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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第11陣

何故私がわざわざ旅人と名乗るのか。

それはわかっているからだ。私がいつか、王国に帰ることが。

こうして飛び出してきても、わかってる。

私は、私がシェリティア・ステラリュートである限り、どんなに長い月日を外で過ごしたとしても、あの場所に戻らなくてはならい。

生きるか、死ぬか。どちらにしても、私は多分近い未来王国に帰ることになる。その後の事はまだわからないし、そもそも死ぬ気もないけどね。そしてその後は多分帝国にはいないだろう。

なら初めから定住なんてする意味がない。

その日が来るまで、私は運命のままなら私が知るはずのなかった世界が見たい。それが出来るうちに、沢山のことを知りたい。本に書いてあったことを、一つ一つ、この目で確かめたい。

まだその時が来ていないから分からないが、私が未来で魔力を暴走させて殺されるという出来事が起こらないという可能性もないのだ。しかもそれが、起きるとして、果たして私が王国にいる時なのかもわからないでしょ。魔力の暴走なんてものは、場所を選ばないのだから。

だから、王国並みに深く関わって、暴走が起こる可能性のある場所を増やしたく無い。

その為の旅人という肩書きだ。

縛られないための、道具の1つだ。


「迷宮攻略者になったから、人を連れて歩けとか始まって、最後には多分欲しくもない地位を押し付けて責任も負わせて、人の命を人質に、私の自由は無くなってしまう。

それならこんな肩書き要らないし、今から物理的に迷宮そのものをぶっ壊す。

素材や金は私を引き留める材料にはならないし、地位も名誉も、今の私には邪魔でしかないんだよ」


自分でも淡々と、そう淡々と告げる事に躊躇いはなく、寧ろ苛立ちと嫌悪を込めてしまう結果になったが、おじいちゃんは目を逸らさない。私も譲る気無いけどね。


「シエル嬢が旅人に拘る理由を、一度でいいから聞いて見たいものだねぇ」


ケットシーが私の感情に反応したのか、おじいちゃんを警戒するようにじっと見つめているのが分かる。それによって私も落ち着いて来る。大丈夫、たしかにリヒトは居ないけど、代わりにケットシー達が私の分怒ってくれる。泣いてくれる。負の感情ばかりを背負わせることに罪悪感がないわけでは無いけど、同時に嬉しく思うのだ。それだけで荒ぶっていたような気のする感情が凪いでいく。


「…気が向いたらね」


そう自然に口に出す頃には、私の口元にいつもの笑みが浮かぶまでになっていたらしく、ケットシーも機嫌が直って、けれどいつも以上に私に擦り寄っていたけど、大丈夫だろう。


「報酬は明日受け取りでいいかい?

もし素材とかあるなら置いていってくれていいよ。ご機嫌損ねたみたいだから、お詫びも兼ねて渡されたものは全てお金に変えたげるよ。そっちも明日報酬と一緒に用意するからね」


言質は取った。

じゃあ宜しく。と私とケットシーが亜空間からそれらを取り出して並べて行く。机の上はすぐいっぱいになった。私たちが座ってたソファーも。仕方ないので床にも転がしていく。

用意、できるかなぁ。と割と真面目なトーンでギルデロイさんに聞くおじいちゃんと、有言は実行すべきです。と残酷にも告げた彼に、少しだけ満足感を覚え、砦に戻るというヴォルフさんに馬車で送られて宿へと帰還した。

酒屋も閉まり始める時間だったから、宿屋にギリギリで滑り込んだけど、おじいちゃんが事前に部屋をとって夜遅くに帰ってきても世話してやってと多めにチップを払ってくれてたらしい。

先ほどの大量の魔法石と素材の山を前に表情落としていたおじいちゃんを思い出す。

…仕方ない、腹いせの八つ当たりはアレぐらいにしよう。

お日様の香りを取り込んだシーツにくるまって、その日の夜も無事にふけていった。



次の日も日が高くなってから目を覚まして、ケットシーに世話を焼かれて、外出できる見てくれになったところで完全に目が覚めた。


「ご主人お目覚めですにゃー?」

「うん……おはよ……」

「おはようございますにゃー!」


朝から元気だね。と撫でてキャット時計を止める。頭の辺りを軽くタップするように撫でるとおはようございますと叫ぶのを止めるのだ。まさに目覚まし時計。


「お昼ご飯…?」

「今食べるならブランチだにゃん。

下にキツ眼鏡と恩知らずが来てるにゃ~」

「ああ…うん、分かってるよ。いこうか」


ちなみに、キツ眼鏡とはギルデロイさん、恩知らずはお姉さんだろう。ケットシー達は動物なので、恩には恩で報いる子達です。そのため、私がした事に対してお礼を言っていないお姉さんや、そもそも私を良く思っていない、会うたび睨んでくる性格のギルデロイさんには、一等厳しい。お姉さんは私にお礼を直接言えば多分改善されるとは思う。暫く名前を面白おかしく呼ばれる可能性は高いけど。

一階の食堂兼カフェに降りると、宿屋のおばちゃんが、半個室に連れて行ってくれた。おばちゃん、物凄く苦笑い。中の空気がきっとアレなんだろうね。ココア持ってきてあげるから、頑張ってと言われた。気が重い。


「…こんにちは」

「遅いです。いくら子供といえど、規則正しい生活を心がけずに迷宮の主人が務ま「挨拶も返さない奴に、何かを矯正される謂れはない。そんな事を主人に言いに来たのなら帰れ」なっ⁈」


私は発言してない。最初の挨拶以外は。凛とした風に、強い口調でギルデロイさんに正面から文句を言ったのはケットシーである。…随分腹に据え兼ねてるみたい。え?口調が違う?…素はどうやらあの硬い口調らしいんだよね。私と会ってからあの口調にする様にしたんだけど、私のことに関して誰かが機嫌損ねたりするとあの口調に戻るの。取り繕ったり猫被ったりすることに気が回らなくなるのだろうけど。…猫なのにね。

バチバチと猫と人間の間で無言の睨み合いが発生している。それをみていても良かったのだけれど、お姉さんが所在なさげに私たちへの視線を行ったり来たり。当然お姉さんの観察に切り替えた私とは目が合いますね。


「…こんにちは。お姉さん」

「は、はい!えっと、お、おはようございます!じゃなくてこんにちは!」

「お姉さん身体は大丈夫?自己治癒力がかなり高いみたいだけど、全快じゃないでしょ?」

「!なん、で…それを…?」

「魔力の質。結界壊した時に感じた」


ココアが届いて一息。あー、だめだ。やっぱりまだ欠伸が出る。

何か言いたげなお姉さんに、仕方がないので構うことにした。ケットシーの方が話し終わって(睨み合い?)ないからね。





「改めまして、私はミラと申します。

昨日の非礼、申し訳ありませんでした。

危ないところを、仲間共々助けていただいた事、感謝いたします」


気を取り直して、といった感じでお姉さんは私に対して頭を下げた。これでお姉さんは恩知らずと言われなくて済むだろう。


「別にいいよ。依頼だったし」

「あくまでついでの、ですよね?そのついでを優先してくれたとアウストから聞きました」

「まあ、命は失ったら終わりだからね。魔物の素材と人間の命なら後者をとるよ」


時と場合によるけどね。短く付け加えた言葉に明らかに顔色悪くしたけど、きのせいだよね!

ミラさんかぁ。


「あの場所にいた理由とか、貴女たちがどんな地位の人間かは知らないけど、私を測りたいならやり方変えるべきだよ」

「えっ⁈」

「貴女は素直そうだから、腹芸は向かない。そういうのはおじいちゃんとか、……その影にいる人がやるべきだと思うよ」


2つ空けた半個室にいる人。と補足を加えれば、ミラさんだけでは無く、ギルデロイさんも驚いたように私を見た。本当は無視しようと思っていたけど。


「盗聴趣味って好きじゃない。聞きたいことがあるなら直接聞け」


机の上の角砂糖の1つを取り上げてぐしゃりと潰せば、中から超小型の魔道具が見えた為、付いていた小魔石を壊す。これでもう使えないはずだ。

ミラさんはびっくり通り越して真っ青。ギルデロイさんも厳しい目をこちらに向けている。この人はもはやデフォルトか。


「まさか、盗聴どころか私の存在までお気付きとは思いませんでした」

「あなた達の治療をしたの、誰だと思ってるの。魔力の質くらい意識しなくても感じ取る。

何がしたいのか知らないけど、あんまり私のことを叩くならどつき返すよ」


少し困り顔で姿を見せたのは、金髪に薄水色の瞳の青年だ。昨日助けた内の1人だ。かなり強い魔法使いみたいだけど、基本攻撃特化なんだろうなと思う。魔力の質がミラさんとは真逆だ。

ちなみにこの魔力の質というのは、多分私…魔法に魅入られた血統、ステラリュートの一族だからわかる事。感覚なので教えようがないし、教えてわかるものなのかも不明。

無理やり言葉にするとすれば、人の中には魔力っていう水が溜まってて、その水の質がどうかと言う話。温度、硬度、多いか少ないかなど。人によって様々。


「大変、失礼しました。我々の主人は立場ある人間の為、いくら我が師が傾倒しているからといって、篩に掛けないわけにはいかなかったのです。

しかし今までの様子からして、貴女は私達に関わりたい思惑がないどころか面倒ごとを避けたいご様子……。それはそれで気になりますが、貴女に関しては警戒する必要は無いと認識しました。


改めまして、非礼をお許しください。

私はクロイツと申します。

そして我々の命を助けていただいた事、主人より先に御礼申し上げます」


優雅に卒なく礼をするあたりがリヒトの所作に似ているので、彼は護衛と言うよりは侍従なのではないかと思う。リヒトと反対だなぁ。と思って、ちょっと口元が緩んだ。


「お礼を言われるような事はしてない。私は死にかけてる人がいたから回復魔法をかけて応急処置をしただけ」

「その回復魔法は、使えるだけで爵位を持てるほどの大事なのですよ。貴女は自己評価が低いのか、それとも無知なのか…いえ、どちらでもありませんね。

力を持つのに、聡過ぎる」


それが貴方の本質なのでしょうね。と言われても困る。私は常に私の気分に正直に生きているだけなのだから。


「過大評価だよ。私はただ私のやりたいようにやっているだけなんだから。

……それより、私は今からおじいちゃんのところに行って報酬もらいたいんだけど?」


いつまであんたらここにいるの?と遠回しに聞いてみれば、では我々もと席を立ったので、未だご機嫌ナナメなケットシーを抱えて歩き出す。もちろん今回は宿のおばさんに夕飯を直接頼んで予約!

あったかくて美味しいご飯!こっそりケットシー用のクッキーも追加注文しておくのを忘れなかった私を褒めて欲しい。最近私の実力を疑う輩が多すぎて、今日中に彼の機嫌が戻るのはちょっと無理そうだ。



「…やっほー、おじいちゃん。生きてる?」

「まだ…死なない、よぉ…?」


昨日と同じ部屋に通されたら、ソファーの上に毛布の塊がいた。クロイツさんが苦笑して主人を呼んできますと、離脱。ギルデロイさんはお茶の準備に。ミラさんもクロイツさんに付いて行った。なので遠慮なく声をかけて頭かなと思う方から遠慮なく毛布をめくった。流石に変な声で驚いてはくれなかった。いや聞きたいかと聞かれたらそうじゃないと答えるけども。


「素材の査定は終わったから…、これ…。依頼した人命救助は…こっち…」

「おじいちゃんだいぶお疲れだねぇ。

種族からするとまだまだ若い方でしょ?」

「………え。待って、待って?見た?もしかしてシエル嬢に幻術効いてないの?」

「んーん。ちゃーんと幻術効いてるよー。おじいちゃんが若いんだろうなぁって思うのは魔力が若いから」

「魔力が、見えているのか?」


先程までのもう動けません、寝たいですオーラが何処かに行った。ばっと身体を動かしてケットシーを抱えた私を抱える。腰に腕を回してがっしりホールド。おおぅ。意外に力強え。


「魔力が見えるってどんな感じなんだい?目でそのまま流れが見えてるのかな?それとも何か見えない物質を当ててそこにあたる感覚かな?」

「…おじいちゃん。落ち着いて、化けの皮剥がれてきてる」


きっと眠すぎてアドレナリンとか分泌量がおかしくなってるんだと思って、回復魔法をかけてやると、顔色も良くなったし眠気も飛んだみたい…あれ?眠気飛ばしたらダメじゃね?身体もスッキリさせちゃったみたいでホールドの力が強まったよ?やらかしたかね。

ああ、でも意識レベルは戻ってきたらしい。先程よりも落ち着いてる。


「…シエル嬢と話すときは素の方がもう楽だなぁ~」

「何でそんな口調にしちゃったのさ…」

「こんな風に人と話す事になるとは思わなかったんだよぉ」


無計画め。と言ったら地味に落ち込んでた。


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