第9作 初めての商談
「さぁ、着いたわよ。」
馬車を降りるとそこには大きなお屋敷が聳え立っていた。
アナスタシアに連れられ、屋敷の中へ入る。
入り口を入ると吹き抜けの広い空間。
衣類や装飾品、家具や魔道具が所狭しと並び、多くの客で賑わっていた。
ーーまるで前世の百貨店みたいだな。
「これはこれは、クレアトル婦人。」
「本日はどういった品をお探しでしょうか。」
初めて訪れる場所に呆気に取られていると一人の男性がやってきた。
「今日はフォルに会いに来たのだけれど、今居るかしら?」
ーーフォル?人の名前だろうか。
母から聞きなれない人物の言葉が出る。
「それでしたらちょうど、昨日王都から戻られております。」
「只今お呼びいたしますので応接室にご案内いたします。」
すると、男性は従業員を呼び出し応接室に案内させた。
道すがらアウルの目にはあるものが目に映った。
ーーおお!魔道具だ。
商品棚にはみたこともない魔道具が陳列されていた。
不思議な形をしたツボやランプ、コンロのようなものもあった。
ーーお、コンロはもう魔道具としてあるのか。
ーー作ろうと思ってたからどういう仕組みか見てみたいな。
「アウル?行くわよ。」
未知の魔道具に気を取られ、置いて行かれてしまったアウル。
急いでアナスタシアたちの元へとかけていった。
そして。
応接室へ案内され数分後。
コンコン。
応接室に一人の女性が入ってきた。
「本日はお越しいただきありがとうございます。」
「フォルトゥーナ商会会頭のフォルトゥーナでございます。」
その女性は肩ほどの銀髪に琥珀色の瞳。
服装はフォーマルで凛としていてかっこいい人だ。
「フフッ、フォルったら相変わらずかっこいいわね。」
「アナも変わらず綺麗だよ。」
何やら親しげな関係なのか二人の世界に入り込んでいる。
「おや?」
「今日は可愛らしい騎士様を連れているね。」
フォルトゥーナはアナスタシアの隣にいるアウルへと視線を向ける。
「は、初めまして!」
「クレアトル家 次男のアウル・クレアトルです。」
五歳とは思えない礼儀作法に目を丸くするフォルトゥーナ。
「これはご丁寧に。」
「フォルトゥーナよ、改めてよろしくね。」
「フォルとはね、王立学園からの付き合いなの。」
ーー王立学園ということはこの人も貴族のなのか。
「あの頃から自分の紹介を立ち上げるんだって言って、今ではこんな...。」
「アナ、今日は思い出話をしにきたのではないのでしょ?」
「あっ!」
フォルトゥーナのその言葉に我に帰り、少し恥ずかしそうな表情を浮かべるアナスタシア。
「そ、そうだったわ!」
「今日はこれを見せたくてきたの。」
そう言うと、アナスタシアはハンドバームを取り出して机の上に置く。
「これは?」
「何やらとてもいい匂いがするね。」
突然机に置かれたものに首を傾げる。
中を開けると肌色の半固形が入っていた。
「これはね、この子が作ったのよ!」
「え、えっと……。」
「それは『ハンドバーム』と言って、手の乾燥やあかぎれを防ぐ保湿用の軟膏です。」
「寝る前や水仕事の後にお使いいただくと、より効果を実感していただけます。」
「ほぉ?」
「よろしければ、実際にお試しください。」
アウルの言われる通り、指先に少量取り
手の甲へゆっくり伸ばしていく。
「...っ!」
「これはすごいね...。」
「冬場で乾燥した手にこんなにも潤いが。」
フォルトゥーナは目を見開き、息をのんだ。
「これは世の女性なら誰でも欲しがるね。」
乾燥していた手はしっとりと潤い、ひび割れていた皮膚も目に見えて落ち着いている。
商人として数え切れないほどの商品を見てきた彼でさえ、この衝撃を隠せなかった。
「どうだろう。」
「よかったらこれを私の商会に卸してくれないかい?」
フォルトゥーナの言葉を聞いたアナスタシアはアウルに視線を向け軽く頷いた。
そしてアウルもそれに合わせて頷く。
「それはできません。」
「ちょっ、ちょっと!アウル!?」
二人はアウルの予想もしていなかった答えに目を丸くする。
特にアナスタシアはとてもあわあわとしていた。
「理由を聞いてもいいかな?」
それを横目にフォルトゥーナは何か察したのか
商人らしく冷静に質問してきた。
「理由は二つあります。」
「一つは、お店に下ろせるほどの材料の確保が難しいこと。」
「そしてもう一つは、それを作れる人員がありません。」
「それなら、どちらもこちらで用意するが?」
フォルトゥーナの提案に、アウルは首を横に振った。
「ハンドバームは、材料を混ぜれば完成するような単純なものではありません。」
「配合の割合や温度、混ぜる順番が少し違うだけで、仕上がりが大きく変わってしまいます。」
「……つまり、製法が肝ということか。」
「はい。」
こういった商品の価値は、完成品そのものではない。
品質を安定して再現できる製法こそが、この商品の価値だ。
だが、今の俺には材料を大量に確保することも、人を雇うこともできない。
ましてや、自分で販路を持っているわけでもない。
だから、俺が取る選択肢は一つ。
「なので、お売りしたいのは商品ではなく、その製法です。」
一瞬の静寂。
「ほお。いくらだい?」
「最初に代金をいただくつもりはありません。」
「なので....。」
アウルはそっと人差し指を上に立てる。
「毎月、売上の1割を。」
「もし売れなければ、商会が負う損失は材料費や製造費だけです。」
「「ですが、売れれば商会にも私にも利益が生まれる。」
「お互いに利益を分け合える関係なら、長く取引を続けられると思います。」
「ハッハッハ!」
アウルの答えにフォルトゥーナは鼻高らかに笑った。
「いや、試すようなことをしてすまない。」
「君が利益だけを見る人間か、それとも商売そのものを見ている人間か、確かめさせてもらった。」
やはり、この人は本物だ。
相手が子供であろうとあしらわず、そして容赦はしない。
「それで、いかがですか?」
一瞬の静寂と共にフォルトゥーナは口を開いた。
「いいでしょう。」
「商談成立ね。」
アウルは胸を撫で下ろした。
今まで仕事のプロジェクトでお客さんとの商談は何回か経験した。
ただ、こればかりは何度経験しても慣れない。
「それにしても君。」
「本当に五歳児かい?」
「一人の商人と商談している気分だったよ。」
「ほんとよ。」
「いつの間にそんな色々なこと覚えたのかしら。」
「あ、あははっ。」
二人の視線が痛い。
中身は中年の親父だなんて言えないよな。
その後。
商会の調理場を借りて、詳しい製造方法と実演を交えて説明をした。
自分が作った時は無属性魔法を使ったが、
お店に代わりになるものを見つけたのでそちらで代用することにした。
品質も問題なく売り物としても申し分のない出来となった。
「うむ、これなら問題なさそうだね。」
フォルトゥーナの評価も問題なく、滞りなく話は進んだ。
ただ、アウルは少し黙り込み何やら考え込んでいた。
「何か気になることでもあったかい?」
「あの、よろしければ売り方を二種類に分けるのはどうでしょう。」
「ほお?詳しく聞こうか。」
再び三人は応接室に戻ってきた。
「それで二種類というのは?」
「一つは容器の装飾を豪華にして、香りずけの花をふんだんに使った貴族層向けに。」
「もう一つは、香料を抑えて機能性重視の一般層向けにというのはどうでしょう。」
「元々、家のメイドたちの水仕事による手荒れを防ぐために作ったのでそういった人たちに使ってもらいたいので。」
説明を終えると、フォルトゥーナはアウルの顔をじっと見つめていた。
「君、商人になる気はないかい?」
「へぇ?」
突然の申し出に、アウルは思わず間の抜けた声を漏らした。
「まさか、ここまでの商才があるとは。」
「あ、いえ。」
「今のところは考えていないです。」
「そうか。でも気が変わったらいつでも声をかけてくれ。」
「君みたいな優秀な子ならいつでも歓迎だ。」
その言葉に苦笑いを浮かべるアウル。
「よかったわね。」
「フォルがここまで人の子を褒めることは滅多にないのよ?」
「それにしてもアウルは立派な考えを持っているわね。」
二人の女性から賛辞を受けるもどこか後ろめたい気持ちになってしまう。
「それじゃあ、今後ともよろしく頼むよ。」
「アウルくん。」
「こちらこそよろしくお願いします!」
こうして俺は当初の目的だった資金調達が叶った。
ーーこれでようやく本格的な魔道具開発に進むことができるぞ!
アウルは期待に胸を膨らませた。
なぜなら作りたい魔道具は、まだ山ほどあるのだから。
お忙しい中お時間を割いて、本作品を見ていただきありがとうございます!
いかがだったでしょうか?
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読者の方が満足できるお話を書けるように頑張って参ります!




