第10陣
アウストさんが1人を、もう1人を私が召喚した黒騎士に運ばせる。お姉さんは無詠唱とか召喚術とかブツブツ何かショックを受けたように呟いてた。ちょっと怖かった。入り口で通行証を出してくれた兵士の人が驚いてたけど、気にしない方向でいくらしい。他言はしません!と態度が言ってた。
転移魔法を発動して、私たちはスタート地点である砦の、食堂にいた。どうやらラウルさんが部下から報告を受けていたところらしい。
美味しい匂い…ああ、そろそろ夕方…宿のご飯食べたい。おじいちゃんはどうやらここにいないらしいので、依頼完遂の報告は出来ないらしい。
「嬢ちゃんたち!よく戻った‼
中々早かったな。中階層の上部くらいに戻ってきてたのか?」
「いえ。下層の深部で魔物に取り囲まれ死にかけていたところを助けられました」
お姉さんが言った言葉に、ラウルさんは一瞬黙り込んでからぼそぼそと、大丈夫だ、何もおかしくない、嬢ちゃんがやる事だ、全くおかしくない。むしろ迷宮攻略してきたと言わないだけマシだ。うん。と、なにやら自分を無理やり納得させていた。どうしたんだろうね?
「それでね、早くおじいちゃんに報告してこの人達引き取って欲しかったの」
「そういう事なら、馬車を出す。元々お嬢ちゃん達帰ってきたら連絡よこして連れて来るように言われてたからな。
で、お嬢ちゃんは迷宮の素材とかも持ち帰ってきてるんだろ?素材はグラーティアス卿に引き取ってもらうとして、魔石があるなら、俺たちの方で取引もできるぞ?」
「んー。まとめておじいちゃんに八つ当たりついでに買わせようと思ってたんだけど、…うん。たしかに、重いんだよね…」
「半分くらい置いてくか?」
「うん」
じゃあ出してくれと差し出された籠の中にケットシーが次々亜空間から出した魔法石を入れて行く。ビールケースくらいの大きさだったけど、すぐにいっぱいになってしまった。まだ半分も出してないのに…。
「…おじょうちゃん…これ、1人で狩って来たのか…?」
「?1人だと大変だから、ちゃんと白騎士と黒騎士も呼んだよ?」
「それは結局のところ単体では…?」
いや、確かに喚び出したのは私だけども、彼らは彼らで動いてくれたから、集団での撃破だ。私は部下の手柄は部下の手柄と主張して褒めたいタイプだもん。うちの子たちすごいよね。私が呑気に部下たちを褒めていたら、魔石を確認していたラウルさんの部下が焦ったように声をあげた。
「隊長!これを‼」
「ん?…ん゛っ…⁈」
一体何を見つけたのか。確か魔石しか入れてなかった筈なんだけど。ケットシーと顔を見合わせて首をかしげる。
「お嬢ちゃん!これ!これどうした‼」
「どれ?……あー。これ?」
「にゃにゃ?あー、それ、行き止まりの部屋の前にいた魔物をご主人が奥の部屋ごとぶっ飛ばしたら落ちてたやつにゃん。紫色で綺麗な石にゃー、ってミーがご主人にあげようと持ってきたにゃん!
前持ってた印は置いてきたって言ってたからミーたちが新しいの贈る相談してたにゃ!それにつけるにゃ!」
えっへん!と胸を張ってケットシーが、呆然としたままのラウルさんの手から石を取ると私に差し出した。いいのかなぁ。と思いつつ、ケットシーから受け取って頭を撫でていたのだけれど、急に私が受け取った魔石が光を帯び始めてその姿を変えた。小指の爪程の大きさの宝石だ。けれど神秘的で、深い紫色のその石は光に透かすと内側から煌めいて、何かどこかで見た気がする文様を光が創り出している。
ケットシーはどこから取り出したのか、プラチナのイヤーカフを取り出して、蝶を模しているらしいそれのぽっかり空いていた場所に魔石をはめ込んだ。つけてつけてというので、右の耳につけて見せれば、ケットシーが右耳がよく見えるように手早く右側の髪を編み込んで黒のリボンで留めた。相変わらず手先が器用なやつだな。
「ラウルさん…結局、これ何?」
「……迷宮核」
「え?」
「迷宮攻略者の証明として、核が残す魔導石だ…。透かすと中に迷宮の入り口に刻まれてた紋章が浮かぶだろ…。それ、迷宮の魔力でついてるもんだから…。偽装とか、できねえから…」
「…えっと、つまり?」
「お嬢ちゃんは迷宮攻略して、その迷宮を支配下に置いたってことだな……」
なんてこった。私は自称旅人から、迷宮支配者になってしまったらしい。
こらケットシー。お前が怪しいものは全部ぶっ飛ばせって言ったんだからな?だから私は吹っ飛ばしたんだからな?お前も共犯だ。だからそんなにご主人すげー!とかはしゃぐんじゃない‼
所変わって、現在地はおじいちゃんの家(といっても、この街での滞在の為の賃貸という名の別荘)にいる。
私が迷宮攻略した事が判明(私はただラスボス部屋の前で鎮座してるミスリルゴーレムが邪魔だったから吹っ飛ばしただけ。…部屋ごとぶっ飛んで中にどんな魔物がいたかはしらない)。
ラウルさんに続いて情報処理限界を超えた部下の方々に連れられたヴォルフさんが概要を聞いて、ポンコツになりかけていたけど、事前に起きたことは聞いていたらしく、なんとか踏みとどまり、私たち(私、ケットシー、アウストさんにお姉さん、気を失ったままの2名)を馬車に放り込み、自分も乗り込んだ。
そして私たちは、この街の豪邸、おじいちゃんの家へとたどり着き、倒れたままの2人は客室へ、私たちは客間へと通され私とケットシーの好みをすでに把握したらしいおじいちゃんの用意したお菓子を摘んで待っている。
おねえさんはグラーティアス様の滞在されてる屋敷…と先程から怯えてるし、アウストさんもどこか緊張した面持ちである。説明のためと付いてきたヴォルフさんはどこか遠い目をしてブツブツいってるけど、大丈夫かな?
私とケットシーはお菓子食べて紅茶飲んでと気楽なんだけど。おじいちゃん、いったい以前の就職先でどんな圧政敷いてたの?
とか思ってたら、ドアが開いて、なんかくたびれた感じのおじいちゃんがはいってくるとすぐさま私の右隣に座って頭を撫でる。まあいいんだけどさ。ケットシーが結ってくれた髪を崩さないでくれれば。
「シエル嬢ぉ~。お疲れ様ぁ」
「うん。おじいちゃんの方がよっぽど疲れてるけどね。どうしたの?」
「この堅物…ギルデロイが書類の山の前から逃がしてくれなかったんだよぉおお」
「期限が迫っているものだけ厳選しました。あなたが昨日逃亡しなければ終わっていたはずのものですよ」
ふん。と、部屋に入るなりギルデロイさんは私とケットシーを視界に入れると、やはり気に食わないと言うような目で見ていた。やっぱり庶民が嫌いらしい。おねえさんが彼の姿を確認してから顔色がもっと悪くなったから、気のせいじゃないなと確信。王国でも位の高い家の使用人にいたタイプの人間だ。多分中位貴族の次男か三男。貴族の中でも高貴な人に仕えているというのが自身で自慢の1つだから、現在身分隠し中の私は、立派に彼に嫌われる要素満点の少女というわけだ。うん。納得。
「さてと、シエル嬢。依頼通りちゃんと連れ帰ってくれてありがとぉ。報酬はちゃんと用意してあるからねぇ。
それで、依頼にあったこと以外でシエル嬢は何をしでかしたんだい?」
「それがねぇ…。私にもよく分からないんだよねぇ…」
「ふむ…。じゃあ副隊長くん、それからアウストにミラ。順に説明をし。シエル嬢は3人に話を聞く間、お菓子を食べて待ってておくれ」
「にゃーい!」
ケットシーが返事をして、私たちはお茶会の続きだ。ヴォルフさんから話し始めて、アウストさんが補足、お姉さんも話したので、私が単独行動した時以外の出来事は全て正しく伝わったのだろう。おじいちゃんが私に向き直ったので、とりあえずイヤーカフを外して渡す。興味深そうに確認して、蝶の羽部分の宝石を光に透かした。それが魔導石かを確認してるんだろう。見終わったら直ぐに私に付けてくれた。
「シエル嬢が攻略したのだから、これはシエル嬢のものさ。だがどうしようね?シエル嬢は攻略された迷宮について知っているのかい?」
いや、知らん。攻略される直前の状態の迷宮として固定されて、それ以上危険にはならずに今まで通り機能するのは知ってるけど。
「先ず、攻略された核は、主人と認めた者にはその人が最も持ちやすい形に姿を変える。シエル嬢のイヤーカフの飾りに変わってるから、間違いないね。
次に、核に主人と認められた者は、迷宮の支配権を持つ。まあ簡単に言うと、その構造や危険度の調節ができる。
そして次が一番重要でね、魔物を迷宮外に出さない結界そのものになる」
「…攻略された迷宮から魔物があふれ出さない理由は、それ?」
「うん。主人と認めたものが生き続ける限りその守りは自動的に働いて魔物を外には出さない」
「…私がこの街から出られなくなったりはしない?」
「そこは大丈夫だよぉ。ただね、君が死んでしまった場合、困った事になる」
「具体的には」
「結界が消えれば魔物が溢れる。シエル嬢にとっては蚊を払うレベルだったみたいだけど、帝都でも強者と有名なワシの弟子が手も足も出ないレベルの魔物たちが出てきたら、こんな町1時間もないうちに火の海さ。そんな危険な迷宮が存在してる事になってしまう」
「…じゃあ跡形もなく消し飛ばす?」
「まあ、それは最終手段。お嬢ちゃんには、生きている間に迷宮を消しとばさないなら、死ぬ前に必ず誰かにその支配権を渡してほしい。例えば付き人や護衛だが、そこで問題。嬢ちゃん、旅人だよねぇ?まあ嬢ちゃんの実力で死ぬことはありえんが、病気には勝てないだろう?攻略者は皆実力が伴ってるし、お嬢ちゃんとて例には漏れないねぇ。でももしものために、旅人だとしても人を連れててほしいんだよねぇ」
「やだ」
「即答かぁ〜」
そのごもっともな意見に対して、私は素直に頷くことなどせずに、無言で顔をしかめた。




