
「本っ!」「わかった」「本〜!」「わかったから、大人しくしてください」
部屋に残って話を聞こうとしていた皇子を連れ出す。私が聞くのは良くないだろう。だからといって、現状私を1人にするのもよろしくないため、皇子をつけたようだ。まあ、私は本が見れれば何でもいい。
書斎に入って棚の本を眺める。なるほどなるほど。子爵は魔法は魔法でも、僅かな魔力で大きな魔法を放つ威力増大系の魔法について興味があったようだ。あとは魔物の生態と、狩り方……?罠の張り方と、誘導についてと……?
「どうした、シエル。というか、お前プテラ語読めたのか」
「ん〜。まあそれは置いといて、書斎に戻ろっか。ここにある本はだいぶ前に読んでる」
アスヘカ語だったけど。とは言わずに、書斎へ促す。クラウスとしては拍子抜けしたらしい。はっはーん。私が端から端まで読み漁ると思ったんだろ!
「何か気付いたことがあるのか」
「……おじいちゃんがさっき言ってたでしょ。前はいい領主だったって。
クロイツさんがさっき帳簿を持ってきてた。
あいつがいい領主なら、多分ある経費だけ増えてるはず。それと、気付いたかな?この屋敷、それなりに稼いでいる街の領主の屋敷の割に、価値ある装飾品の類が無い」
「領主がそれなりの私財を投げ打つほど、資金繰りに困っていた?」
「うん。それから、さっきの書斎にあった本。購入されたのはつい最近で、その内容は魔物の殲滅に関わるものだよ」
「!じゃあつまり、お前の誘拐計画は、何らかの理由で増えた魔物の討伐をする為に、金でも戦力でもいいから欲しかったのか。
冒険者を雇うには金が必要。全ての魔物を殲滅するには数も金も足りなかった、と。
追い詰められていたから、なりふり構わなかった、と」
「貴族にとっては醜聞は致命傷だもんね。
私に頼み込んで、私が話を広めたら醜聞は避けられない。あそこの貴族の街には、魔物も討伐できない冒険者しかいないってね。
だったら実力者に恩を売り、タダで討伐してもらおう!と考えた。
……うん、貴族らしいやり方だねぇー。
……でも、私に討伐をさせたいなら、やり方を完全に間違えた。
最初から頭を床に擦り付けて願えばいいものを」
「いや、貴族のプライドじみたものが許さないんだろ」
「そんなプライド、捨ててしまえ。人の、街の人たちの命と、自分の矜持なんて、比べるまでもないだろうに」
……やっぱりろくでなしかも、民衆の為に貴族社会の醜聞による嘲笑も我慢できないなら。
「……まあ、その辺の問い詰めがそろそろ終わる頃だと思うんだけど」
「一から説明する手間が省けて助かりました」
廊下を歩きながら話していた事はちゃんと中に聞こえていたらしい。扉を開けたクロイツさんの奥に見える先ほどまでの応接室内では、おじいちゃんがソファーでお茶を飲みながら、反対側のソファーには満身創痍と言った子爵が座り、その後ろに衛兵たちが青白い顔で、私たちを出迎えた。
「実を言うと、ここ数週間で、各地で魔物が急に現れる事が増えてはいたんです。各地の領主がそれぞれ対応しているようですが、今のところは帝都……皇帝の元に助力を求めるような要請書は来ていません」
「まあ、探り合いだろうねぇ。1つ申請が出れば、挙って要請が出る。一番最初に根を上げたところは貴族としての財力が弱いことになっちゃうからねぇ」
「……サインズ殿には子息と息女がいますからね、婚姻などに響きます」
ふーん。へー。そう。興味ない。
空間から取り出した眠りかけケットシー(人形)をもふもふしながら、話だけは聞いておく。
私はソファーに近寄らずに壁際の椅子に座って我関せず状態を保っていたんだけど、クロイツさんに子猫よろしく首の後ろの服を掴まれて持ち上げられたせいでふらっと足が浮いた。……クロイツさんちっからもちぃ〜!まさか片手で持ち上げられるとは。
すいーっと、サインズ子爵と対面するように持ち上げられちゃったので、仕方ないか。
「……何か言いたいことはある?」
「この度の無礼、誠に申し訳御座いませんでした。愚かな私を許してくださいとは申しません。ですが、どうか、この街を守る為、お力添えをお願い出来ませんでしょうか。
この街は丁度帝都から西の端までの中間として皇帝から管理を私が任せられたもの。ここが魔物に落とされれば、国交や物資の運行も滞ります。
罪は償います。もちろん御礼も用意いたします。御一考ください……」
「ん。いーよ」
「……え?」
苦しいからそろそろ離してー。とクロイツさんの手を叩くと、離してくれたので、着地。
「……安請け合いしなくていいですよ、シエル」
「各地で急に、魔物が出るようになったんでしょー?原因不明の魔物の増加。つい最近あったよね?皇子の宿題も解決するかもよ?」
「宿題?」
「私が魔法みーせーてって言う前にかいてたじゃん」
「……宿題でも課題でもなく、報告書ですよ」
「全部同じじゃない?」
「違いますよ。ちゃんと判別しましょうね?」
「はーい」
「シエル嬢、お片づけしてあげるのは構わないけど、あと数日で帝都に出るのは決定だからね」
「うぇっ、……あー。そっか。ラトランスさんの所に制服取りに行かなきゃ」
「それは本人が届けるって聞かなかったからほっておいていいよぉ」
「衛兵や冒険者の魔物との遭遇場所はだいたい同じあたりです。日も暮れてきましたし、明日の出発が相応しいですね」
明日の予定が着々と決まっていくんだけど、
「私今から行ってくるよー?日が暮れる前に帰ればいいんでしょー?」
「シエル様、日はもう暮れてきてるんです。散歩しに行くんじゃないんですよ?」
「そうだけどー」
「子供は家に帰る時間です。さ、帰りますよ」
「やだー」
「あ、あの!」
「ん?」「何です」「何か」「何だい?」
忘れてた。領主。
物凄いしおらしくなっちゃって。一体何があったんだろうね?(天井に吊り下げて落としかけたりしたことは既に忘れた)
「助けて、くださるのですか……?」
「……しーらない。私は皇子の課題手伝うだけだもん」
「うんうん。えっと、結果的に街が助かるならそれは良かったね。だってさ」
意訳しなくていいのー!と、おじいちゃんにケットシー人形共々体当たりしに行ったら逆に捕獲されて膝の上に座らせられて頭を撫でられる。子供扱いすんな!
「師匠、そのままシエル様は捕まえておいてください。解放したら散歩ついでに魔物の殲滅完了して帰ってくるでしょうから」
「殲滅して帰ってくるんだからいいじゃん!」
「皇子の課題の手伝いなんでしょう?皇子がいかないと意味がありません」
私が単独で行って帰って来た方が早いのに。
仕方ないから明日にするのには賛成して、有言実行、おじいちゃんに抱えられたままおじいちゃんの屋敷に帰還、部屋に放り込まれた上に、おじいちゃん直々に私の部屋に結界を張っていきやがった。流石におじいちゃんの結界すり抜けるのは無理そうだったので、大人しくしておくことにした。
次の日、満面の笑顔のクロイツさんには、よく大人しくしてましたねーと頭を撫でられたよ。嬉しくない。




