第17陣
もちろん公には都市伝説なだけで、別にバレても問題ないことのため、記憶消去はされずに済みました。
「さてと、シエル嬢が商人くんを誘拐された子共々送ってこなかった理由は?」
「一仕事してもらわないといけなくて。私がこの街から出て行くのをちゃんと街の人たちに見せておかないと。
私は何事もなく出て行ったことを印象付けて、その後領主と教会が廃止になれば一安心。
その後、なんらかの問題が起きたとしても、私はもう1つも関係ない、でしょう?
私は後からぶつぶつ言われるのいやだし」
「…成る程ね。じゃあワシはフードを深くかぶってシエル嬢とギルデロイと荷台に乗って、商人くんによってこの街から出れば終わりかな?」
「うん。大人しくそうしてくれれば、今回の悪戯には料金発生させないから」
「うん。それはごめんよぉ。うちのギルがまさか昏倒させられるとは思ってなかったんだぁ~」
ギルデロイさんが気まずそうに目を逸らしたのは気のせいでは無いだろう。昏倒ねぇ。魔力が見えてる時点で、成り代わりは私には効かないんだけどね。
「まあいいよ。それが任意であれ故意であれ最初から正体は分かってて連れてきたし」
それより疲れた早く戻ってステータス表作ってもらおうと言うことになり、私たちは街を出発。勿論街から出て、見えなくなったあたりで私の転移魔法を使って、元いた私が攻略した迷宮のある町に戻ってきたんだけどね。
…忘れてたんだ。そこには今、だれがいるのかを。
おじいちゃんの屋敷では、たくさんの子供達が寛いでいた。誘拐されて居た魔力持ちの子達である。どうやら彼らは大体が知り合いであるらしく、コミュニケーションを取っていたのだがその中で過ごし辛そうにしていたのが、…ヒロイン。ふわふわの短い金髪に翠の瞳のヒロイン、メアリーである。
…まあ、当然っすよねー。だって魔力持ちの中で貴族や大商人の娘じゃないの彼女だけだし。
…ああ、解説するべきかな。私が誘拐された子達が魔力を抜かれる前で良かったと言ったのは、魔力は間違いなく貴族と上部の一般層にしか出現しないからだ。つまりこの時点で空間魔法などを使う私は完璧に貴族かその落とし子、何にしろ過去貴族にゆかりのある子どもであるという認識はされている。
それを説明するには話は数千年前に遡る。
大昔、この世界は魔法を使えない人々と魔法を使える人々が9対1の割合で暮らして居た。
しかし魔法という便利な力は、疎まれ羨ましがられるため、争い事を好まないために1割にあたる方々は身を隠して暮らして居た。
(まあつまり非力な者の数の暴力って怖いよねってお話だよ)
そんな時、大災害が起き、魔力を持たない人間の殆どが死に絶えた。哀れに思った魔力持ち達が助けた人間が生き残り、子孫を残した。
魔力持ちが難点として挙げられたのが、その魔力に応じて長寿である事とそれに合わせて繁殖力が低いという事だった。
非魔力持ちはその点に関して短命ながら、それゆえに繁殖能力が高かった為に、数を増やすのが早かった。だがその繁殖期に魔力持ちの方が優位な立場に立ち、表舞台に立ちはじめた。
そして現在、その魔力持ち同士の子孫にあたるのが貴族、魔力持ちと魔力無しの間の子孫が豪商や一部の平民役人、魔力無し同士の子孫が平民達という形になっており、魔力の有る無しはそのまま祖先が何であったかを示しているのだ。だから魔力があるという事は間違いなく貴族の子か豪商や役人の子、又は所縁のある者であるので、すぐに身元が判明する。魔法が衰退し始めている帝国において、魔力を持っている事はステータスの1つだ。間違いなく親が血眼になって探しているはずだから、こっちも親を見つけるのは割と簡単。……まあ、そんな昔話をここ数年、いろんな本屋に行っては見つけ、教科書を読んでは見つけってやってたんだ。多分間違ってないはず。
ああ、それでね、メアリーが魔力持ちという事はその祖先は魔力持ちである。だが貴族には、侍女を、娼婦を…とかよくある話なので、メアリーが平民だというなら、多分そういう事なのだ。
…例のシナリオでも、平民には珍しく魔力があったからというはなしだが、この世界の仕組みを現実に見て、知って思う。メアリーを引き取って養子にしたと言う貴族、養父じゃなくて間違いなく実の父親だろう。…まあそう言う経緯や、孤児院時代の孤独などがリヒトと共感するキッカケになったのだろう。酷いことになる前に私が止めちゃったけどね!というか、その養父だれだっけ。確か男爵だったはずだけど。……うわあ、男爵位でお兄様達公爵や王族を手玉にとって私という公爵を殺しに来てたとか、普通有り得ない…。シナリオこわい…。まあ私は今私のバッドエンドなみんなのハッピーエンドぶち壊しにしているわけだからいいんだけど。
…まあさて、そんな訳で顔見知りの魔力持ちの子供達に、平民メアリーちゃんが馴染めるわけはなく、また1人で"幽霊"ごっこをしている。
そうそう、メアリーちゃんが孤児院で馴染めなかったのって、ある意味自業自得なのよ。彼女が無意識に発動していた魔法が結界と目くらましだったせいで、周りから急に見えなくなる。だから周りの子達がきみわるがった。まあ感情過多で騒ぎたい盛りで好奇心旺盛な子供達からすれば、幽霊と言って騒ぎ立ててもおかしくない。そして幽霊と言われて心のバリアを張っちゃうせいでまた無意識に発動…負のスパイラル。
……こんなのに殺されたのか、未来の私。ん?ああ、ごめん。可哀想とかぜんっぜん思わないわ。だって彼女、さっき話した限り魔法が使える事には自分で気付いてる。気付いてて、なのに自分から変わろうとしていない。そんな人間に私は、負けた。ありえない。認めない。
…え?そんな風に身内以外に厳しいから最終的に魔王だのと言われて幼馴染達に殺されるんだぞって?うっさい余計なお世話だ。シナリオのシェリティアは、冗談抜きで子どもだ。精神年齢は肉体年齢と同じ。そんな状態で、私が今使ってる力を抑え込んでいたなら感情の1つや2つ死ぬし、身勝手な理由で肉親殺され家めちゃくちゃにされて幼馴染たちが居なくなって、ってなったら、そりゃ壊れる。最初から酷い性格だった訳じゃない。(そもそも酷い性格はしてなかったと思う。私の人格のせいで現在の性格はよろしくないかもしれないけど。)その辺の事については当事者になったので色々物申したいけど、誰にぶつけていいか分からないからやめとくわ。
そんなこんなで…メアリーちゃんの母親はどうやら平民のようなので、探すのが大変らしい。他の子達は案の定早々に親元と連絡がついたので、早い子は今日中に親の所に戻れるらしい。
「どうにか出来ない?シエル嬢」
「どうにか出来なくもないけど一先ず離してほしい」
毎回恒例。おじいちゃんの別荘の応接室に私はいる。正確には応接室の一対のソファーの片方に座ったおじいちゃんの膝の上に座らせられて腰を抱かれているとも言える。そして反対側にはメアリーちゃんとクラルフートさんとその兄。ほら、クラルフートさんはともかく兄の方がグラーティアス卿が…!と慄いてる。メアリーちゃんはとても不思議そうにこちらを見てくる。肉体的には同じ年齢だけど精神的には私大人なので視線が痛い。お姉さんつらい。
「外野は気にしなぁい」
いや気になるわ!
おじいちゃんになんとか膝から降ろしてもらった私は、息を整えるフリをして気分を落ち着かせてからメアリーちゃんを正面から見た。ううう…なんでこんな事を…。
「必要なものはあるかい?」
「いいや、特には。魔法使う訳でもないし」
「……じゃあ別に私の膝の上から降りなくてもいいじゃないか」
「さてメアリーちゃん」
「無視かい?まあシエル嬢だからいいけどさぁ」
迷子探しは色んなものの応用だよ。探査魔法の応用。彼女の魔力に1番近い魔力を探せばいい。魔力は力の根源である以前に遺伝子レベルの証拠になるもの。彼女の母親が魔力もちか、父親が魔力持ち。どっちか、またはどちらもな可能性がある。…ただし、彼女の様子からすると平民。母親と住んでいたらしいから母親は魔力もちじゃない。…つうか、ゲームの時と同じなら、街も既に判明してる。ここから帝都方向に大きな街を二つ抜けた海の近くの、森に囲まれた小さな集落である。ゲーム通りならね。
とはいえ魔力を探るというのは並大抵の魔力コントロールでは出来ないことらしいし、私自身の能力を広く知られてしまうのは避けたいので、地道にいこうとおもう。
「メアリーちゃんはどういう場所に住んでたの?誰と住んでた?その場所の名前とか覚えてたりする?」
「お母さんと、むらに、すんでたの。名前は、トトのむら。おおきなまちに買い物にいって、それで…」
「村は何か有名なものはあったかな?」
「ううん。ない…。みんな、周りの森で狩りとか、してた」
「…村の周りには森だけ?」
「まちとはんたいのほうに、東がわ?に、海があるよ!」
東の沿岸部付近の森、トトの村。該当場所……トト多くない!?ちょ、絞り込み辛い。情報が足りない!
「メアリーちゃんはお花は好き?」
「うん!まちにいくときに、お友だちと一緒に摘みに行ってたよ!
黄色くて、みつがあるおはなと、赤くて葉っぱがお星さまみたいなの!」
「イエローヒーリスと、ポップリフェン」
「!うんっ、お母さんはそういってた!」
イエローヒーリスとポップリフェンは薬草だ。海の近くの森に生息する。おじいちゃんも彼女のいた場所は海辺だとわかっただろうが、さっきの該当数を見た私の反応からも分かる通り、海辺の集落など、数多く存在している。どうやって絞り込む?と言わんばかりに口を挟まずにこちらの様子を見守っている。
「町には何回も行ってるの?」
「ううん。この間はじめて」
「どのくらいかかった?1日?」
「のりあいの、ばしゃで…えっと、朝に出たらお昼についたの」
「道に何かお花はさいてた?」
「んーと、んーと……あ!オレンジ色の小さいお花!」
「ほかには?街の中のことでもいいよ」
「おそらに…、おっきいとりさんがとんでいった!」
「…とりだったの?」
「うーんと…まちにいくまえ、いっぱいいたの。火を吹いてたの!」
オレンジの花はオーシュ。金盞花みたいな甘い匂いを出す。火を吹く鳥は、多分ワイバーンだ。竜も鳥も、大きい物は群をなさない。炎を吹くのは竜だけの筈だし、以上から竜成らざる存在で名前に竜を持つ飛竜だけ。
ふん…なるほど。
「おや、分かったのかい?」
「うん。多分リットンデールの街から東に向かったところにある集落だろうね」
紙とペンを取り出して軽い地図を書き出す。
リットンデールは商業の発達した街で、薬草屋は薬草の数は少ないが種類は豊富な事で有名だ。周辺の森にそれらが自生していることもまた特徴。オーシュの花が咲く場所とイエローヒーリス、ポップリフェンがある地域を分け、海が見える場所だから、と言って幸いにも該当する村が一個だけだと地図を見せればなるほど、と多少納得のいかない部分があるが飲み込んだらしい。
まあね、私も、私がそう言われたのなら多分納得しないことだろう。仕方がない。
「あと、メアリーちゃんが見た鳥っていうのはワイバーンだと思う。それの群が脇目も振らずに餌の匂いのする方向に飛んでいたとする。
ワイバーンが、ある程度認識される程の速さで飛んでいたとするなら...___」
私が首を落としたワイバーン達がとんで来た方向はリットンデール方面だ。おそらくそれで間違いない。と告げると、おじいちゃんも多分鑑定した時に鱗にリットンデール上空に漂っているという蝶の鱗粉を認めたのだろう、スッキリした顔で納得してくれた。
すぐギルデロイさんを使って確認してくれるそうなので私たちはお茶の続きをしようということに。…私帰っちゃダメ?
「それにしても…シエル嬢は頭が良いんだねぇ。薬草学、算術、地形…。大人でもそこまで出来る人は中々いないよ。一体誰に教わったんだい?」
独学です。とは言えない。シェリティアの記憶力と公爵家の人間であるための豊富な図書の量と転生による数学系の知識的チートの賜物ですとはもっと言えない。やむを得ない。ここは必殺…!
「ひ、み、つ!」(にっこり)
「うーん…可愛いから今は聞かないで置いてあげるよぉ〜」
まあそれなりに効果はあったと思われる。だがクリティカルヒットはしなかったようだ。残念。
「シエル嬢はステータス表を作ったら街を出る予定なのかい?」
「うん。この街自体に用事があったわけでもないし」
「ああ…そうだよねぇ。確か成り行きで留まってたんだっけ。次はどこへ行くの?」
「どこだろうね?私は気ままな旅人だから」
嫌な予感がするので、全力で面倒そうなフラグは避けていきたいと思うのだけれど、そう思った時にはフラグが立ってて尚且つ不可避って良くある話だよね。え?ない?アハハハハ!ソウカナー?
「用事は特に無いんだね。じゃあリットンデールまでその子と、直接迎えに来れない貴族の子達の護衛を頼むよぉ。
ついでにそのままうちのバカ弟子達を帝都まで連れていって」
……だから言ったろ?そういう思考に陥ってる時点で、人生ってのは、負けなのさ……。




