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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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Re:prologue



誰かが優しく歌っている。

凍てついた身体を、失命の恐怖を和らげる、月の光のように淡い温かさだ。

ああ、これは夢だろうか。

その存在は見えないが、たしかに私は触れている。

今までに触れたことのない、純然たる至高の魔力に。

それは何とも言えないが、今まで気にも留めなかった孤独の恐怖を自覚した私を、抱きとめる。

柔らかに、親が子を腕の中に抱える様に。

…これは、夢だろう。そうでなければ、なんだというのだ。


はて、私はなぜ、眠っているのだろう。


私は彼の国に在るという、この世で最も美しく、強い魔力の持ち主の訃報を聞き、いてもたってもいられずに、身一つで家を飛び出した。

信じたくない。

彼の方が死ぬなど、ありえない。

誰かが害したに違いない。

家の者の制止も聞かずに、私はただ、あの国の方へと進む。

私のいた国から、彼の方の国までは、少なくとも3つの険しい山脈と、魔物のひしめく森を複数抜ける必要があった。

そのうえ私は国の中では最高位の実力はあれど、興味のある魔法以外は無駄と思い生きてきた。家から出ることもほとんどなく、まして国から出た事などない。

私の身1つでは、到底超えられるはずのない道のりだ。

それでも私は、立ち止まれないのだ。

あの国には、いたのだ。

あの国にしか居なかった。

私の求める、彼の方は。


何も見えない闇の中で、もがく。

足掻いて、足掻いて、病か怪我か、熱を持ち痛みや苦痛に苛まれる身体など、どうでもよかった。

そんなものより、現実を受け入れることの方が余程私を絶望と死に落とすのだ。


魔力が、心地よかった歌が遠のいていく。いやだ。行かないでくれ。

怖い。こんな場所に置き去りにしないで。

闇しかなかったその場所に、1人の女性の…いや、まだ少女という年頃だろうか、だが幼さなど感じられない、白銀の君がそこにいた。

美と力。

彼の国の姿も知らぬ彼の方も、こんな姿をしているのだろうか。

マリア様、貴女は、本当に死んでしまったのか。


白銀の君が哀しげに微笑う。

大丈夫、おやすみなさい。

そう鈴を転がしたような声に、不安は溶けて消えた。


白銀の君の姿が消え再び訪れた闇だったが、私はもう、ちっとも恐ろしいとは思わなかった。


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