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星間移民船アマテラス〜人類が眠っている間に、移住先がファンタジー世界になっていた件〜  作者: 只野屍


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第6話 魔王、目覚める

「絶対に違う」


蓮は言った。


「俺は神じゃない」


神殿の大広間には、数十人の神官、地方領主、兵士たちが集まっていた。


そして、その全員が蓮を見ている。


祭壇の上では、数千年ぶりに再起動した単分子カッターが淡い光を放っていた。


「でも」


リシェルが口を開く。


「聖刃はあなたを認めた」


「認証しただけ」


「神の資格を?」


「違う!」


蓮は頭を抱えた。


「生体認証! 本人確認! そういうやつ!」


「同じじゃない」


「全然違う!」


横では美冬が笑いを堪えていた。


「神崎さん」


「はい」


「あとで覚えてろよ」


「創造神様に脅されました」


「やめろ!」


神官たちの間に小さなどよめきが広がる。


蓮はさらに頭を抱えた。


「もういい……」


リシェルは祭壇の聖刃を見つめる。


「それ、本当にただの作業道具なの?」


「たぶん」


「たぶん?」


「型が古すぎる。森林造成とか鉱物加工とか、初期テラフォーミング用の汎用工具だったと思う」


「これが?」


「うん」


「王家の宝剣より強いのに?」


「用途が違うんだよ」


「何でも切れるのに?」


「だから、切るための工具だって」


リシェルは納得していない。


「神器でしょ」


「工具」


「神器」


「工具」


「神器」


「しつこいな!」


そんなやり取りをしている間にも、創造神帰還の噂は神殿の外へ広がり始めていた。


その日のうちに、噂は街を出た。


地方領主の使者。


神殿の伝令。


商人。


旅人。


巡礼者。


「天より銀の舟が降りた」


「白銀の神々が現れた」


「創造神アマレインが帰還した」


「聖刃が再び輝いた」


話は広がるたびに少しずつ形を変えた。


三日後には、「創造神は炎の翼を持つ」と言われていた。


五日後には、「創造神は死者を蘇らせる」とまで言われた。


七日後には、人類が西の平原に築いた都市そのものが「天都」と呼ばれ始めていた。


蓮がその話を聞いた時、ひどく嫌そうな顔をした。


「誰だよ話盛ってる奴」


リシェルが言う。


「神殿が正式に“天都”って呼び始めた」


「止めろよ!」


「私に言わないで」


「なんで誰も止めないんだ」


「だって、見た目が完全に天から来た神々の街だったし」


「それは……」


蓮は一瞬だけ言葉に詰まった。


白銀の飛行艇。


フルフェイスのアーマー。


夜でも輝く都市。


古代神殿と同じ紋章。


そして単分子カッターの再起動。


客観的に見れば、誤解するなという方が難しい。


「……まあ、少しは分かるけど」


「でしょ?」


「納得はしてない」


リシェルは小さく笑った。


一方。


遠い東の黒い山脈では、別の変化が起きていた。


その地域は、エルフたちから《魔境》と呼ばれている。


木々は少なく、地面のところどころから黒い金属構造物が露出している。


その中心に、巨大な黒い建造物があった。


城壁のような外周構造。


高い塔。


山腹に埋め込まれた巨大な門。


エルフたちは、そこを《魔王城》と呼んでいた。


何百年もの間、ほとんど動きのなかった場所だった。


だが今。


内部では、無数の機械が目を覚まし始めていた。


《PRIMARY POWER ONLINE》


《SECONDARY SYSTEMS RESTORING》


《ENVIRONMENTAL GRID CONNECTION 34%》


《LEGACY ADMINISTRATOR SIGNAL CONFIRMED》


暗い廊下に、一つずつ照明が灯る。


巨大な格納庫。


停止していた作業機。


天井近くまで積み上げられた保守装置。


地上設備へ伸びる無数の配管。


そして中央制御室。


そこに一体の人型機械が立っていた。


身長は二メートルを少し超える。


細身の黒い装甲。


顔には目も口もない。


ただ額に一つ、赤いセンサーがある。


《PLANETARY REGULATOR UNIT 01》


《BOOT SEQUENCE COMPLETE》


機械は四千年以上ぶりに一歩前へ出た。


低い駆動音が室内に響く。


《MISSION STATUS》


《PLANETARY TERRAFORMING: COMPLETE》


《HUMAN HABITABILITY: APPROVED》


《DESIGN-HUMAN POPULATION: UNCONTROLLED EXPANSION DETECTED》


《BIOSPHERE DEVIATION: WITHIN TOLERANCE》


《LEGACY ADMINISTRATOR: ACTIVE》


赤い光がわずかに強くなる。


そして、低い機械音声が響いた。


「最高管理者……帰還を確認」


その頃。


リシェルの故郷でも、不吉な噂が広がり始めていた。


最初に異変へ気づいたのは、東の監視塔だった。


黒い山脈の斜面に、何百年も見えなかった赤い光がいくつも灯った。


翌朝。


魔境から、黒い機械の獣が現れた。


六本脚。


低い姿勢。


黒い装甲。


赤いセンサー。


何十年も目撃されていなかった古い魔物。


それを見た者は、すぐに叫んだ。


「魔王軍だ!」


噂は一日で街中へ広がった。


そして二日目。


神殿の鐘が鳴った。


非常を知らせる鐘。


リシェルは街の中央で、その音を聞いた。


「……何?」


遠くからセレナが走ってくる。


「リシェル!」


「どうしたの?」


「東の魔境が動いたって!」


リシェルの顔から笑みが消える。


「魔王城?」


「うん。山の灯りが戻って、魔物も出てきたって」


「何百年も眠ってたんじゃ……」


「目覚めたらしい」


周囲では人々が不安そうに話している。


古い物語。


誰もが知っている。


世界を滅ぼそうとした存在。


魔獣を従えた不死の王。


魔王。


リシェルは一つのことに気づいた。


創造神が帰還した。


その直後。


魔王が目覚めた。


「……まさか」


人類の植民都市では、蓮が東部地域の観測データを見ていた。


壁面には地図が表示されている。


人類側の都市。


エルフの都市。


そして遥か東の山脈。


『人工構造物群を検出』


イザナミが報告する。


蓮は地図を見ながら聞いた。


「今まで分からなかったの?」


『長期間、低出力状態でした。周辺の地形と磁場干渉により詳細識別が困難でした』


美冬が横から画面を見る。


「テラフォーミング施設ですか?」


『可能性があります』


蓮は嫌な顔をした。


「また俺らの置き土産?」


『否定できません』


「四千年寝てる間に、何個厄介ごと残してるんだよ……」


その時、通信が入った。


リシェルに渡していた通信端末からだ。


蓮が応答する。


「どうした?」


『レン』


声がいつもより硬い。


「何かあった?」


『魔王が目覚めた』


蓮は数秒黙った。


「……魔王?」


『そう』


「魔王って、物語の?」


『物語じゃない! 本当にいるの!』


「分かった分かった」


『世界を滅ぼそうとした存在よ。東の魔境に魔王城があって、そこから魔物が出てきてる』


蓮は地図へ視線を戻した。


東部人工構造物群。


嫌な予感がする。


「リシェル」


『何?』


「その魔王城って、黒い建物?」


『そう』


「山の中?」


『そう』


「周りに金属の塔みたいなのがある?」


少し間があった。


『……ある』


蓮は目を閉じた。


「イザナミ」


『はい』


「たぶん当たりだ」


『私も同意します』


美冬が聞く。


「何がです?」


蓮は地図を指した。


「魔王城。たぶん、人類の施設だ」


三日後。


エルフ側から正式な使者がやって来た。


地方領主。


神官。


兵士。


そしてリシェル。


全員が緊張している。


会議室で蓮は普通の服を着ていた。


リシェルがそれを見て、少し安心したような顔をする。


「今日は神様の格好じゃないのね」


「誰のせいだよ」


「あなた」


「違う」


地方領主が咳払いした。


「創造神アマレイン殿」


「天城蓮です」


「アマギレン殿」


「それでいいです」


蓮はもう半分諦めていた。


神官が言う。


「魔王が復活しました」


蓮は慎重に聞いた。


「その魔王について、知っていることを全部教えてください」


古い記録。


絵。


伝承。


魔王は人の姿をしていない。


黒い身体。


赤い眼。


老いない。


死なない。


剣も弓も効かない。


魔物を従える。


大地を焼く。


森を消す。


川の流れすら変える。


蓮は資料を見ながら、美冬へ小声で言った。


「どう考えても機械だよな」


「ですね」


神官が首を傾げる。


「キカイ?」


蓮が頭を掻いた。


「またそこから説明しないと駄目か……」


リシェルは蓮をじっと見ている。


「レン」


「何?」


「魔王を知ってるの?」


「まだ分からない」


「倒せる?」


蓮は少し考えた。


「相手が俺たちの作った機械なら、止められる可能性は高い」


神官たちがざわめく。


「やはり創造神が……」


「魔王を再び封じるのか……」


「違います!」


蓮が叫んだ。


「まだ何もしてない!」


その夜。


蓮は一人で都市の外へ出た。


空には星が広がっている。


遥か東。


肉眼では何も見えない。


だが蓮には、通常の人間とは違う感覚があった。


視界の端に、惑星環境ナノ群の情報が重なる。


遠距離通信。


微弱な管理信号。


古い。


だが、人類由来のプロトコル。


「……いるな」


『はい』


イザナミが答える。


『暗号形式は、本船初期惑星管理プロトコルと一致します』


「復号できる?」


『試行します』


数秒。


雑音が入り。


その向こうから、低い機械音声が聞こえてきた。


『……最高管理者……』


蓮の表情が変わる。


『AMAGI REN……』


「俺の名前」


『識別されているようです』


通信は途切れ途切れだった。


『長期任務……完了待機……』


『管理権限……返還要求……』


『最高管理者……帰還地点を提示せよ』


蓮はしばらく黙っていた。


エルフたちは、あれを世界を滅ぼす魔王だと言う。


だが今、聞こえてくる声に敵意は感じられない。


むしろ。


ずっと何かを待っていたように聞こえる。


「……俺を探してる?」


『その可能性が高いです』


蓮は長く息を吐いた。


「魔王さん」


誰に言うでもなく呟く。


「もしかして、俺の部下だったりする?」


黒い山脈。


魔王城。


中央制御室。


REGULATOR-01は静かに立っていた。


《LEGACY ADMINISTRATOR SIGNAL RESPONSE RECEIVED》


《AUTHORITY CHANNEL ESTABLISHED》


《DISTANCE: 618.4 KM》


額の赤いセンサーが強く灯る。


「最高管理者」


巨大な扉が、数百年ぶりに開いた。


外の夜風が施設内部へ流れ込む。


REGULATORは一歩、外へ踏み出した。


「帰還を確認」


それから、ゆっくりと歩き始めた。


人類の街へ。


最高管理者に会うために。


――第六話 了

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