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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第18陣


Heyジョニー!わたしは今馬車に乗ってるぜ!

え?ジョニーじゃなくてジェニー?知るかそんなもん。

……なんか最近キャラがブレブレな上に、中身が壊れ気味な気がするんだけど。私これでも一応公爵令嬢だよね?そうだよね?2年前まで見事に貴族様やってた筈なんだけど。あれれ。おかしいなぁ


さてと、そう馬車。今私達は馬車に揺られている。御者はクロイツさん。その隣に皇子殿下。アウストさんとミラさんがそれぞれ馬に乗って前方の見張り兼護衛。私は馬車の一番後ろに腰掛けてその他全方向への警戒。

バランス悪いよねー。しかも皇子いるのにこんなザルな警備でいいのかよ。という感じのことをおじいちゃんにストレートに言ってみたら、何の問題もないから。むしろAクラスパーティー使うより安心ですぐに出られると言われた。アウストさんとミラさんは納得していたけど私は納得してない。子供達も同様だ!激しく同意‼︎…まあ、聞き入れてくれなかったんだけどね。貴族の子供たちを大人の嘘で騙くらかして黙らせてたよね。最後まで断固抗議してみせたのは私だけだった。

そうそう、クラルフートさんのお兄さんにステータス表も無事につくって貰えた。

まあ、ステータス表と言っても、身分証がわりの簡易なものなので、名前と年齢と主な称号くらいだ。称号はギルドとかで更新をして勝手に増えるらしい。


名前:シエル(?)

年齢:10

称号:魔術の覇者、毒霧の迷宮攻略者


毒霧の迷宮っていうのは、私が攻略した迷宮の事。本当は名も無き迷宮だったけど、どうやら皇子たちが調査に入った時点で、名前をつけて区別しなくても問題ないくらいの超簡易の迷宮から一変、危険度増し増しの毒系魔物の迷宮になっていたことがわかったので、毒霧の迷宮って名前をつけられたらしい。…まあ、その1つ前のは…そうね。うん、魔術にどっぷりだった自覚はある。あるから突っ込まんといて。名前の所は自分で署名する感じだったので、仕方なしに書きましたとも。ステータス表の所にすらっと自分の名前自分で書いたらびっくりされた。よくよく考えてみたら貴族なら普通だけど、庶民だと例え貴族の使用人の子供だとしても、数カ国語をマスターして公用語の四ヶ国語で自分の名前を綴れるのはおかしい。貴族であれば、公用語での自分の名前の綴りを書くのは字の練習のはじめの一歩だからおかしくない。多分何処かの国の貴族の子供だというのは彼らの中で確定した事だろう。まあいいさ。その程度ならね!むしろそこはバレてたほうがなんかもう色々楽な気がする!


「ね、ねえ…」

「………なにー?」


大きな馬車の御者台近くの前方に貴族の子達はよって座っている。少し間を開けて、私が後方に座ってるわけだけど、そこにのうのうと話しかけて来る変わり者なんてヒロインくらいだ。さっすがヒロインー、空気読まないー。ほっておいてくれりゃそれでいいものを…。


「あ、ありがとう、…ございます」

「…別にお礼を言われることもしてないよー。成り行きで通りがかって、私が私の為に助けただけ」


私が君を助けなければ、君は偉大な魔法使いになれたのだから。そして地位も顔も権力も整った男性と結婚してめでたしめでたしだったんだから。私は君たちの知らないところで君たちの成功を邪魔しているに過ぎないのだから。


「でも、助けてくれたのは、本当だもん。

えっと、なにかおれい…したいんだけど、私、あげられるもの、なくて…」

「じゃあさ…」


生きてたらいつか私の前に現れて私を破滅させるかもしれないから死んでくれ。

…と、割と本気で思っていたはずなのだけど、口をついて出て来た言葉は、私自身予想していなかった言葉だった。


「"許す"って、言ってくれる?」


でも、それは紛れもなく、多分私が今一番欲しかった言葉でもあるのだと思う。


「えっと…?」

「深く考えないで。メアリーちゃんが気にする必要は全くない事なの」


そう。今の彼女が気にする必要は全くない。だって何も知らないから。そして、魔力があると分かり、それにより誘拐された彼女にはこれから入学の11歳まで、護衛と教師としてミラさんが付くことになったし、彼女の家族ごと帝都に移動する手筈になっているので、彼女が悲劇のヒロインとして大量の魔力を手に入れるような事は起こりえない。

あったとしても私が処理する。私の為に。

だから、彼女にはもう関係のない話だ。起こり得るはずだった過去の、実際には起こらなかった出来事に対する許し。そもそも私が許してもらわなければならない事ではない。そのせいで物語の私は死んだのだから。でも、それをそうやって割り切れない私だから、言葉だけでいいから欲しい。感じなくていい罪悪感を、物語を書き換える罪悪感を、払拭したいだけなのだと思う。


「ゆる、します…」

「…ありがとう」


訳がわからないままに、とりあえずといった風に言葉を紡いだ彼女に、仮面の下で笑みを向けた。ざわざわと落ち着かなかった胸の内が少しだけ凪を取り戻し始めている。


「あ、の。あなたは、…魔法つかい、なの?」

「違うよ。…なんでそう思ったの」

「私の住んでた場所をあんなに簡単にみつけたから」

「…あれくらい、少し知識があれば出来る。

私はただの旅人だよ。

字が読めて書けて、計算ができて、薬草の知識があって、多少戦えるだけの、ただの旅人」

「でも、そ、れって、凄い事…ですよね。だって、私…文字は読めるけど、まだ自分の名前も書けないし…、薬草はずっと教わってるから少し分かるけど、知らないことの方が多いし…計算、まだできないし…、戦えない…」


段々と尻すぼみになってゆく。何故だろう。彼女が言っているのは当然の事なのに。彼女は彼女が今持っている事実を、ちゃんと理解して驕っていないのだから恥じる必要はない。寧ろ身の程を理解しているという点では聡明とも言えなくもない。さすがヒロイン。…ヒロインだからという強制力なのかな。


というか、何だろう。ヒロインちゃんって思うと私の中であんまり感じたくない嫌悪感が滲み出て言葉の端々に棘がでそう。気分悪い。これからはあくまでメアリーと呼ぶ事にしよう。そうしよう。私の精神のために。


「…自分の今出来る事がちゃんと理解できていることは凄い事だと思うよ」


不思議だよねぇ。メアリーをヒロインだと思いさえしなければ、こんなにもスラスラと、何も思わずに言葉を話せる。


「メアリーちゃんは、別に自分が出来る事を自慢して生きて来たわけではないでしょう。

…周りよりも先に文字が読めたり、薬草を覚えたり出来る事は、天才でも努力しなければ出来る様にならない事。それを誇る事は悪い事じゃない。

誇りを驕りに変えて、私はもう出来るのに貴女はまだ出来ないの?とか、そんな風に振りかざした事は無いと思う」

「で、でも、薬草は、生活するために、必要だから覚えなさいって…おかあさんにいわれただけで…」

「それはあくまできっかけだし、覚えようと努力するのはメアリーちゃんでしょう。

他人の能力と比べる必要はどこにも無いし、なにより、…私にとっての私の知識は、メアリーちゃん同様で、生きる為に必要だから身につけたに過ぎない。

……ただそれだけの話だよ」


子供にしては冷めた言葉だとは思う。実際聞き耳を立てているらしいミラさんがぎこちなく私の方を伺っているし、クロイツさんも意識が私に向いている。正確には、私が述べた内容に。

メアリーという子供が理解できると思って言った言葉ではない。いつか理解するだろうとは思っていたが、ただそれだけだ。彼女の事を思っての言葉ではない。

彼女へのフォローと、自分の前世の記憶持ち(チート)への自嘲が言葉になっただけの話だが、ミラさんやクロイツさんからすれば、異常な子供なのは間違いない。けれど、子供らしく振舞うことはしない。私は、自由に世界が見たくて出て来たのだから。子供らしくではなく、私らしく生きていたい。だからその発言から私の生まれが何処かなどを詮索、想像されるのは甘んじて許そうと思う。


「……魔法使いね」


確かに、物語のシェリティアは、魔法使いだった。主人公が幸せになる為の敵、オプション、オブジェクト。

御伽噺では、魔法使いの魔法で、主人公が幸せになる。有名な物語では良い魔法使いは服と靴をくれた。反対に主人公にとって悪い魔法使いは苦難を与える。

……それすらも、主人公には幸せになる為の要因でしかない。乗り越えるのは決まりきってて、乗り切った先にはハッピーエンドの予定調和。


魔法使いの存在は、まるでバス停みたいなものでしかない。通り過ぎたら、それで終わり。物語のある一点でしかいきないもの。


「魔法使い、ね」


もう一度だけ、溜息と共に吐き出した。

そうだとしても、私は多分悪い魔法使いだ、と。溢れそうになった言葉を隠して。

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