第1陣
とある宿屋の部屋の一室から出ると、すぐに部屋を借りた人物の従者たち…今回の依頼主が近づいてきた。
「わ、我らの主人の容体は…⁉」
「先程落ち着きました。恐らくもう大丈夫です。熱が下がって、目を覚ませば正常な判断も出来るでしょう」
「たびのお方。この度は、誠に申し訳ない事をした。礼は必ずさせていただく所存…!我らの愚行をどうか、お許しください…!」
皆さん、おそらくそれなりの身分なんだろうに、床に額を擦り付けて頭を下げてくる。うん、苦しゅうない面を上げい!
……じゃなくて、なんでこんな事になってるんだろうね。
話は遡ること、3時間ほど前。
私は気の身、気のまま…(文字が違うって?いやいや、あってるよ。だって私は気分で行く方向決めたからね!)…私がいた王国から一年中凍っている連山と、貿易大国と魔物の森を複数抜けて、火を噴く鳥がいるらしい山を抜けた先に来ていた。(あ、王国でてからもう2年経ってるよ。王国の人間は国外で魔力を使える人間が殆どいないから、探索を巻くのは簡単だった)
なぜか?その辺りにポーションの材料があるからです。なんとその魔物の森にいる山羊っぽい魔物の胃の中にあるんだって。大抵の薬の鎮痛剤になるとか。(どっかの魔法の国のべ◯アール石かな?気のせいさ‼)
で、そもそも何でそれを取りに来たのかというと、私が国から出て最初に行った貿易大国で、ポーションの調合書がなんと無料で手に入ったからだ。
怪しげな薬草の露店のじいさん曰く、書いてあるレシピはどれも特級ポーションな為、作れるやつはほぼいない、貴重な割に役に立たないものらしい。書かれてるポーション自体は王ですら喉から手が出るほど欲しがるものばかりだそう。
いいね。価値があるのに作れるやつがほぼいないんでしょ?暇つぶしには最適だよね。
片っ端から作って、上手くできたら売りつけようと思って。
転移魔法の使える身なので、特に危険もなく材料をとって帰ろとテンション上がってきたところに、今私の前で土下座してる連中……主に、彼らの主人がだいぶ錯乱した様子で、私に攻撃性火炎魔法をぶっ放してきたのだ。
いや、私もね?流石にこっちに非は無いのに急に殺傷能力高の魔法で殺されかけたら困るし怖いじゃない?
私、死にたくないので。
でもまあ、流石にね、錯乱しているのがわかったから、仕方ないからやたらと魔力の高い彼らの主人に関しては気を失わせて確保。他の人達は実力行使しなくても、治癒魔法をぶつけたら正気に戻った。錯乱中の記憶もあったから私に素直にかつ迅速に謝罪をしてくれました。
「…とりあえず、君らのご主人、さっさと治した方がいいよ?」
改めて見てみたら、魔力切れ、体力切れ、気力切れ。よくこれで動いてたよねと言えるレベルだ。多分彼らの主人ということは、かなりの良家の人間だろうが、そんな面影はない。整えられていない髪に髭に色の悪い肌。全身汚れに傷だらけ。防御を一切捨てて何かを追って進んできたようにみえる。よくて盗賊崩れにしか見えん。
「何があったのかは知らないし、知りたくもないけど、…ずいぶん必死みたいだね」
あんまり踏み込んで、何かお願いされたら嫌だもんね。さっさと安全圏に帰りたい。先を急ぐなら止めないからここでバイバイと言えば、私が今から行く町に宿を取るから、そこまで護衛も兼ねて雇われてくれないかと言われた。
「主人の回復具合では、色をつけてもかまわん‼お願い出来ないだろうか!」
必死だなぁ。そりゃそっか。だって私たちが今いるのって、絶賛魔物の森の中腹な訳です。北に行こうが南に行こうが、強力な魔物に出会ったら、多分主人が戦闘不能な今、食われて終わる可能性が高い。
「……わかりました。
私もここに置き去りにして、また通った時に遺品見つけたらいたたまれないからいいよ」
そんなこんなで、襲撃されて撃退し、保護しつつ町に入り、宿を取り、未だに高熱に魘されている彼らの主人の手当てをして、現在に至る。
「あ、あの…!お名前を伺ってもよろしいでしょうか…」
「……シエル。旅人」
「し、シエル様ですね。この度は誠に有難うございました。その、後程礼をする為にもそのお顔を拝見させてもらえませんか?」
「やだ。見せなきゃくれないなら別に礼もいらないよ。後味悪いから助けただけ。期待してない」
因みに私はいま、基本的に顔の上半分を隠す仮面をつけている。この目立つ目と顔を隠す意味もあるけど、重要なのは、この仮面が私の意思でのみ取り外しのできる魔道具と言うことだ。
この仮面が私の体調を左右するアイテムなのでそれを外す訳はない。外してたまるか。
私の機嫌を損ねたのが分かったらしく、すぐに平謝りされた。正しいね。おそらくそれなりの強い魔術師の主人が、錯乱してかなりの強度の攻撃魔法を放ち、それを虫でも払うかのように消し去った人物の機嫌なんてとってなんぼだ。
「…私はもう行くから。君らのご主人がどこに行きたいのかは知らないけど、命が惜しいならせめて馬車つかうなり商隊に同行するなりした方がいい。
一応言っておく。
君らが、ここで君らの主人を諌められないのなら、従者失格。君らの主人は主人としても不適格。
どこの国に行こうとしてるか知らないが、押しかけられる国が迷惑だ。
さっさと帰れ」
差し出された小袋には金貨1枚が入っている。ここの宿代が小銅貨三枚だからそれなりに高い報酬だ。けど、私は要らない。と一言告げて、引き留められる前にその場を立ち去った。後ろ手に閉めた扉を音を立てて乱雑に閉めたのは苛立ちを隠せなかったから。
命を無駄にする奴は、大嫌いだ。
もう二度と会いませんように!としっかり願掛けしつつ、私は町を後にした。
町を抜けて私が向かう事にしたのは、かの魔法大国、ヴィルヘルム帝国。
お目当てはそこの魔法…は割とどうでもよくて、迷宮一択である。
前にリヒトは私に会う前に一度行ったことがあると言っていた。私がいた王国では遠すぎて、リヒトの転移では飛べなかったのだ。
それでもよかったのは、転移で飛べる範囲にある迷宮もそれなりに大きかったからだそう。地下に降りれば降りるほど魔物は強く、際限なく生まれるが、その代わり、強いものを倒せばレアアイテムが落ちるから、暇さえあれば卒業後家から逃げる資金として狩りにいっていたらしい。
私はいま、リヒトも長期休みに行く程度だったそこへ行こうと思うのだ。稼ぎに。え?欲望丸出し、がっかりだって?何をいうか!私は別に巨万の富が欲しいわけじゃない!人間生活費がないと生きてけないんだぞぅ!分かるだろう!現代社会、国は借金まみれ、国民は税金ばかり食われる薄給で生きているだろう諸君‼
……はい。すみません、そうですよね。薄給なのは私だけですよね…。おかしいよ…ちゃんと朝の8時から、夜の10時まで働いてたのにね…。
ブラックな会社と社蓄精神、大いに反対。真面目に働いてその分コンビニスイーツに癒されてたのにね…。クレープ…我が懐かしのクレープ…!思い出したら悲しいや食べたいやなんだこれあはははは!
……脱線した。兎に角、私は行くんだ‼迷宮へ‼そして最終的にはどこかの田舎に畑を作って、もふもふのペットとくらすんだ…。もしも出来ることならね。ま、私、魔力強すぎるせいか動物に怖がられちゃって、ペットとかなにそれ状態なんだけどね。くすん。
アニマルセラピーを要求したい。ひとり旅さみしいし。話し相手は是非とも欲しかったところだ。
そんな訳で、召喚術を使って、契約した子達を呼び出すことにした。
「にゃにゃにゃにゃーん!」
先ず呼んだのは、ケットシー。猫なのに二足歩行。糸目な表情と表現を駆使して人の驚きや喜びといった感情を引き出す事を得意とする。エンターテイナー。
宴会の盛り上げ担当、職場のムードメーカー的な子である。別な言い方をすると、なんかうるさいしお調子者だしミスとか結構あって抜けてるんだけど、何故か憎めないこである。
「あ。お久しぶりです、ご主人!」
「うん。久しぶり」
「………誰ですかっ⁉ミーのご主人は白銀のサラサラロングストレートに青い瞳の将来美女確定童女ですにゃ!」
久しく呼び出した私の召喚獣が、音を立てて距離をとった。…地味にショックだし、お前、そんな風に思ってたのか。まあ私も鏡を見る限りそうだろうとは思う。なにせお母様似だものね。それはともかくとして
「茶番はいいからさっさとモフらせろ」
「あっ、ハイ。このノッて来なさ具合、間違いなくご主人ですにゃん」
ごしゅじーん。と一転近付いてきたケットシーを抱えて撫でる。もふもふ。このダヤンっぽい風貌なのに糸目だから間抜けに見えて力が抜けるよね。
「にゃひひ…にゃふふ……フニャッ⁉」
顔が気持ち悪い事になってるけど気にしないで逆らわないのをいいことに肉球や耳を触る。変な笑い声上げまくってるけど、こちとらもふもふセラピーを願っていた身だ。存分にもふもふさせてもらうぞ。
という私の意気込みの元、かなりもふもふされたケットシーは、落ち着いた頃にはちょっとコーナーで燃え尽きたボクサーのように草臥れていたが、まあいいだろう。案の定毛繕い始めたし。
そしてそのまま、私を再度見て一言。
「それにしても、ご主人…。その髪の毛はあんまりですにゃん……」
「長い髪は旅には向かないから」
「…さっすがご主人!ワイルド方向に転向したにゃ⁉」
「面倒だから切り捨てただけで…。そんなに酷いか?」
2年前国をでたときに斬り捨てたから、今ではあの時より伸びてはいるんだけど。
「なんでもいいからミーにハサミを持たせてほしいにゃ…。ミーの方がまだお手入れには気合入れてるにゃ……(髪のお手入れはリヒトが特に力を入れてたにゃん。今の状態を見たら気絶しそう…。あの人ご主人様バカだから。切り捨てた髪、どこに捨てたのやら。燃やしでもしない限りこっちから気配がーとか言ってゴミ箱からでも回収しかねにゃい…)」
(そんなリヒトは)見るに堪えにゃい!と割と本気で嘆き始めたので、希望通りに魔力で作り出したハサミを渡せば、布を敷いたその辺の岩に腰掛けさせられ(割と紳士的な猫なの)、器用にもハサミを握り(どこから取り出して、いつ着替えたのか、白い上着を着て右にハサミ、左にクシを持って)、
「では、施術を始めるニャン!」
やってやるぜぇえええ!と楽しそうなのでほおってはおくけど、物凄く不安だ。
「…おぉ、整ってる」
「力作ですにゃん!これでリヒトが発狂しなくて済むにゃ‼」
「…リヒト?発狂?」
「にゃんでもにゃい♪なんでもにゃい♪まったくニャンでもにゃーい♪♪」
懐かしいメロディーに乗せてそう言われてしまうとそんな気がしてくるから不思議。
リヒトが発狂ってところはちょっと気になるけど、まあいい。先を急ごう。という事で、私達は旅を再開した。




