第12陣
うーとかあーとかどうしようとか言ってるおじいちゃん。猫被るなら必要以上に剥がさないの!と叱ってみたらシエル嬢は素のままが奔放な感じでいいよね。と言われた。褒めてるの?貶してるの?喧嘩は倍にして買うよ?
というか、疲れる口調なんてしなきゃいいのにね。
「はぁ…そりゃぁシエル嬢みたいに小さな子だったら奔放でもいいさ。
けど私が見た目通りの口調を使うと、無駄に警戒されたり、腹芸にも向かないんだよぉ?」
「まあ、相手を油断させるのが第一だから気持ちは分かる。道化を演じた方が色々やり易いし、相手もボロを出しやすいもんね」
「うんうん、分かってくれておじいちゃん嬉しいなぁ~。でぇ~?キミらいつまでこそこそしてるの」
私の口調が奔放な感じでいいね、と言われたあたりから、膝の上におじいちゃんに背を向ける感じに座り直しをさせられた。ケットシーは黙ってる。今までにないくらい黙ってる。生きてるのは分かるから頭をたまに撫でる。にゃふにゃふ言ってるから問題なさそう。
ああ、それでね、おじいちゃんが座り直させた理由はその辺りから扉の外でこっちを伺ってる人達がいるから。魔力的にギルデロイさんたちが来たのだろう。
入ってきた人数は4人、今日はアウストさんいないんだなぁ。と言うわけで、さっきのメンバーに増えた人が私が救助したうちの最後の1人、ミラさんとクロイツさんの主だろう。
うん、クロイツさんもかなり美形なんだけど主人は、何というか、社交界で浮名を流してそうな感じの美形だわ。色が華やか。紫を帯びた藍色の髪に金の瞳だ。色気が凄い。リヒトもかっこよかったしクロイツさんもギルデロイさんもアウストさんに至るまで、お兄さま達もかっこよかったけど、多分普段の格好でここまでの色気はない。だって気崩したりしないもん。
顔はかっこいいし、色香溢れる美形だけど、服を着崩して澄ました顔をしてる辺りが、なんとなくおじいちゃんと同じ、人を欺くことに一役買ってそう。とか思ってたんだけど、ケットシーが物凄く冷たい目で、こっそり私に三種類の系統の違う香水の匂いがするといったので、見た目通りの人間と判断することにした。
彼は優雅に近寄ってくると跪いて私の手をとって口付けてみせた。終始笑顔なんだけど、私のこの全力で嫌がってる雰囲気がわかりませんか。
「はじめまして、私はクラウス・スターリェンです。この度は命を救って頂いたこと、感謝致します。貴女のお名前はシエルと伺いましたが、家名などはありますか?
差し支えなければ迷宮攻略者への敬意も込めてシエル様と呼ぶ誉を私にくださらないか?」
「…はあ、はじめまして。知らない人に個人情報はなしたりしません。命助けたのはおじいちゃんからの依頼なのでお礼はおじいちゃんに言ってください。
あなた方と関わり合いになる予定は今の所ないので、呼ばないでくれて結構です」
その反応が意外だったらしく、目の前のこいつも含めて驚いた顔を見せて、立ち直るのが早かったのは、残念ながら目の前の男だった。
キラキラとした笑顔を向けてくるが、作り物だ。魅せ方を完璧に理解した上での対処に苛っときた。殴っていい?こいつ殴っていい?
「にゃ (ベシッ!)」
「シエル嬢の好みに合わせて作らせてみたんだけどこのお菓子どうかなぁ?(フキフキ)」
私が取られた手でそのまま相手の頬でも叩きそうと悟られたのか、ケットシーがクラウスさんの手を叩き落として、素早くおじいちゃんが私を回収、抱き上げてその場から距離を取り、ローブの中から出したハンカチで私が口付けられた手を拭く。それはそれは念入りに。皮膚が若干痛くなったけど、奴の感触が残ってるよりはまあいいかと思うことにして、我慢。まあどうせ怪我してもすぐ治るしね。
「…酷いじゃないかグラーティアス卿……。私はただ挨拶をしただけだよ」
「挨拶の仕方に問題があるよ。シエル嬢は君が歩くだけでキャーキャー言ってる頭の足りない女子供じゃないんだよ。見えてなかったのかい?まるでゴミを見るかのような目を君に向けていたのに」
「ええ。近くでお顔を拝見させてもらいたいのでもう一度此方に連れてきていただいても?」
「いいかいシエル嬢、あれは見た目通り女好きさ。いくら剣の腕が立って学もある男だとしても教育上よろしくないから出来るだけ近付いちゃダメ」
「うん。わかった」
「ネコくんもいいかい?君のご主人に近付けさせちゃダメだからね?」
「にゃい!」
「ところでシエル嬢?キミ、あの男の氏を聞いたことはないのかな?」
「無い」
即答できる。私…シエルが聞いたことがあるはずがない。だって帝国の人間じゃないもん。シェリティアは知ってるよ。もちろんね。
「あはは。傑作だね。冒険者のレベルとしても高ランカーで有名だと思ってたけど、知らない人は知らないみたいだよ」
「…そうか、私はまだまだ精進が足りないということかな」
「シエル嬢が疎いのもあるからそうだとも言えないね。とりあえず、お茶にしようか。ギル、ワシとシエル嬢の席は彼から離してね」
「…御意に」
レモン風味のハーブティーが配られて、気分がスッキリ。さてさて。
「茶番はともかく、帝国の第三皇子が何であんな迷宮に飛ばされたのか聞いてもいい?
興味全くなかったけど、普通の迷宮だったから、飛ばされた理由が特殊なのかなって思ったんだけど」
まさかと思うけど、女遊び激し過ぎてその罰として飛ばされたとか言う?
…なんで皆目をそらすの。1人くらい違うっていってみろよ。皇子庇ってあげなよ、従者……。
「……まあ、皇子もこれですこしは懲りましたし、報告書も提出ですし、皇帝も許してくださいますよ。よかったですね、皇子」
クロイツさんたち、死にかけたもんね。私があと数分でも遅く到着していたら、お陀仏だったかもしれないもんね。
「……まあ、そんなことはともかくとして、シエル嬢は、ここからどうするんだい?旅というからには目的地があるんだろう?」
「最終的な目的地は、帝都にある大迷宮。それ以外には何も決めてない」
「…たまーに、勘違いしてる奴がいるから教えておくと、あそこは一千年以上前に攻略済みの最古の迷宮だからね?」
「レア素材いっぱいあるって聞いたから稼ぎに行こうと思っただけだよ?」
迷宮攻略がしたいわけじゃない。
「…シエル嬢は、冒険者になりたい訳では」
「無いね」
「迷宮を攻略したいという訳でも?」
「無いなぁ」
「では何故迷宮、いえ、レア素材でしたね。…ではお金が稼ぎたいと?」
「んー、悠々自適な旅にはお金は必要だよねぇ…」
紅茶を飲みつつ質問に答える。私の目的は前から言ってる通り、迷宮で素材をゲットして売り捌いて、定住は難しいので宿を転々としながら暮らすこと。表向きには旅は見聞を広げるため。私の言葉遣いや振る舞いの端々に出る上品さ的なものは知る由もないが、良いところのお嬢さん、ましてや貴族のたった10そこそこの子供が1人で旅をするはずもないので、せいぜい使用人の娘くらいに思ってくれるだろう。
そしてそうだと受け入れれば、疑問も然程持たなくなるし、深く関わり合いにならなければ、その一時の疑問だけでおわるからね。
「…あの、シエルちゃ…シエルさんは、魔法学校に行ってないんですか?
あそこは平民でも魔力さえあれば入れる場所ですし…」
「さんなんて付けなくていいよ、ミラさんの方が年上だから。
魔法学校って…えっと、…ああ、11歳になる子が入る?」
「厳密には、下限は決まっていません。優秀であればあるほど精神が習熟していますから、本人の希望次第では入学出来るんですよ」
クロイツさんの補足説明に、リヒトが教えてくれなかった、というか、リヒトが言ってなかった事を知った。私が興味なかったのも、リヒトが持ち出さなかった情報だからだ。
それに帝国と王国では魔法が似ているようで違う。その根源が違う。それを加味しても帝国の魔法はどうやら衰退しているようで、学ぶ価値は無いそうなのだ。
しかし魔力を暴走させても困るため、ある程度精神的な余裕が出来始めて、魔力を意識して使える年頃の11歳になった子供は制御の仕方を覚える為に魔法学校に入るそうだ。
基本的に魔法科だけなのだが、魔法自体の衰退もあり、魔法が得意な生徒ばかりでもない為に騎士、冒険者、薬草師、錬金術、召喚術の科目も出来たらしい。数百年前の皇帝、英断。ただどの学科も魔法の授業は必須らしく、困った第三皇子は魔法を使えない訳ではないが、ことごとく魔法の授業はサボり。頭はいいし剣の筋もいいので、ほんとに魔法の授業さえ出れば…な状態らしい。
それだけならまだしも、女遊び…てか成人前に女遊び…しかも複数…。そりゃ皇帝だって怒るわ。
「学校…」
「実技だけじゃなく、歴史学や算術も習えるよ」
どっちも家でやったな。歴史は元々嫌いじゃないし、算術は…前世の記憶?の世界の方が高度で緻密だった。ここで使うのは精々高校の数1か数2の初期だけだし。前に魔法陣にそれらを組み込んでみたらとんでもない強度になった。すごいね、異世界の知識。
「他だと…薬学とか…?」
「…シエル嬢、興味なさそうだね。
ふむ…。国内随一の所蔵量を誇る図書館もあるよ。各国の本を集めてるから見たことない調合書もあるかも。
古文書もあるし」
「古文書…」
「レシピじゃなくて古文書の方に興味を持つって…君いったいいくつだい?」
「いや、調合書に興味を持つのもなかなかに子供としてはありえないかと…」
「シエル嬢という実例が目の前にいるじゃないかぁ」
実例というより、異例ですよね。って、酷くないクロイツさん。多分学術知識も魔法の扱いも私の方がその辺の学者よりあるとは思うけど。え?学者さん達に失礼?いや、でも本当にそうなんだって。私はたしかに異世界の知識を持ってるけど、それだけじゃない。シェリティアは確かに天才的な記憶能力がある。魔力だって練習し放題なくらいに膨大で、そして私はその力を余すことなく試して使って磨いた。知識も力も。持ち腐れになんてしてなるものかと。…あらためて、チートっていわれたらチートだわ。この状態。でも褒められても間違っても私強え!なんて言いませんよ!恥ずかしいもの‼力を誇る人を恥ずかしいとは思わないけど!自分がやるかと言われれば別!注目されたら恥ずかしい!恥ずか死ぬ‼
「…シエル嬢、古文書読めるのかい?興味があっても読み方を知らないとわからないだろう…?」
「…難しいの?」
「そうだね。私も幾度となく解読呪文で私たちの言語に近い状態にして、偉人たちの残した分析などと比べてってやってるけど、進捗はよくない。
やっと一部が読める程度、かなり書の量はあるけど、全文を解析できる日は遠いね。
何せ文字も系統も全く違うと思われる言語だから……」
「未知の言語…」
なにそれ超楽しそう。シェリティアの頭なら解析できちゃうかもしれないよ?
「学校には興味ない。でも古文書と図書館には興味ある。
生徒じゃなくても入れるの?」
「…入れなくは無いですが、身分証が必要になって来ますね。
許可書を取るためには身分証が不可欠ですから」
ここに来てまた身分証の壁…。ケットシー、いっそ作ってしまおうとか気軽に言わないで。
「でもないと困るにゃん」
「…そうだね」
古文書と調合書のある図書館と、身分証を天秤にかけ、もちろん私の軍配は図書館に上がった。




