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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第1章 公爵令嬢 シェリティア・ステラリュート
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第11夜



はいはいこんばんはー。お待たせしました!前回不穏な言葉をリヒトに告げたシェリティアちゃんでーす。

さて、テンションはいつもよりも高めに行きましょう。いや、私も疲れてんのよ。だって監禁されて(でもあんなザルな監禁いつでも抜け出せた)、魔力抜かれて(抜かれるそばから回復するからプラマイゼロ)、誘拐犯シメて(そこはほぼリヒトの功績)っていう大仕事をしたのだから。

え?お前本当は遊んでただけだろって?……否定はしない。


まあ気を取り直して、ブタをボコって加担していた魔術師をボコった私が次に何をしているか。

リヒトと例の魔術師連れて、王宮に侵入してます。

もちろん時間ないから、先触れなんて無しのアポなし、夜の訪問ね。普通の令嬢ならしないけど、私、結構普通じゃないからいいよね。それに何かあればほら、まだ8歳の童女が迷い込んだってことにすればいいさ。私お茶会に顔だしてないし、絵姿も出回っていないから大丈夫。バレない。

で、なんで私がここに来たかというと、今回の馬鹿馬鹿しい騒動を終わらせる為なんだよね。

どうやって?私の仕事は簡単です。

おじいさまの意識を回復させて、魔術師とリヒトを引き渡し、数々の証拠を魔術師とともに王様に突き出してもらう。

その騒動の間に私はさっさとこの国を抜け出す。

というプラン実行のため、おじいさまが未だに眠りこけてる部屋に向かってるわけですよ。

お爺様の部屋はわかってるから辿り着けるけど問題はその部屋の前にちゃんと見張りがいるんだよね。まあそんな訳で、私は外、つまり窓から侵入です。窓は第2の出入り口。浮遊魔法で窓の前に来て窓の鍵は接合部をちょこちょこっとしたら開く。

部屋の中は夜なだけあって静か。おじいさま以外には誰もいない。ラッキー。だれか世話係が居るはずだけど、そいつも今は外出中らしい。


「はろー、お祖父様」


久しくみる祖父の顔は眠っているにしては険しい。憂いを抱いたまま死なれると亡霊になって出てきそうだから、そろそろ起きてもらわなくちゃ。

そこで私が使うのはポーション。迷宮からかなり遠いこの場所で、おじいさまに使われた毒の解析をするのは容易ではなかった。解毒はできても、意識が戻らないのだ。おそらく毒には効果が2つあって、死に至る毒ではあるが解毒魔法で解毒できる。しかし、起きることは一生ない。というもの。生ける屍状態を作り出すってもの。

その毒の解毒には迷宮にしかない希少な材料としちめんどくさい方法で、錬金術を用いて作られる必要があるポーションが必要だった。

大変だったよ。リヒトから錬金術と召喚術の基礎と剣術を学んで、それを磨くために一番近い迷宮で、納得のいくレベルまで経験を積むのに1年。リヒトはそれでも上達が早すぎると言ったけど、あの子私の忠犬だから…。信用してないわけではないけど、あの子、私を誉め殺しにするのすきだから…!

そしてリヒトの転移魔法をフル活用して素材を集め、私が調合。で、出来たわけよ。ポーション。


謂わばこれは私の令嬢ならざる勉強(努力)の賜物!(リヒトが3年間、家庭教師としてかなりの無理難題を私から求められた証拠ともいう)


「味は兎も角効果は確かだから許してね」


おじいさまに繋がっている点滴抜いて、傷口付近でポーションの入った瓶の栓を抜く。その状態でわたしが回復魔法を発動させるとみるみるポーションが消え去り、おじいさまの身体全体が淡い光を帯びる。

それはほんの一瞬のこと。光が収束して消え去ると同時に、お祖父様が目を開けた。


「…マリ……シェリティア、か?」

「おはようございます。おじいさま。毒殺されかけた気分はいかがですか?」

「毒殺…わしが……そうか、あの日の夜にたしか…!」

「身体も問題なさそうですし、コレをもって王に黒幕への裁きの打診をお願いします」

「黒幕?それに、お前のその姿…!」


驚くのも無理はない。何せお祖父様が倒れてからもう3年も経っている。お母様の名前を呼びかけた事から、どうやら私は順調にお母様寄りの美人に成長していってるようだ。そこは安心。

でも思い出話を私の口からしている暇はない。


「詳しいことは、陛下に。

現在王国内で起きている大問題の犯人の1人に私の従者であるハインリヒという男が挙げられていますが、リヒトに非はありません。証拠もあります。黒幕の魔術師も今は無能な屑なので、安心して衛兵に引きずらせてください。

何のことか分からないかもしれませんが」

「…いや、別に良い。その代わり右手を。そして僅かでいい。ワシにお前の魔力を流せば」

「魔力がすべて、教えてくれますね」


では。と私の右手をお祖父様の左手に重ねて魔力を流す。

3年間は長いようで、本当に短くて、あまりに大きな出来事の連続だった。リヒトが従者になって、ひたすら知力と武力を磨いて、……結局お母様を救えなかった。

傑物と呼ばれながら、親1人救えなかった傑物のなり損ない。少なくとも私は、私自身をそう思う。

お祖父様はどう思うのだろうか。

お祖父様はしばらくの間、静かに沈黙し、一筋涙を流して、あいわかった。と呟いた。


「リヒトと魔術師は?」

「それならここに」


亜空間から二人を引きずり出せば、おじいさまがぽかん、とした顔をした。

二人とも気を失っているが、命に問題はない。


「それではおじいさま、私はこれで」

「気をつけて、…いつでも帰っておいで」

「…はい。もしも」


いつかまた、会えるなら。

今までリヒトに使わせていた転移魔法を使って、自室に転移。路銀と僅かな禁書だけを小さな袋に入れて、私は旅立つ。



……あれ?そういえば、お祖父様さっき起き上がったけど、なんで起きれたんだろ。寝たきりで筋力落ちてるはずなのに。

それに気付いたのはおおよそ3年後、数ヶ月足を使わない生活をしていた人が、リハビリを必要としていたので、多少手助けした時のことであったが、今はまだ彼女は知らない。

回復魔法と彼女が位置付けて使っているものが、全く別のものである事など。






新月の晩。

シェリティアの母、マリア・ステラリュートが死んだ日から2週間。

この場がやっと整えられた。

王の接見の間にいるのは、王を始めとして政務に関わる重役と、王子、そして罪人達だ。


「裁きを始める前に、先ずはステラリュート家の者達に祈りを捧げよう。

誇り気高き竜の一族に」


王が大切そうに掲げたのは、ステラリュート公爵の証たる深い青の宝石。

最後の持ち主は、無惨にも殺されたマリア・ステラリュート。

本来なら、爵位とともに継承される、ステラリュートの証である。

しかし、それを継ぐに値する唯一の存在は今この場にはいない。


「さて、今回の凄惨な出来事によって被害を受けたのはステラリュートの一族であるが、今、一族を担える正統な当主はいない」


王の言葉に、罪人…アルゼルという子爵位の持ち主は歓喜を持った。

罪人とはいえ、こいつは元ステラリュート公爵の夫だ。形だけのお飾りではあったが。

それでも、この場にいる誰より、ステラリュートと縁が強いという自信があった。


「仮にでも当主がいなければ、双方の言い分も聞けぬ。よって、裁きに先立ち、ステラリュート公爵家の証を、代理の者に預ける」


その場の貴族達に激震が走る。それはそうだろう。この場において、アルゼル子爵が自覚しているように、今最も縁の強いステラリュート関係者といえば、この罪人である事を、貴族たちは知っているからである。


「こ、国王陛下っ!爵位を継ぐべきシェリティア様は今行方知れずです‼」

「代理とは、最もステラリュートに近い者となります‼まさか…!」


アルゼルはついに、自分が望んだものが手に入る。そう歓喜に震えて笑いだした。貴族達は騒めき、裁きの場は騒然としている。


「…罪人、何がおかしい」


しかし、一筋キレの良い一撃が通り過ぎるかのごとく、王のそばに居た王子の声に、水を打ったように静まり返った。


「何故お前が笑っているのかはしらないが、お前はあくまでこの場で裁かれるだけの重罪人だ」

「うむ。王子の言葉は本当だ。

……入ってくだされ」


罪人たちが背にしていたドアが開く。

ドアを開いた門番達がしっかりと頭を下げて招き入れる。


「元ステラリュート公爵、ゴドリック殿」


アルゼルはその名前に、先程までの余裕と狂喜は何処へやら。まるで化け物を見るかのように、背後から真っ直ぐ王の目の前まで歩いていくゴドリックから視線が逸れない。ゴドリックは王の前まで来ると跪いた。


「先々代ステラリュート公爵、ゴドリック殿に、この度もう一度爵位を与からせる。

この裁きの間、ステラリュート現公爵に代わり結果を見届けるために、この印を身につける覚悟はあるか」

「陛下と、我が一族の長がそれを望むのならば」

「わかった。…今この時より、お前をシェリティア・ステラリュート公爵の代行とする。

他のものの異論は一切認めん。

逆らう者、異論を唱えたもの、貶めようとしたものは、そこの罪人と同じだ。弁明の機会も与えずに処罰とする」


王の言葉に逆らえる者などいない。たった一人、状況の読めない愚か者以外は。


「シェリティアが公爵⁈はぁ?!あの小娘が?」

「黙れっ!」


そばに控えている衛兵が、拘束をきつくしていく。


「あんな魔力の高すぎるバケモンを公爵に据える国王陛下の気が知れませんなぁ‼

ただの化け物ですよぉ⁈

いつ暴走するかも分からない小娘など、ステラリュートという家ごと潰して、政務を担う貴族に新しく公爵領を任せるべきでしょうに!

ステラリュート家など、戦時以外には役に立たない戦狂「黙れと言っている」」


アルゼルは物理的に黙らせられた。鳩尾に誰かの靴の先がめり込み、肋骨を砕いたのだ。目にも留まらぬ速さでそうしたのは、ゴドリックだ。3年も寝ていたというのに、その動きはまるで戦場帰りのように俊敏で威圧的である。


「陛下の御前を騒がせました。申し訳ございません」

「気にするな。貴公は悪くない。むしろその程度、騒がせたともおもわんよ。

余が許す。やりたいようにやれ」

「…有難き幸せ。では、失礼して…。


3年前に正統に爵位を継ぎ、過ごされてきた公爵と我ら一族を、貴様のような下賎な鼠が愚弄するでない。

貴様と公爵家のあいだに関わりなどない」

「お、れ…はぁ…!シェリティアの、父親だぞ⁉あの、小娘には、俺の血がなが」

「その事ですが」


王子がわざと言葉を遮って、とある資料を片手に、その場の皆に聞こえるように、報告書を読み上げた。


「どうやらシェリティアの父親は不明なようなのです」

「はぁ⁉父親は、おれだっ、このおれ「王子の言葉を遮るな、痴れ者め」」


更に一本、骨が折られた。猿轡を噛ませて防音魔法をかけることで、王子の邪魔をしないようにゴドリックが処置をした。


「確かに、先代は便宜上、親の顔を立てる意味といつ捨ててもいい駒として、アルゼル子爵を夫の位置に置くことを甘んじて受け入れたようですが、

どうやら夫婦らしい事は一切していないようです。婿入りしたその日に子爵は愛人の元へ行き、マリア殿の所へは行っていない。

そんな状況で、シェリティア様が生まれるはずもございません。

なにせ、シェリティアさまが産まれる1年も前から、子爵は公爵領には魔法契約で出入り出来ないようになっていたのですから」


では、シェリティアの本当の父親は誰か。


「…ゴドリック様は、ご存知なのでしょう」


穏やかにそこに立つ老紳士は、微笑んでいるだけだ。


「相手については私は口にする事は出来ませんが、 シェリティアがこの罪人の娘ではない、血縁関係が一切無いことは間違いございません」


と、そう晴れ晴れしく言っただけで。


「アルゼル子爵とステラリュート公爵家には縁が全くないと言っても問題はなさそうだ。

では、始めるとしよう。

国の重要な守りを数百年に渡り一手に引き受けてきた公爵家を愚弄し、公爵家を廃すことで国そのものを壊すような真似をした子爵と、それに加担したもの達の国家反逆罪を問う裁きだ」


その結果は言わずともわかろう。

ともあれこうして、長かった国内でのいざこざにひと段落がついたのだった。


ここまででひと段落です。

話ごとに文章量も感じもばらばらな初心者文を読んでくださった方、ありがとうございます。

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