第30陣
魔力とは、そのものの血統によって決まる。
持つか持たざるか、質の良し悪し、扱える魔力の総量に至るまで。だから帝国では魔力魔法のことを血統依存と位置付ける。
魔力とは、そのものの素質によって決まる。
使えるか使えないか、強いか弱いか。それから各属性の性質にどこまで対応できるか。
とある王国では魔力魔法を素質依存と位置付ける。
魔力を持つものはほんの一握り。どれだけ祖の血が濃いか、選ばれた者は間違いなく偉大な者となるだろう。
つまり魔力を持たなくても、恥じる事はなんらない。だって魔法を使える人間は、そんなに多くないのだから。それが帝国の認識。
人の上に立つ者、その魔力で国を守り富ませ、幸福へと導く。導き手達は研鑽を積み重ねる義務を負う。
貴族たちなら魔力を扱える事は大前提、貴族の義務を説く決まり。これが王国の貴族の義務。
どちらの国でも、魔法自体が使える人間が減って来ているのは事実なため、使えない人間より使える人間の方が優遇されている。
それはまあいいとして。
帝国で魔術師と呼ばれる人間の卵、魔力を持っている魔法使いは、貴族の血縁のみに現れ、例外はない。
だが一方の王国では、魔力自体は皆が持っている。尊卑も血統も問わず、皆が使える可能性を持ち、使えない人間は案外少ない。と言っても使えるの程度が違い、貴族レベルにならないと、魔法使いとは認められない。
ここ数日で帝国の正式な魔術の教科書を読み漁って判明する、帝国と王国の違いに、私は頭を悩ませている。
前述の通り、二国では魔法の根源が全く違うのである。ベツモノと言ってもいい。
関係しているのはおそらく、王国では月の加護と呼ばれていたものだろう。
月の加護、王国ではよく言ってたセリフだよね。満月は月の加護が1番強くなる日。1番魔法が使いやすい日だそう。そして、新月は光が途絶えるから、ろくに魔法が使えない。
ステラリュートにとっては逆。つまり、私の魔力に関しては月の加護は枷のようなもの。
その時点で私の魔力は王国の魔力とは違っている。
王国から出たところ、今までよりかなり力が強くなったのが分かる。月が出ていようがいまいが、コントロールを忘れたら大惨事を引き起こしそうな感じだ。以前宿でミラさんが仕掛けた罠だが、私に反応しなかった。あの感知結界は、魔石と魔石の間に特殊な結界が発生し、自分以外の魔力を感知するものだ。だが、私に反応しなかった。私の魔力が莫大すぎて感知出来なかったのか、私の魔力自体が感知できない性質を持っているのかだろう。魔石を使ったのは寝ている間も発動を続ける為だから、発動していなかったという可能性はない。前者は前者で問題だけど、後者も後者だな。
「……どちらにも当てはまらないなら、どちらでもない」
では、私はなんなのだろうか。……まあ、それを確かめることもこの旅の目的の1つでもあるんだけど。
「ねー、クラウス」
「何だ」
「提出課題まだ終わんない?」
「課題じゃなくて報告書な。迷宮攻略に関する報告書は上がったが、道中のあのオークの群れについて、迷宮から魔物が溢れた事が関係していると進言すべきか、それとも他の要因があると示すべきか迷っている」
あー、私が深淵の迷宮を攻略するまえ、クラウス達を転移で森から逃す羽目になったオークの群れね。そういえば。
「あのオーク達、頭が居なかったんだよ」
「……ハイオークも?」
「うん。確認する?売ろうと思って空間にいれてあるよ」
「……全部か?」
「うん」
「……全くお前は…、いや、まあいい。お前がいなかったと言うならそうなんだろう。
それより、オークを仕留めてから5日は経ってるぞ。売り物になるのか?」
「えー?大丈夫だよー。採れたてぴちぴちのオーク状態だよー」
「そんな新鮮な魚のような表現をするな……。というか、暇ならいつもみたいにあの猫と遊べばいいだろ?」
「ケットシーはケットシーで忙しいんだよー?他の子達もね。キューちゃんとノクターンはお散歩中」
「……要は、遊び相手がいないのか」
「うん!」
現在地はおじいちゃん家の応接室。書類仕事中の皇子の向かいのソファーで寛ぎ中。因みにおじいちゃんは今、領主であるあの子爵のところ。何度か私にちょっかいかけにきたから、おじいちゃん直々に大元を叩きに行った。クロイツさんはストッパー。
「ねえねえクラウス、魔法使ってみて」
「は……?お前は、目の前で俺が仕事しているのが見えないのか?」
「でもそれ、推論で書き進めていい事じゃないでしょー?なら一旦放置放置。迷宮攻略の方が出来てるなら、及第点だとおもうよ?」
クラウスは少し悩んだみたいだけど、それもそうか、と書類をまとめた。やった!
「庭に出るぞ。俺の使える魔法など限られているがそれでもいいんだな?」
「うん」
見たいのは帝国の魔法なので何ら問題ない。クラウスは王族なだけあって魔力自体はそれなりのものがある。魔力回路は素人よりは出来てると言える。本当に最低限しか使っていない魔力回路だけどね。
……この魔力回路って概念も、王国産の教科書には載っていなかった。私の家や他貴族の家は魔法に力を入れていれば魔法書や魔術書を他国から輸入する事があるから知っている、最早広く知られた暗黙の概念だ。
まあ、あくまで概念で、実際に見ることの出来る人間なんて限られているだろうが。
「最低限使うって言ってたけど、どんな魔法?炎系?水?」
「炎だな。冒険者として魔物を狩るのに火はあった方がいい」
「どのくらい大きいの出せる?」
「最大出力は出した事がない。それにいくら庭に出たからと言って、火を使うのは危険だろう」
「大丈夫大丈夫。私がいるんだから。結界の1つや2つ作ってるから。そんじゃ、魔力を込められるだけこめた炎弾作って」
「炎弾?火球じゃなく?」
「うん」
いいから、早よ。と怪訝そうなクラウスを黙らせて作らせる。体の中心から回路を通って魔力が突き出した掌に集まる。そこに火の弾を作れという命令式が脳から与えられ、魔力と命令式が混じり合い魔法が発動、直径50センチくらいありそうな炎弾が形成される。弾、という事から想像はつくだろう。
私はクラウスに方向を指示して、結界を張っているから大丈夫と告げて、生垣めがけてそれを撃たせた。
そこの裏ににちゃんと、撃たれる対象が居るのを分かった上で、結界を消して。
「!シエルっ!!」
自分が安心して放った炎の先に人がいる事と、私が結界など消して居ることにクラウスが気付いたけど、既に魔法は発動してしまった。コントロール権をクラウスは失って居る。
炎の先でそのネズミたちが逃げようとしたので、私は私で氷魔法を行使、彼らの脚を膝まで凍らせ地面に留める。逃がさないよ。
「シエル!止めろ!!」
「だーめ」
クラウスが私に摑みかかるのとほぼ同時に、生垣を一瞬で灰にした炎弾が彼らの鼻先で、音を立てて消えた。
「……シエル?」
「だから、大丈夫だって。ちゃーんと安全性は考慮して、彼らの鼻先すれすれに結界がある事はわかってたし」
「……それ、精神的配慮は」
「してないし、いらない。理由はそこのお兄さんたちが1番よく分かってるはず」
そこの、と言ったときに私の視線の先にいた4人組のチームがびくりと身体を震わせた。あれれー?どこかで見た人たちだなぁ。2人は剣を抜いた状態、1人は杖を明らかに私達に向けた状態で、その顔は蒼白で、驚愕と恐怖に震えて居る。けれど容赦はしない。
「そろそろ来ると思ってたんだよねぇー。この屋敷最強の生けるセキュリティーが不在だったから」
「シエル、どういうことか説明はあるんだろうな?」
「そりゃ勿論。これ、不敬罪どころか王族の命を狙ったという点においては国家反逆罪だもんね?……未遂だけど」
「なにっ?!」
騒ぎを聞きつけた屋敷の人間が集まってきた。さっき伝令が走ったからおじいちゃんたちもすぐにここに来るだろう。
さて、どう収拾をつけようかなぁ。
想定通り、その後おじいちゃんは1分もしないうちに転移で現れ、私の名前を叫んだその次にはお人形よろしく抱き上げられていた。
「大丈夫かい?シエル嬢っ!」
「……グラーティアス卿、少しは私の心配もしてもらいたいものだが?」
「あ、皇子。大丈夫そうだねぇ。よかったよかった。さ、シエル嬢。部屋に入って悪い虫に触られた箇所を消毒しようねぇ」
「まて、その悪い虫ってまさか私じゃないだろうな?」
きっこえっないー。と、おじいちゃんは私を抱え上げたまま上機嫌である。
不敬罪でしょっぴくぞ?とマジトーンで皇子が言うから、おじいちゃんが到着した直後の騒がしいこちらを他所に、有能な使用人たちによって、武器は取り上げられてお縄になっていた冒険者たちがびくりと震えた。私が脚の氷結解除してないから、まだ動けないんだよね。クラウスも気づいておまえたちではない、と言ったけど。
「いやあ、私たちより先にこの人たちでしょー。だって、抜き身の剣やら杖の先やらをこっちに向けて生垣の先から狙ってたんだから。
皇子は殺人より悪口の方が罪が重いと考えてるんですか?」
不機嫌そうにクラウスは口を噤んだ。それと同時に声を上げたのは冒険者だった。違う!俺たちが狙ってたのはと、焦った様子である。
「狙ってたのは?」
私が問いかけると、黙り込む。おやおやそれは無いなぁ。君らに黙秘権など存在しない。というか、黙秘してもいいけど、その場合不敬罪で死罪だけど。と私が悪気もなく言えば、自分達が狙っていたのは私だと白状した。
「誰の命令で?」
「……」
「だから、黙秘なら不敬罪で死罪。
白状すればそれ相応の処罰。
それ以外の穏便に済ませるっていう選択肢はない。
私の身を害そうとしたのなら、私は次が無いよう対策を講じなくてはならないのだから」
ピキピキと音を立てて氷が脚だけでなく下半身を覆い始めた事で私の本気を悟ったのか、すぐに口を割った。彼らが知っていることを洗いざらい。
聴き終わった後のおじいちゃんはとてもいい笑顔。クラウスも不機嫌そうである。
でもそんな中、性格の捻じ曲がった私はいいことを思いついてしまったのですよ。
「君たちが不問で済む唯一の方法を教えてあげよう」
私としては上機嫌に笑って話しかけたつもりだったのだが、冒険者たちは小さな悲鳴を上げた。
その時は流したものの、後から聞いた話では、その時の私は仮面をつけていても分かるほどの悪い顔をしていたそうだ。
「旦那様」
とある貴族屋敷では屋敷の主が自分の書斎で小躍りしたい気分を抑えてその時を待っていた。
「きたか!」
執事が恭しく一礼をした。旦那様と呼ばれた男性は嬉々として、部屋を出て、応接室へと向かった。手筈通りなら、そこに冒険者に誘拐された少女を助けた数名の衛兵と保護された少女がいるはずである。
男性は余程楽しみに待っていたのか、ノックもせずにドアを開けて、その部屋に踏み入れ、次の瞬間、視界が上下逆転した。
客観的に男性に起きた事を説明すると、男性が一歩踏み出した所に、森で動物を駆除するための簡単な縄を使った罠があった。なぜそんな物がそこにあるのかはともかくとして、男性は見事に引っかかって脚を取られて天井まで引き上げられ、脚を拘束され吊り下げられているので自動的に頭は下になり、結果逆さに吊り下げられていた。自分の屋敷の応接室の高い天井から。幸いにもシャンデリアよりは低い位置で、たとえ縄が切られて落ちても死にはしないギリギリの高さに吊り下げられているあたり、仕掛けた人間の計算がうかがえる。腕を伸ばしたところで床には絶対に届かないし、他の家具に掴まることもできない。つまり怪我はしても死にはしない。だだし死にかける恐怖を味わう罠である。
だがこれで終わりではない。とある少女に言わせれば、ここからが本題なのである。




