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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第19陣



リットンデールの街へは片道半日もかからなかった。なんで?って思うよねー。

それはねー?魔力持ちの貴族子息令嬢の皆様が大変なおガキ様で、誘拐の恐怖とショックが薄れたせいか横柄な態度を取り始める輩が出たのだ。やれ馬車が狭い、尻が痛い、食べ物は無いのかなど。森の中を通っている以上、安全の為にも黙ってやがれと大人組with私は思って、何度か注意したけど聞かない。クロイツさんは笑顔で操縦を続けていたのだが段々とその笑顔の輝きが増してきている。あ、ストレス半端なさそうと思った。

そこで、私が独断と偏見をもって馬車の進路を変更したのだ。そう、陸路から空路に。恐怖が足りないというのなら、作り出してあげればいいじゃなぁーい。と。

クロイツさんに御者台から馬車の中に行ってもらい、ミラさんとアウストさんにも声をかけて馬を集めてもらってから中へ促した。

馬車を引いてくれていた馬達がびっくりするといけないので眠らせて結界で囲い、私たちの馬車にもかける。そして風の魔法を私が駆使して2つの結界の包みを空に飛ばして気流に乗ってリットンデールの街へひとっ飛び中というわけです。

そしたらあれです、典型的なプライド高い、物語では序盤から出張って小賢しい真似をして中盤でとんでもない悪巧みをして、終盤でヒーローにあっさりさっくり倒されて退場する系の子たちがクロイツさん達に、私の事を問い詰め始めた。何人かは冷めた目で騒ぎ出したそいつらを見ていたけど、基本的に思うことは同じなのか、怯えつつも黙って事のいく末を見ているらしかった。

私は至極めんどくせえ、と仮面の下で思いながらも務めて笑みを浮かべて、馬車を操縦していた。

あの小娘は何なんだ。から始まった、貴族子息の一方的な問い詰めはBGMにするにはうるさ過ぎた。


「あのさあ、静かにしてもらえる?気が散るんだよ」

「なんだと⁉︎お前みたいな訳の分からない庶民の言う事を俺が聞く必要がどこにある!」


じゃあお前みたいな煩い奴の言う事を聞く必要がどこにある。とは言わずに、冷静に、

私の気が散ると危ないのは君らだよと伝えれば、目の前のおガキ様とその取り巻き以外はどう言うことか気付いたらしく、黙り込んだ。身を寄せ合って震えている。私が期待した通りの行動だ。正解!常識人!


「ふん!俺は帝国のフォード伯爵家が三男リト様だぞ!あまり俺にそんな態度をとると、お前みたいな庶民なんてすぐ隷属させてやるんだからな!?」

「…ねぇ。静かにしろって言ってるのが、分からないのか」


隷属、という言葉に気持ちが動いて低くて硬い調子になってしまった。というか、コイツが私の大嫌いな貴族にそっくりなのだ。思考も、態度も、何もかも。リヒトの父親(ブタ)に似ている。


「この状況を分かっていない貴族子息殿に、私が態々状況を教えて差し上げよう。


私たちは今、空の彼方を飛んでいる。私の魔法によってね。魔力のある君らは知っているだろう?魔法のコントロールは集中力と感情に起因する。見たところ、君らは魔力封じのアクセサリーを付けさせられている。と言うことは自分でそれらが制御出来ないということ。

制御の難しさを知っているはずだ。

些細な事で魔法は砕ける。」

「それがどうした!俺達は魔法学校入学を控えている一貴族!その程度の事は家庭教師に何度も習っている!」


ここまで言ってやっと取り巻きの子達が答えに行き着いたらしくて吠える貴族くんを止めようとしているが、見事に黙ってろ!と言われて萎縮しつつも私の動向が気になるらしく、私と貴族くんの間を視線が行き来している。


「さて、私の魔法で浮かんでいるこの状況。

私がやる気をなくして魔法を使うのを空の上で辞めた場合なんだけど……。

君ら…飛行魔法は使えるのかな?」


私に食ってかかっていた伯爵子息くんはどうやらようやく状況を理解したらしく、青ざめて後ずさった。


「お、俺達を脅しているのか!俺達が無事に帰らなかったら父上達が黙っていないぞ!」

「自業自得だと思うけど。証人ならちゃんといる。自分の身分を盾に、自分以外の肩書を鎧にしたなんの功績も持たない子息と、自分で身分と肩書を得て功績を挙げた国の高官じゃどう考えても後者が嘘を言ったとしても正しいよね」


ねえクロイツさん。と声をかければ、そうですねえ。でも私は嘘は言いません。あった事をそのままきちんと報告させていただきますよ。といい笑顔。


「護衛が要らなかった理由はそこの御者台の方が我々を凌駕し圧倒する力の持ち主だったからです。

それから此方の高貴なお方はAランクの冒険者資格を持つ貴方方の先輩になるお方です。また、そちらの騎士殿は帝国の近衛騎士、そちらの魔術師殿は宮廷魔術師団の新星、そして私は、貴方方がこれから入学するらしい学校の、恐れながら魔術の最高位教授の座を頂いている者です。

誘拐事件で心身共に疲れ切っている君たちやその親に余計な心労は要らないとの我が主人のお言葉により、身分を隠すからには道中の不敬は見逃すつもりでしたが、…限度というものがある。

今黙れば報告で留めるが、万一これ以上そちらの仮面の方にご迷惑をおかけするのなら、こちらにもそれ相応の対応の仕方がある事は、貴族を名乗るならば分かるだろう?」


………という経緯で、やっと静かな旅になってくれたので、スピードアップ。リットンデールの街の付近、門の側まで空の旅をしたので、半日かからず到着した。間に街を2つ挟むので、普通なら夜はそこで明かして3日ほどで着く場所らしい。…私1人だけ転移でいいなら一瞬だとは口が裂けても言えなかった。だって1人ずつ連れて転移しまくれと言われそうだったから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「シエルさん。あれだけの魔法を行使しましたし、お疲れでしょう。今日はこの街に泊まって、明日メアリーの家まで送り届けるという事でどうでしょうか?」


貴族の子供達を無事に説教と共にクロイツさんが親たちに引き渡すのを遠目に、私はケットシーとお菓子を頬張っていたのだ。滞りなく仕事が終わったので、休んで問題ないはず。…まあ、もう2つメアリーちゃんと皇子たちの護衛が残っているのだけれど。


「…今日この街に留まるのはいい。でも出来るだけ早くこの街出て依頼は終わらせたいというか、メアリーちゃんの母親に知らせたいし、薬草も欲しいから私は今からメアリーちゃんの村行ってくるよ」

「……疲れてないんですか?」

「何で?風魔法と結界魔法をちょっと使っただけだよ?」

「ちょっと……?」


なんでそんなびっくりしてるんですか。あの程度でわたしが疲れると思うなんて…。迷宮攻略者舐めんじゃねえぞ。

呆然としていたクロイツさんはそれでも比較的直ぐ立ち直って、では説明係でわたしを連れて行ってくださいと言う。少し離れたところでアウストさんと話している皇子に視線を向けて、側近だよね、大人しくしてれば?と言外に伝えるものの、問題ありませんとばかりに笑みが深くなった。

アウストさんや皇子と少し話すと許可はとりました行きましょうとキラッキラした笑顔で言われた。やっぱりこの人リヒトに超似てるわ。



「ポップリッフェンはもうよろしいのですか?」

「うん。これだけあればあとは勝手に増やすから平気。クロイツさんありがと」

「いえ。これも契約のうちですから、お気になさらず」


契約とは、今回一方的に護衛を任された私に成功報酬以外で道中色々揃えてくれるというものである。私が道端で欲しい薬草や花があれば、護衛できる範囲内であれば自由に集めてきていいという約束もしてくれた。

私では手に入れられない(見た目子供なので売ってくれない薬草やら道具ってけっこうあるの)ものを代わりにゲットしてくれるそうだ。勿論お金も向こう持ちで。まあつまり、簡単に言えば、パシリです。


「それにしても…シエルさんは本当に薬草の知識も深い。使う魔法も興味深いですし……どうですか?帝都についたら、学校に来ませんか。教える事はほぼ無さそうなので教授になりません?」

「いやいやクロイツさんこそ、薬草学もちゃんと理解しててびっくり。専門外のこともできるのに魔法陣の解析まで出来る魔術教師ってそう多くないでしょ?

特に帝国じゃ。ここ数年帝国から貿易港国あたりぐるぐるしてたけど、本当の意味で魔法を使えるのは一部だけ。しかもみんな衰退していってるって言う中で、それだけの知識をもって魔力の量の少なさをカバーできる器用さは私にはない。

随分努力したんでしょ?」


道中を私の魔法を使って2倍速で歩きながらの会話を楽しんでいたら、不自然にクロイツさんが動きを止めて、顔を手で覆った。…なんかまずいこと言ったかな。


「………あー…。その、面と向かってそう言う事をストレートに言われてしまうと…その…」

「なんで?事実でしょ?それに言われ慣れてると思ってたんだけど」

「……ええ。…ありがとうございます。シエル様」

「うえっ、なんで急に様付け?というか何で急に抱っこ?疲れるでしょ。離そうよ」

「軽いので大丈夫です。師が何度も膝の上に乗せていた気持ちがわかりまして。もう暫くおとなしく運ばれてくれれば幸いです」


と言われても。確かにおじいちゃんは事あるごとに私を膝の上に乗せたがった。人形扱いだった。実の祖父よりスキンシップ過多だった。だからってなんで弟子まで私を人形扱い!?横抱きをされているので離せという意味を込めて肩を叩いてみるものの、ダメージゼロ。笑顔で脚を進めていく。


「…クロイツさーん。下ろしてくださーい」

「嫌です」

「敬語使ってない上に馴れ馴れしい態度もご希望なら直しますので離してください」

「敬語も改まった態度もいりません。腕の中で大人しくしていてください」


状況は平行線を辿るだけだった。仕方がないので村の数メートル前までと条件をつけて好きにさせる事にした。だって説得するのに骨が折れそうなんだもの。

嬉々として私を運ぶクロイツさん。ああ、本当にリヒトに超似てるわー。とか現実逃避しながらぼーっとしていたんだけど、気になる点が。


「……クロイツさんって何でおじいちゃんの弟子になったの?」

「シエル様からすると普通かもしれませんが、グラーティアス卿はこの国で最も有能な魔術師なんです。…衰退はしていますが、魔術で身を立てたい人間には憧れの存在なんですよ」

「ふーん。でもクロイツさんがわざわざおじいちゃんのところで学んだ理由は違うでしょ?

…うん、教師が欲しかったのは本当だとは思う。おじいちゃんが最高の魔術師なのも、それの弟子って言うプライズが欲しかったのもわかった。でもおじいちゃんは多分教師には向かないタイプだ。そんな人の下で学ぶってかなりの苦労だよ?

じゃあそれは何の為?やっぱり、…仕える主人の為?」


そこまで理解しておいて聞きますか、と困ったように笑っている。


「…ええ、私の主人を支えるには、魔法を磨くのが一番だと考えたからです。詳しい話はしませんよ。あなたはきっと、教えなくても気づくことでしょうから」

「じゃあもう一個だけ」


今度は何を聞かれるのか、と少し緊張したようなクロイツさんに、私は伺った。

お菓子食べていい?と。

彼は歩みすら留めてきょとん、として、それから先程までの憂いも飛んで、声を上げて笑っていた。



何?ちゃんと離してもらったよ村に入る前に。クロイツさんが物凄く見つめてきたけど目を合わせなかったよ。


メアリーちゃんの母親の家は村の奥の方にあった。静かで、小さな、かわいい家。その周りにも同じような家が立ち並ぶ中で、その家の周りだけは、一等静かだった。

案内をしてくれた人が言うには、娘が攫われてから随分衰弱したけど、村の人たちの為に薬師としてしていた仕事は休みもせずにやってくれているらしい。だからこそ、これ以上の心労はかけたくないそうだ。

「随分頼りにされてるんだねぇ」

「ええ。…別な問題が浮上しましたね」

「そうだねぇ。大丈夫かな?」

「そうですねぇ。なるべく早く話をつけたいものですね」

笑顔でやり取りをする内容は勿論メアリーの母親についてだ。今の会話を省略なしにしてみるとこうである。


「(村の人から)随分頼りにされて(きにかけられて)るんだねぇ」

「ええ(そうですね)。…(と言うことは)別な問題(として、移住が叶うかどうかと言う不安)が浮上しましたね」

「そうだねぇ。(メアリーのお母さんが自分が作った薬を待っている人たちがいるんだとか言い出したら面倒だね)大丈夫かな?」

「そうですねぇ。なるべく早く(移住するという決定事項に従ってもらうべく)話をつけたいものですね」


と、なる。え?ハナっからメアリーの母親に決定権なさそう?交渉と言いながらの脅しだよね?……ええ、そうですけど。何か?

だって仕方ないじゃない。帝都に連れて行くって決めたのは、皇宮の人間たちなんだから。身分制度は絶対。皇帝の血がその国では最も尊く、国民は皇帝の物。その次に偉いのは皇族で、その皇族の第三皇子殿下が、帝国の魔術の第一人者と帝国一の魔術師と決定した事なんだから。

黙って従え。それが王政というものだ。

そして母親が拒否する場合はメアリーを人質という形にするため、多分頷かざるを得ないだろう。


「どうしましたか?」

「なんでもないよぉー。ただ単に、権力者って怖いなぁっておもって。

……絡め取られないようにしなきゃ、って」


蛇のように狡猾に、欲しいものは手に入れるのが貴族だと私は知ってる。それがどんなに下らないことであっても、莫大な費用を注ぎ込んででも、時に人を殺してでも、手に入れたがるのだ。散々見て来た。

手に入るはずのない物に焦がれ剰え自分の命ではなく他人の命を勝手に供物にして高潔に触れようとする哀れで愚かな者たちを。


「取り込まれずに済む方法は単純ですよ?」

「自分が権力者になるっていう手なら却下」


問いに間髪入れずに応えれば、やれやれと肩をすくめて、信頼できる権力者を利用すればいいんです。と何でもないことの様に言う。


「利害関係の一致による相互利用関係と置き換えても構いませんよ」

「修行当時のおじいちゃんとクロイツさんみたいな?」

「……まあ、そうですね。いかがです?我が師や我が主や…まあ私でも。残念ながらアウストでは立場が弱いのでお勧めはできません」

「それは一種の取り込みだから却下」

「迷いが無いですねぇ…。ですが、考えておいてくださいね。特に我が師との繋がりはあって損はしませんから」

「あははっ。余計なお願い事いっぱいされそうだけどねっ!」

「!…否定出来ないですね」


苦笑いするクロイツさんに笑いかけて、さあ行こうかと促す。なるべく早く戻らなくちゃ。交渉ごとは慣れているクロイツさんに丸投げするから私は気にしないでいい。

頑張ってーとエールを送りつつ、ドアを叩いた。

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