第16陣
その後、私が送りつけた転移魔法陣(使い捨てタイプ)を使用して、おじいちゃんとギルデロイさん(本物)が到着した。現場を確認、並びに私による徹底的な破壊活動を行ってひと段落。私たちは領主の屋敷で勝手に寛いでいる。私たちは、というか私とシーフキャットはね。おじいちゃんとギルデロイさんは隣の部屋でお縄になって芋虫状態の領主と大司教の処理(と言う名の尋問)をしてる。
クラルフートさんは緊張しているらしい。おじいちゃんの名前を聞いてからビクビクしてる。大丈夫だよ、ここに居ないし。
「し、シエル様は、グラーティアス様とお知り合いなのですか?」
「うん?うん。知り合い」
「酷いなぁ。知り合いどころか未来の家族だろぅ〜?」
「私、おじいちゃんの本名すらしらないけどね」
気配を消して私の座ってるソファーの背面からポッと湧いて出たおじいちゃん。クラルフートさんがビックリして可哀想なことになってる。
「そんなに驚いてくれると脅かしがいがあるよねぇ〜。シエル嬢はちっとも反応してくれないしさぁ」
「私に人並みの反応を求める?…あれ?ケットシーは?」
「ああ、猫くんなら鞭を片手にいい仕事をしていてくれてね?」
「なら大丈夫だね。尋問はお手の物だから」
「君の猫くんなんなんだい?尋問もこなす使い魔なんて聞いたことないよ」
「いいでしょー?うちの子たちは皆素直で有能なんだよー?」
ちゃっかり私を抱き上げて膝の上に乗せて話を続けるおじいちゃん。私の気分はお人形かな!でも怒ったりしません。教会の押収品、報酬として欲しいものくれたから。
「とりあえず当事者だから結論だけ教えてよ」
「ん?ああ…そうだねぇ。
シエル嬢がくれた証拠品で領主と教会を処罰するだけの根拠は揃ったから、両方とも地位剥奪の上賠償を求め犯罪奴隷として開発労働地区に送られるよ。
新しい領主は隣町の友人が兼任してくれる。
教会の方も、この街のは潰して隣町の教会及び孤児院の方に任せる事にした。
それから子供たちに関しては、攫ってこられた子達はみんな親元に帰すよ。ステータス表もちゃんと送ってくれたのは、そういう事だろう?」
「うん。魔力を吸い取られる前でほんとうによかったよ。じゃなきゃ帰せなかったし」
「それでねぇ、シエル嬢?
疑問が残ってるんだよぉ〜。君は私たちが見てすぐに分からなかった陣に、並々ならぬ破壊心を見せていた。私たちは先程本人たちを縛り上げてやっとなにかを知ったのに、君はあの魔法陣が何か最初から知ってるよねぇ。だから破壊を望んだんだよねぇ?その理由を聞いておきたいなぁ?」
私を抱え上げる腕の力が強くなった。あー。これ人形ごっこじゃなくてやんわり拘束尋問だ。
「シエル嬢はビックリ箱みたいな子だと思ってるけど、あんな禁術すら知識があるなんておかしいよねぇ。
魔法陣なんて書き込む術者が発動しやすいような陣ばかりでそれがどんなものか、攻撃魔法の発動呪文を聞くか、それ以外のトラップ系なら発動するまでは分からない」
「どんな術式であれ、基本ベースは決まってる。それにどれだけアレンジを加えても、必要事項は必ず散りばめられて陣の中にある。
見る人が見れば分かるパズルみたいなものでしょ」
「それが出来るのは歴戦の戦士とか、かなり高位の魔術師や陣の解析者たちだろう。
君は、それが出来るのだとしてもあまりに幼い。身体と精神のバランスが悪い。悪く言えば、子供らしくない子供。
君は基本ベースがあると言ったが、禁術の基本ベースを知っているということは、見た事があるんだろう。
…その理由は、教えてくれないのかな」
「想像に難くないでしょ?」
「そろそろミーの敬愛するご主人様を離せ」
にゃあ、と後から取ってつけたような声がして、ケットシーが超笑顔を向けている。おじいちゃんは降参という意味を含めて両手を頭のあたりまで上げたので、遠慮なく膝の上から脱出してクラルフートさんの隣に陣取る。ケットシーとシーフキャットも一緒にである。
「…なにもそっちの方に行かなくても……」
とおじいちゃんが不満そうに一人で座るには大きいソファーの空席に視線をやった。寂しそうに言ってもそっちには座りません。
「お疲れ様、ケットシー。成果はどう?」
「ばっちりですにゃぁ。あの禁書の出処は帝都の変な露天商らしいですにゃ。その露天商は迷宮から冒険者が取り出したものを買い取ったらしいですにゃ」
「…迷宮かぁ。というか、露天商って…禁書売ってるって……」
ケットシーと顔を見合わせて、思わずおじいちゃんに視線をやってしまった。おじいちゃんが大変衝撃を受けたように私はちゃんと売る相手見てるよぉ!と言ったけど、あんたが禁書あげた相手は齢10の童女だよ?
「まあ、何にしろまともじゃないね」
「…それを受けて帝都の迷宮の出入りや商店などの検査が厳しくなる予定さ。
あの迷宮は得体が知れなくてね。今のところ更に巨大になる事はないんだけど、強く深い迷宮だ。
既に攻略済みの迷宮とはいえ、攻略主が権利を譲渡せずに死んでしまっていたら、とんでもないことになってしまうよ。
…まあそんなとんでもない迷宮だから、あんな禁術の書が出てきたのかもしれないけどね…」
「ふーん。一体どれだけ深いところから出てきたんだろうね?あんな禁書、レア中のレアだろうに」
帝都にある、巨大な迷宮。その深さは誰も知らない。階層的には100迄は確認されている、規格外の巨大迷宮だ。レアなアイテムを掘り出すとしても、相当深い所まで潜らなきゃいけない。はたしてそんなに深い場所に行ける実力のある冒険者が一体どのくらい帝国にいるのだろうか。
「あ、あの……グラーティアス卿、我々商人はかの迷宮が攻略済みというのは、聞いたことがないのですが……?」
「そうだよぉー。公には都市伝説扱いで未だに多くの冒険者たちが実力不足なのに挑んで破れてまたその迷宮を支配下に置くことを分不相応に願うんだよぉ〜。
けどね、帝都の皇族と、各国のトップ達は、事実であると知ってるんだよ」
「……それって、知ってるのはまずいよね?」
「知らない事にしちゃえばいいよぉ。といっても、君は迷宮攻略者だから、行けば分かる話さぁ。遅かれ早かれって所かな」
「………おじいちゃん、ここに誰がいるか本当に分かって言ってる?」
「んんん?それはどういう……あ。忘れてた」
この部屋にいるの、私達だけじゃなくてクラルフートさんもいるからね。話に入ってこなかっただけで!影薄いだけだから!…可哀想に。おじいちゃんに頼めばきっと忘れさせてくれるよ!




